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この探偵会社代表は、夫からの依頼を受け、協力関係にある別の会社の探偵2名に調査を委託していた。
裁判官「(実際の調査にあたった探偵の)●●さん、●●さんには、DNA鑑定にまわすことは伝えましたか」 探偵会社代表「はい」 裁判官「どの段階で手袋をつけたのか」 探偵会社代表「(対象が)食べ終わってから、手袋をつけて採取したと聞いている。店員が片付ける前に、対象者が出ていってすぐに採取したと」
この他、男性がサラダを食べた際に使った紙コップも手に入れたが、鑑定機関ではそこからDNAを検出できなかったことも明かされた。
2人目の証人である鑑定会社の社員も同様に、証拠収集の方法や鑑定方法について細かく確認されていった。
夫が提出したDNA鑑定は裁判で有効な証拠となり得るのだろうか。証拠収集の方法として違法性がないのかどうか、この点、弁護士によっても見解は異なるようだ。
ある弁護士は「違法性を問われる可能性はあるが、相手が事実関係を否定する事案で、ほかに有力な証拠がないのであれば提出するだろう。不貞裁判では相手のLINEや通話、動画などが証拠として提出されるのが普通で、中にはギリギリのものもあるが、全てのケースで違法に集めたと判断されるわけではない」という。
違法収集証拠として収集手段の適法性が厳格に問われる刑事事件とは異なり、一般に民事裁判においては、刑事事件ほどの厳格さはないとされるからだ。
しかし、民事訴訟において証拠能力が否定された裁判例もある。「証拠の違法性が問題になるのは不貞裁判が多い」と弁護士が指摘するように、以下はどちらも夫が妻の不貞相手に損害賠償を請求した裁判だ。
・面会交流中、子どもが持っていた妻の携帯電話から妻と不貞相手のメールを夫のパソコンにコピーした事例(東京地方裁判所平成21年12月16日)
・夫が弁護士との打ち合わせで作成した大学ノートを妻が夫の了解を得ずに持ち出していた事例(東京地方裁判所平成10年5月29日)
いずれも、不法行為の立証のために刑事上の違法行為を許容するかどうかが争点となり、裁判所は違法に入手したものはいわゆる「違法収集証拠」であり、証拠能力を否定するとの判断を示した。
では、熊田さんの裁判での割り箸の取得はどう考えられるのか。
別の弁護士は、熊田さんのケースで探偵がどのように動いたのか定かでないことを断った上で「ラーメン店で使用した割り箸は、店に占有権があるとして(廃棄された後のゴミ箱から漁って獲得した場合は別段)、それを領得した探偵の行為は窃盗にあたり得る」とみる。
それを踏まえると「不貞行為は民事上の不法行為であって、その立証のため、刑事上の違法行為を許容するとするのは、違和感がある」ともらす。
さらに、この弁護士が注目するのがDNA鑑定だ。「DNAは極めて微細な粒子で判定をするものなので、玩具と割り箸が一切混在されずに保管保存され、鑑定に出されていたことが保障されて初めて『一致する』といえるはずだ。原告側の保存方法に問題はなかったのか」と疑問を呈す。
今回の裁判でも、被告側は鑑定機関に送られるまでの間に、店の店員、探偵、夫らが介在したことから「ヒトによる汚染」の可能性もあるとして、採取、保管状況は不適格であり、鑑定結果に異議を唱えてきた。
不貞はあったのか、なかったのか。熊田さん、A氏ともに否定している以上、鍵を握るのはDNA鑑定結果。鑑定において有力な証拠となったラーメン店で使用された割り箸をめぐり、原告、被告双方の攻防戦はまだ続くことになりそうだ。