漫画『ミステリと言う勿れ』田村由美×永田裕紀子(中編)/脈々と受け継がれるバトン。ベテラン作家が生み出す利益で新人作家が育つ

近年、右肩上がりの好調が続く漫画業界。漫画の制作現場にも注目が集まり、漫画家だけでなく編集者への関心も高まってきた。メディアでも編集者に関する記事を目にする機会が増え、ライブドアニュースでもこうした記事を掲載しては、大きな反響を集めている。

では、編集者は、何を考えて仕事をしているのか?
漫画家は、編集者に何を求めているのか?

「担当とわたし」特集は、さまざまな漫画家と担当編集者の対談によって、お互いの考え方や関係性を掘り下げるインタビュー企画。そこで見えてきたのは、面白い漫画の作り方は漫画家と編集者の関係性の数だけ存在し、正解も不正解もないということだ。

第5回は、「月刊flowers」で連載中の『ミステリと言う勿れ』から、漫画家・田村由美と編集者・永田裕紀子が登場。インタビュー中編となる今回は、編集者の仕事についてフォーカスを当てる。

現在、同作は累計発行部数900万部を突破し(2021年7月時点)、2022年1月に主演・菅田将暉で月9ドラマ化されることも発表された。

掲載誌の「月刊flowers」は、田村を始めベテラン作家と若手作家が一堂に会する、多様性に満ちた雑誌だ。永田は「この雑誌は本気で面白い」と熱く語るが、それは「売れてほしい」という思いとは少し違うという。

編集者にとって「作品が売れる」とは、どんな意味を持つのだろうか。

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取材・文/加山竜司

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田村由美(たむら・ゆみ)
9月5日生まれ、和歌山県出身。O型。1983年に『オレたちの絶対時間』でデビュー。主な作品に『巴がゆく!』、『BASARA』、『7SEEDS』など。『BASARA』で第38回、『7SEEDS』で第52回小学館漫画賞 少女向け部門を受賞。現在、「月刊flowers」で『ミステリと言う勿れ』、「増刊flowers」で『猫mix幻奇譚とらじ』を連載中。
担当編集者・永田裕紀子(ながた・ゆきこ)
メディアワークス、スクウェア・エニックスなどを経て、2007年に小学館に入社。「週刊ヤングサンデー」、「Sho-Comi」に配属後、「月刊flowers」編集部へ。現在の担当作品は『マロニエ王国の七人の騎士』(岩本ナオ)、『オープンクロゼット』(谷和野)など。

    夢をあきらめきれず医者から転職。異色の経歴を持つ編集者

    今回は、編集者が何を考えながら仕事をしているのかを中心にお聞きしたいと思います。まずは永田さんの経歴をお教えていただけますか?
    永田 2007年に中途採用で小学館に入社して、最初に半年だけ「週刊ヤングサンデー」に配属されました。そのあと「Sho-Comi」に4年間在籍し、「月刊flowers」に異動しました。「月刊flowers」は今年で9年目になります。
    田村 永田さんは元お医者さんなんですよ。
    えっ。
    永田 今のお仕事には何の役にも立っていませんが……(苦笑)。
    くわしくお聞きしてもいいですか?
    永田 父が医師で、その影響もあって医学部に進学したんですが、少女漫画の編集者になりたい気持ちが抑えきれなくて……。大学5年生のときに、小学館・集英社・講談社・白泉社の入社試験を受けて、見事に全部落ちました(笑)。

    医師免許を取得した後、上京して新卒でアニメ関係の会社に就職したんですが、やっぱり漫画編集がしたくて転職して、「月刊電撃コミック GAO!」(メディアワークス)、「月刊少年ガンガン」(スクウェア・エニックス)で少年漫画の編集を3年やりました。その後は、都内の総合病院に勤務しまして……。
    これはまた、異色の経歴ですね。
    田村 不思議でしょう?(笑)
    永田 医者の仕事にもやりがいを感じていたんですが、一度も少女漫画を担当せずに漫画編集の仕事をあきらめるのは……と思って、病院で働きながら、これが最後だとダメ元で小学館の中途採用試験を受けました。拾ってもらえたのは、きっと経歴を珍しがってくれたんじゃないかと(笑)。
    どうしても少女漫画がやりたかった、と。
    永田 そうです。
    志望していた雑誌はありましたか?
    永田 新卒で小学館を受けたときから「月刊flowers」志望でした。これは田村先生がとなりにいらっしゃるから言うわけではなくて、私が少女漫画の編集者を目指したきっかけが『BASARA』を読んで、「人がここで生きている」と感じたからなんです。

    それまでも漫画やアニメをフィクションとして楽しんでいたんですが、高校時代に『BASARA』に出会って、「これはペンで描かれた作り事ではなくて、血肉の通った人間がこの場所で本当に生きているんだ」と衝撃を受けました。本当に人生観が変わるような出来事で、漫画の世界で仕事をしたいと思うようになりました。
    ▲『BASARA』は1990年〜1998年に「別冊少女コミック」で連載。荒廃した未来の日本を舞台に、革命の指導者となった少女・更紗の壮絶なる愛と戦いの日々を描いたSF大河ロマン。累計発行部数1600万部超の大ヒットを記録し、アニメ化や舞台化も実現した。
    漫画家ではなく、編集者になろうと思ったのは?
    永田 自分で絵を描いたり、お話を考えたりしたい衝動はまったくなかったんです。ただ、子供の頃に読んだコミックスのあとがきで、漫画家さんが「担当さんが〜」みたいな楽屋話を描いていらっしゃるんですよね。
    ファンにはうれしいページですよね。
    永田 そこで漫画編集者という仕事があることを知って、なりたいと思うようになりました。
    田村 学生の頃、私のサイン会に来ようとしてくださったそうなんですよ。
    永田 ありました(笑)。応募してサイン会に当選したんですが、地方の受験生なので結局行けなくなってしょんぼりしてたら、当時の担当編集さんが田村先生のサイン入り色紙を贈ってくださって。その方が、小学館に入社した後に上司になったので驚きました。
    そのうえ、田村先生を担当すると決まったら感無量ですね。
    永田 本当に、人生何が起こるかわからないな……と。

    取材に同行してわかった、作家・田村由美のすごさ

    田村先生から見て、永田さんはどういう編集者ですか?
    田村 最初にお会いしたのは、たぶん小学館のパーティーのときで、ご挨拶をしたんだと思います。そのときは「なんてかわいらしい人なんだろう」と。南野陽子さんにそっくりで。
    永田 いや先生、それはホクロの位置が同じというだけですから……。
    田村 いや、すごい似てるって(笑)。編集さんとしては、とんでもなくコミュニケーション能力に長けた方だと思います。明るくパワフルでやる気がみなぎってて。それに、フットワークの軽さもすごいと思う。
    一緒に取材にも行かれるんですか?
    田村 はい。でも私、取材ってずっと自分でやるものだと思っていたんですよ。編集さんに頼むものではない、と。
    そう思うようになった理由は?
    田村 なんでだろう? やっぱり初期の頃から担当さんにお願いできる雰囲気ではなかったというか……。サイン会のついでなどで足を延ばしてもらったことはありましたけど、永田さんみたいに「じゃあ行きましょう」って言ってくれる人はなかなかいなかったですね。

    1回、バレーボールの取材で高校の強豪校に連れて行っていただきましたけど、それだけだったかな。写真が必要だから撮りに行きたいと言ってみても「ネットにあるんじゃないかなあ」と言われたり。取材以外でも、この文を英語に訳したい、このキャラに方言をしゃべらせたいから訳してもらえないかとお願いしてみても、「できる人はいないので自分で探してください」みたいな。なので、そういうことは編集さんに頼むものではないんだと思ってました。
    では、取材の交渉からすべてご自分で?
    田村 まぁ、それほどがっつりと取材しなきゃいけないようなものを描いてないんですけど、自分でちまちまやってきました。

    でも、永田さんはちゃんと私の話を聞いてくださって、「じゃあ取材に行きましょう」と言ってくれます。「ちょっとこういう話が聞きたくて」と相談すれば、すぐセッティングしてくださって。遠かろうが旅にも同行してくださる。「あ、こういうことは担当さんに頼めばいいのか」って今頃知りました。すごく感謝してます。
    永田 いえいえ、作家さんに漫画に集中してもらうのが私たちの仕事ですから。
    田村 『7SEEDS』のときは(新潟県の)佐渡島まで一緒に取材に行きましたし、『ミステリと言う勿れ』でも四国に行きましたよね。
    地方というと、『episode2.5』で描かれた漂流郵便局のエピソードは印象的でした。
    ▲第6巻『episode2.5-2 開かぬ箱』より。漂流郵便局は香川県の粟島に実在する、届け先のない手紙が集まる施設だ。
    田村 漂流郵便局はちょっと遠い(香川県三豊市詫間町の粟島)んですよ。だからここに付き合ってくれとは言いにくいなあ、ひとりで行くかなあ……と思ってたんですが。

    それでも永田さんに「こういう場所があって、話の中に出したいんですが…」と伝えたら、「取材に行きますか? 私も行っていいですか? ぜひ行きましょう!」って言ってくださって、さっと手配をしてくださいました。いやもう、うれしかったです。
    永田 たしかに東京からは距離がありますけど、局長さんがとてもすてきな方で。私たちをトラックに乗せて、島中を案内してくださいました。漂流郵便局という不思議な時間が流れる場所を体感できたので、やはり行ってよかったなと。

    そして漂流郵便局にしても、『7SEEDS』でダムへ取材に行ったときにしても、田村先生と一緒に行動していたので、当然のことながら同じものを見て、同じ方から同じ話を聞いているわけです。だけど田村先生が受け止めている情報量が、当たり前ですが一般人の私とは全然違うんですよね。

    取材内容が作品に反映されたのを見ると、「先生はこう感じていたのか」「こんなところを見ていたのか」と、本当に驚かされます。「あの体験がこんなふうに漫画に活かされるのか…」と改めて感動します。

    最初の1年間は試行錯誤。漫画家との接し方に正解はない

    「月刊flowers」編集部には、「主人公は○歳から○歳まで」など、作品を作るうえで決まりごとはあるのでしょうか?
    田村 マニュアルがあったりするんですか?
    永田 決まったマニュアルみたいなものはありませんよ。ただ、「Sho-Comi」にいたときには、若手編集者の勉強会はありました。あと、新卒で入社すると先輩編集者による指導期間はあります。

    実際は作家さんのタイプは様々なので、そのノウハウが通用しないことも多いんですが、最初の“型”として、受け継がれてきた編集の基本形を知ることは必要かなと。
    作家さんとの接し方については、どうですか?
    永田 お互いの相性もあるので、実践で試行錯誤していくしかないですね。漫画家さんの前では、編集者である前に”人間力”を試される気がして今でも緊張します。漫画家さんにもいろいろなタイプの方がいらっしゃって、センシティブな性格ですごく繊細な物語を描ける方もいますし、若いときから「表紙と巻頭カラーを描きたいです! 雑誌のトップを取りたい!」と精力的に描かれる方もいます。
    そういう作家ごとの性格は、どうやって見極めるんですか?
    永田 担当して最初の1年間くらいは手探りです。その人に響くやり方を探す作業というか……。編集者に言ってもらいたいこと、されたくないことは、人それぞれですから。

    その漫画家さんの性格や創作スタイルがわかってくると、こちらからも何かあったときにアドバイスをしたり、逆に聞くことに徹したりできます。そうやって歯車がうまく回ってきた頃に異動や担当替えがあると、「ああ……」と思ったりもしますが、そこは仕方ないですね。
    担当替えは、編集者から希望を出すこともあるのでしょうか?
    永田 毎年、編集部内でヒアリングは行われます。自分の担当している作家さんであっても、ほかに合っている編集者がいると思ったら正直に伝えます。「私はこの新人さんの作品がすごく好きなんですけど、理論派の○○さんのほうが伸ばせると思います」とか。それらをまとめて最終的に判断するのは編集長になります。
    「月刊flowers」の連載陣は、錚々たる顔ぶれですよね。
    ▲「月刊flowers」は2002年に創刊。萩尾望都や吉田秋生、赤石路代、波津彬子、さいとうちほなど、少女漫画の歴史を築いた作家たちが名を連ねる。
    田村 自分が子どもの頃から読んで憧れてきた大先輩の方々と一緒に載っていることが信じられなかったりします。
    永田 私が配属される前に「月刊flowers」編集部に対して勝手に抱いていた偏見なんですけど、大御所の先生とのお仕事は、完成原稿をハハーッてかしこまりながら受け取るイメージだったんですよ(笑)。
    わかります(笑)。
    永田 でも実際は、どれだけ大ベテランの先生であっても、こちらの経験値に関係なく、私たち編集者を対等な仕事相手として見て打ち合わせをしてくれます。なので、こちらも作品を面白くするために遠慮はしないようにしています。言いにくいことを言わずに作品がつまらなくなって人気が落ちていくのが一番だめなパターンだと思うので。
    「月刊flowers」作家陣の世代も幅広いですよね。
    永田 今、連載されている方でいちばん若手なのが絹田村子先生(『数字であそぼ。』)や谷和野先生(『オープンクロゼット』)なんですが、『ポーの一族』を描かれている萩尾望都先生とはデビューした時期が何十年も違うんですよ。それだけ離れている方たちが同じ土俵で執筆されているので、ものすごい雑誌だと思ってます。
    田村  「月刊flowers」がすごいのは、ベテランの大先輩方がすばらしいうえに、力のある若手がどんどん出てくることだと思います。その両方がそろうのは、雑誌にとって本来難しいことなのにな、とはたから見て思ってます。
    永田 新人作家さんが編集部に来たときには、ベテラン作家さんの生原稿を見てもらったりします。もちろん、そのベテラン作家さんに許可をいただいてからですが。

    生原稿を見た新人作家さんは「私は今まで、なんて雑な原稿を描いていたんだろう……」と、ため息まじりで感想を漏らしたりしてます(笑)。でも皆さん目がいいので、美しい原稿を見ると、めきめき上達されていきますね。

    『ミステリと言う勿れ』を少女漫画誌に載せる意味

    『ミステリと言う勿れ』のように主人公が男子大学生というのは、少女漫画誌の作品の中でも珍しいのでは?
    田村 でも、昔は主人公が男子の少女漫画は多かったんですよ。萩尾先生を筆頭に小学館でも白泉社でも。私が子どもの頃は、少女漫画はもっと自由に見えてたんですけど。

    でも最近、萩尾先生と竹宮(惠子)先生の著作を読ませていただいて、それは戦って勝ち取ってこられてたものだということを知りました。じつは少女漫画界を代表される先生方の代表作の多くは、男子が主人公ですよね。
    たしかにそうですね。一方で今、多くの人が「少女漫画」と聞いたときに「女子中高生が主人公で、恋愛がテーマ」といったタイプの作品をイメージするのではないでしょうか。
    田村 私が中学生ぐらいの頃にそういった漫画が流行りだして、一気に主流になったように思います。それまでも学園ものはあったんですが、もっと華やかでぶっ飛んだものが多かったです。それが、地に足がついたというか。「別冊マーガレット(以下、別マ)」(集英社)がものすごい勢いで伸びていきましたね。
    「別マ」は一時期、公称180万部といわれていましたね。
    田村 当時、「別冊少女コミック」の編集さんも「目指せ『別マ』!」みたいなことを言っておられました。でも「『別冊少女コミック』はそうじゃない。違う。絶対に違う」って誰よりも「別冊少女コミック」を愛してると思ってた私はぶつぶつ言ってました。
    なるほど。しかし、「月刊flowers」にはそういったルールはないと。
    永田 そうですね。主人公の性別や年齢の縛りはないですし、ファンタジー、ミステリ、ラブストーリーなどジャンルも自由です。そういう意味でのルール(規制)はないです。
    田村 なので、『ミステリと言う勿れ』は、初めて主人公の性別を気にせずに描けた気がします。『7SEEDS』は「別冊少女コミック」で始まった作品なので、少女が主人公なのは決まってました。
    ▲『7SEEDS』は2001年〜2017年に「別冊少女コミック」(のちに「月刊flowers」に移籍)で連載。隕石落下後の荒廃した世界に放り出された若者たちの、生き様と人間ドラマを描いた。2019年にはNetflixでアニメ化された。
    永田 「月刊flowers」はなんでも描いていただける雑誌なんですが、唯一譲れないところとしては「女性が読んで楽しめるものを提供する」という一点です。
    一方で、『ミステリと言う勿れ』は多くの男性読者からも支持されていますね。
    永田 すごくありがたいことです。であればこそ、この作品が少女漫画誌の「月刊flowers」に掲載されているのは、とても意味があることだと思っています。

    作家と編集者にとって「売れる」ということ

    『ミステリと言う勿れ』は今、とても勢いがありますよね。
    永田 今までの読者さんとは違った層にも読まれていて、電子版もとても売れています。電子版の無料試し読みを読んで紙の本を一気買いしたという方もかなり多いようです。販売部からは「近年まれに見る速さで700万部(電子版含む)突破しました!」と聞きました(現在、900万部突破)。
    まだ発行巻数も少ないのにすごいですね!
    永田 正確な数字は把握していませんが、まだ映像化されていない中でこれだけ売れるのは弊社でも異例じゃないでしょうか(※取材が行われたのはドラマ化の発表前)。
    田村先生のように過去にヒット作があると、新連載を始めるときには「売れる」ことに対して、どういうスタンスなのでしょうか。たとえば「絶対売れてやるぞ!」みたいな意識は、どの程度あるのでしょう?
    田村 それはもちろん売れたらうれしいです(笑)。だからといって「売れるためにこうしよう」という作品への入り方はしてないです。「これが売れてる」「こういうのが流行ってる」みたいなことは、まったく取り入れないです。いや、しようとしてもできないと思う。デビューのときから「古い」って言われてたくらいなので、最先端を目指すとか時流に乗るとかそういうのとは無縁でやってきました。
    「売れればなんでもいい」ではまったくないと。
    田村 自分がワクワクするもの、自分が見てみたいものを形にしてるところがあって、それが楽しくできたら読者の皆さんにも楽しんでいただけるんじゃないかとは思ってます。経験上、自分が楽しくないときは結果もついてこないんですよ。自分が楽しくてもあんまり結果にならないこともありますけど……。そこが完全にずれてしまうようなら終わりかなと思います。

    でも、『ミステリと言う勿れ』に関しては、ネット時代ならではというか、皆さんがTwitterなどで広げてくださったり、広告から試し読みをしてくださったり、アプリで数話が無料で読めたり、そしてポチッとしてすぐ買っていただけたり……。昔とは全く違うなと思ってます。『BASARA』の頃は、「学校でコミックスが回ってます」ってよくお手紙をいただきました。そういうことはもうないのかな? なんだか不思議な感じです。
    編集者の立場からすると、連載前に「これは売れるぞ」とか「売れないかもしれない」みたいな嗅覚は働くのでしょうか?
    永田 それがわかるといいんですが…(笑)。どの作品も「これは面白いぞ」と思って担当していますし、毎月自信作をお届けしています。今、「月刊flowers」は本気で面白いですよ。

    だけど、「これは売れるぞ」とか「これを仕掛けるぞ」みたいな意識が最優先ではないんですよね。もちろん売上は、漫画家さんにとって生活がかかっていることなので、その方の人気を取るためにはどういう切り口がいいか考えるし、できあがったものはしっかり宣伝して売っていきたいと思ってます。ただ、それと作品作りそのものは別の話じゃないかと。
    単行本が売れるのと雑誌が売れるのでは、意識が違いますか?
    永田 正直なことを言えば、売れる作品が載っていたほうが、雑誌に余力ができます。
    余力とは?
    永田 新人さんの実験的な作品を載せたりできますね。たとえば、今活躍されているベテラン作家さんも、新人の頃から売れていたわけではありません。なぜそういう時期に連載できたり単行本を出せたかというと、そのさらに先輩の作家さんたちが生み出してくださった利益のおかげなんです。

    新人さんが活躍して売れるようになったら、今度はその次の世代が単行本を出せるようになります。普段はあまり意識することがないんですけど、同じ雑誌の中で脈々とバトンが受け継がれていて、みんな先輩方のお世話になってきてるんだと思います。
    田村 「雑誌の調子がいいときに若手を育てておかなかったから、気がついたら誰もいない!」って編集さんが叫ぶのを「別冊少女コミック」時代に2度見ました。「それ前も言ってたやつじゃん……いっぱいつぶしてきたからじゃん……デビュー作が1番輝いてた人が何人もいたよね…」って私は少々冷ややかな目を向けてました。だからしみじみ思いますけど、雑誌にとってそれはやはり難しくて大事なことなんですね。
    永田 ひとつの作品が爆発的なブームになると雑誌には勢いが生まれますが、それ頼みになる危険性もあります。やっぱり雑誌の“雑”の部分というか、多様性は持っておきたいですね。

    “flowers”という花畑に咲く花を大切に育てたい

    お話を聞いていると、永田さんは漫画家さんに対して、「売れる/売れない」という評価軸とは別のところを見ているように思います。それはどこでしょうか?
    永田 その作家さんが、ご自分の作家性を存分に出せているかどうか、です。
    自分がやりたいこと(好き/嫌い)と、適していること(向き/不向き)は、必ずしも一致しない場合もありますよね。
    永田 それはあります。作家さんが「このテーマで描いてみたいです!」と熱意を持って描かれても、実際にネームに入ると詰まってしまったり、楽しそうじゃなかったりしたときは、こちらから全然違うお題を出してみることもあります。それが意外とはまることもあれば、やっぱり初心に戻ってみよう、と試行錯誤したり。

    ただ、作家さんが本質的に持っている根っこの部分はそうそう変わらないと思うので、その本質が食材だとしたら、中華なのか和食なのかイタリアンなのか、どういう調理法で読者さんに提供したらおいしく食べてもらえるのかは考えますね。
    なるほど。
    永田 「この作家さんにこのネタを描いてもらったら売れる」と見抜ける力があればいいんですが、「月刊flowers」はとても作家性の強い方が集まっているので、まずはその方の作家性が花開く方向を探っていって、そのうえで人気と売上がついてくるようにしたいなと。

    私個人の考えですが、「月刊flowers」の“flowers”は、“花畑”だと思っているんです。パンジーがあればタンポポもあって、バラも咲いている。

    自分らしい花を咲かせたときに、それを好きだと言ってくれる読者はきっといます。バラがすごく売れるときがあるかもしれないし、タンポポの綿毛を集めたいと言ってくれる方もいるかもしれない。編集者としては、作家さんには皆さんそれぞれの自分の花を咲かせてほしい。そのためのサポート役や壁打ちとして編集者がいるので、いろいろなキャッチボールができればいいなと思います。
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    作品紹介

    漫画『ミステリと言う勿れ』
    既刊9巻
    価格472円(1〜3巻)、ほか499円(すべて税込)


    ©田村由美/小学館

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    サイン入り色紙プレゼント

    今回インタビューをさせていただいた、田村由美先生のサイン入り色紙を抽選で1名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

    応募方法
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    受付期間
    2021年7月21日(水)18:00〜7月27日(火)18:00
    当選者確定フロー
    • 当選者発表日/7月28日(水)
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