【画像】4億円で落札された非常に希少なシボレーコルベットの内外装、エンジン(写真28点)
最近のシボレーにラインナップされている「ZL1」はシボレー市販モデル”最強モデル”という意味合いが込められているが、かつてのZL1はレースマシンのエンジンをデチューンしたものを搭載していた。そもそもの歴史を紐解いてみると、今回のオークションに出品されたコルベットの先代モデル(C2)末期に初めてZL1が投入された。レース参戦のためのホモロゲーション取得用に「L88型」と呼ばれる、レースマシン用エンジンをデチューンしたものが搭載された。なお、約20台が生産された、と言われている。
C3で投入されたZL1はもっとレアで、たったの2台しかない。オークションの解説ページで「RPO」と記されているのは、レギュラー・プロダクション・オプションの頭文字を取ったもので、市販車のオプションとして設定されていたことを意味する。だが、シボレーとしてはあくまでもホモロゲーション取得のために設定していたオプションで、率直に言えば”頼んで欲しくない”、…もっと言えば、”フツーは買えない”オプションであった。
エンジンは排気量427立方キュービックインチ(7l)L88型を軽量化して進化させたものを搭載していた。最高出力は560psで当時のシボレー最強エンジンだった。
早い話、公道走行できる、カンナム用エンジン搭載車両である。
エンジンはヘッドのみならず、ブロックもアルミを採用。強化コンロッド、専用設計されたクランクシャフトやピストン、大型排気バルブ、ハイリフトカムシャフト、4本のヘッドボルトを追加した「オープンチャンバー」が装着される”はず”だった。当該車両、オープンチャンバーヘッドが完成する前に生産されており、クローズドチャンバーのアルミヘッドを装着している。
新車で手にすることができたのは、ジョン・W・マハー氏。前述のC2に設定されたZL1(コンバーチブル)を所有していた、ドラッグレーサーである。当時、GMのレース活動の”非公式”パートナーであったガルフ・リサーチ社の上級副社長で、SCCAのナショナルチャンピオンに2度輝いたグラディ・デイビス氏の”協力”のもと、マハー氏の注文が受け付けられたそうだ。
ZL1のオプション価格は新車時価格同等の3000ドルだが・・・、ZL1をオーダーするには1032ドルの「L88」というオプションを選択する必要があった。結果、4718ドルとベース価格の2倍以上となった。なお、LS88の中身はというと、パワーアシスト付きヘビーデューティブレーキ、ヘビーデューティサスペンションパッケージ、ポジトラクション・リアアクスル、トランジスター付きイグニッションなどを装備。そして「空気の流れを妨げる」という理由でラジオ、ヒーター、エアコン、パワーウインドウ、パワーステアリング、ファンシュラウドさえもが省かれていた。
マハー氏が選択したZL1で面白いのは、ドラッグレースでの使用を念頭にしていたのでトランスミッションにはATを組み合わせていたことだ。マハー氏は愛車を”オートマチック・ウィナー(勝者)”と呼んでいたそうだ。なお、マハー氏はレース中にオーバーヒートを経験し、シボレーはLS88のオプションで省いたはずのファンシュラウドの装着をすることになった。
レースで大きな事故は経験していないが、当該車両、エンジンブローを経験している。工場出荷時の”オリジナル”ではないが、初期ロットのZL1ユニットに載せ替えられていることが記録されている。新車時の仕様書のみならず、シボレーの社内における決裁文書などすべてが残っている。それほど、特別な車であるのだ。