映画監督・脚本家・プロデューサー。父親がテキサス州ダラスの地区検察局で働いていた関係で、子どものころから裁判所や刑務所、警察署に出入りしていた。その影響もあり、犯罪レポーターとしてキャリアをスタート。その後は犯罪を専門とする作家や脚本家として活動し、犯罪映画の監督やプロデューサーを務める。主な作品に『トゥルー・リベンジ』(10・日本未公開)、TVミニシリーズのドキュメンタリー作品「ラスト・ナーク 〜麻薬捜査官 殺害の真相を暴く」(20)など。TVシリーズ「シカゴ・ファイア」(14〜16)と「シカゴ P.D.」(16〜17)の脚本も手がけている。
──天才的な頭脳をもっていたとしても、ロス・ウルブリヒトは一見すると普通の青年で、重大犯罪を犯すようには見えません。デジタル犯罪は、ほかの殺人などの犯罪よりも、犯している側の罪の意識は薄いのでしょうか?
誰かが銃の引き金を引けば、その結果、目の前に死体が転がっている、というのが最もシンプルな犯罪のあり方です。でも、ご存知のようにテクノロジーがわたしたちの生活に介在することによって、そこに“距離”が生まれてしまう。実際の経験からすれば、これはテクノロジーにまつわる事実です。インターネット上で匿名であれば、どんな人にでもなりすますことができるし、少なくとも、表層的には何でも手に入れることができます。実際の結果は、どうであれ。わたしにとって、この映画で探求したかったことでもあります。
──あなたはロスのストーリーに、ミック・ジャガーが「Gimme Shelter」で歌った「just a shot away」というようなテーマを見出した、とおっしゃっていますね。その意味は?
ダークサイドに向かう能力というのは、悪魔だからではなく、すべての人間に存在していると思います。“ナイト・ストーカー”として知られる(連続殺人犯の)リチャード・ラミレスだけでなく、パナマ・シティで世界を変えたいとポジティヴな夢を抱き、光か闇かの選択をすることになるロス・ウルブリヒトのなかにも同様に存在していることが興味深いんです。
わたしは、犯罪の世界に生きる人たちに興味があるのですが、彼らが警察官であろうと、犯罪者であろうと、両者の間の違いは紙一重なのだと思います。
夢想家からギャングスターへ
──本作はクライムサスペンスというスタイルをとっていますが、青春ドラマとしても興味深い。特に、ロス・ウルブリヒトというキャラクターは、ある種の共感をもって好意的に描かれているような気がしました。
わたしにとって、ロスは、普通のギャング映画に出てくるキャラクターとはちょっと違っていることが興味深かったからです。夢想家からヴィジョナリー、ギャングスター、そしてレジェンドへと、非常に短期間でドラマチックに彼は変貌しました。悪事に手を染めましたが、いいところがなかったわけでもありません。そんな複雑なこのキャラクターはある意味魅力的で、わたしは理解しようとしたんです。
──あなたの実体験も反映されているそうですが、それも影響していますか?
そうですね。わたしはテキサスで育ちました。父は地方検事として法の執行に携わっていたので、わたしは犯罪や終末の世界に多く触れ、それに魅了されました。また、父に反発して反対の道を歩もうとしたこともありました。わたしは若いころの軽い犯罪のキャリアを参考にして、作品をつくりたいと思いました。わたしの希望は、常に個人的な作品をつくることで、たとえそれがほかの人についての物語であっても、わたしが誰であるか、わたしがどのように世界を見ているかの一部にしたいと思っています。ですから、自分の個人的な経験を使うことで、うまくいけば登場人物に近づけることができると思います。
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──1980年代後半に『ウォール街』が公開されたあと、オリヴァー・ストーン監督の予想に反して、悪党でもあるに関わらず、マイケル・ダグラス演じたゴードン・ゲッコーが若い証券マンたちの憧れの存在となりました。このロス・ウルブリヒトにもそういう側面があるということでしょうか?
あなたがその話をしてくれたことは、とても興味深いですね。オリヴァー・ストーンとわたしは、『シルクロード.com』が公開されたときに知り合い、友人になりました。一緒に仕事をするかもしれないと話しています。わたしはずっと彼のファンだったんです。
彼は素晴らしいアーティストで、その映画は必ずといっていいほど論争を巻き起こします。作品が必ずしも彼の意図した通りに受け取られているわけではないところも興味深いところです。批評家が気に入らなかったり、世間がそれを別の意味で捉えたりしたら、どう感じるのかということです。
彼との会話はとても素晴らしい経験でした。わたしたちは多くの点で同じだと思いますし、彼は明らかに伝説的な存在ですから、彼が経験してきた戦争の話を共有することはとても有益でした。あなたの質問の答えになっているかどうかはわかりませんが。
──そうですね、若い世代が彼を英雄視したかどうか、という反応をお聞きしたのですが。ちなみに、ジェネレーションによって反応は違ったのでしょうか?
作品に関する反応は、批判的なものであれ好意的なものであれ、どちらにもあまり関与しないように決めていたので、よくわかりません。というのも、わたしにとってこの作品は、ある意味で世代間の対立や文化的な対立をテーマにしているので、実際にどのような議論がなされているのか、どのように受け止められているのかはコントロールできるわけではありませんから。
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──おっしゃるように、デジタル世代とアナログ世代の乖離や対立や溝についても、この作品では描いています。ジェイソン・クラーク演じる捜査官リック・ボーデンは、実在の人物ではなく、何人かの人物を複合してつくり上げられていると聞いていますが、この旧世代に対してもあなたはとても同情的に描いていますね。
実話を基にしたこのストーリーには、根底に世代間の対立がありました。つまり、ミレニアル世代の若者と、進化した世界から忘れ去られようとしている旧態依然とした恐竜のような人物。両者は衝突し、その下にある葛藤のなかで、その両面を探っています。
こういった軋轢は、いま文化や国に関係なく世界中で繰り広げられていることだと思うので、そこを探求するのは面白いと思いました。なぜなら、登場人物のストーリーだけではなく、もっと大きな意味で「世界でいま何が起こっているのか」を知ることができ、ある意味すべての人が共感することができるからです。
わたしがこの映画を撮影したとき、現場でも「きみはどちらのチームにいるのか? チーム・レックにいるのか、それともチーム・ロスにいるのかな」という論争が起きていましたよ。
──あなたはロスに実際に会ったことがないということですが、主演のニック・ロビンソンがロスにふさわしいと思った理由は何ですか?
ニック・ロビンソンを俳優として選んだ理由は、まず彼がとても愛嬌があって、一緒にいて楽しい人だからです。また、わたしはこのキャラクターが堕落した犯罪者──何と呼んでもいいのですが、そんなふうに堕ちていくキャラクターをうまく演じられる俳優を見つけようとしていたのですが、探しているうちにだんだんと自分がこの男に共感するかどうかを考えるようになってしまいました。ハリウッドで活躍する多くの若手俳優と会いましたが、愛すべき魅力がある人物かどうかが、キャスティングの決め手でしたね。
──最後に、ロスは現在、有罪判決を受け終身刑で服役中です。あなたは個人的に、この刑は重すぎると思いますか?
この判決は非常に極端なものになったとわたしは思っています。個人的な意見ですが、彼は終身刑2回と仮釈放の可能性なしの40年の刑を受けましたが、これは史上最大の麻薬王といわれたメキシコの麻薬密売組織の幹部ホアキン・グスマンが受けた刑よりもかなり重い刑です。
アメリカの司法制度は、ロスを見せしめにしようとし、非常に厳しい罰を与えたように思えます。わたしは、ロスは変わることができる人間だと思いますし、富や悪のためではなく、善のために使う彼の人生の第二幕を想像することができます。わたしは人間性を信じる者ですから、それが奪われるのを見たくありません。
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