漫画『【推しの子】』赤坂アカ×横槍メンゴ×担当編集・サカイ(前編)/描きたいのは「芸能界の闇」ではなく、しがらみや圧力の中でもがく人々

近年、右肩上がりの好調が続く漫画業界。漫画の制作現場にも注目が集まり、漫画家だけでなく編集者への関心も高まってきた。メディアでも編集者に関する記事を目にする機会が増え、ライブドアニュースでもこうした記事を掲載しては、大きな反響を集めている。

では、編集者は、何を考えて仕事をしているのか?
漫画家は、編集者に何を求めているのか?

「担当とわたし」特集は、さまざまな漫画家と担当編集者の対談によって、お互いの考え方や関係性を掘り下げるインタビュー企画。そこで見えてきたのは、面白い漫画の作り方は漫画家と編集者の関係性の数だけ存在し、正解も不正解もないということだ。

第2回は、「週刊ヤングジャンプ」で連載中の『【推しの子】』から、主に原作を担当する赤坂アカ、主に作画を担当する横槍メンゴ、担当編集のサカイが登場。それぞれ『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜(以下、『かぐや様』)』、『クズの本懐』などのヒット作を持つふたりが、夢のタッグを組んでいる。

開始直後から大きな反響を呼び、累計発行部数は連載1年で第1〜3巻累計100万部を突破。さらに「マンガ大賞2021」入賞と破竹の勢いを見せる同作は、芸能界の舞台裏をリアルに描き、ときにSNSの誹謗中傷などデリケートな問題にも切り込む。

読者を引き込むリアリティはどのように生まれるのか、赤坂が「裏方の人々」を描きたいと考えるのはなぜなのか、約1万字のロングインタビューで紐解いていく。

インタビュー後編はこちら
取材・文/岡本大介
※記事内では、単行本未掲載の回についても言及しております。

「#担当とわたし」特集一覧

赤坂アカ(あかさか・あか)
1988年8月29日生まれ。新潟県出身。O型。2011年に『さよならピアノソナタ』(原作:杉井光)のコミカライズ版で商業誌デビュー。主な漫画作品に、『ib インスタントバレット』、『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』など。『かぐや様』はTVアニメ化・実写映画化を果たし、アニメ第3期の制作、映画の続編公開(2021年8月20日予定)も発表されている。
横槍メンゴ(よこやり・めんご)
1988年2月27日生まれ。三重県出身。O型。2009年に「マガジン・ウォー」(サン出版)でデビュー。主な漫画作品に、『君は淫らな僕の女王』(原作:岡本倫)、『クズの本懐』、『レトルトパウチ!』など。『クズの本懐』はTVアニメ化、実写ドラマ化も果たした。
担当編集者・サカイ
1986年生まれ。2010年に集英社に入社し、「週刊ヤングジャンプ」編集部に配属。担当作品に『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』、『【推しの子】』、『群青戦記グンジョーセンキ』『真・群青戦記』など。

    主人公の初期設定はヤクザ。編集者のひと声で産婦人科医に

    赤坂先生は『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』を連載中ですが、さらにもう1本、『【推しの子】』を描きたいと思ったのはなぜですか?
    赤坂 きっかけはアシスタントさんたちとの会話です。創作論の雑談として「みんなが一度は思う、いちばんの願望って何?」と話しているときに、意外にも「推しのアイドルや声優の子どもとして生まれ変わりたい」というニーズがあることに気がついたんです。

    じゃあそこを軸に漫画を作ったら面白いかもしれないな、と思ったのがそもそもの始まりですね。それに、僕はもともと『かぐや様』のほかにもう1本同時連載をやりたかったので、ちょうどいいかなって。
    横槍 週刊連載中にもう1本なんて、すでにその気持ちが全然わからないんだけど(笑)。
    赤坂 あはは。でも思っちゃったから仕方がない。
    赤坂先生はもともとアイドルがお好きなんですか?
    赤坂 いえ、それまではほとんど興味はなかったです。ただ、『かぐや様』がアニメ化されたり映画化されたりしたことで、原作者として芸能界に触れていくうちに、すごく面白い世界だなと感じるようになって。「これは描けるかも」と思ったんですよ。
    主人公のひとり、アクアの前世は産婦人科医です。産婦人科医の主人公というのも、ちょっと珍しいですよね。
    赤坂 最初はヤクザを考えていたんですけど、サカイさんから、仮に映像化された場合、もしかすると展開しにくくなるかもしれないと指摘が入ったんです。それで医者という設定になりました。サカイさんは作品の展開のさせ方をすごく戦略的に考えてくださるので、とても助かっています。
    サカイ いやいや、それは編集者と称している人なら誰でも言うと思います。こちらの懸念を考慮していただいたうえで、どんな人が転生したら面白いかという“大喜利”に対し、いちばんの答えを出していただける赤坂先生のスゴさでしかありません。
    ほかにも、企画段階から連載にあたって変更した部分などはありますか?
    横槍 私とアカ先生はアクアとルビーの子ども時代編をじっくりと描きたいと思っていたんですけど、「週刊ヤングジャンプ」は青年誌で読者の年齢層も高めだから、子どもが主人公のストーリーが長く続くのはちょっとしんどいということで、サカイさんから「3話くらいにまとめてくれないか」と言われた記憶があります(笑)。
    サカイ そうですね。それもあって、子ども時代編では、各話の冒頭に未来視点のインタビューを差し込むフォーマットを提案していただきました。これはかなり大きかったんじゃないかと思います。
    横槍 私も内心では「子どもの絵でどこまで引っ張れるかな?」と不安があったので、あの仕掛けはよかったですよね。
    赤坂 たぶんサカイさんから指摘されなかったら、今でも子ども時代編が続いているんじゃないですかね(笑)。
    ▲第1巻第二話『兄と妹』より。子ども時代編に差し込まれる1ページ分のインタビューには意味深な描写も多く、今後の展開を読み解くヒントとなりそうだ。

    大きな展開は決まっているが、キャラの関係性はアドリブ

    第1巻のクライマックスではアイに衝撃の展開が訪れますが、これは当初から考えていたんですか?
    赤坂 じつは、これは連載していく中で生まれたアイデアなんです。当初はかなり長い期間にわたって、アイと子どもたちが芸能界で活躍していく予定だったんですが、実際に描き始めてみたら、アイって漫画のキャラクターとしては強すぎるんですよね。
    ▲第1巻第二話『兄と妹』より。「アイドルは嘘という魔法で輝く生き物」「嘘はとびきりの愛」を体現するアイの“完璧な”笑顔とパフォーマンスは、見る者を強く魅了する。
    アイがチートすぎて、子どもたちが霞んでしまう?
    赤坂 そんな感じです。逆にアイが芸能界から退場したらと考えると、一気に目の前の視界が開けた感じがして、それで「メンゴさん。今後のアイについてなんだけど」って相談して。
    横槍 アカ先生からその話を聞いたときにはすでに連載がスタートしていたから、あの進路変更はかなり衝撃だったというか、ライブ感ありまくりでしたね。
    連載を進めながら、かなり大きく変化していっているんですね。
    横槍 そうそう。それまであまり重要視していなかったキャラクターが突然メインになったりして、「うわっ! 聞いてないよ」みたいな(笑)。
    赤坂 MEMちょはまさにそうだよね。あれは、描いているうちに僕がMEMちょのことを気に入っちゃったんですよ。だからルビーと有馬かなのアイドルユニットに加入させたんです。
    ▲第3巻第二十七話『バズ』より。「第三章 恋愛リアリティショー編」から登場した人気ユーチューバーのMEMちょは、第四章からも「B小町」の一員として活躍を見せる。
    そういえば、初登場時と今ではキャラデザインが少し違いますね。明らかに魅力的になっているというか。
    横槍 全然違います(笑)。まあでも、これは週刊連載ではわりとあるあるというか、週刊ならではのライブ感も私は魅力だと思っているので。だからいいんです。
    赤坂 そうそう、そこはあまり気にせずにね。
    「新人役者を宣伝するための実写化作品」や「恋愛リアリティショー」など、取り上げる題材は当初から決めていたんですか?
    赤坂 そうですね。そこは初期プロットである程度固めてあります。
    横槍 この先の展開も、大きなテーマだけは決まっていますよね?
    赤坂 うん。ただキャラクター同士の関係性などは、描いているうちにどんどん僕の思惑とかけ離れていくので、そこはつねにアドリブです。

    今だと重曹ちゃん(有馬かな)とあかねちゃんがバトっていますけど、現段階ではその結果までは決めていないんです。そこはある程度キャラクターの動きに委ねているので、僕の意思であらかじめ決めることではないかなと思っています。
    横槍 んふふふ。楽しみ。私は『【推しの子】』をいちばん楽しみにしている読者でもあるので。
    赤坂 たしかに。どっちが不幸になるんだろうね(笑)。
    横槍 楽しみなのそっち?

    アドリブといっても、天啓のようなものも含めて私は物語の力を信じているので、そのへんは信頼しています。アカ先生は漫画に真摯だし、いつも最善の選択をしてくれるので。

    伏線や構成の筋道自体は初めからかなり作り込んであって、ブレない印象です。キャラが思いがけない動きをするのは、漫画作りの醍醐味でもあり、生きている証だなって自分でネームを切るときも思います。

    SNSの誹謗中傷シーンは、内心ヒヤヒヤしながら描いていた

    「恋愛リアリティショー編」では、出演者への誹謗中傷など現実で社会問題となったテーマも描かれていて、かなり攻めているなとも感じました。
    横槍 そこは、私も描くと言われたときから自分なりに知識の補完を頑張りました。

    もちろんアカ先生の道徳や倫理観、バランス感覚をすごく信頼しているので、変な誤解を与えないとわかってはいたんですけど、それでもかなり繊細なテーマでしたから。
    サカイさんは編集者として、こういうテーマを扱うことに対してはどんなお気持ちでしたか?
    サカイ 自分もそこは赤坂先生を信用しています。最終的にはちゃんと救いがある結末に落とし込まれていますし、自分がとくに口を出すことはなかったですね。
    赤坂 ありがとうございます! おふたりにそう言っていただけると嬉しいです。じつは僕もちょっとだけヒヤヒヤしていたんです。
    誰が悪いというよりも、自分がしたことの影響や結果を想像することの大切さを訴えているような気がしました。
    赤坂 それはありますね。誰もがいつ、どちら側に回ってもおかしくないですから、「これはみんなのお話なんだよ」というのはずっと意識していましたね。
    横槍 私自身、普段からそこに対して感じていることもあるぶん、すごく心を込めて描きました。
    ▲第3巻第二十五話『炎上』より。撮影中の些細なトラブルが放送されてしまい、出演者のあかねはネットの誹謗中傷に追い詰められていく。掲載後に作品タイトルがTwitterトレンド入りするなど、読者の心に大きな衝撃を残した回。
    ちなみにおふたりは、エゴサーチをするタイプですか?
    赤坂・横槍 します!
    赤坂 基本的にはかなり耐性があるほうなんですけど、自分自身でも気にしているところを改めて刺されると、思いのほかダメージを受けたりもしますね。
    横槍 私はもともとそういうのに弱いタイプなので、完全に匿名の場所はあまり見ないようにしていて、基本はTwitterを見ます。Twitterは表現もマイルドであまり傷つかないので(笑)。
    赤坂 いずれにしろ、なんとなく確認はしたくなっちゃうんですよね。
    横槍 そうそう、やっぱり自分のことが書かれているってスゴい魔力なんですよ。半年に1度くらい、あえて悪く書かれてそうな場所をちらっと見に行ってしまうこともあるんですが……大体、後悔しかしないので。
    赤坂 芸能人じゃない僕らでさえそうなんだから、アイドルはもうレベチ(レベルが違う)だよね。
    横槍 レベチだよ。私のような脆弱なメンタルではきっと無理な世界だと思います。
    赤坂 まあやっているうちに麻痺していって、最後には何も感じなくなるのかもしれないですけどね。僕の場合もそうで、今ではほぼ何も感じなくなりました。中傷も誹謗も完全なる日常の一部です。
    横槍 ああ、たしかに。私も最初の頃に比べたら感じなくなったかも。でもそれはそれで人間味を失っていくようで、少し寂しいなとも思っちゃいますね。

    頑張って作った作品なのに幸せな形にならない、という実情

    現在は「2.5次元舞台編」が描かれています。このテーマに着目した理由は何だったんでしょうか?
    ▲第4巻第四十話『負けず嫌い』より。2.5次元舞台は、漫画・アニメ・ゲームなどを原作とした舞台ジャンルのひとつ。「2次元の原作と3次元の舞台のあいだ」という意味を込めて「2.5次元」という表現が使われる。
    赤坂 芸能界やアイドルを扱った作品は過去から現在まで数多くあるので、できるだけ令和の時代にふさわしい題材を選びたいという気持ちが大きくて。それがいちばんの理由ですかね。

    もちろんそれを題材に何が描けるかも大事なんですけど、2.5次元舞台はファンの熱量がかなり高いと感じますし、演劇というジャンルがだんだん衰退していく中で、ひときわ光を放っている存在だと思うんですよね。

    僕自身は『テニスの王子様』や『弱虫ペダル』の舞台が登場した際にはそこまで興味もなかったですし、ここまで流行るとは思っていなかったんですが、改めて観賞すると、すごく派手できらびやかで面白いんです。
    横槍 でもアカ先生の手にかかると、どの題材もある意味けっこう地味になるよね(笑)。光の部分だけじゃなくて、舞台裏のドラマを見せることのほうが多い印象がある。
    赤坂 うん。華々しいところだけ描くとどうしても嘘くさく感じるから、泥臭い部分もしっかり書きたいと思っちゃう。普通なら演者さんや監督さんにスポットが当たるけど、僕の場合は脚本家にフォーカスしたり。そうすると自然と地味になっちゃうよね(笑)。
    横槍 そもそも、私たち漫画家も裏方意識がありますから、それが自然な流れなのかもね。
    赤坂 舞台裏をリアルに描くとなれば、どうしても「芸能界の闇」的なところがクローズアップされがちじゃないですか。でも僕はそういうことを描きたいわけではないんですよ。
    横槍 もし立場を利用して個人的に悪いことをしている人がいるなら、それはまあ普通に訴えればいいだけですからね。
    赤坂 そうそう。そこをメインにしてしまったら、作品としては終わりじゃないかなとも思うんです。『【推しの子】』はジャーナリズムをやりたい作品ではないので。

    むしろ、みんながいい作品を作るために必死に頑張っているんだけど、いろいろなしがらみや慣習に縛られることで、結果的に幸せな形にならないことが多々あるんだよ、という実情を描きたいんです。作り手と受け手側のディスコミュニケーションを少しでも埋められる漫画になったらいいな、と思いながら描いているところはありますね。
    横槍 それはすごく重要なテーマですよね。2.5次元舞台にかかわらず、原作ものを別の媒体で作品化するときって、本当にいろいろな関門があるんです。

    失敗した場合は、メディア化に携わったさまざまなセクションの人、その中でもやっぱり名前が目立ちやすい人などが悪く言われてしまいがちですが、彼らにも彼らなりの言いぶんはあるわけで。私はたまたま仲の良い脚本家の友人がいて、個人的に取材したりして、そういうことをアカ先生にフィードバックしたら「それなら悪く描けないや」って。
    まさに、脚本家の苦悩が描かれたシーンもありましたね。想像以上に大変な仕事だと知った読者も多いのではと思います。
    赤坂 日本では、脚本家の地位ってあまり高くないんですよね。だから、いろいろな方面からの圧力で改悪をのまざるを得ないことも多いらしくて。でもみなさん、いいものにしたいと、その中でもがきながら頑張っているんですよね。
    横槍 それはマジでそう思います。
    ▲第四十四話『見学』より。上映時間の尺、役者と観客の物理的距離…さまざまな事情を織り込んだうえでいい作品にするにはどうしたらいいか、脚本家のリアルが描かれる。

    徹底した取材から生まれる描写。リアリティはかなり高め

    横槍先生が個人的に取材したケースもあるとのことですが、やはりこれだけリアルな舞台裏を描くには、普段からかなり取材されているんでしょうか?
    赤坂 そうですね。僕もタレントさんとはけっこう交友関係がありますし、それはメンゴ先生も同じなので、取材はほとんどが僕たちの個人的なツテで行うことが多いですね。
    横槍 ふたりとも漫画家としては珍しく、交流が広いタイプなんです。だから人脈を駆使していろいろな人に取材できています。もともと友達だから、「ちょっと話聞かせてよ」っていう感じでかなりフランクな取材をしていますね。
    赤坂 僕らにツテがない場合は編集部でセッティングしてくれるので、取材源はかなり潤沢です。
    サカイ ただ編集部経由でセッティングすると、どうしても集英社側の人間も同席することになって「取材然」とした雰囲気が出てしまうので、そういうときはなかなか本音が出なかったりもして、そこは難しいですね。
    横槍 いやいや、そんなことはないです(笑)。とても助かってますから。
    そこまでしっかりと取材をされているということは、裏を返せばかなり現実に近い描写ということですよね。
    赤坂 そうです。ただ取材相手が特定されないように気を遣っているので、取材結果を100%そのまま使っているわけではないんです。
    一方で、映像化された作品の原作者目線のシーンも登場しますが、これは赤坂先生や横槍先生の立場そのままですよね。
    ▲第2巻第十七話『演出』より。
    赤坂 そうですね。これまでは要所でチラリと登場したくらいですけど、今後さらに深掘りしようかなと思っているところです。
    横槍 誤解してほしくないんですけど、私もアカ先生も、自分の作品の映像化にはなんの不満も持っていないんですよ。
    赤坂 そうそう。まあ「実写のクオリティにガッカリする原作者」という描き方をすれば、僕らが実写化に対してそういう感情を持っているかのように勘違いしてしまう人がいるのもわかっていたので、想定内ではあるんですけどね。

    ただメンゴ先生も言ったように、本当に僕らはそんな感情は一切ないですから。あれはあくまで漫画家目線から見た「実写化あるある」っていうだけで、そこは強調しておきたいです。
    横槍 マジでそう。あ、でもあんまり強調しすぎると、逆に意味深に聞こえちゃうかもよ(笑)。
    赤坂 そうなんだよなあ。だとすれば八方塞がりなんだけど(笑)。

    「弱者に手を差しのべる」のが赤坂アカ作品の大きなテーマ

    『【推しの子】』では、各章ごとに芸能界のいろいろな舞台裏が描き出されますが、全体を通じて赤坂先生が伝えたいことは何でしょうか?
    赤坂 先ほども少し触れましたが、演者を光り輝かせるために、その何十倍もの方々が裏方として頑張っているわけですから、できるだけそういうところまで触れたいなとは思っています。
    横槍 それは赤坂作品の大きな共通点じゃない? 必ずしも「裏方=弱者」ではないけれども、でも「弱者に手を差しのべる」的な姿勢がいつもありますよね。
    赤坂 ありますね。僕の漫画に対する大きなモチベーションのひとつは「マイノリティに対する共感」を描きたいからなので、もちろん『【推しの子】』にもそれは入っていると思います。
    横槍 そうそう、アカ先生って、弱者に寄り添いたいっていう気持ちがすごくあるんですよね。それはいつも感じています。
    赤坂 あざす(笑)。まあ我々漫画家も裏方稼業ですから、そう考えると芸能界のアレコレを描いているようで、じつは自分で自分を描いているのかもしれません。

    プロットの段階から「作画:横槍メンゴ」を想定していた

    改めて、おふたりがタッグを組むことになった経緯を教えてください。
    赤坂 そもそもメンゴ先生とは10年くらい前からの知り合いで、ずっと仲良くさせてもらっていたんです。
    横槍 たしかボカロ(VOCALOID)界隈がきっかけで知り合ったんですよね。お互いに、まだほとんど漫画家としてのキャリアがない時代でした。
    赤坂 メンゴ先生はそのあとにすぐ『クズの本懐』をスタートさせて、僕は「これは絶対にアニメ化来るよ」って言ってました(笑)。
    横槍 そうそう。ものすごく素直に褒めてくださるので、めっちゃいい人だなと感動しました。漫画家同士って、とくに同世代だとどこかにライバル意識があるから、そこまで真正面から言うことは珍しいんですよ。
    赤坂 まあ僕的には、「1話で素晴らしさを見抜いた」とマウントを取りにいったという側面もあるんですけどね(笑)。でもお世辞とかではなかったのはたしかですよ。
    それで、『【推しの子】』のアイデアが生まれたときに、横槍先生の絵がいいんじゃないかと感じたんですね。
    赤坂 そうですね。ちょうどメンゴ先生が『かわいい』っていう読み切り作品を「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)に発表して、それがジュニアアイドルとして活動する中学生の心の闇を描いたストーリーだったんですよ。それが決め手でした。
    横槍 でも2年くらい前から、なんとなく相談は受けていたよね。「ちょっと読んでみて」っていう感じでプロットを渡されて。私はアカ先生のような脚本のプロじゃないから「私でいいのかな?」と思いつつ読んだんですけど、すごく面白くて、「これめっちゃいいじゃん!」って答えたら……。
    赤坂 「はい、言質取りました!」と(笑)。反応が悪ければしれっと1回引っ込めようと思っていたんですけど。
    横槍 でも、すごくよかったんですよね。これは主観ですけど、かなり私ナイズされているというか、私の作風に寄せてもらった感じもして。当て書きの台本を読んだ俳優さんのような気持ちというか……。
    赤坂 実際に、メンゴ先生を想定した当て書きに近いものはあります。
    横槍 その後、私は『レトルトパウチ!』の連載が終わって、ちょうどそのタイミングで担当編集がサカイさん(当時すでに赤坂先生を担当)に代わって。それも大きかったですね。
    赤坂 そこですべてが噛み合った感がありましたね。

    「タイトル回収話」は赤坂先生の予想を上回るクオリティに

    工程としては、赤坂先生のネーム(注1)を横槍先生が作画する流れだと思いますが、ここでの細かいやりとりはあるんですか?
    横槍 ほとんどないです。赤坂先生のネームはすごくわかりやすいですし、私に合わせてもらっていることもあって、自然と気持ちが乗るんですよ。だから作画で悩むことはあまりないですね。
    ※注1:コマ割りやキャラクターの配置、セリフといった、漫画の構成をまとめたもの。一般的に商業誌の場合、漫画家が描いたネームを編集者が確認し、OKが出たあとで原稿に取りかかる。
    赤坂先生の予想を超えた作画になって戻ってくることも?
    赤坂 もちろんです。最近では第三十八話がとくにそうですね。ステージ上で重曹ちゃんが「アンタの推しの子になってやる」と決意する、いわば「タイトル回収話」なんですが、じつはネームの時点ではあまり自信がなかったんですよ。
    横槍 私はネームを読んだ時点ですごくいいなと思ったんですけど、アカ先生が「自信がない」って言うのはちょっとわかるかも。アカ先生って構成とかトリックで見せたい人だけど、あの回はかなりストレートだったから。
    赤坂 そう、直球勝負だったんです。予想を裏切ることが何も起きないので、すべてを絵の力に託すしかなくて。僕としてはネーム段階で面白く仕上がりきっていないと、それはもうネームの敗北だと考えているので、あの回の成功はすべてメンゴ先生のおかげなんです。
    横槍 いやいや。そんなことはないですけど、でもたしかにあの回は超頑張りましたね。どうしてもトレンドに入ってほしくて、自分でも「見てくれ!」ってたくさん宣伝しました。

    私はたとえ自分が関わっている作品でも、本当に感動したときは「めちゃくちゃいいから!」って言って回るタイプなんですが(笑)、『【推しの子】』は本当に毎週毎週、最新話がいちばん面白いので……。
    ▲第4巻第三十八話『箱推し』より。B小町3人のサイリウムを振るアクアを見て、アイドル活動に対して前向きになりきれなかった有馬かなが、彼の“推しの子”になることを決意する。

    『【推しの子】』で描きたいのは、現代版『ガラスの仮面』

    では最後に、今後の『【推しの子】』で描きたいと考えていることはありますか?
    赤坂 僕が『【推しの子】』でやりたいのって、ひと言でいうと現代版『ガラスの仮面』(注2)なんですよ。
    ※注2:演劇を題材にした美内すずえによる少女漫画作品で、1975年から連載中の大作。伝説の大女優である月影千草が、平凡な主人公・北島マヤの才能を見出し「おそろしい子!」と感嘆するセリフでも有名。
    スポ根や情熱という、頑張っている人がちゃんと報われるような世界観は守りつつ、SNSや恋愛リアリティショー、2.5次元舞台といった現代ならではの要素を取り込んで再構築している感覚が強いので、そこは今後も楽しみにしていただけたらと思います。
    物語の終わりは見据えていらっしゃるんですか?
    赤坂 メンゴ先生をあまり長く拘束しては申し訳ないので、そこまでの大長編にはならないと思いますが、数字とも相談しつついちばんいいときを探っていきたいなと思っています。
    横槍 今の状態でも、短編とか読み切りだったら頑張ればなんとか…描けなくは…どうかな。
    赤坂 でも、やっぱりオリジナル連載を描きたくならない?
    横槍 その気持ちもあるっちゃあるんですけど、現時点ではまだわからないかなあ。とくに週刊連載はひとりでできる自信がなくて。でも、いつかやらなきゃ……っていう謎の使命感みたいな気持ちはあったから、本当に降って湧いたというか、今いちばんありがたい形でお仕事させていただいてます。

    『【推しの子】』が好評だったら、次回作もアカ先生と何かやるかも(笑)。「週刊ヤングジャンプ」かどうかはわからないですけど……?
    赤坂 その場合ももちろん、サカイさんにも一緒に来てもらってね。
    横槍 でもサカイさんは絶対に嫌って言いそう(笑)。
    サカイ いやいや。そんなことはないですが、他編集部のことは何もわかりません。他編集部には、その雑誌に特化した編集者がきっといらっしゃいますよ。
    赤坂・横槍 やっぱり(笑)。
    インタビュー後編はこちら

    作品紹介

    漫画『【推しの子】』
    既刊4巻 最新5巻は8月18日(水)に発売!
    価格693円(税込)

    ©赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社

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