KDDIとソフトバンクのデュアルSIMサービスについて考えてみた!

既報通り、KDDIおよびソフトバンクは2日、1台のスマートフォン(スマホ)に2つの通信回線契約を登録できる「デュアルSIM」機能を活用した新たな通信料金プラン(サービス)の提供を2023年3月下旬以降より開始すると発表しました。

スマホや通信の仕組みに多少詳しい人であればデュアルSIM機能については説明不要だと思いますが、それ故に「どうしてユーザーが設定できることを通信キャリアが行うんだ?」や「ただの設定サービスなのか?」と不思議に思った人もいるかも知れません。

KDDIとソフトバンクが今回発表した内容は簡単にまとめると「災害や事故などで自社通信網を使えなくなった場合に他社通信網を使って通信環境を維持するための緊急回線用SIMを提供する」(平時も利用可能)というものです。

強靭な自社通信網を持つ大手移動体通信事業者(MNO)がなぜこのような施策を発表したのでしょうか。またその背景には何があるのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はKDDIとソフトバンクによるデュアルSIMサービス提供について考察します。

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通信キャリアがデュアルSIMサービスを提供する意味とは


■複数回線契約の必要性を痛感させた大規模通信障害
はじめに、今回の発表の背景にあるものを語る必要があります。

KDDIやソフトバンクが自社通信網の事故に備え、他社通信網を使ったSIMの提供と通信料金プラン(オプション)を用意するに至った背景には、2022年7月にKDDIが起こした大規模通信障害があります。

それ以前にもNTTドコモが2021年10月に大規模通信障害を起こしており、他社もNTTドコモの教訓を活かして対策を打つだろうと考えていた矢先での事故だっただけに、結局事故はどうやっても防ぎきれないのではないかという不信感も生まれました。

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:高度情報通信社会時代の受難。大規模au通信障害から社会の抱えるリスクと取るべき行動を考える【コラム】

事故というものは想定できる場合も多くありますが、時には想定外に起こることがあります。

人災的な事故であればマニュアル化やシステムの強化によってある程度防ぐことは可能ですが、天災を起因とするような事故の場合防ぎきれない場合も多々あるでしょう。

そういった事態を想定した際、ユーザーとして簡単にできることがあります。それは「緊急時に利用できる他社回線を用意しておく」ことです。

昔は複数のスマホを持ち歩くスタイルが流行りましたが、現在は1台のスマホに2つの通信回線契約を登録することができるデュアルSIM利用が主流です。

とくに2020年12月の「アハモショック」を境に通信料金は劇的に下がり、楽天やKDDIなどが0円スタートの通信料金プランを用意するなど、緊急回線用として保持しておくのに丁度良い低料金プランが次々と登場しました(楽天は2022年に0円スタートを廃止)。

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KDDIが提供するpovo2.0は、0円スタートの特徴を活かしてサブ回線での運用を積極的にアピールしている


大手MNOが自社通信網のみに頼らず、他社通信網を活用する方法を模索し始めた点は、ユーザーや政府からの強い要望(要請)があったことも背景にあります。

NTTドコモやKDDIが起こした大規模通信障害では、通信途絶に対する現代社会の脆弱性が浮き彫りとなりました。

単なるスマホアプリの利用のみならず、電子決済やオンラインサービスの利用など、人々の生活は常に通信によって支えられています。その通信が一時的にでも途絶えてしまうことの恐怖と不便さを、人々は痛感したのです。

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通信が使えないと何もできない現代社会


■受動的な人々のためのデュアルSIMサービス
そこでモバイルリテラシーのある程度高いユーザーは、自主的に複数の通信回線を契約して万が一に備えるようになりましたが、すべての人々がそのような能動的行動を取れるわけではありません。

また、通信キャリア同士が連携して災害対策や通信障害対策に取り組む姿勢を示し、より品質の高いサービスを提供し続けるという使命を果たすという点からも、通信キャリア主導によるデュアルSIMサービスというものが求められたのです。

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KDDIによる発表。通信キャリアとしては信頼回復のためにも何か手を打たざるを得ない


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ソフトバンクによる発表。障害対策の一方で、通信回線を売るためのチャンスという見方もできる


KDDIやソフトバンクが予定しているデュアルSIMサービスは、自社回線を用いた通信料金プランのオプションサービスとして指定の他社回線を用いたもう1つのSIMを提供し、デュアルSIM設定で利用してもらうというものです。

言うなればMNO同士でMVNO契約のようなものを提供するということです。スマホや通信の知識がないユーザーにとっては、通信キャリアがそういった回線を用意してくれることは非常に心強いものです。

またKDDIの髙橋社長は、2月2日に行われた2023年3月期第3四半期決算発表会の質疑応答の席にて、

「(デュアルSIMオプションの)基本料金は数百円程度」
「非常時には従量課金で少し高くなる」

このように回答しており、非常時以外でも利用できる一方で、非常時には従量課金制とすることで、他社回線にユーザーが集中して混雑することを回避する方策も検討していることを示唆しています。

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自社のトラブルで他社回線まで逼迫させては意味がない


■備えあれば憂いなし。デュアルSIM契約のススメ
かく言う筆者も、各社が大規模障害を立て続けに起こしたことをきっかけにデュアルSIM環境を導入し、現在メインスマホとして使用しているiPhone 14にはメイン回線としてNTTドコモのahamoを、サブ回線としてKDDIのpovo(povo2.0)を契約しています(このほかサブ端末と別回線も所有)。

povoは基本料金が0円で、180日以内にトッピング(課金オプション)を1回でも購入すれば回線が維持されるため(課金がないと自動解約される場合がある)、サブ運用には最適なのです。

しかしながら、そういった回線(通信料金プラン)の特徴や内容に精通し、無駄なく運用する管理の手間を嫌う人がいることも理解できます。

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筆者は忘れないようにpovoの回線名表記を「半年に一度課金して維持する回線」に変更している


最近では物理SIMだけではなく、スマホにSIM情報を書き込むeSIMの利用も増えてきました(筆者もpovoでeSIMを使用)。

また仮想移動体通信事業者(MVNO)各社もサブ回線運用を前提とした格安プランを続々とラインナップしており、その種類やサービス形態も非常にバリエーション豊富です。

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MVNO大手のmineoも、1月31日にサブ回線運用を前提とした格安プラン「マイそくスーパーライト」を発表した


サブ回線(デュアルSIM)の管理や用途も含め、自分に合ったSIM媒体や契約形態を自由に選択できる良い時代になりました。

手持ちのスマホがデュアルSIMに対応しているのにサブ回線の契約をしていない人は、通信障害対策としてこの機会に検討してみては如何でしょうか。

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通信依存社会だからこそ、非常時用に別会社の通信回線を1つは用意しておきたい


記事執筆:秋吉 健


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