新型コロナウイルス感染症のワクチン接種がすすむ中、「絶対ワクチン接種をすべき」「危険だから絶対に打たない方がいい」など、意見を押しつける人に困っている人がいるようです。こうした面倒な人をかわすにはどうしたらよいのでしょうか。精神科医の井上智介さんがアドバイスします――。
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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tomwang112

■「自分の意見を押しつける人」の心理

「ワクチン派」対「反ワクチン派」、どちらの考えを持つのも自由なので、それ自体に全く問題はありませんが、考えを人に押しつけてくるとなると考えものです。自分の正当性を過剰にアピールされると、本当に面倒ですよね。ワクチンに限らず、相手の趣味嗜好を全く気にせず、自分の好きな店や音楽などを一方的に押しつけてくる人と根本は同じです。

こういうタイプの人は、「自分が絶対に正しい」と思い込んでいますが、それが思い込みとは全く気づいていない。そういう厄介な人の心理構造としては、次の3つが考えられます。

(1)支配欲が強い

自分の考えを相手に押しつけ、相手がそれを受け入れると、支配欲が満たされて、「相手をコントロールできた」という自己効力感が高まります。

ただ、誰もがすんなり自分の意見を肯定してくれるわけではありません。否定されたとしても、支配欲を満たしたいがためにしつこく考えを押しつけてきて、ついには「あなたのために教えてあげているんだよ」と言い始めます。本当は自分の支配欲を満たしたいだけなのに、「あなたのために言っている」という理由を持ち出すパターンは非常に多いので、こうした言動の裏にある心理構造を知っておきましょう。

(2)承認欲求を満たしたい

自分の考えを押しつけてくる人は、「自分の正しさをわかってもらいたい」「相手の知らないことを自分が知っているのだと認められたい」という欲求を持っています。「あなたはすごいね」「あなたの言葉で助かったよ」と言ってもらいたがっているのです。つまり、根底には「認められたい」という強い承認欲求があります。

(3)自己愛の保護

もともと自分の意見を押しつける人は、自分の意見に自信があるので、自己評価がかなり高い。その背景にあるのが、強い自己愛です。つまり「自分は特別な人間だから、評価されて当然」という思いを持っているのです。

ですから、自分の意見が少しでも否定されると、「低く見られた」「自分を全否定された」と思い込む。そして、周りから孤立するのではないかという恐怖心におそわれて、さらに自分の意見を周りに押しつけて、仲間をつくろうとします。こちらが否定すればするほど自分の意見を押しつけてくるのは、自己愛を守るための行動なのです。

■相手の承認欲求を満たしつつ逃げる

意見を押しつけられる側の人は、本当に大変です。しかし、自分の考えを押しつけてくる人の考えを、変えることは非常に難しいですし、ものすごいエネルギーを取られてしまいます。変えようとするのは時間のムダと言っていいでしょう。ですから、変えようとするのではなく、「どう逃げるか」を考えた方がよいでしょう。

ただ、完全に逃げて、これまでつくってきた相手との関係をすべて終わりにしてしまうのはもったいない。ワクチンに対する意見を押しつけてくる以外は、いい人なのかもしれませんし、職場の上司や同僚など、関係を断つことができない相手という場合もあるでしょう。

相手の承認欲求を軽く満たしつつ、徐々に逃げるのが、有効なやり方だと思います。

まずは「○○さん、すごいですね」「ずいぶん勉強していますね」などと言って、相手の承認欲求を軽く満たしたうえで、逃げる準備にとりかかりましょう。

■他人のせいにしてしまう

そこでおすすめなのが、逃げる理由に、他人を使うことです。たとえばワクチンに反対する人に対しては、「夫が接種しろとしつこく言うので、仕方なく打つことになった」とか「ワクチンを打たないと親が帰省させないと言うので、しょうがなくて」など。接種を強要する人に対しては、「友だちが接種したら、副反応でとても苦しそうだったから、今はちょっと様子を見ている」などです。

この程度なら、多少のウソが入っていてもかまわないと思います。コミュニケーションを円滑に行うためには許される範囲でしょう。人間関係を円滑にするためだと割り切って、相手の承認欲求を満たしつつ、うまく逃げるのがベストではないでしょうか。

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■人はなぜ陰謀論に影響されてしまうのか

ワクチンに反対する人の中には、「副反応が心配だから」という人もいますが、陰謀論に影響された人も多くいるようです。なぜ、新型コロナに関する陰謀論が広がっているのでしょうか。

新型コロナウイルス感染症は、比較的最近に突然広がり、今も未知の部分が多い病気です。そしてそのワクチンも、最近開発され、使われるようになったもの。病気に対してもワクチンに対しても、不安や恐怖感を持つのは自然なことでしょう。

わかりにくいものを、わかりにくいままにしておくのは、余計に不安です。未知のものを、未知のままにしておくのは怖い。誰か、何でもいいので未知のもの、わかりにくいものを、シンプルに説明してほしい。そうした心理から、陰謀論にすがってしまうのです。

さらに、このように不安にかられているときは、情報を収集するときも、つい自分の考えをサポートしてくれる情報を集めがちです。特にネットの情報は、一度特定の記事を読むと、似たような内容の記事ばかりを勧めてくるという仕組みになっているので、異なる意見の記事が目に入りにくくなります。

こうした仕組みは、例えば一度気に入ったデザインの靴を見たら、似たようなデザインの靴の情報を見せてくれたりするので、便利な時もあります。しかし、もし陰謀論にのっとった意見の記事を見ると、どんどん似たような陰謀論の主張の記事ばかり目に入るので、どんどんゆがんだ主張に影響されてしまいます。

このような傾向は、コロナウイルスやワクチン接種に限りません。普段から、あえて自分と違う意見を調べてみようという姿勢が、現代のネット社会で生活するうえでは必要だと思います。

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井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医
島根大学医学部を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急科・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び、2年間の臨床研修を修了。その後は、産業医・精神科医・健診医の3つの役割を中心に活動している。産業医として毎月約30社を訪問。精神科医・健診医としての経験も活かし、健康障害や労災を未然に防ぐべく活動している。また、精神科医として大阪府内のクリニックにも勤務
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(産業医・精神科医 井上 智介 構成=池田 純子)