5G通信のこれまでの歩みとこれからについて考えてみた!

NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手移動体通信事業者(MNO)3社が5G通信(5G)の商業サービスを開始して、もうすぐ3年目を迎えようとしています。

2020年当時の取材写真はどこかな……とPCを漁ってみても、出てくる画像は不鮮明な動画の画面キャプチャーばかり。「ああそうだ、日本でもコロナ禍の第一波が始まり、現地取材ができなくなったのだった」と思い出すのに、そう時間はかかりませんでした。

本来であれば華々しいスタートセレモニーによって印象付けたかった5Gサービスは、その第一歩からくじかれたのでした。今でこそ全国の主要都市や駅周辺などではかなりつながりやすくなり、人々も当たり前のように利用するようになったものの、これまでの2年間はひたすらに多難であったように思います。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は5Gが歩んできた2年間を振り返りつつ、3年目の展望やさらに先の未来について、つらつらと書き綴ります。

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2020年3月にかろうじて現地取材ができたKDDI(au)の5G端末発表会。以降、現地取材はコロナ禍によって激減していく


■5Gを苦しめ続けた準備不足と不運と慢心
5Gのスタートは冒頭で書いたように幸先の良いものではありませんでしたが、その実態も正直お粗末と言わざるを得ないほどでした。

大手MNO各社は5Gサービスのスタート時期の早さを競っていましたが、実際に5G通信が可能なエリアは都内のキャリアショップのさらにごく一部店舗のみであるなど「ほぼ使える場所がない」状況でした。

「これで5Gスタートとは……」と苦笑せざるを得ないとは言え、筆者のようなモバイル系のフリーランスライターやジャーナリストは、それでも5Gの未来は明るいと信じて情報を発信し続けていました。

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元々2~3年を要する中長期計画だったとは言え準備不足感は否めなかった(NTTドコモの資料より引用)


5Gを襲った不運はコロナ禍だけではありません。

商業サービス開始以前の2019年10月にはスマートフォン(スマホ)や携帯電話と通信料金のセット販売を原則禁止とする電気通信事業法が施行され、スマホの見かけ上の販売価格が大きく跳ね上がりました。

今まで様々なオプション値引きによって2~3万円で購入できていたような端末が、いきなり6万円や7万円といった数字で店頭に並ぶようになったのですから、消費者の財布の紐が固く結ばれてしまったのも無理はありません。

結果、5Gを提供するMNO各社は5G対応端末の販売に大きく苦戦します。

打開策として下取りサービスの強化や残価設定型販売方式を推進させ、さらにラインナップする端末をすべて5G対応にすることで、半ば強制的に5G通信への移行を促そうと必死になりましたが、今度は「5G対応の料金プランが高すぎる」という不満が消費者の間から噴出したのです。

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新たに販売するスマホをすべて5G対応にしたものの、料金プランが高すぎて新機種への買い替えを躊躇・断念する消費者が大量に発生した


そして始まったのが総務省による料金値下げへの激しい突き上げです。

2018年当時に官房長官を務めていた菅義偉氏が「(携帯電話の通信料金は)4割下げる余地がある」と発言したことに端を発した通信料金値下げ議論は(それ以前も有識者会議などでは度々議題となっていたが本格化したのはこの発言から)、菅義偉氏が2020年9月に内閣総理大臣に就任したことで大きく動き始めます。

KDDIやソフトバンクが総務省の顔色を伺うようにサブブランドMNOでの料金値下げなどでお茶を濁そうとするも、「それでは5G通信が使えず普及に貢献しない」とダメ出しを受ける中、センセーショナルな料金設定とプラン設定で登場したのがNTTドコモの「ahamo(アハモ)」でした。

発表当時、月額2,980円で5G通信も使える20GBプランとして、主に若い世代を中心に「これは凄い」、「早く契約したい」と絶賛されたことから他社も追随。これによって2020年12月~2021年2月には、かつて見たことがないほど加熱したMNO各社による値下げ合戦が繰り広げられたのです。

MNO各社の壮絶な値下げ合戦は一般消費者の関心を引くことにもなり、料金プランの変更や通信キャリアの乗り換えブームを呼び起こしました。当然、各社はこれに乗じて5Gスマホの販売にも力を入れ、5Gは一気に普及への緒(いとぐち)を見つけたことになります。

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ahamoの発表は移動体通信の歴史に残るターニングポイントであったと言っても過言ではない


通信料金をめぐるゴタゴタと経緯は、ただただ通信各社の慢心であったと言うほかありません。

チャレンジ精神を忘れ(あるいは恐れ)、ユーザー獲得への野心や執着心も失い、「談合でもしてるのではないか」と陰口を叩かれるほどに競争を避け続けた結果が、総務省からの突き上げに繋がりました。

もし楽天モバイルのMNO参入や総務省からの突き上げがなく、料金体系が旧態依然としたままであったならば、5Gの普及はさらに遅れ、5G対応スマホの販売が低迷し続けていた可能性は大いにあります。

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ahamo対抗として生まれたKDDIのpovoも、今では月額0円から始められる独自色の強い料金プランに成長した


このようにして、商用サービス開始から1年を経てようやく普及の兆しが見え始めた5G通信でしたが、苦難はまだまだ続きます。

5G利用者が増えてくると、これまであまり見えてこなかった問題が表面化します。それは「パケ詰まり(パケ止まり)問題」でした。

これは、5G回線を利用している際に突然通信が止まってしまうというもので、電波強度の弱い5Gエリアの端などで5G電波を掴んでしまった場合に上手く通信ができなくなる現象が起きていました。

MNO各社はこの状況を改善するためにアンテナ基地局の設置を急ぎ、エリアの終端(電波強度の弱いエリア)を減らしたり、さらに通信設備の設定(チューニング)の変更などを行いましたが、この問題は現在でも完全に解消されたとは言い切れません。

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一難去ってまた一難。なかなか軌道に乗れなかった5G


■雨降って地固まる。3年目の飛躍に期待
これまでの5G普及への道のりはひたすらに困難が多く、逆風に次ぐ逆風であったように思います。しかしながら、今後の5G通信は数多くの障害を乗り越え、ようやく真の飛躍の時期を迎えられそうです。

その理由は「5G SA」のスタートにあります。5G SAとは「5G Stand Alone(スタンドアローン)」の略称で、電波を出しているアンテナ基地局だけではなく、そのコア設備まですべてが5G専用となることを意味します。

これまでの5G通信は「5G NSA」(Non Stand Alone=ノン・スタンドアローン)と呼ばれるもので、コア設備に4G通信と同じ設備を流用・共用していました。上記のパケ詰まり(パケ止まり)は、この5G NSA方式の設備の調整不足から起きていると考えられます。

5G SA方式の設備に切り替えることでパケ詰まり問題を解決するとともに、5Gの特性である「超低遅延」や「超多接続」といったメリットをさらに発揮することが可能となります。

また、5G SA方式の設備では回線を仮想的に分割する「ネットワークスライシング技術」が用いられ、5G回線を利用した商業配信サービスなども安定した品質で行えるようになるため、MNO各社は法人向けサービスを先行してスタートさせています。

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5G SAがコンテンツ配信やオンラインサービスを加速させる(KDDIの資料より引用)


個人向けの5G SAサービスはMNO各社から2022年夏以降にそれぞれ提供が開始される予定となっており、エリア展開や様々な問題の解決にもある程度の目処がついた今、ようやく各社が活気を取り戻しつつあるようにも感じます。

そして、5Gサービスが軌道に乗った先には、5G evolutionや6Gといった「さらに次の時代」の通信サービスが待ち構えています。

これまでの5G普及の流れを振り返ると、通信エリア(基地局)、端末(スマホ)、そして通信料金に至るまで、すべてが準備不足であったことが分かります。むしろこれだけ準備不足だらけの状態でよく商用サービスとしてスタートさせたものだと呆れそうにもなります。

そんな準備不足も2年という長い年月を経て、完全とは言えなくともようやく十分に改善されたのではないでしょうか。

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5Gの本命たる5G SAも、ここからさらに数年かけてエリア展開やコンテンツ・オンラインサービスの充実を図っていく(KDDIの資料より引用)


3年目の5Gに、筆者は非常に明るい展望を持っています。

通信設備の5G SA化によって5Gを活用したコンテンツサービスもようやく本格的にスタートできます。通信料金も十分に下がりました。スマホの価格も残価設定型販売方式の浸透やSIMフリー市場(オープンマーケット)の活性化によって一応の落ち着きを見せています。

懸念材料があるとしたらコロナ禍と半導体不足ですが、現状ではこれらも悪化の様子は見せていません。

最悪の時期を脱しただけかもしれませんが、仮にそうであったとしても、これまでのようなネガティブ要素が圧倒的に少なくなってきていることは何よりの好材料です。

みなさんが5Gを使ってしたいこととは何でしょうか。できたらいいなと感じることは何でしょうか。5Gの3年目は、そんな夢を前向きに語れる年になることを期待しています。

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5Gの可能性は、ここからが本番だ


記事執筆:秋吉 健


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