「人と話すのが苦手」という悩みは、どう解消すればいいのか。「Yahoo!アカデミア」学長の伊藤羊一氏は「私も数年前まで『自分は社会になじめない』と思っていた。でも、四苦八苦するうちに、自分を動かすノウハウが溜まっていった」という――。

※本稿は、伊藤羊一『ブレイクセルフ 自分を変える思考法』(世界文化社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Mongkolchon Akesin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mongkolchon Akesin

■数年前まで「社会になじめない」と思っていた

僕がコミュニケーションを苦手としていて、人見知りであるということも繰り返し言っている。

もっと根本的な話をすると、

「社会になじめない」
「社会に受け入れられていない。疎外されている」

という感じが、僕には常にあった。

これは、僕にとっては深刻な悩みだったけれど、決して特殊な悩みではないんじゃないか、と思う。程度の差こそあれ、誰でも感じることがあるんじゃないだろうか。

この感覚は、学生だった頃から、ほんの数年前まで続いていた。今でも、根っこの部分は残っている。

社会になじめない。どうも疎外されている感じがする。それはもちろんつらいことだ。だから、どうにか仲間に入れてほしい。

仲間に入れてもらうためには、何かをやらないといけない。

10年ほど前のこと。前述したように、ソフトバンクアカデミアに参加することになって、200人くらいの参加者が集まったときのことだ。

僕は、そこで名刺を配りまくった。もちろん、仲間に入れてもらいたいからだ。

参加者の年齢はまちまちで、自分より年下の人もたくさんいた。その中で40歳を超えていた僕は、「伊藤でございます」と頭を下げて名刺を配りまくった。

初対面の人がたくさんいる場所で、泰然自若としていられる人は羨ましいと思う。自然に近くの人に話しかけられて、話し相手がいないときにはさりげなくひとりでいられる。わかりやすく言うと、パーティーが得意な人だ。

■居心地が悪いから、ひたすら名刺を配った

僕はその正反対のタイプだ。初対面の人と話すのが苦手で、そのくせ、ひとりでいると「誰にも話しかけられないかわいそうな人」と見られやしないか……と自意識過剰になってしまう。こういう場はとにかく居心地がわるい。といって、まわりの人と気の利いた会話をすることもできない。そんなネタも持っていない。

だったら、とにかく挨拶するしかないだろう――そう思って、僕は名刺を配って回った。200人はいた参加者に、片っ端から「伊藤でございます」と挨拶していった。

結局ソフトバンクアカデミアでは孫さんに直接何回もプレゼンをすることができたし、仲良くなった人もたくさんいた。

後になってよく言われたのは、「あの時、伊藤さんはすごかったよね」ということだった。

「え? 何が?」
「最初に集まったとき、あんなにいろいろな人にペコペコしながら『伊藤でございます』って挨拶するって、ベテランなのにすごいよね」

これは意外な評価だった。別に、すごくない。僕には、疎外されるんじゃないかという不安があって、知り合いになるとか友達になるといったことに極端に恐怖心がある。だから、できることを――この場合は「伊藤でございます」と名刺を配ることを、一生懸命やっただけだ。

■ヤフーに入った時も、とにかく全員に挨拶をした

考えてみると、その後、48歳でヤフーに入ったときも、僕は同じことをしていた。

このときは、宮坂学社長(肩書きは当時。以下同)に声をかけられて入社することになった。Yahoo!アカデミアでのリーダー開発を任されることになっていたので、「鳴り物いりで入社してきた」という印象もあったらしい。

けれども、僕は相変わらずだった。

入社初日にはオリエンテーションを受けて、2日目。出社するとやることがない。そこで僕は、フロア中をまわって新人からベテランまで、とにかく全員に挨拶をした。「伊藤でございます」。

入社してすぐなんて、やることはない。知り合いもいないまま、手持ち無沙汰で座っているなんて……「あの人、なんでぼーっと座ってるんだろう」と笑われたらどうしよう。恥ずかしい。実に苦痛だ。だから、どうせ暇なんだし、というわけで、フロア中をまわって挨拶したのだ。

翌日も、その翌日も、僕は会社中を挨拶にまわった。前の章で言ったように、「どんな仕事をなさっているんですか?」と会う人、会う人に聞いたのもこのときのことだ。

■恐怖心と劣等感が、壁を破る力になった

それから1年ほどして、だいぶヤフーにもなじめた頃、役員や同僚の本部長たちと飲みに行くことがあった。

そのときも、「すごかったですよね」と言われた。「羊一さん、入ってきたときに、もうそこら中に……若い者からベテランから、全員と話していましたよね」と。

「ええ、してました。よく覚えていますね」
「そりゃ、覚えていますよ。あんなことをしている人なんて、はじめて見ましたから」

普通は、僕のように「鳴り物いり」で入ってきたら、堂々と座っている印象があったそうだ。それなのに、ペコペコ頭を下げて回っている僕を見て、びっくりした、と。

写真=iStock.com/vkyryl
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/vkyryl

そうか、確かにみんなはしないかもな……と思った。

「僕は恥ずかしいっていうか……怖いからやっていただけですよ。それに、その人が新人かベテランかなんてわからないし」と正直に打ち明けたのだが、「いやー、それでも普通はできないですよ」としきりに感心された。

そこで気づいた。自分の恐怖心や劣等感が、壁を破る力になったんだと。

種をまくには、行動しなければいけない。でも、行動するのは怖い。僕の場合は、根っこにある別の恐怖――「自分は社会になじめない」「仲間に入れてもらえないかも」という恐れが、壁を破るための後押しをしてくれた、ということだ。

Seed&Water
あなたが、社会に対して感じている恐れはなんだろうか(それは僕と似ているかもしれないし、似ていないかもしれない)。
自分の恐れを、言語化してみよう。
それは、壁を破る力になるかもしれないから。

■ワークショップがあるだけで、勉強会は「無理」と思う

恐怖心をうまく活用して行動し、壁を破った……と言えばちょっといい感じに聞こえるけれど、実際、そんなにかっこいい話ではない。

基本的には、僕は怖がりで、怖がりゆえに行動できないことが多いのだ。

たとえば、興味のある分野の勉強会があるとする。講師の著作も読んだことがあり、とてもためになった。参加したいな、と思う。

でも、その勉強会の予定を見ると、後半に「ワークショップ」と書いてある。

ワークショップってことは、みんなで議論をするってことだよな?

議論の前に「アイスブレイク」とか言って、隣の人と「どこから来たんですか?」なんて会話しなければいけないんだよな?……。

想像しただけで、「無理」と思ってしまう。初対面の人と話すのが恥ずかしいのだ。

ソフトバンクアカデミアだって、はずみで申し込んだものの、最初に面接があるとわかったので、それが嫌で行くのをやめようとした。そのときは家族に「バカじゃないの。申し込んだんだから行ってくればいいじゃない」と言われて、なんとか面接に行った。

写真=iStock.com/Jonathan Erasmus
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jonathan Erasmus

1回目の面接は通ったけれど、すぐに2回目の面接がある。ここでまた怖くなった。2回目の面接の日程を調整してもらうために、運営スタッフに連絡しないといけないのだが、これがどうしてもできない。

このときは、「大丈夫ですか? まだ間に合いますよ」とソフトバンクから親切な連絡が来たので、そこまでしてもらったのだから……というので面接を受けることができたのだ。

■四苦八苦するうちに、自分を動かすノウハウが溜まっていった

僕は極端に怖がりで、動けない人間なのだ。

でも、仕事をしていれば動くべきときには動かざるを得ない。動かないとまずいこともある。だから、動けない自分をなんとか動かすために、あれこれと四苦八苦する。そうこうするうちに、自分を動かすためのノウハウが溜まっていって、それを『0秒で動け』(SBクリエイティブ)という本に書いた。

僕は、0秒で動ける人だからこういう本を書けたのではなく、動けない人間だから書けたのだ。

ここでは、ヤフーにはじめて出社する前にも、やっぱり僕が「怖い、行きたくない」という状況に陥ったことを話しておきたい。入社2日目からみんなに挨拶をして、結局うまくいった、という話には前段階がある。

48歳で、新しい環境で働き始めるのは怖かった。

特に、宮坂社長に誘われて入社して、社内のリーダー開発を担当することになっていたわけだから、プレッシャーも強い。

「俺、ヤフーに入るんだよな。で、Yahoo!アカデミアっていうのをやるんだよな」と、改めて考えると、不安で仕方がない。社内では「(社長の)宮坂さんが誘って、引っ張ってきた人らしいよ」なんて言われてるはずだ。どうしよう。

■怖いからこそ、本を読み漁り、情報を集められた

怖いからといって、出社しないわけにもいかない。入社してからも怖い怖いとばかり言っていても仕方ない。じゃあ、どうすればいいんだ、と考えた。

とりあえず、ヤフーのリーダーを育成するからには、どんなリーダーが求められているか探ろうと思った。バカみたいだが、ここで僕は「待てよ。ヤフーってインターネットの会社だよな」と改めて認識した。これまではプラスにいて、インターネットビジネスのことはよくわからない。そこで、尾原和啓さんの『ITビジネスの原理』(NHK出版)という本を必死で何回も読んだ。

さらに、リーダー開発の仕事もやったことがないから、関連書を読み漁った。もちろん、ヤフーの現状についても情報を集めた。

そうすると、「今、この会社で求められているのはこういうリーダーだ」という仮説を立てることができた。仮説があれば、人と話せる。

ここまでやってようやく、なんとか出社初日を迎えることができた。

そして、ドキドキしながら挨拶まわりの1週間がはじまった。

「どんな仕事をされているんですか?」という質問に加えて、「ヤフーで求められているリーダー」についての仮説があるから、それをネタにして会った人と話すことができる。「こんな感じですか?」「なるほど、そういうことなんですね」という会話が成り立つわけだ。

■他人の目には「伊藤のやり方はすごい」と映った

幸いにも、挨拶まわりをしながらいろいろな人と話していくうちに、「どうも自分の仮説は正しい」という感触を得ることができた。

伊藤羊一『ブレイクセルフ 自分を変える思考法』(世界文化社)

そこで、Yahoo!アカデミアに所属する30人くらいにアポをとった。そして、1人1時間くらいかけて、その仮説に基づいてヒアリングをしていった。

リーダー開発について、「私はこう思うんだけど、現状だとこういうところが足りないと思いませんか?」とか、「ヤフーだと、こういうやり方はどうですか?」と、さらに仮説をぶつけては精度を上げていく。

これもやっぱり、後で「入社早々、30人にアポをとってヒアリングをする人はいない」と言われた。「イケてるコンサルタントの仕事の進め方ですね、あれは」とも。

言われてみればそうかもしれないけれど、僕としてみれば、仮説を立てなければ怖くて出社もできない。人と会って話さなければ何をしていいかわからないし、そうすると居心地の悪いままぼんやりと座っていなければいけないことになる。ただ怖いからやっただけだ。それが、他人の目には「伊藤さんのやり方はすごい」と映ったわけだ。

Seed&Water
あらためて、もう一度。
仕事をしていくうえで、あなたが恐れていることはなんだろうか?
なにが怖いだろうか?
その恐れにどう対処するか。
それが、あなた独自の「表現」のスタイルを生み出すかもしれない。

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伊藤 羊一(いとう・よういち)
ヤフー コーポレートエバンジェリスト Yahoo!アカデミア学長
日本興業銀行、プラスを経て2015年4月にヤフー入社。企業内大学「Yahoo!アカデミア」の学長としてヤフーの次世代リーダー育成を行う。グロービス経営大学院客員教授、株式会社ウェイウェイ代表として、ヤフー以外でも様々な活動に従事する。近著に『1分で話せ―世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術』がある。
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(ヤフー コーポレートエバンジェリスト Yahoo!アカデミア学長 伊藤 羊一)