クレート(犬用キャリーケース)に入ったポポちゃんは、JALのカートに乗せられて代替機まで移動したが、そのまま炎天下に20分以上置かれていた。
心配になった乗客が代替機に移動する際に、クレートを開けて健康確認と給水をしたいと何度も懇願したが「規則でできない」と断られた。その時点ではポポちゃんはクレートの隙間から手を舐めてくれたが、大分空港に着いて手元にポポちゃんが届けられたときには舌をだして倒れた状態だった。
ポポちゃんを動物病院に連れていったが、熱中症での死亡が確認された。
その後のJAL側の謝罪対応に納得がいかなかった投稿主は、現在JALを相手に訴訟を起こしています。
これはあくまでもツイートされた投稿主の主張ですが、実際にこのような事故が起きていることを知ると、飼い主は「ペットを飛行機に乗せるのは果たして安全なのか」と考えることでしょう。飛行機輸送のリスクを避けるために飼い主ができることはどんなことでしょうか。
飛行機でのペットの死亡事例
JALや全日空(以下、ANA)ではペットは飼い主と同じ客室には搭乗できないので、クレートなどに入れた犬・猫・小鳥・うさぎ・ハムスターを貨物室で預かり輸送しています。前述したポポちゃんのほかにも死亡事例があり、両社ともサイトで公開しています。
JALでは2017〜2021年までの過去5年間(貨物扱いとして輸送した事例も含む)に犬6匹、猫2匹、鳥1羽、ANAでは2015〜2022年までの過去8年間に犬10匹、猫2匹が死亡しています。その経緯など詳細は公開していません。
飛行機の輸送環境は日常生活とは大きく異なり、ペットの健康状態にさまざまな影響を与えるとされています。数年前に筆者が愛猫と共に搭乗を検討した際、空港スタッフに輸送環境について確認したところ、
「飛行機への移動や乗り降りは屋外となるため、夏場や冬場は温度・湿度に大きな変化が生じる可能性がある。また、ペットが搭載されるバルクカーゴルーム(荷物を搭載するコンテナスペースとは別)と呼ばれる貨物室内は、基本的に客室と同じ温度・湿度となるように空調管理されている」
「しかし、気温や反射熱の影響を受けて高温になることも考えられる。さらに、離着陸時や飛行中は気圧の変化があり、同時にエンジンの音、機械を操作する音、機体が風を切る音など通常では聞くことのない騒音をペットが耳にすることになる」
と、注意喚起も含め教えてくれました。そのような輸送環境であれば少なからずストレスを感じ、体調に異変をきたすペットもいるだろうと思いました。
滋賀県在住のNさんは、「チャロ(チワワ5歳)と旅をする際、飛行機はまず選択しない。飛行機はほかの交通機関を十分に検討したうえでの、やむを得ない最終手段だと考えている。なぜなら、飛行中はチャロに何かあっても誰の手助けも受けられない状況になるから」と話します。
飛行中にバルクカーゴルームにいるのはペットだけで、不測の事態が起こる可能性が高い輸送環境だとNさんは言います。そのため、時間がかかっても車や電車を利用するとのことでした。
車の場合は停めるところさえあればいつでも飼い主が対応できますし、緊急性があれば最寄りの動物病院へ駆け込むことが可能です。また、新幹線の場合はクレートやキャリーバッグにペットを入れて膝上や足元に置いて乗車するので、常に飼い主がケアすることができます。
最近では愛犬と一緒に泊まれる部屋が完備されたフェリーもあり、行き先は限られるものの船旅自体を楽しみながら利用できそうです。「リスクを避ける1つの策として、まずはほかの交通機関を検討してみては」とNさんは話してくれました。
飛行機の旅で留意したいポイントは?
とはいえ、日本には離島が多く、飛行機でしか訪れることのできない場所もあります。また、時間的に制約がある場合には、短時間の移動手段として飛行機を選択することもあるでしょう。
ペット関係の仕事に携わる神奈川県在住のAさんは、実家が離島ということもあり、サン君(トイプードル4歳)と共にたびたび飛行機に搭乗しています。
Aさんは「ペットと飛行機の旅を計画するなら、まずは航空会社のホームページに記載されているペットの輸送環境や注意事項、免責事項をしっかりと確認して、預ける前に十分な検討をすることが大切」と言います。
さらに、「フレンチ・ブルドッグ、ブルドッグなどの短頭犬種は夏場に飛行機に乗せられないし、幼齢や高齢のペット、持病があるペット、また臆病で怖がりのペットは、体調を崩すリスクが高いので避けたほうがよいかもしれない。疑問や不安があればそのままにせず、航空会社に必ず確認。不足していると感じる部分は、ペットを守るために飼い主が留意する必要がある」と話しています。
保冷マットとこぼれないタイプの給水器(写真:筆者提供)
Aさんはサン君と安全に飛行機の旅をするために、下記の点に留意しているそうです。
?日頃からクレート(航空輸送に耐えられるIATA規定に適合したもの)に入ることに慣らしておく
?事前に、さまざまな音(携帯のアプリで飛行機の音、エンジンの音など)を聞かせて慣らしておく
?飛行機の旅の前にはとくに念入りに愛犬の健康状態をチェックする。少しでも気になる点がある場合は日程を変更する
ボトルに入れた保冷剤(写真:筆者提供)
?夏場は気温が上がる前の早朝の便を利用する。クレートに保冷マットを敷き、保冷剤、給水器を取り付ける(ANAでは5月1日〜10月31日の期間に希望者には保冷剤、給水器を取り付けるサービスを行っている)
?冬場は気温が上がる昼間の便を利用する。クレートに毛布を敷きペット用カイロを取り付ける(愛犬が低温火傷や誤飲したりしないように注意する)。気温が低い場合はクレートにカバーを付ける(期間により使用できない場合もある)
クレートの外に取り付けた保冷バッグ(写真:筆者提供)
?ストレスを軽減するため愛犬のニオイの付いたベッドやマットなどをキャリーバッグに入れる(タオルなど長いものは首に巻きつく可能性があるので入れない)
?おもちゃ類は愛犬が誤飲する可能性があるので入れない
?当日は時間に余裕をもって愛犬を預け、慎重に運んでもらうよう空港スタッフに声をかける(出発時間ギリギリだと空港スタッフも慌てるので、扱いが煩雑になる可能性がある)
Aさんは帰省や旅行で飛行機を利用しているヘビーリピーターですが、今までサン君が体調を崩したことは一度もないそうです。サン君がシニア期を迎えるまでは、安全に留意しながら飛行機の旅を続けたいそうです。
飼い主が空港スタッフに望むこと
筆者も愛猫と飛行機の旅をしたことがありますが、出発空港のカウンターで愛猫を預けてから、到着空港のカウンターで受け取るまで、常に愛猫のことが頭から離れませんでした。目的地に到着し愛猫の元気な姿を見て、「よかったあ」と声に出てしまうほど安堵したことを覚えています。
筆者もAさんのように安全に留意した準備をしていましたが、預けたあとは飼い主には見えない部分なので、「大丈夫かなあ」「大事に扱ってくれているかなあ」と心配でした。飼い主であれば誰もがそう思っているのではないでしょうか。
「すべての空港に、例えば動物取扱責任者やペット救急法指導員(ペットセーバー)などの資格を持った人を置き、ペットの輸送に関わるスタッフ全員がその知識を共有していてほしい。たとえ短時間であってもペットを預かる以上、それは必要なことではないか」とAさんは言います。現状は空港スタッフによってその扱いに差があり、サン君に声をかけてくれる、ていねいに扱ってくれるのはペットを飼っている、あるいは飼ったことがあるスタッフが多いとか。
前述したポポちゃんは「炎天下に20分以上置かれていた」ということですが、ペットに関する知識があればそれは命に関わる状況であると判断し、日陰に移動させて待機することでしょう。そして、空港カウンターでの預かり時、搭乗する飛行機への移動前、バルクカーゴルームへの運搬時や搭乗前にはペットに優しく声をかけ安心させるとともに、異変があればすぐに適切な対応をすることでしょう。
「ペットは生き物であるという認識や知識の有無が、ペットの命を左右することになる。ペットが安全に飛行機に乗ることはもちろん、少しでもペットにストレスがかからないように最大限の工夫と愛情あふれる配慮をしてほしい」とAさんは話してくれました。
客室に搭乗できるサービスもあるが…
実はスターフライヤーでは、羽田と北九州線の往復全便でペット(小型犬・猫のみ)と同乗できる「FLY WITH PET!」というサービスを提供しています。
クレートに入れた状態で飼い主の隣の座席に同乗させるため、ペットの航空料金は5万円と高額。JALやANAの貨物室での預かり輸送は5000〜7000円程度なので、その約10倍にもなります。常にペットに寄り添うことができるので飛行機輸送のリスクは軽減できますが、なかなか手が出ないのが現実。せめて人と同じくらいの料金設定にしてほしいと望む飼い主も多いようです。
飛行機の旅を選択するか、ほかの交通機関の旅を選択するかは飼い主次第です。いずれにしても事前にその安全性を十分に確認し、ペットの年齢・性格・健康状態などを考慮して旅のプランを練る必要がありそうです。
(阪根 美果 : ペットジャーナリスト)