スマホのロック画面について考えてみた!

みなさんはスマートフォン(スマホ)のロック画面を1日に何回見るでしょうか。ロック画面を見る回数≒スマホを操作する回数かもしれませんが、時にはロック画面に表示されるSNSやメールの通知のみを軽く確認して再び画面を消灯してしまうこともあるでしょう。

既報通り、Appleは6日(現地時間)、開発者向けイベント「WWDC 2022(Worldwide Developers Conference 2022)」を開催し、その基調講演においてスマホ向けOSの新バージョン「iOS 16」を発表しましたが、そのiOS 16の特徴の1つとして最初に紹介されたのがロック画面の仕様強化でした。

ロック画面のカスタマイズできる幅が広がり、より自分らしくデコレーションすることが可能になったほか、各種通知の表示方法なども選択できるようになる予定です。Androidスマホではすでにアプリでさまざまにカスタマイズが可能ですが、iPhoneではなかなか新鮮な機能です。

しかしながら、ロック画面をそこまでカスタマイズするメリットはあるのでしょうか。もしくはロック画面をカスタマイズしたいという需要が多かったということなのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はロック画面の歴史からカスタマイズの必要性やセキュリティについて考察します。

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筆者が保存していた最も古いiPhoneのロック画面。スライドロックが懐かしい


■iPhoneが生み出した「携帯端末をロックする」文化
そもそも、スマホのロック画面が生まれた理由はそのデバイスデザインにあります。

かつて隆盛を誇った携帯電話(フィーチャーフォン)やiPhone登場以前のキーボード付きスマホの場合、「ロック画面」という発想や「パスワードで端末をロックする」という発想自体がほとんど存在しませんでした(ロック機能はあったが法人端末でもない限り使われることはほとんどなかった)。

クラムシェル(折りたたみ)型であれば端末を閉じることで画面が消灯するのでロック画面など必要ありませんし、ストレートタイプでも画面をタッチして操作するわけではなくすべてがボタン操作であったため、電源ボタンを押さない限り画面が点かない仕様だったからです。

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ボタン操作自体を物理的にロックしていた人すら稀だった


携帯電話のセキュリティ面があまり気にされていなかった時代だったという背景もあります。

当時の携帯電話は重要なオンラインサービスに接続されること自体が非常に少なかったのですが、例えば高いセキュリティを必要とする代表的なサービスである電子マネーでは、現在に続く「おサイフケータイ」(FeliCa決済)が登場したのが2004年でした。

しかしながらその普及は遅々として進まず、普及率も非常に低いまま現在に至り、2021年時点ですら僅かに9.6%に留まっているという調査データもあるほどです。

そのようにセキュリティを強く意識する必要のない世界であったために、携帯電話にもパスワードロックの機能が付いていたにも関わらず「端末をロックする」という習慣は長く根付かなかったのです。

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MMD研究所「2021年1月スマートフォン決済(非接触)利用動向調査」より引用。非接触決済方式は流行らないままにQRコード決済方式が主流になってしまった


iPhoneにロック画面(スライド認証)が搭載され、その機能が前面に押し出されてアピールされていたのには、セキュリティ以外にもう1つ理由があると筆者は考えています。

iPhoneは当時の携帯電話・スマホ業界の中では新参の異端児であり、目新しさや革新性、そして使いやすさ(利便性)を人々に「感動」や「衝撃」レベルで強く実感させる必要がありました。

ホームボタンを押しただけでホーム画面が表示されれば、それはそれで便利だったかも知れません。しかし人々はそもそも「画面に指で触れて携帯端末を操作する」という行動(作法)にまったく慣れていない時代です。

そのような時代だったからこそ「画面上を指で横にスライドさせるとスルッと画面が遷移してホーム画面が表示される」という、感覚的な気持ち良さや新しい操作感覚に対する未来感を最大限に利用したのです。

筆者がiPhone 3Gに初めて触れた当時、何度もロック画面を表示させてスライドロックを外す動作を繰り返しては、カチッという小気味良い音とともにロックが解除されホーム画面がふわりと表示される様子に「おーこれは気持ちがいい」と感動していたのを覚えています。

今となっては「こいつは何を言っているんだ」と感じる人も多いでしょう。単に筆者がガジェットオタクだったから目の付け所が変だったというだけかもしれませんが、当時はその未来的な操作感に同様の感動を覚えた人が少なからずいたように思います。

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かつてはアプリと連動してスライドロック部にメッセージを表示させるといった面白い仕様もあった


■ロック画面とセキュリティ
2021年3月に画面ロックとセキュリティ意識についてのコラムを執筆したことがありますが、画面ロックを行っている人の割合はiPhoneユーザーで94.3%、Androidユーザーで70.3%という調査データを引用したことがあります。

OSの種類によって乖離があるものの、全体としては8割以上もの人が画面ロックを利用しており、セキュリティ意識はそれなりに高い水準で維持されていると感じます。少なくとも、携帯電話全盛の頃よりはかなり高い数字なのではないかと思います。

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:あなたのスマホ、画面ロックしてますか? 驚愕の調査データからスマホのセキュリティ意識について考える【コラム】

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人々はスマホを人に覗き見られないための自衛をするようになった


人々が画面ロックの必要性に気づき、日々その画面を目にするようになったことで、ロック画面のカスタマイズ需要も同時に高まっていったのだろうと容易に想像がつくところです。

例えばAndoidスマホ向けのアプリを検索してみると、ライブ壁紙を利用するような簡単なものからカレンダーやスケジュールなど実用的な情報を表示させるものまで、さまざまに見つけることができます。

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ロック画面は個性を表現する場所として定着しているのかもしれない


一方で、ロック画面でさまざまな作業や機能が利用できることによるセキュリティの低下は非常に気になるところです。

かつてはロック画面から利用できるメモ帳機能や音声認識機能のバグを利用し、ロック解除することなく端末を操作したり情報を抜き出すといったセキュリティホールが話題となったこともありますが、そこまで深刻なものではなくとも、一般的に利用できるロック画面上での操作だけでも嫌がらせやプライバシー情報の漏洩は十分に考えられます。

例えばiPhoneの場合、ロック画面からカメラ機能が利用でき、写真や動画の撮影が行えます。誰かが嫌がらせとしてこっそり動画撮影を起動したまま放置すれば、バッテリーやストレージの空き容量がなくなるまで動作し続けてしまいますし、盗撮を装って撮影されれば犯罪をでっち上げられて冤罪のリスクすらあります。

他にも音楽を流したりメモを利用したりとロック解除することなくできる操作は多く、他人のスマホに「いたずら」を行える範囲が広くなってきているのが気になります。

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ロックを解除しないままウィジェット画面やコントロールセンター、さらに通知センターまでも表示・操作できてしまうのは流石にやりすぎな気がする


■ロック画面の進化と矛盾
ロック画面のデザインを変更し、より自分らしく素敵な見た目にしたいというニーズは良いと思いますし、個人的にももっと自由であるべきだと感じています。

一方で、所有者以外の第3者がロック画面からさまざまな情報を得たり操作が行えることに関しては、筆者は若干否定的です。

例えば写真・動画撮影にしても、ロック画面から行えばければいけないことなのでしょうか。もしくはロック画面を解除せずに使えなければ困るようなことなのでしょうか。

むしろ、他人が自由に使えてしまうデメリットのほうが大きいように感じます。

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ロック画面からカメラを起動できるメリットとは何だろうか


みなさんはロック画面をどのように飾りたいでしょうか。またロック画面でできたらいいなと思う機能とは何でしょうか。

ロック画面を飾ることは単なる自己満足の範疇を超え、本来他人に見られたくないスマホを他人に見て欲しいと感じる「矛盾した心理」のようにも思います。

個性とプライバシーの葛藤が覗き見えるのがロック画面……なのかもしれません。

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ロック画面は口ほどに物を言う


記事執筆:秋吉 健


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