漫画『サマータイムレンダ』田中靖規×担当編集・片山(前編)/ジャンプ編集者は、漫画家から学ぶ。情報や知識をつなぐ“ハブ”的存在

近年、右肩上がりの好調が続く漫画業界。漫画の制作現場にも注目が集まり、漫画家だけでなく編集者への関心も高まってきた。メディアでも編集者に関する記事を目にする機会が増え、ライブドアニュースでもこうした記事を掲載しては、大きな反響を集めている。

では、編集者は、何を考えて仕事をしているのか?
漫画家は、編集者に何を求めているのか?

「担当とわたし」特集は、さまざまな漫画家と担当編集者の対談によって、お互いの考え方や関係性を掘り下げるインタビュー企画。そこで見えてきたのは、面白い漫画の作り方は漫画家と編集者の関係性の数だけ存在し、正解も不正解もないということだ。

第4回は、「少年ジャンプ+」で連載された『サマータイムレンダ』より、漫画家・田中靖規と担当編集の片山が登場。田中は「週刊少年ジャンプ(以下、ジャンプ)」での連載経験があり、片山は令和の大ヒット作、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』を担当した。

ふたりがタッグ結成後に生み出した本作は、今年2月に大団円を迎え、アニメ化が決定し、実写化企画も進行するほどのヒット作に。「週刊少年ジャンプ」での連載打ち切り後に迷走していたという田中の復活劇の裏には、片山とのどんなやりとりがあったのか、ふたりの出会いから本作完結までの約7年半をたどる。

前編では、本作の誕生秘話を中心に、ジャンプの連載会議や編集者の関係性についても聞いた。面白さを追求するために、彼らは日々、何を考えて漫画と向き合っているのだろうか。

インタビュー後編はこちら
取材・文/加山竜司

「#担当とわたし」特集一覧

田中靖規(たなか・やすき)
1982年11月17日生まれ。和歌山県出身。2003年に『獏』が「赤マルジャンプ」2003年WINTER号に掲載されデビュー。主な漫画作品に、『瞳のカトブレパス』、『鍵人 –カギジン-』、『ガイストクラッシャー』シリーズなど。2017年から連載した『サマータイムレンダ』はアニメ化・実写化が発表されている。
    担当編集者・片山(かたやま)
    2010年に集英社に入社し、「週刊少年ジャンプ」編集部に配属。2011年6月より「最強ジャンプ」編集部に異動し、2014年から再び「週刊少年ジャンプ」編集部に。立ち上げ作品に『ブラッククローバー』、『鬼滅の刃』、『呪術廻戦』、『あやかしトライアングル』など。

      作品の打ち切り、編集部の解散。そこからの出会いが転機に

      片山さんが、田中先生を担当するようになった経緯を教えてください。
      片山 僕がまだ「最強ジャンプ」編集部にいるときに、「最強ジャンプ無敵ツアー!!」(2013年)という、全国のイオンモールを回るイベントが開催されました。そのとき、サイン会に登場する田中先生と会場で一緒になったときがありまして…。
      田中 初めて声をかけていただいたのは福岡の会場でしたね。僕が「最強ジャンプ」でゲームのコミカライズ作品『ガイストクラッシャー』(監修・協力:カプコン)を描いていた頃です。たまたま移動で同じタクシーに乗り合わせたときに、片山さんから「担当させてください」と言われました。
      ▲「最強ジャンプ」で連載された『ガイストクラッシャー』。
      ©田中靖規 ©CAPCOM CO., LTD. 2013 ALL RIGHTS RESERVED.
      片山 ちょうど僕が「最強ジャンプ」から「週刊少年ジャンプ」に異動する時期だったんです。
      その異動は、片山さんが希望を出して実現したのでしょうか?
      片山 「最強ジャンプ」の刊行形態が変わったのがいちばんの理由です。それまでは月刊で発行していたんですが、隔月刊化することになりました。

      それにともない、独立した編集部を解散することになったんです。そのときに自分から希望を出し、結果として少年ジャンプ編集部に戻ることになりました。
      片山さんにとって転機だったわけですね。そこで田中先生にお声がけした理由は?
      片山 会社に入る前から、少年ジャンプで田中先生の『瞳のカトブレパス』や『鍵人 -カギジン-』を読んでいました。

      入社して僕の教習担当に就いたのが中野(博之、現「週刊少年ジャンプ」編集長)で、彼は田中先生の最初の担当編集だったんですよ。一緒に飲んだときに、「『鍵人 -カギジン-』はもっとヒット作品にできたはずなんだよなぁ……」ってよく愚痴をこぼしてましたね(笑)。そうした経緯もあって、いつか田中先生を担当したいと思っていたんです。
      ▲初連載の『瞳のカトブレパス』(2007年、全2巻)と、その後に連載された『鍵人 -カギジン-』(2009年、全2巻)。
      ©田中靖規/集英社
      田中 ありがたい話ですよね。
      片山 「最強ジャンプ無敵ツアー!!」の頃は、ジャンプ編集部内でまだ田中先生の担当は決まっていなかったので、「じゃあ僕が声をかけてもいいですよね?」って根回しをしました。
      田中 『鍵人 -カギジン-』が打ち切りになってからは、苦しい時期でした。プライベートでは子どもが3人生まれて、進展があったんですけどね(笑)。カプコンさんのコミカライズのおかげで、かろうじて「漫画家」としての体裁は保っていられましたけど……。でも、やっぱりオリジナルの作品を作りたいとは思っていました。
      『鍵人 -カギジン-』の連載終了は2009年でした。
      田中 連載終了後は、うーん……。迷走、していましたね。「次はどうしようかな?」と宙ぶらりんの状態でした。そんなときに片山さんから声をかけてもらったわけですから、うれしかったですよ。きのうのことのように覚えています。

      連載の準備期間は、作家の個性を見極める時期

      コンビを組んでからは、「週刊少年ジャンプ」での連載を目標に作品作りを始めたんですか?
      田中 そうです。やはりジャンプは花形なので、機会があれば連載したいという意欲はありました。
      片山 ただ、いろいろな作品を編集部の連載会議に提出したんですけど、なかなかうまくいきませんでした。
      田中 ファンタジーとかSFとか、プロゲーマーの話なんかも考えました。取材のために、一緒にプロゲーマーの大会を観に行ったりもしましたね。
      片山さんは準備期間中、漫画家のどういったところを見ているのですか?
      片山 「好きなモチーフ」と「描ける人間性」です。

      「モチーフ」は作品の題材ですね。作品の舞台、時代、主人公の職業などなど。「描ける人間性」は、その作家さんがどういった性格のキャラクターを描けるのか。明るいのか暗いのか。
      準備期間は、作家の個性を見極める時期なんですね。
      片山 今でこそ多少言語化できていますが、当時は「この人は何が描けるだろう?」とがむしゃらにやっていました。田中先生のいいところを引き出しきれていなかったな、と申し訳なく思っています。

      まさに『バクマン。』!? ジャンプ編集部の連載会議

      ジャンプ編集部の連載会議は、具体的にはどういったことをするのですか?
      片山 普通の会議ですよ(笑)。イメージ的には、まさに『バクマン。』(注1)に出てきたような感じです。あの会議は想像で描かれているので、脚色されてはいますが。

      班長が自分の班員の担当作品を「○○先生の、こういう作品です。連載を始めたいです」とプレゼンします。作家さんには、連載会議用に3話分のネーム(注2)を用意してもらいます。
      ※注1:「週刊少年ジャンプ」で連載された、漫画家として活動する少年たちを描いた作品。原作は大場つぐみ、作画は小畑健。ジャンプの連載システムを題材にするなど、リアル志向な作風が特徴。

      ※注2:コマ割りやキャラクターの配置、セリフといった、漫画の構成をまとめたもの。一般的に商業誌の場合、漫画家が描いたネームを編集者が確認し、OKが出たあとで原稿に取りかかる。
      それを班長以上の編集者で回し読みするんですね。
      片山 みんな漫画好きなので、読み終わったあとは自然と感想戦みたいになりますね。

      提出された作品についてすべて話し終わると、「じゃあ、どうしますか」と連載の可否を決めることになります。
      「今回は新連載を○本始めよう」みたいな取り決めはあるんですか?
      片山 具体的な取り決めはないです。極論ですが、提出されたネームがすべて面白くて、それが可能ならすべて始まると思います。

      これは僕の勝手なイメージですけど、ジャンプは血液の循環というか、作品の入れ替わりを尊重してきたように思います。だから僕としても、「自分の担当作品を絶対に連載させるんだ」という気概を持って、会議に臨んでいます。
      「直し」ではなく「ボツ」と言われると、以降その作品は二度と会議に上げてはいけないと聞きました。いわゆる「全ボツ」。
      片山 まったく同じような企画では上げられないということですが、シビアですよね。
      ネームが会議に通るかどうかは、どういったところで判断されるのですか?
      片山 ざっくり言えば「面白いかどうか」なんですけど、その「面白さ」は何か、ってことですよね。
      編集者によって各自の基準があると思うんですが、片山さんの場合は?
      片山 自分は「主観と客観の綱引き」の中にある基準が大切かと思います。自分が摂取してきた好みの創作物の連続性のうえに、今の自分の視点があるはずなので、自分が面白いと思うかどうかは絶対に大事です。
      それが「主観」の部分ですね。では「客観」とは?
      片山 雑誌が対象としている読者層が理解できる、楽しめる内容だろうか、という部分です。「ギリわからないけど、面白いからアリ」とか、「わからなさすぎるから直してもらおう」とか。
      なるほど、そのせめぎ合いが「綱引き」なんですね。
      片山 あとはキャラクターですね。『サマータイムレンダ』を例にすると、(メインキャラクターの)潮と慎平が自然な口調でしゃべっていて、嘘っぽくなく、魅力的な人物になっているかどうか。人間性に不自然さがなくて、「もっと見ていたいな」と感じられる内容であれば「いけるだろう」と手応えを感じます。

      ジャンプ作品は、キャラクターが動いた足跡が物語になる

      では、『サマータイムレンダ』を描こうと思った経緯を教えてください。
      田中 『サマータイムレンダ』は、もともとは読切の『ジャメヴ』(「赤マルジャンプ」2008年WINTER号掲載)という、ドッペルゲンガー(姿形がそっくりの人)を題材にした作品を下敷きにしています。

      読切掲載後、連載用に準備を進めていたんですけど、そのときはうまくいかなくて。それを復活させたいという思いがありました。
      ▲まだタイトルが『ジャメヴ』だった頃の慎平と潮の設定イラスト。慎平はやや癖っ毛で、潮は少し大人びた印象を受ける。
      最初は「週刊少年ジャンプ」の連載会議に出したんですか?
      片山 いえ、この作品は最初から「少年ジャンプ+」に回しました。
      その理由は?
      片山 少年ジャンプと「少年ジャンプ+」では媒体としてのカラーが違うので、そのほうが向いているんじゃないかと思ったからです。少年ジャンプより「少年ジャンプ+」の読者のほうが、じっくり腰を落ち着けて読んでくれるだろう、と。
      田中 僕もそう思いました。本誌で描くには、もっとキャラクターが必要ですよね。キャラクターが動いて、その足跡が物語になるのが「週刊少年ジャンプ」だと僕は思っています。
      片山 いい表現ですね! それ、すごくわかります。
      田中 この企画は、頭から結末までポンと思いついたんですよ。島という限定された場所を舞台に、限られた3日間を繰り返し、そのループを脱出したら終わり。
      同じ時間をループするわけですから、新キャラがどんどん出てくるというよりは、限られたキャラクターで物語が展開することになりますよね。
      田中 こういう作品の作り方は、「週刊少年ジャンプ」には向かないんじゃないでしょうか。
      ループのアイデアはどこから着想を得ましたか?
      田中 もともとは海外ゲームの記事からです。2016年の暮れに別の作品が連載会議でボツになって、次の企画を考えているときでした。

      実家の和歌山に帰省して「どうしようかなぁ」と悩んでいたんですけど、ふと読んだ記事の「タイムループ」という単語が目に飛び込んできて、「あれ?」と思って。それをドッペルゲンガーのアイデアと組み合わせてみたのが最初のきっかけです。
      片山さんはどのタイミングでこの作品のアイデアを聞きましたか?
      片山 打ち合わせのときに、男女ふたりが海にいる絵のラフを拝見して、「お、いいじゃないですか」と言ったのは覚えています。絵から話を想像できたので、面白そうだと思いました。
      1巻のカバーイラストに近い絵でしょうか?
      ▲第1巻のカバー。©田中靖規/集英社
      田中 そうですね。どういう話にするかよりも、最初にそのキービジュアルが浮かんできました。そのへんは直感ですね。あとは、その一枚絵からアイデアをふくらませていきました。

      サスペンスを描くには、時間と場所を限定したほうがいい。じゃあ島だな、と。それで、和歌山には存在しない「日都ヶ島」(モデルは和歌山市の離島・友ヶ島)を考え、和歌山弁も使ってみました。

      使えるものは全部使う、自分の持っているものをすべて作品に放り込んだ感じですね。今まででいちばん自由にできた気がします。こういうことを新人のときにできていればね(笑)。
      片山 僕は第1話で潮の遺影が出てきたときに「いける!」と思いました。ヒロインがいきなり亡くなっていて、葬式が行われる。葬式ってすごく印象的ですよね。
      読者は「え、死んでるの?」って思っちゃいます。
      片山 いわゆるフィクションの度合い、作品の「不思議レベル」が高くなると、読者はついてこられなくなってしまうけど、この作品にはちゃんと日常に紐づいて読みやすい仕掛けが散りばめられている。その象徴的な存在が、多くの人が現実で体感したことのある葬式、そして目にしたことのある「遺影」だと思っています。
      ▲第1巻より。潮は、海で溺れた子どもを助けようとして事故死したという話だったが……。

      第1話から展開が速すぎる…連載会議での指摘

      実際に、連載会議での評判はいかがでしたか?
      片山 じつは1回落ちてるんですよ。2017年5月に連載会議に回したけど落選してしまい。そこで田中先生に修正をお願いしたんです。
      田中 自分としても「面白いものができた」と手応えを感じていたんですけどね。
      どういう指摘があったんですか?
      片山 ざっくり言うと「急ぎすぎ」でした。「展開が速い」、「もっとゆっくりやっていいよ」と。自分の俯瞰が足りませんでした。
      田中 当時のネームは、現在の2巻分の内容が1巻に収まるくらいでした。
      それは詰め込みましたね。
      田中 序盤は地味な話なので、こちらとしては不安だったんですよね。とくに第1話なんて、何も起きませんから(笑)。読者に途中で読むのをやめられるのがいちばんイヤなので、ついつい要素を盛り込みたくなる。
      なるほど、それは週刊誌連載ならではの発想ですね。
      田中 今、第1話を読み返すと、かなりゆっくりやっているように感じます。
      そのあたりが「週刊少年ジャンプ」と「少年ジャンプ+」の違いなんですね。
      田中 僕は小さい頃から漫画は単行本派だったので、少年ジャンプを購読する習慣がなく、自分の中に「ジャンプらしい漫画のリズム」のイメージがありませんでした。

      それなのに、いわゆる「ジャンプらしい漫画」をやろうとして、以前は失敗した。「失敗」と言うと語弊があるかな? 自分の過去作品を否定するわけじゃないけど、今ならもっとうまくやれただろうな、という意味です。
      片山 「ジャンプらしい漫画」にも、その時々のトレンドはあるんですよね。多くの人が想像する王道はバトルファンタジーなのかもしれませんが。当時のトレンドに田中先生の持ち味がマッチしなかったというか、より持ち味を発揮できたのが「ジャンプ+」での『サマータイムレンダ』だったんだと思います。
      修正したネームは、連載会議ではいかがでしたか?
      片山 2回目の提出は2ヶ月後の7月で、このときはみんな絶賛でした。
      田中 そのあいだは、作っては壊し、作っては壊しの繰り返しでした。
      片山 でも、田中先生は「直しました」「新しいものを考えてきました」とすぐにレスポンスをくれるので、「タフでありがたい」と思っていましたよ。だからこちらとしても、「(会議に)どんどん回していきましょう」と前向きなメッセージを伝えられました。
      ▲2回目の連載会議に提出したネーム。実際の第1話と同じシーンから物語が始まっている。この時点で、タイトルを『ジャメヴ』から『サマータイムレンダ』へと変更した。

      編集者は作家から学び、その知識を共有して高め合う

      片山さんはネームを見るときに、どういうところをチェックするんですか?
      片山 キャラクターが生きているかどうか、ですね。『サマータイムレンダ』に関しては、慎平と潮の関係性をよく見ています。そこにリアルな感情があるかどうか。読み返したときに、澪を含めた感情のやりとりが面白いんですよ。あとは和歌山らしさ。方言が好きなので。
      田中 よく、「もっと訛(なま)れないか」と言われましたよ(笑)。
      片山 「あっぽけ」はもっと多くてもよかったかもしれないです。かわいいですし。
      ▲第2巻より。「あっぽけ」とは和歌山弁で「アホ」のこと。
      セリフについてアドバイスすることが多いのですか?
      田中 セリフの交通整理をしてくれますね。「ここは下のセリフだけで通じるかも」とか、「もっとアホっぽくてもいいかも」とか(笑)。
      片山 「こうしてください」ではなく「僕はこう思ったんですけど、どう思います?」と投げかける感じですね。

      絶対に変だと感じた場合は「これはやめたほうがいいです」とストップをかけるときもありますけど、田中先生には言ったことがないです。しっかりと打ち合わせをさせてもらっているので、そうならないんだと思います。
      田中 片山さんは論理的に説明してくれるし、的外れなことは言わないので、納得して受け入れやすいんです。
      片山 物語の中盤以降は「もっといけますよ」とけっこう言いました。
      「もっといける」とは?
      田中 ネームの時点では、その週の予定ページ数まで進めたいから、そんなに考えずに流れで書いちゃうセリフもあるんです。たとえば主人公が何かを見つけたときに「ま、まさか……」とつぶやくような、テンプレ的な受け答えですね。

      片山さんはそういうところに敏感に反応して「ここセリフ弱いですね」と指摘してくれるので、僕も「あ、やっぱりそうですよね」と変更します。そのキャラならではのセリフというのは、ちゃんと考えないと出てこないものですから。
      片山 全部のセリフがそうである必要はなくて、スッと流せるセリフがあってもいいとは思うんですよ。でも、キメとなるシーンはその人固有のセリフじゃないといけないと思っています。そこに人間性を感じるかどうか、ですね。
      そう思うようになった経緯は?
      片山 『斉木楠雄のΨ難』を担当したときに、そのようなことを麻生周一先生がよく言ってたんです。麻生先生には頭が上がらないです。
      『約束のネバーランド』担当編集の杉田卓さんにインタビューした際、ジャンプ編集部には、ベテラン作家が新人編集者を育て、その編集者が新人作家を育てるしくみがあるとお話されていました。まるで、老舗うなぎ屋の「秘伝のタレ」のようだ、と。
      片山 杉田はすぐ食べものでたとえたがるんですよ(笑)。

      先輩編集者から教えてもらったことで成立できた企画も、もちろんあります。ただ、その先輩編集者の知識は、ほかの作家さんとのやりとりの中で培われたものだったりするので、やはり根本は「作家さんから学ぶ」だと思いますね。

      結局、僕ら編集者は情報をつなぐハブであって、作家さんが執筆するうえで役立つ情報をみんなで共有して、高め合っているというイメージがあります。ひとりで完結するのでなく、共有することに意味がある。
      それは片山さん個人の意識として?
      片山 いや、編集部全体でそうなっていますよ。食事しながらでもみんな漫画の話をするし、「こういうふうにするといいよ」と情報交換できる土壌ができていて、そこで得た知識はもちろん担当している作家さんに還元します。

      ただ、新型コロナウイルスの影響で、今はそのコミュニケーションが少し緩やかになっているかな、とは思いますが。
      田中 編集者に引き出しが多いと、何かを説明されたときに「じゃあこういうのはどうですか?」と僕も返しやすいです。そこからビルドアップしていける。イチから作り上げていくので、いい材料をいっぱいいただけると助かりますね。

      編集者の喜びは「ヒット作を生み出すこと」に集約される

      『サマータイムレンダ』連載時の読者の反応はいかがでしたか?
      片山 第1話の数字がすごくよかったです。その後も読者が減ることがなくコミックスの重版がかかったので、安心しました。

      中盤以降に閲覧数が上がって読者が増えてきていたんですよ。連載当時は全話を無料公開していたメリットもあると思います。でも、けっこう難しい話なのはわかっていたので、よくぞ入ってきてくれた、という気持ちです。
      リアルな閲覧数が確認できるのも「少年ジャンプ+」ならではですよね。
      田中 毎週聞かされるんですよ(笑)。打ち合わせのときに「今週の数字なんですけど……」って切り出されると、胸のあたりがキュッとなります(笑)。
      片山 お金をかけて、人にお願いして収集しているデータなんだから、共有したほうが有益だろう、と思いまして…。聞きたくない方もいるかもしれませんが、血も涙もない感じで共有しています。
      このへんで人気がハネたな、みたいな手応えはありましたか?
      片山 「いいジャン!」(「少年ジャンプ+」アプリ内の評価機能)の数を見て、「この回は反応がいい」とわかることはあります。2巻の引きのあたりは読者の反応がすごくよくて、やっぱり内容的にカタルシスが得られるところは支持されるんだなと分析していました。

      1巻と2巻の引きはかなり気を使っていただいたので、そこで読者が安定した気がします。
      ▲第2巻の終盤。窮地に追い込まれた慎平は、自分を殺すように南雲に告げる。絶望的な状況を打破するために、初めて自分の意志でタイムループすることを決意するのだった。
      では物語の途中でテコ入れをしよう、みたいな話は?
      田中 ありませんでした。自分が思い描いていたとおりのラストを迎えることができました。
      2021年2月には完結と同時にアニメ化・実写化企画の進行が発表されるという、うれしいニュースがありましたが、片山さんにとって編集者としての喜びは何でしょうか?
      片山 ヒットですね。それしかないと思います。

      もちろん楽しい・うれしいと思う瞬間は、何種類・何段階もありますよ。いい新人の方を担当できたらうれしいし、なかなかうまくいっていなかった作家さんが素晴らしいネームを持ってきてくれたときにはシビれるほどうれしいです。

      ネームが連載会議を通ったときも、作品が掲載されて読者のよい反応があったときもうれしい。コミックスが売れて重版がかかったときもうれしいし、メディア化したときもうれしい。それがもし社会現象にまでなったらとてもうれしいです。
      片山さんが立ち上げた『鬼滅の刃』(作:吾峠呼世晴)は、まさに社会現象と呼ぶにふさわしい大ヒットでした。
      片山 楽しみがいっぱいあるのが、編集者のよさです。そういった何段階もある楽しさは、「ヒット」という言葉に集約されるんですね。

      作品がヒットすれば、編集者としてさまざまな喜びを味わえますし、もちろん、作家さんにも還元できます。システム的にうまくできていると思います。それは先人が作った優秀なシステムのおかげですね。
      『サマータイムレンダ』のアニメ放送も待ち遠しいです。
      田中 もうすでにキャラクターのラフ絵が上がってきて、今まさにアニメの関係者とやりとりをしている最中です。
      片山 いろいろな人の手を経てご自分の作品がメディア化していく醍醐味を、ぜひ田中先生にも味わっていただけたらと思っています。
      インタビュー後編はこちら

      作品紹介

      漫画『サマータイムレンダ』
      全13巻
      価格660円(税込) ※第13巻は693円(税込)


      ©田中靖規/集英社

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