アルツハイマー型認知症は高齢者の病気というのが一般的な認識ですが、65歳未満の人が発症してしまう若年性アルツハイマーもあります。新しく、
アルツハイマー病の診断の最年少記録を塗り替える19歳の患者の事例が、中国の医師らによって報告されました。これまで、30歳未満の非常に若い年齢で
アルツハイマー病になったほぼすべてのケースで
遺伝子変異が確認されていましたが、この患者には変異がないことから、認知症に関する従来の常識を覆し新しい知見をもたらす可能性のある貴重な事例だと位置づけられています。
A 19-Year-Old Adolescent with Probable Alzheimer’s Disease 1 - IOS Press
https://content.iospress.com/articles/journal-of-alzheimers-disease/jad221065
Chinese diagnosis of world’s youngest person with probable Alzheimer’s set to change thinking about disease | South China Morning Post
https://www.scmp.com/news/china/science/article/3209607/chinese-diagnosis-worlds-youngest-person-probable-alzheimers-set-change-thinking-about-disease
The Mysterious Case of The Youngest Person Ever Diagnosed With Alzheimer's : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/the-mysterious-case-of-the-youngest-person-ever-diagnosed-with-alzheimers
中国・首都医科大学宣武病院脳神経外科の医師らは2023年1月に、19歳で
アルツハイマー病の可能性があると診断された男性の症例を医学誌・Journal of Alzheimer's Diseaseで報告しました。
男性は、病院を訪れる2年前の17歳ごろから記憶力の低下に悩まされるようになり、学校の授業に集中できなくなりました。また、文章を読むことが困難になったほか、記憶力も低下し、前日の出来事や自分の持ち物の置き場所も思い出せなくなってしまいました。
症状は年々悪化し、頻繁に物をなくしたり、食事をしたかどうかも思い出せなくなったりしたため、男性は最終的に高校を中退せざるを得なったとのこと。
検査の結果、男性の全体的な記憶スコアは同年代より82%低く、短期記憶のスコアは87%低いことが確かめられました。そして、病院を訪れてから1年後には直前のことを思い出す「即時想起」、3分前のことを思い出す「短期遅延想起」、および30分前の「長期遅延想起」の能力を喪失してしまいました。
また、脳のスキャンでは記憶をつかさどる海馬の萎縮が見られたほか、脳脊髄液の検査でこの種の認知症患者に典型的なマーカーであるリン酸化タウタンパク質(p-tau181)の濃度上昇と、アミロイドβ42/40比の低下が検出されたことから、男性は
アルツハイマー病の可能性が高いと診断されました。
65歳未満の患者が
アルツハイマー病の症状を呈する若年性アルツハイマーは、全体の10%を占めますが、中でも30歳未満の極めて若い患者のほとんどは、
遺伝子変異によって発症する家族性
アルツハイマー病に分類されます。
アルツハイマー病と診断される年齢が若ければ若いほど
遺伝子の影響が強いのが一般的で、これまでの記録で最も年齢が低い
アルツハイマー病患者も
遺伝子変異を持った21歳の若者でした。
ところが、19歳で
アルツハイマー病と診断された今回の症例では、患者のゲノムを解析しても通常の家族性
アルツハイマー病の
遺伝子変異や、それ以外の疑わしい
遺伝子変異も見つかりませんでした。
これまでとは異なる背景を持つ
アルツハイマー病が発見されたことから、論文の著者らは「この研究は、
アルツハイマー病の典型的な発症年齢に関する世界的な常識を変え、
アルツハイマー病は高齢者の病気であるという従来の見方を覆すものです。若年性アルツハイマーの謎を探ることは、将来最も大きな科学的挑戦のひとつになるかもしれません」と述べました。