次の金利上昇は、デフレ脱却によるよい金利上昇となるのか?
金利上昇は債券価格の下落を意味する。国債の下落は、当然、通貨売りのトリガーとなるが、問題は金利上昇の背景だと久保田さん。
デフレ脱却で失われた20年にいよいよ終止符か?
2月14日の日銀による "バレンタイン緩和" をきっかけに、長く続いた日本のデフレからの脱却の可能性が出てきた。日銀は物価安定のメドを置いて、それに向け能動的に金融緩和を続け、物価上昇に働きかけることを明確にした。そう簡単にはデフレからの脱却が可能とは思えないが、このまま永久的にデフレが続くことも、過去の歴史を振り返る限り考えられない。
下の消費者物価指数のグラフを見てほしい。日本の物価はゼロもしくはマイナス圏が続き、原油価格急騰などで2008年に前年比2%を超すこともあったが、リーマン・ショックによる金融経済への打撃でマイナス2%以下に低下した。しかし、それから最近にかけては右肩上がりとなり、ゼロ近辺に戻ってきている。日銀が物価安定のメドとした消費者物価指数1%には当分届かないとの見方は強いが、デフレ脱却の兆しも見えつつある。
たとえば雇用の改善だ。3月の日銀短観で雇用は、リーマン・ショック後に急激に拡大した過剰感が解消されてきており、通常の水準に近づいている。金融機関による貸出の持ち直しも続いており、3月の貸出・資金吸収動向によると、銀行の貸出は6カ月連続で前年を上回った。
もし日本でのデフレ脱却の可能性が見えてきたとすれば、そこに大きな問題が生じる。それは長期金利の上昇である。日本の長期金利は1990年には8%台にあった。
しかし、その後はバブル崩壊による金融システム不安などの高まりなどから、長期金利は低下し始めた。この間は「失われた10年」とも呼ばれたが、現実には失われた20年となった。この際、経済成長力のみならず、金利も失われた。90年から98年にかけて長期金利は右肩下がりとなり、8%台から1%割れへと低下した。そして2000年以降は、日本の長期金利は2%以内で推移した。この背景にはデフレによる景気低迷と、日銀による金融緩和策が大きく影響していた。しかし、デフレ脱却の兆しが見えてくるとなれば、日本の長期金利を低位安定させてきた構図に変化が出てくる。
日本の長期金利の上昇がデフレ脱却によるものであるとすれば、それにより日本の景気回復が見込まれる。税収が回復し、現在のような税収よりも国の借金である国債の発行額が多いという異常な事態が解消される可能性がある。
デフレ脱却により、株価も上昇し、リスクオンの動きにより、為替市場では日本円が売られることになるだろう。
バレンタイン緩和により円安や株高が強まったのも、リスクオンの動きが意識されたからだ。もし長期金利が2%を超えて上昇しても、このように経済実態に伴う緩やかな金利上昇であれば、国債の安定消化も継続し、他の市場に影響を与えることはないと思われる。このシナリオはいわゆる「よい金利上昇」を意識したものであるが、ここでは「悪い金利上昇」も意識しておく必要がある。悪い金利上昇とは、国債への信認が問題視されての金利上昇である。
[COLUMN]
IMMで投機筋の動向がまるわかり!
ヘッジファンドなど、投機筋のポジションが如実に反映されているといわれるのが、米国のシカゴマーカンタイル取引所(CME)のIMM通貨先物ポジションだ。今年に入ってからというもの、ポジションは「ドル買い、円売り」に偏っている。どちらかに5万枚以上偏った場合には、「相場の転換点」となることが多い。なお、毎週金曜日に火曜日時点のポジションが発表されている。
久保田博幸(HIROYUKI KUBOTA)
金融アナリスト
証券会社の債券部で14 年間、国債を中心とする債券ディーリング業務に従事。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』(講談社文庫)の登場人物のモデルともなった。専門は日本の債券市場の分析。特に日本国債の動向や日銀の金融政策について詳しい。現在、金融アナリストとして、「QUICK」などにコラムを配信中。
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この記事は「WEBネットマネー2012年7月号」に掲載されたものです。