5723 名前： ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日：2016/05/15(日) 22:05:15 ID:7zz8xdoU0

　　　　／||ミ
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　|:::::::::::::::|}: : : : : : : _ _ _ｌ　　　　　　　ハロー。
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　＼:::::::::::||￣￣￣￣
　　 ＼ ::::||
　　　　＼||

5726 名前： ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日：2016/05/15(日) 22:17:59 ID:7zz8xdoU0

　　　　　　　 ､　- ‐‐ -,
　　　　　　 ,´: : : : : : : : :
　　　　　　ﾞｉ : : : :○　○ﾞｉ
　　　　　　 }: : : : : : : _ _ _|　　　　　　　先生、なんか聞いた話だと、今月はもう休みがないらしいんです先生。
　　　　　　 |: : : :-=´_　_,´
　　　　　 y' : : : : :_: : : : :i　　　　　　　　二十一連勤とかファッキンクレイジーだね。
　　　 　/ : : : : : : :┌─┐
　　　 　i : : : 丶: :ヽ{ .茶 }ヽ　　　　　　　
　　　 　ｒ : : : : :ヽ、__)一(_丿
　　　 　ヽ、___ : : : :ヽ : :ヽ
　　　　 と_ : : : : : : ノ : :ノ
　　　　　　￣￣￣　￣





　　　　 　　,　-‐ 　 ‐- ､
　　　　 ／: : : : : : : : : : ::',
　 　 , ': : : : : : : : : : : : : : :',
　　/: : : : : : : : : : : : : : :○:',
　　ヽ : : : : : : ○: : : : : : : : :',　　　　　　　　　ま、投下だけはなんとか維持するよ。というか、もう維持できてないけど。
　.　 ｀ﾄ : : : : : : : : : : : _,-‐'｀iヽ _
　　　 i: 丶: : : : : :,-‐'´__,-‐'´: : : ｀ヽ　　　　　ラストまであと少しなんだ。意地でも完結させてやるさ。
　　　 | : : :ﾄ: : : : `-‐´ : : : : : : ､: : : 丶
　　　 | : : :'､j｀-‐ : : : : : : : : : : : ＼: : : ヽ　　　じゃ、続きといこっか。ヒアウィーゴー。
　　　 丶,,:_:_:_: : : : : : : : : : : : : : : : | : : : i
　　　　　　　 　 ｀ヽ: : : : : : : : : : : : `ー‐'
　　　　　　 　 　 　 ヽ: : : : : : : : : : : : : ヽ

5727 名前： ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日：2016/05/15(日) 22:18:22 ID:7zz8xdoU0

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　　　　　 　 　　 　 　 　 　 　 　　　 　 ／:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::,:;;:'""''''''''
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::: : '　,　　　　　　　　　　　　　　,　'ﾞ ::::::::::::::::::::::,,_,,,..;''""''''"　　　　　　.　　.. ..　. 　　　　　..　　. .　.　. .. .. . . 　 　　..　.::...
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扉を肩で押し開けると、冷たい夜風が吹き込んできた。

屋上は無人だった。空を覆っていた鉛の雲は途切れ途切れとなり、
藍色の空には星の光が飾られていた。
この世界の夜空はいつでも綺麗だ。自分の世界では、夜になると
地面に光の粒がちりばめられたような風景が見られるが、
自分はこっちの夜景の方が好きだった。

「今日は空がきれいですね。あら、月もまんまる」

腕の中のアンゼロットがそっと呟く。確かに、今日は満月だ。
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5728 名前：安価のやる夫だお[sage] 投稿日：2016/05/15(日) 22:29:16 ID:LNGRztXQ0
月が綺麗ですね

5729 名前： ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日：2016/05/15(日) 22:33:51 ID:7zz8xdoU0

　 　 　 　 　 　　　　　 ,．'´　　　　　〃　　　　　｀ヽ、
　 　 　 　 　 　 　　 ／　 　 　 　　　i´￣　　 　 　 　＼
　 　 　 　 　 　　　/　　　　　　　　　| 　 　　　　　　　　丶
　 　 　 　 　 　 　,'　 ／　 　 　 　　 l 　 　 　 　 　 　 　 、ヽ
　 　　　　　　　　!　/ 　 　 　 　　i 　l 　 　 i 　 　 　　ヽ　i　|
　 　 　　　　　　｜ | 　 　 　 　 |｜　|　 l 　| 　 　 ヽ 　 l｜ |
　　　　　　　　　 |　l 　 　　 ＿_|_,L ｜　!　ﾊ　_|__、 |　｜l　|
　　　　　　　　　 |　| |　　　| |ヽ|ﾍ|ﾍ |、 |ﾍ｢ ヽ.|ヽ|　|　｜lﾊj
　　　　　　　　　 |　|ﾊ 　 　ﾄlｨﾁ'ﾊヽ｀ ヽl　ィｱ'ﾘ`〉! ,'　,ｲﾉ　　　　　　　「空を見に来たんですか？」
　　　　　　　　　 |　　 iヽﾄ､ヽ.ゞ-'　 　 　 　` "　 ﾉｨﾙ'　'
　　　　　　　　　 |　　 |　 |ﾄﾄ-ヽ 　 　 　'　 　　 /　/　　　　　　　　　　 私が、夜景の鑑賞にあなたを誘うとでも？
　　　　　　　　　 |　　 |　 |fﾆ|ヽ.　 　ー_ ' 　　ィ　 ,'
　 　 　 　 　 　　l 　　ﾊ　 Vrﾄ, 　＞ ､ _, ＜ｰ.| 　 |、　　　　　　　　　　 そういうのはナノハやラピスがすることでしょう。
　 　 　 　 　 　　!　　 ,.ﾍ　 ヽi`'r-r ､ /r '/::::::| 　 |::ヽ
　　　　　　　,.．┴.､:'´::::::! 　 i､j､ヽy'ｰﾄ<::::::::::| 　 |::::::i
　　　　　　/:::::::::::::::ヽ:::::::l　　l:::＞'､r='<‐- ､:::| 　 |::::::|
.　　　　　/:::::::::::::::::::::::＼j　　l'　/　lﾄ､_)ヾ`　〉| 　 |::::::|

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ゆっくりと、アンゼロットを床へと降ろす。

月の光に照らされたアンゼロットの金髪はぼんやりと白く輝き、
風に揺られてやる夫の頬をくすぐった。

「ここでなら、誰にも聞かれないでしょうからね。
それでは、夜景を楽しむのもほどほどにして、本題に入りましょう」
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5730 名前： ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日：2016/05/15(日) 22:39:58 ID:7zz8xdoU0

　　 　 　 　 　 　 　 /　 　 〃　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＼
　　　　　　　 　 　 /　　　/　　　　　　 　 　 　 　 　 　/　　 　 　 　 　 　 ヽ
　　　　　　　　　　′ 　 //　　 　 　 　 ! 　 ／ 　 　 〃　　　　 　 　 　 　 　 、
　　　 　 　 　 　 ,　　　ｨ/| 　 　 　 　　 |　/　|　　 /{/　　 　　　　　　　　　 　 ,
.　　　　　　　　 ,′　/ l{' |. 　 　 {　─-| /　│ //| |'　 　 |　　　　 　 　 　 ﾍ　',
　　　　　　　　/　　 {　⌒ﾄ､　　 从　/ j/　 ｀lメ、 | |　 　 '|　　　　　　　　　　　|
.　　　　　 　 /　 　 ∧、｛|　＼ﾍ{　Ｖ　　　　│ 　 | |　　/ | j　　　　 　 　　　}　!
　　　 　 　 /　　　/　ﾍ.　|　　 l＼ =＝=ミ ､　　　 | |　 /ﾅメ、}　　　 　i　　 .′i　　　　　　　　　軍を抜けなさい。
　　　　　 /　　　/　/　 `l|　　 |　　　　　　`　　　　 |／／jノ ,′　　　 |　　′/
.　 　 　 /　 　 /　/　　　l|　　 | 　　 　 　 　 　 　 　 =ﾐ、 　 ′　　 　 |　/　　　　　　　　　　　　ディアナには住居も手配済みです。
.　　　 /　　　/　　　_ｧ‐-|　　│　　 　 　 　 　 　 　 　 ヾ／　　 　ｲ　ﾘノ
　 　 / 　 　 ' 　// ﾄ､　/lｉ 　 │　　　　丶._　　´　　　＜.__ 　ﾉ／/　'′　　　　　　　　　　　　　 新しい働き先もあります。
　　/　 　 ,厶∠...　|　｀¨|ｉ 　　| ＼ 　 　 　` ｀ 　　 　 ,ハ/／´ ﾚ′
　/　　／..:::.::.:::::..｀ヽ　　|　 　 |､　 ＼　　　　 ,.．r　 ´　 |　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　今夜中に荷物をまとめ、
/　,／..::.::.::.::.:::::::::::::::..＼|　 　 |て /ト､`r　ｌ | 　丿|　　　|
　/..: : :.::.::.::.::.::::::::::::::::::::..＼　│　｀スrく}r‐┴く　 |　　　|　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　駐屯地を出なさい。
'/.:.:.::.::.::.::.:::.:::.:::::::::::::::::::::::::::}　| ／　 }＼j::::.:::.::..＼　　　|

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アンゼロットは普段と何ら変わらぬ微笑みで、そう言ってのけた。
あまりの変化の少なさに、うっかり首を縦に振りそうになる。

一拍置いて、言葉の意味が頭の中に染み込んでいき、臓腑を冷水に漬けられた
かのような寒気が全身を襲った。

「なぜですか」

理由を尋ねても、アンゼロットの口はきっと結ばれ、開かれることはなかった。
肯定の言葉以外、許容するつもりはないのだ。
その冷たい瞳には、張り付けられた笑顔の奥の、強固な意志が見え隠れしていた。

アンゼロットの肩を掴む。感覚がないため、できるかぎり優しく、包み込むような
触れ方ではあるが、しっかりと掴み控えめにゆさぶった。

だが、その手もすぐにはねのけられてしまった。
いかに男の手とはいえ、脱力していては幼児と大差ない。

アンゼロットがため息を吐く。

「もう、左腕の感覚もないのでしょう？」
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5731 名前： ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日：2016/05/15(日) 22:47:05 ID:7zz8xdoU0

　　　　　　　　　　　　　　　　 　 ＿＿_
　　　　　　　　　　＿＿,.．'´￣　 　 　　｀丶、
　　　　　　　　, '"￣ フ￣l ｀ヽ　 　 　　　　　＼
　 　 　　　 ／' 　 ／ 　 　| 　 　 　 　　 ヽ 　 　 ヽ
　　　　　 〃　　,ｲ 　 　　 | 　 　 ! 　 　　 | 　l　　 i　　　　　　　　　私の世代の多くの仲間たちも、失われていく身体機能に怯え
　　　　　 i'　　 ,'　 　 　 　l、　　 |　l| |　l､| 　|　　 |
　 　 　　　　　 |l 　 |　　| ｣ム　　|ﾍﾅ7メ､|　 |　　 |　　　　　　　　　ながら戦い、そして散っていきました。
　 　 　　　　　 || |　ヽ.　|ﾊ|=､ヽ、l 彳うﾐ､|　 |　　 |
　　　　　　　　 |ﾊ､ ヽ从l 化ﾘ 　 `　ゞ‐'　| 　|ヽ　 l　　　　　　　　　 その中で、散ることすらできずに、その命を終えていく
　 　 　 　 　　　　　ヽﾄトゝ 　　、 　 　 　 | 　ﾚ' 　 l
　 　 　　　　　　　　　　|　i、 　 r_， 　 　 |　 | 　 　!　　　　　　　　　 者たちも多くいました。
　 　 　　　　　　　　　　|　| ＞ 、　　 , イ | 　| 　 　l
　 　 　　　　　　　 　　｜ | 　/ｿ）T,.,_,.､jｰ|　 |　　　|
　 　 　 　 　 　 　 　　/j　|＿l | ﾚ',ｲﾑﾄr )| 　|.,.．-┴..、
　　　　　　　　　　 ／:´l　l::::::! 　 '´ｨ,'(_ﾟ)､| 　|'::::::::::::::::::ヽ
　 　　 　 　 　 　 /::::::::::! l::::::| 　 　!/ ｲiヽ|　 |:::::::::::::::::::::::!
　　　　　　　　　 !::::::::::::| |:::/ヽ、　j '´||l| ||　 |:::::::::::::::::::::::l
　 　 　 　　　　　l:::::::::::::| |::|　/ )､ルﾉl､|l｣|　 |:::::::::::::::::::::::l





　　　　　　　　　　　　　　＿＿＿＿
　　　　　　　　 　 　 .　'"　　 U　　　 ｀丶、
　　 　 　 　 　 　 ／　 ＼　　　　　　　　　＼　　　　　　　一体、なんの話を……
　　　　　　　 　 /　　　　 ｀¨″　 `'ｰ'"￣｀
　 　 　 　 　 　 {　　三三　　 　 　 三三　　　}　　　　　　「黙って聞きなさい」
　　　　　　　　　'.　　　　 　 　 　 　 　 　 Ｊ　/
　　 　 　 　 　 　 ＼ ｕ　　ﾞ'ー'^'ー'ﾞ 　 　 ／
　　 　 　 　 　 　 　 ｀¨７　　 ￣ 　 　 　 ‘,
　　　 　 　 　 　 　 　 /　　　　　　　　　　‘,

5732 名前： ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日：2016/05/15(日) 22:50:04 ID:7zz8xdoU0

　　　　　 　 ﾊ　　　　　　 /＼　　　　　　　　　　 ﾊ
　　　　　　.′　　　 　 　 l　 　 　 　 　 　 　 　 　 ﾊ
　　　　 　/　　　　　　 　 |　　　　　　　　　　　　 　 l
　　　 　 ,'.　　　　　 　 　 |　　　　　 　 　 　 　 |　　 |
　　　　 l　　　　 　　 {　.! |　　　　.!　　l　　　|　| 　　|
　　　　 |　　 {　　 　 |　.| .ﾄ.l.　　　|　　|　　l .|　! 　　|
　　　　 |　　 |　　 ._xﾄ= ﾄ､八　　 .Lx.-|=-xl |　l. 　　|　　　　　　　　一昔前までのフィンブルヴェート騎士団は、
　　　　 | 　　l　　 :ｲｽ＼l 　 l＼　 |　ﾍハ ､l l　|.　　 |
　　　　 | ﾄ､人　 　 | z===ﾐ | 　＼l y===ﾐ､l　 | 　　 |　　　　　　　　今ほどの規模ではありませんでした。
　　　　 ｌﾉl＼人.　　{´　　　　　　　　 　 　 l| 　|', 　　|
　　　　　 .!.　∩.| 　.|　　 　　　 '　　　　　 .!|　 |ﾘ.　　|　　　　　　　　それこそ、一人死ねば十歩敗北に近づくほどに。
.　　 　 　 | 　| | | 　i|ﾊ､ 　 　ﾏ　 7　　　.人| 　|　l 　 |
.　　 　 ＿|..__| | | 　i| |. ヽ. 　　｀´　　.,イ l　| 　|　l　　|　　　　　　　　
　　 　 l lｲ l l.| |_l／)| !　/＜|｀ ｰ ´ |ハ.〉l　| 　|　|　　|
　　 　 |｣ l,｣,j,lｲ .／ l人 ∨ .＞r-＜< ./ l.　l 　|　l　　.|
　　 　 {. 　　 '"/ |　.|::::::::::Vハ ∨ ﾉ ノ⌒ｰ.! 　!''"`ｰ-l､
.　　 　 ﾍ 　　./::::|　.|::::::::::::::＞⌒＜´::::::::::::| 　|::::::::::::::::＼
　　／:::::::}ー } ::: |　.|::::::::／ 八 ..ﾉ　＼:::::::::|　 |:::::::::::::::::::::｀､





　　　　　　　　/　　 /　　　　　　　　 ｉ　 　 .! ｌ 　ｉ　　　　　　 　 ＼
　　　　　　　 .′　 ,′　　　　　　　　ｌ　　 /ｌ | 　i　 　 !　　　 　 　 ＼
　 　 　 　 　 ′ 　.　　　　　 　 　 Ｌ厶_../　ｉ ｉ　 l　 　 !　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　ｉ　 　,　　　　　 　 　 | l_Lムﾆミヽ､ .! 　　.!　ｉ 　 　 　 　 　 '
　　　　　　　|　ｉ　ｉ　　　　八　 　 ｌV ｨ'て乙(｀ヽ l 　　 !　i 　　 /　　　　,′
　　　　　　　|　|　|　　　　　 ＼　 |　　ｈ( ｨ'ﾘ　　ヽ 　f'うﾐメ、 .'　　} i　/
　　　　　　　|　l　从　　　　 　 {ヽｉ　 　`ﾆ´´　　　 ヽ ｈr!Y´　' 　 '　ﾚ′　　　　　　　アラディアも、そのことは把握していたのでしょう。
　　　　　　　|　i 　 八 ヽ､　 　 !　　　　 　 　 　 　 　 lcﾘ |　/　 / 八
　　　　　　　|　 　 ｉ　ｲ＼j＼ 　＼　　　　　　　　　　 '　　|ノ 　/ /　　　　　　　　　　　故に、女神は我々の内から兵士たちを選び、
　　　　　　　ｉ　　　!　{　　ｌ 　＞ｰ ヽ　　　 　 　 　 _ 　 　 !厶ｲ /
　　　　　　　ｉ　　　ヽ､`ｰ |　　 |　　　　　　 　 　 ´ ’　　 ハ 　/　　　　　　　　　　　　 そして加護を与えました。
　　 　　　　 '　　　　　｀ｱ,|　　 |　　　　　　　　　 　 　 .ｲ 　|
　　　　　　.′　　　　 // |　　 | へ、　　　　　 　 　 ｲ　ｌ　 |
　　　　　 .'　　　　　 / 　 |　　 | 　 　 .＞ｰ ,---rく {　　l　│
.　　　　 /　　　　　/┌厂ｌ　　 | ｀￣￣'Ｌ./ 　 ﾉ 　 |　　i　 |
　　　　/　　　　　 　 { j.　|　 　| 　 　　 |／二ﾆミ.　|　　i　 |

5733 名前： ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日：2016/05/15(日) 22:54:38 ID:7zz8xdoU0

　　　　　　　　 ＿＿＿_
　　　　　　　／　　 　 　＼　　　　　　　　「魔力とは魂に流れる血液、と説明したのは覚えていますか？」
　　　　 　／　─　 　 ─　＼
　　　　／ 　 （●） 　（●）　 ＼　　　　　　は、はい。でも、それがどう関係するんですか？
　　　　|　 u. 　 （__人__）　 　　 |
　　　　 ＼　 　　｀ ⌒´ 　　 ,／
　　 　 /⌒ヽ　 　ー‐ 　 　ｨヽ
　 　　/ 　　　 　,⊆ニ_ヽ、　 |
　　　/　 　 ／　r─--⊃、 　|
　　　|　ヽ,.ｲ　　 ｀二ﾆﾆうヽ.　|
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確かに、少し前に聞いた覚えがある。

魔力は魂に流れる血。その血を用い、女神の力を魔術として行使する。
魔力が失われれば失われるほど体力も消耗し、やがては意識の断絶、
最悪の場合は死に至るという。

だが、それが一体何の関係があるというのだ。
それは限界を超えて魔術を行使した場合の副作用であり、
自分の感覚の喪失と関係があるとは思えなかった。
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5734 名前： ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日：2016/05/15(日) 23:00:56 ID:7zz8xdoU0

　　　　　　　 〃/　　　　　　　 　 　 　 　 　 　 }　　　　　　　　　　　　　　　 　 ヽ
　　　　　 　 / /　　　 　 　 　 　 i　　　　 　 　 i　　 　}　　　　 　 　 　 |　　 　 　 ,
　　　　　　 '　′　　　　　　　 　 l　{　　　　　　i 　 　 |　　　　　　　 　 |　　　　　 ′
　　　　　　ｌ　|　　　　　　　 　 　 |　'　　　　　　i　|　　|　l 　 }　　 　 　 |
　　　　　　|　|　　　　　　{　　　 ∧ ﾍ　　　　　ﾑrﾋ　７"{｢￣|　　 　 　 |
　　　　　　|　| /　　　 　 |　　 {/ __'　｛ 　　 　 '_jﾉ _厶ﾆL _ |　　 　 　 |
　　　　　　|　|'{　　　　　 |　ィ'{｢　__｀j八 　　 / ノ ;ノ乙心jﾉ| 　 /　　 r: ､　　　　　　　　　　　当時は、魔力切れを起こしても
　　　　 　 　 |　.　　　 {　 , 　 l　ｧァぅ,　ﾊ 　/　　 ‘;::::ﾀ刈　|.　/　 　 ′ |
　　　　 　 　 {.　',　　 ∧　'.　 |〈{ {:::hﾑ　 ∨　 　 　 ｰ '' ”　| /　　　ﾙ ) 从 　 　 i　　　　　　　交代してくれる後備などいませんでした。
.　　　　　　　 　 ‘.　/ ,ハ　ヽﾑ　弋:㌣　　　　　　　　　　　j/ 　 　 ﾊ　/　 }　　　i
　　　　 　 　 　 　 )' /　　Ｖ{　ハ　　　 〈　　 　 　 　 　 　 / 　 　 厶ｨ´　　　　　 i　　　　　　　 そのために、女神が我々に与えた加護。
　　　　　　　　　 /　　　　　 ＼　',　　 　 　 __　　　　 　 , 　　　　′│　 　 　 　 !
　　　　　　　　　　　　　　 　 /　 人　 　 　 ｀´　　 　 ／　　 　 .′/ | 　 　 　 　 !　　　　　　　 魔力ではなく、魔力を生み出す魂そのものを
　　　　　　　　　　　　　 　 /　 /　　＞　.　　　　　／ 　 　 　 /}丁厂　　 ! 　 　 l
　　　　　　　　　　　　　　/　 /　 ／　　　 ＞-=''"￣｀丶、／ j　j　 ′　 i　　　│　　　　　　　 薪として燃やしつくす力。
.　　　　　　　　　　　 　 /　　　〃　 　 ／..:::::::::::::::::::::::::::::..＼ ﾘ　j　′ 　 ! 　 　 |
　　　　　　　　　 　 　 /　　　 /　　　/..:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::..ヽ　j/　　　 i　　　│
.　　　　　 　 　 　 　 /　　　 /　　　/.::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::.∨　　　　ｉ　　　 |





.　　　　　 　 ／￣￣￣￣￣￣＼
.　　 　 　 ／:.　　 　 　 　 　 　 　 ＼
　　　　 /: : :　　　　　　　　　　 　 　 ＼
. 　 　 / : : : 　　　　　　　　　　 　 　 　 ヽ
　　　 | : : : : 　 ,.,,,,ノ⌒" '' ``⌒＼,,,　　　l
　　　 |: : : ::;　　（　○ ）　　　（　○ ） .;::　|　　　　　　　　　　　　「……魔力の、無限放出です」
　　　 |: : : : :　 　 ´"''"　 　 　 "''"´ 　 　 l
　 ,＿ ヽ___　　　　（　　　 j　　　 ）　u　／＿_
／::　r' |　r'￣二ﾕ:｀ｰ-‐'´｀ｰ-‐'′ ／ : :: :: :`:､＿_
: : : :::| .|　|　/ 　) ｀)　　 　　　 　 ／: :.ﾍ : :: :: :: :: :: :＼＿_
　: :　|.ﾉ. ﾉ /　　⌒ヽ＿ 　_　 ,　´　|: : : :ﾍ: :: :: : : : : : : : .ハ
　: :: ::＼　　　　　　　　　`ト､　　　/: :､ : : ＼: :: :: : .i i: :/: ::ﾍ
　: :: :: :l: ｀ー┬-､　 　 　 |ii入　／|:: :: :＼／: : : : {. ﾚ /: :: : ﾍ
　 : :┐|: :: :: :: :＼）　 ７ ./iiii〈　 　 |: :: :: :: :＼: :: :: :Ｖ /: :: :: :: :}
　: :イ .|__/ ,へ/⌒＼　./iiiiiiii｝ 　　| : : : : : ::/: :: :: : Ｖ: :: :,ｲ: : :!
　イノ: : / /: :: :＼＿ ￣＼iiii｝ 　　|: :: :: :: :/----: : .| ／ノ: :: :|
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そんなことが、可能なのか。
それが可能であるのならば、アラディアの兵士はまさに無敵といえるのではないか。
ナノハほどの魔導士にその力があれば、百万の軍が相手だったとしても、
決して負けることはないだろう。

その力がやる夫の体に宿っているというのであれば、合点はいく。
事実、サプフィール城塞で死にかけてから、魔力切れによる意識の混濁などは
ほとんど感じられなくなった。なら、いいことではないか。

たとえ感覚がなくなっていくとしても、代償としては軽い方だ。
なのに、なぜアンゼロットは、辛そうな目をしているのだろうか。
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5735 名前： ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日：2016/05/15(日) 23:05:16 ID:7zz8xdoU0

..　　　　　　＿＿＿_
　　　　　／　―　　-＼
.　　.　／　 （●） 　（●）
　　／　　　　 （__人__）　＼　　　　　　　……え？
　　|　　　　 　　｀ ⌒´　　　|
.　　＼　　　　　 　　　　 ／
.　　　ノ　　　　　　　　　＼
　／´　 　　　　　　　　　　ヽ
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「魂を燃やし尽くし、灰となった人間は、人間ではなくなるのです。
それは命の終わりではなく、魂の死。生物から、物体への変化。
これが、その末路です」

アンゼロットが長いスカートの裾を微かに引っ張り上げる。
その黒いワンピースの下には、白い肌ではなく、石の棒があった。
アンゼロットの脚が、彫像のような石のものになっている。

目の前の現実が上手く呑み込めず、目をぱちくりさせていると、
アンゼロットはスカートから手を放し、やる夫の膝に置いた。

「あなたも、こうなるのですよ」
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5736 名前： ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日：2016/05/15(日) 23:11:47 ID:7zz8xdoU0

　　　　, ‐, ニニニ ｘ､
　　　/／　　　　　｀ヽ.i 　 , ｘ-――‐-ｘ ､
　　 /　　　　　　　＿ ,i! ´　　　　　　　 　 ｀丶､
　　　　　　　 , x≦　　｀ヽ 　 　 　 　 　 　 　 　 ヽ
　　　　　,x≦　　　　　　　　　､ 　 　 　 　 　 　 　 ヽ
　　　　/　,　　　　　　　､　　　 ヽ　　　 ､　　　　､ 　 ヽ
　　　./　 /　　　i　 　 　 ヽ.　　　 　　　 　　 　 　 ヽ　ヽ
　 　/　 /　 ! 　 .!　　　　　}　 　 　 }　 　　 i 　 　 　.i　.i
　　' 　./ 　 !　 　! 　 i　　　|　　|　 .| 　 　　.} 　 　 　.l　!
　　!　∧ 　 !　 　,ゝ-t　 　 |　　} 　.}　　　　| 　 　 　 |　!
　　' /|.∧　ヽ　Kl _ヽ!ヽ|　 i 　 i　　!､ 　 　 | 　 　 　 |　i　　　　　　　　　　　症状は様々です。
　　!'　!'　ﾊ　 ﾊ! イ叨　 ! ./! ./　,´｀! 　　　.i 　 　 　 i　.i
　 　　.ﾚ'|　∨　! 弋ﾝ　 .!/ .!/　/ｲ!/　　 　 | 　 　 　 i .∧　　　　　　　　　　 五感の喪失から始まり、私のように徐々に体が
　　 　 　|/.　　ﾉ　　 　 ./ 　! ./_ﾝ´|　　　　 | 　 　 　 | .i∧
　　　　　　　　､　 　 　 i　　　iヾ,　.|　　　　 |　　　 　 | .i ∧　　　　　　　　　 石化していく者。突如として全身が塵となる者。
　　 　 　 　 　　ヽっ 　 | 　 _r冂￣|　　　　 | 　　　　∧i＿ヽ
　　　　　　　　　　lヽ_,ｘ＜´￣￣: ∧ 　 　 ∧ 　 　 　 ﾊ: : ｀ヽ　　　　　　　　急激な老化の末に朽ち果てて土へ還る者。
　　　　　　　　　　|／: : : : i: : : : : : ﾊ　　 　 ﾊ　　　 　 ﾊ: : : : ｀､
　 　 　 　 　 　 ／ : : : : : : ! : : : : : : |　　　　 |　 　 　 　|: : : : : :ﾊ　　　　　　 大勢の仲間が、そうして人として死ぬこともできず
　　　　　　　　/ i: : : : : : : :| : : : : : : :i.　 　 　 i　　　　　 !: : : : : :ハ
　　　　　　　 ハ ヽ: : : : : : | : : : : : : :| 　 　 　.i　　　　 　!: : : : : : :ﾊ　　　　　　消えていく様を私は目にしてきました。
　　　　　　 / : : : : ＼i: : / !: :/ : : : : |　 　 　 .i　　　 　　!: : : : : : : |
　　　　　　 i: : : : ｀ヽ i: : |/: :/ : : : : : ! 　 　 　.!　　 　 　 !: : : : : : : !
　　　　　　∧ : : : : ､: ヽ i |:/ : : : : : : !　　　　 i　 　 　 　 !: : : : : : :i

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アンゼロットの言葉が、自分の胸に風穴を穿ち、その穴を言葉の意味が
通り過ぎていく。

「私ももう、今日の戦いで、両足のほぼ全体が石化してしまいました。
でも、あなたは違います。症状の進行は致命的ではありますが、
今すぐにでも戦いから離れれば、あと十年程度は生きられるはずです」

そこで初めて、アンゼロットの表情が和らいだ。
形作られた笑みが崩れ、切なげに目を伏せながら、やる夫を見つめ、
ゆっくりと口を開いた。

「生きなさい。私は、死へと向かう者を戦場に赴かせる気はありません。
あなたがいくら戦う意思を見せようと、たとえ女神に選ばれたとしても、
私が、あなたが命を捨てることを許しません。
生きて、その生を全うしなさい」
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5737 名前： ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日：2016/05/15(日) 23:17:04 ID:7zz8xdoU0

　　　　 　 　＿＿__
　 　 　 　／　　　　＼　　　　　……一つだけ、聞いていいですか？
.　　 　／　 　 　 　 　 ＼
.　　／　　　 ―　　 ー　 ＼　　「ええ」
　　|　　　　（●） 　（●） 　|
.　　＼　　　　（__人__）　 ／　　 アンゼロットさんは、ずっとその状態で魔導士を？
.　　　ノ　　　　｀ ⌒´ 　 ＼
　／´　 　　　　　　　　　 　ヽ　　「支援魔導士として、ですがね。これなら、症状の進行も多少は遅いので」
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アンゼロットが笑う。
笑いながら、これ以上ないくらいに残酷な現実をつらつらと述べていく。

やる夫は、それが無性に悲しく思えた。
そして、彼女の言葉に恐怖を感じていた自分が情けなく思えてきた。

彼女は、何年も前から、死への階段を上っていた。
石と化していく体を引きずりながら、支援魔導士とはいえ、
自分たちと一緒に戦争に参加し、その命をすり減らしながら戦っていた。

胸の穴が塞がっていく。消えかけた決意の炎が、再び揺らめきだす。
混乱の波が引き、頭の中は自分でも驚くほどに澄み切っていた。
╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

5738 名前： ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日：2016/05/15(日) 23:29:28 ID:7zz8xdoU0

　　　　　 　　　　　　　　　＿＿＿＿＿　　　　　｜／
　　　　　　　　　　　　 ／　　　　　 　　 　 ヽ　　　　─
　　　　　　　　　　　／ 　　　　　　　 　 　 　 ＼
　　　　　　　　　 ／ ､　　　　 　 　　　　　　　 　＼
　　　　 　 　 　 /　 　`ー-　　　　　 　 　　　 　　　ヽ
　　　　 　 　 　 | 　､＿＿　　　　　　　　　　　　　　 |　　　　　　　　……ごめんなさい、アンゼロットさん。
　　　　　　 　　ﾉ 　　└┘ /　　　 　　　　　　　　　 |
　　　　　　　　(､　　　　　　!_j　　　　 　 　　 　　　　|　　　　　　　　それはできません。
　　　　　　 　　 {`ー-'　　　　　　　　　　　 　 　 　 /
　　　　　　　 　　＼　　,, -===ﾆﾆﾆﾆ====-、＿／
　　　　　　　 　　　　ソ´:::;;;;;;;:;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;＼
　　　　　　　＿＿＿〉:／　　　　　　 |i 　　　　＼/＿
　　　　　 ／|　::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|:::　　　　　　　|｀ヽ,
　　　　 /　 .|　::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|:::　　　　　　　|:::::::|

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はっきりと断ると、アンゼロットはますます辛そうな目になりながら、
「拒否は認めません」と頭を振った。

「できません」

「死にたいのですか？　あなたが死んだら、ナノハの想いも、ラピスの厚意も、
レンジたちとの思い出も、何もかもが無に帰すのですよ？
生きたくはないのですか？」

「そりゃ、生きていたいけど」

死にたいはずがない。自分には生きる理由がある。死ねない理由がある。

昔は、明日なんて来なければいいと思っていた。
眠りに落ちて、そのまま世界が終わればいい、そうすれば、苦しみも消えるから。

だが、今は違う。明日が来ないのが恐ろしい。
生きて、明日を皆と見れないのが、恐ろしくて仕方ない。

でも。でも、それ以上に。
自分の胸の奥で鈍く輝く、確かな想いの結晶が、剣を取らせる。

この世界に来て、生きる苦しみと喜びを刻み込まれて、その中で芽生えた、
初めての感情の欠片。それが今、ようやく、言葉として理解できるようになった。
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5739 名前： ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日：2016/05/15(日) 23:36:23 ID:7zz8xdoU0

　　　　　　　　　　 　 　 ＿＿＿_
　　　　　　　　　　 　 ／　　 　 　＼
　　　　　　　　　　 ／　─　 　 ─　＼　　　　　　　アンゼロットさん。
　　　　　　　 　 ／ 　 （●） 　（●） 　＼
　 　 　 　 　 　 |　 　 　 （__人__）　　 　 |　　　　　　「はい？」
　　　　　　　 　 ＼　 　　 ｀⌒´ 　　　,／
　　　　　　　 　 ／　　　 　ー‐　　　　＼
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目の前の、悲しそうに笑う彼女と会えなくなるのが恐ろしい。
立ち止まった時、耐えきれずに泣きだした時、静かに寄り添ってくれた彼女が
自分の世界から失われるのが、たまらなく恐ろしい。

自分はもう、空っぽではない。空洞だった己を埋める必要はもうない。
これからは、その己の生を使う時だ。
失ってはいけないもののために。消してはいけない篝火のために。

「あなたが好きです」
╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

5740 名前：安価のやる夫だお[sage] 投稿日：2016/05/15(日) 23:37:08 ID:AM/G6xes0
突然の告白

5741 名前： ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日：2016/05/15(日) 23:39:47 ID:7zz8xdoU0

　　 　 　 　 　 　 　 /　 　 〃　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＼
　　　　　　　 　 　 /　　　/　　　　　　 　 　 　 　 　 　/　　 　 　 　 　 　 ヽ
　　　　　　　　　　′ 　 //　　 　 　 　 ! 　 ／ 　 　 〃　　　　 　 　 　 　 　 、
　　　 　 　 　 　 ,　　　ｨ/| 　 　 　 　　 |　/　|　　 /{/　　 　　　　　　　　　 　 ,
.　　　　　　　　 ,′　/ l{' |. 　 　 {　─-| /　│ //| |'　 　 |　　　　 　 　 　 ﾍ　',
　　　　　　　　/　　 {　⌒ﾄ､　　 从　/ j/　 ｀lメ、 | |　 　 '|　　　　　　　　　　　|
.　　　　　 　 /　 　 ∧、｛|　＼ﾍ{　Ｖ　　　　│ 　 | |　　/ | j　　　　 　 　　　}　!　　　　　……はい？
　　　 　 　 /　　　/　ﾍ.　|　　 l＼ =＝=ミ ､　　　 | |　 /ﾅメ、}　　　 　i　　 .′i
　　　　　 /　　　/　/　 `l|　　 |　　　　　　`　　　　 |／／jノ ,′　　　 |　　′/　　　　　　「あなたが好きです」
.　 　 　 /　 　 /　/　　　l|　　 | 　　 　 　 　 　 　 　 =ﾐ、 　 ′　　 　 |　/
.　　　 /　　　/　　　_ｧ‐-|　　│　　 　 　 　 　 　 　 　 ヾ／　　 　ｲ　ﾘノ　　　　　　　　　 いえ、冗談を言ってる場合ではないのですよ。
　 　 / 　 　 ' 　// ﾄ､　/lｉ 　 │　　　　丶._　　´　　　＜.__ 　ﾉ／/　'′
　　/　 　 ,厶∠...　|　｀¨|ｉ 　　| ＼ 　 　 　` ｀ 　　 　 ,ハ/／´ ﾚ′　　　　　　　　　　　　 それに、冗談にしてはいささか……
　/　　／..:::.::.:::::..｀ヽ　　|　 　 |､　 ＼　　　　 ,.．r　 ´　 |
/　,／..::.::.::.::.:::::::::::::::..＼|　 　 |て /ト､`r　ｌ | 　丿|　　　|　　　　　　　　　　　　　　　　　　「好きです。心の底から」
　/..: : :.::.::.::.::.::::::::::::::::::::..＼　│　｀スrく}r‐┴く　 |　　　|
'/.:.:.::.::.::.::.:::.:::.:::::::::::::::::::::::::::}　| ／　 }＼j::::.:::.::..＼　　　|
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口にして、「ああ、自分はアンゼロットに惚れていたのか」と考えた。
好きだの愛だのといった感情についての知識も経験も、やる夫は乏しかった。
だが、なぜか、彼女が好きだということだけは分かった。

アンゼロットを失いたくない。もっと話がしたい。近くで時間を共有したい。
笑顔を見ると胸が暖かくなる。涙を見ると胸が引き裂かれる。
励まされると折れた心が燃え上がる。寄り添われると不安が消える。

彼女を失うことが、死ぬことよりも恐ろしい。
たとえ何を捨てることになったとしても、この人だけは。
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5742 名前： ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日：2016/05/15(日) 23:46:27 ID:7zz8xdoU0

　　　　　　　　/　　 /　　　　　　　　 ｉ　 　 .! ｌ 　ｉ　　　　　　 　 ＼
　　　　　　　 .′　 ,′　　　　　　　　ｌ　　 /ｌ | 　i　 　 !　　　 　 　 ＼
　 　 　 　 　 ′ 　.　　　　　 　 　 Ｌ厶_../　ｉ ｉ　 l　 　 !　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　ｉ　 　,　　　　　 　 　 | l_Lムﾆミヽ､ .! 　　.!　ｉ 　 　 　 　 　 '
　　　　　　　|　ｉ　ｉ　　　　八　 　 ｌV ｨ'て乙(｀ヽ l 　　 !　i 　　 /　　　　,′
　　　　　　　|　|　|　　　　　 ＼　 |　　ｈ( ｨ'ﾘ　　ヽ 　f'うﾐメ、 .'　　} i　/
　　　　　　　|　l　从　　　　 　 {ヽｉ　 　`ﾆ´´　　　 ヽ ｈr!Y´　' 　 '　ﾚ′　　　　いや、その、仮にそうだとして、
　　　　　　　|　i 　 八 ヽ､　 　 !　　　　 　 　 　 　 　 lcﾘ |　/　 / 八
　　　　　　　|　 　 ｉ　ｲ＼j＼ 　＼　　u,　　　　　　　 '　　|ノ 　/ /　　　　　　　なぜあなたが軍に残る理由になるのですか？
　　　　　　　ｉ　　　!　{　　ｌ 　＞ｰ ヽ　　　 　 　 　 _ 　 　 !厶ｲ /
　　　　　　　ｉ　　　ヽ､`ｰ |　　 |　　　　　　 　 　 ´ ’　　 ハ 　/　　　　　　　　 というか、本気ですか？　私ですよ？
　　 　　　　 '　　　　　｀ｱ,|　　 |　　　　　　　　　 　 　 .ｲ 　|
　　　　　　.′　　　　 // |　　 | へ、　　　　　 　 　 ｲ　ｌ　 |
　　　　　 .'　　　　　 / 　 |　　 | 　 　 .＞ｰ ,---rく {　　l　│
.　　　　 /　　　　　/┌厂ｌ　　 | ｀￣￣'Ｌ./ 　 ﾉ 　 |　　i　 |
　　　　/　　　　　 　 { j.　|　 　| 　 　　 |／二ﾆミ.　|　　i　 |
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簡単なことだ。

惚れた女が命をすり減らしながら戦場に立っているのに、自分だけ
安全な場所でのうのうと生き延びようとする男などいない。

「……それが……それが理由になるものですか！」

そう言うと、アンゼロットは激昂した。
自分の発言を度を越した冗談だと捉えて怒ったのではなく、
理由に対して怒りを発しているようだった。

初めて見るアンゼロットの怒りの表情は、子供のようだった。
紫色の瞳が潤み、今にも瞼から涙が溢れだしそうになっている。

「そんなことを言われたって、私は少しも嬉しくありません！
私のために死にたいと？　冗談じゃない！」
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5743 名前： ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日：2016/05/15(日) 23:56:55 ID:7zz8xdoU0

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　_ -=＝=- _
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 , ．-=＝／．_　　　　　 `
　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ／　　　　　　　　｀ ､
　　　　　　　　　　　　　　　　　, '　　　　　　　　　　　　' ,
　　　　　　　　　　 　 　 　 　 ,'　　　　　　　　　　　　　　.',
　　　　　　　　 　 　 　 　 　 ,' /　　　　　　　　　　　　　 !.i
　　　　　　 　 　 　 　 　 　 ,' ,'　　　　　　　　　　　ﾑ.,' | | |
　　　　　　　　　　　　　　　ｉ .ｉ　　　　　　　　　　　ﾑ,'　! l ｉ
　　　　　　　　　　　　　　　| ｉ　　　　　　　　　　 .ﾑ,' ｉ ｉ !il　　　　　　　　あなたは大馬鹿です！
　　　　　　　　　　　　　　　| ｉ　　　　　　　　　　ﾑ,'　ｉ ｉil ｌ
　　　　　　　　　　　　　　　! ｉ　　　　　　　　　 ﾑ,' _ ｉ ｉ　　　　　　　　　 私のような、死にゆく女のために命を擲つと！？
　　　　　　　　　　　　　　 ﾘ .ｉ　　{　　　!　　　ﾑ,' /;:￣ヽ
　　　　　　　　　　　　　　/　.ｉ　　{　　 ,'　　 .ﾑ,' ,':;:;:;:;:;:;:ｉ　　　　　　　　 「だからこそ、です。短くい時間でも構わない。
　　　　　　　　　　　　　 ,'　　.ｉ　 .ｉ　　,'　　 ﾑ,'　ｉ;:;:;:;:;:;;:;!
　　　　　 　 　 　 　 　 /　　　ｉ　 ｉ　 ,'　　 ﾑ,'　 ｉ:;:;:;:;:;:;:,'　　　　　　　　　あなたと生きていきたいんです」
　　　　　　　　　　　 , :' /　　　　 ｉ .,'　 　 　 　 .ｉ;::;:;:;:;:,'
　　　　　　　　　　／　/　　　　　.ｉ　　　　　',　　',;:;:;:;:ｉ　　　　　　　　　　…………っ！　最低！　卑怯者！
　　　　　　　　 ／　／　　　　　　　　　　　　',　　ｉ;:;:;:|
　　　　　　　／ .／　 / .., :′,'　 ,'　　　',　　 ',　 .ｉ:;:;:|
　　　　　 ／ .／　　 ,' ..,'　　ﾑ　ﾑ　　　!.',　　 ',　 ｉ;:;:|
　　　　, :′, :′　　,'　,'　　.ﾑ　ﾑ　　　 ｉ .',　　 ｉ　.ｉ:;:|
　　　/　／,'　　　 .,'　,'　　 ﾑ　ﾑ　　　 .ｉ　.ｉ　　.ｉ　.ｉ;:|
.　　/　,'　,'　　　 .,'　,'ｉ　　 ﾑ　ﾑ　　　　ｉ　 ｉ　　ｉ　 i;:|
　 /　.,'　.ｉ　　　 .,'　,' ｉ　　ﾑ　ﾑ　　　　 ｉ　 ｉ　　ｉ　 ｉヽ､
　,'　 ,'　 .ｉ　　　.il　 ｉ .ｉ　　ｉ　 ｉ　　　　　ｉ.!　ｉ　　il　 ｉ;:;:;｀:、- _
. ｉ　 .ｉ　　.ｉ　　　!l　!l　ｉ　　ｉ　.ｉ　　　　 .,' ｉ　ｉ　 .ﾊ　 ｉ;:;:;:;:;:ヽ:;:;:¨ヽ、

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アンゼロットが泣き崩れる。
まるで辛いことがあった十代の少女のようだ。泣きじゃくり、袖で涙を拭いながら、
やる夫の胸に拳を叩き付けた。

「そんなことを言う人を、どんな言葉で止めればいいのですか……」

もっともだ。いくら彼女に嘆願されたとしても、これだけは譲れない。

この命が幾許のものだったとしても。
彼女の命がもうすぐ尽きるものだったとしても。
╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

5745 名前： ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日：2016/05/15(日) 23:58:40 ID:7zz8xdoU0

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　┌──────┐
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│::::::::::::::::::::::::::::::::│
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ・

5746 名前： ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日：2016/05/16(月) 00:29:26 ID:Rc68ehP60

　　　　　　　 ､　- ‐‐ -,
　　　　　　 ,´: : : : : : : : :
　　　　　　ﾞｉ : : : :○　○ﾞｉ　　　　　　さて、今回はこれでお開きだ。ちょっぴり寝てたのは内緒ね。
　　　　　　 }: : : : : : : _ _ _|
　　　　　　 |: : : :-=´_　_,´　　　　　　ところで、どうだったかな？　さすがに>>1も恋愛描写は初めてでね。
　　　　　 y' : : : : :_: : : : :i
　　　 　/ : : : : : : :┌─┐　　　　　　ぎこちないものではあったと思うけど、生暖かい目で読んでね。
　　　 　i : : : 丶: :ヽ{ .茶 }ヽ
　　　 　ｒ : : : : :ヽ、__)一(_丿
　　　 　ヽ、___ : : : :ヽ : :ヽ
　　　　 と_ : : : : : : ノ : :ノ
　　　　　　￣￣￣　￣





　　　　 　　,　-‐ 　 ‐- ､
　　　　 ／: : : : : : : : : : ::',
　 　 , ': : : : : : : : : : : : : : :',
　　/: : : : : : : : : : : : : : :○:',　　　　　　　　それじゃ、次の日曜日にシーユーアゲイン。
　　ヽ : : : : : : ○: : : : : : : : :',
　.　 ｀ﾄ : : : : : : : : : : : _,-‐'｀iヽ _　　　　　　月曜日は等しく訪れよう、人に非ずとも、悪魔に非ずとも……
　　　 i: 丶: : : : : :,-‐'´__,-‐'´: : : ｀ヽ
　　　 | : : :ﾄ: : : : `-‐´ : : : : : : ､: : : 丶
　　　 | : : :'､j｀-‐ : : : : : : : : : : : ＼: : : ヽ
　　　 丶,,:_:_:_: : : : : : : : : : : : : : : : | : : : i
　　　　　　　 　 ｀ヽ: : : : : : : : : : : : `ー‐'
　　　　　　 　 　 　 ヽ: : : : : : : : : : : : : ヽ

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