私は、つい最近まで「葉桜(はざくら)」の正しい意味を知らなかった。「花が散って若葉が出始めた頃の桜の木」を指す言葉なのだが、「桜の花と一緒に葉っぱが出ている、花と葉の共演状態」を葉桜というのだと、ずっと思い込んでいた。
ただ、まるっきり勘違いというわけでもない。葉桜の本来の意味をもう少し詳しく言うと「花が散り始めて若葉が出てきてから、花がすっかりなくなり新緑で木が覆われる時期までの桜の木」。私は、この「花が散り始めて若葉が出てきた」時期だけが葉桜なのだと思っていたのだ。
まあ、これは笑い話にもならない。私が「深窓の令嬢」をずっと「ふかまどの令嬢」と誤読していたのに比べれば、たいして恥ずかしい話でもないだろう。普段の生活や仕事には影響しない。ましてや人類の将来に関わる間違いでは、もちろんない。
ところが米国には、深刻な結果をもたらすかもしれない「科学的な誤り」をしている人たちが一定数いる。二酸化炭素排出が地球温暖化の原因であることや、ダーウィンの進化論が「正しくない」と固く信じる人々だ。前者についてはトランプ大統領もその一人で、2017年6月に地球温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定から米国が離脱することを表明。人類の未来をかけた国際協調による環境対策に暗雲をもたらした。
『ルポ 人は科学が苦手』(光文社新書)は、こうした米国を主とする「科学不信」「反科学主義」の現場をリポート。なぜ「不信」になるのか、また、そのような人たちに正しい(とされる)科学知識を伝えるにはどうすればよいかを、読売新聞科学部記者である著者が論じる。
「フラット・アーサー」になるきっかけの多くはユーチューブ動画
同書には、いくつもの「科学不信」が紹介されているのだが、とくに驚かされたのが「フラット・アーサーズ」と呼ばれる人たちの存在だ。地球が「球体」であるのは、小さな子どもでも知っている科学的な常識だが、彼らは「地球は平ら」であると信じ、強く主張している。
米国を中心に広がるフラット・アーサーズだが、2017年11月には初めてノースカロライナ州で「フラット・アース国際会議」が開かれ、約500人が参加したそうだ。
彼らを研究するテキサス工科大学のアシュリー・ランドラム博士によれば、ユーチューブ動画を見てフラット・アーサーになった人が多い。「Eric Dubay: 200 Proofs Earth is Not a Spinning Ball」と題された約2時間の動画は、現時点でおよそ84万回も再生されている。内容はタイトル通り、「水平線や地平線はどこで見ても常に平らだ」など200もの「地球が平らである“証拠”」を紹介している。
ランドラム博士がインタビューした「フラット・アース国際会議」の参加者の一人は、「私が頼れるのは自分の目だ。その目で、はるか100キロメートル先の平原を見渡すことができる。これこそが地球が平らである証拠だ」などと話している。他のフラット・アーサーもおそらく同様に、自身の感覚や直感を信じている。
学校で教わったことが、自分の直感からすると、どうもピンと来ない。そんな時、自信満々に、しかもビジュアル要素も入れながら、その直感を巧みに証明してくれるユーチューブ動画と出会う。すると「こっちの方が信頼できる」と思ってしまうのも仕方ないのかもしれない。
まだ人類は「科学に慣れていない」のか