経済産業省の試算では、後継者問題が解決しない場合、2025年頃までに最大約650万人の雇用と約22兆円分のGDP(国内総生産)が喪失されるとしている。地域経済の衰退や雇用喪失のインパクトが大きいことから、後継者問題は喫緊の課題として国や県、地域金融機関などが中心となってプッシュ型の事業承継支援を積極的に推し進めている。
日本企業の後継者不在率、低下傾向で推移 事業承継適齢期の60代では過去最低を記録
約27万5000社(全国・全業種)の後継者不在状況は、全体の約65.2%に当たる約18万社で後継者不在だった。
社長年代別では、前年(2018年)と比べ全ての年代で後継者不在率が低下した。特に、「40代」以降の後継者不在率は調査開始以来で最低を記録したほか、「60代」では初めて後継者不在率が50%を下回るなど低下傾向が強まった。
地域別では「北陸」は3年ぶりに、「関東」「中部」は2年連続で低下したが、「四国」・「九州」は4年連続、「東北」は3年連続で上昇した。都道府県別では、「沖縄県」が全国平均(65.2%)を大幅に上回る82.9%で全国トップ。しかし、2016年(86.2%)をピークに3年連続で低下した。このほか、「鳥取県」(76.0%)は2018年から3.7ポイント上昇して全国2番目の高水準。2018年から低下したものの「山口県」(74.7%)、「広島県」(73.1%)、「島根県」(70.9%)など、上位10県中4県が中国地方で占められた。このほか、「秋田県」(69.0%)は3年ぶりに、「大分県」は(68.8%)調査開始以降初めて全国上位10番目に位置する高水準となった。「和歌山県」(43.0%)は3年ぶりに全国で最も低くなった。
この結果、2018年と比べて後継者不在率が低下した都道府県は28、上昇は19だった。特に関東では1都6県すべてで前年比低下、中部は「岐阜県」を除く5県、近畿も「滋賀県」を除く5府県全てで前年から低下した。主に関東〜近畿にかけて後継者不在率は低下した。
同族承継最多も割合は年々低下、代わって台頭する「内部昇格」
2017年以降の事業承継が判明した全国約3万4000社について、先代経営者との関係性(就任経緯別)をみると、2019年の事業承継は「同族承継」により引き継いだ割合が34.9%に達し、全項目中最も高かった。しかし、2017年(41.6%)と比較すると6.7ポイント低下、2018年からも4.7ポイント低下するなど、「同族承継」による事業承継割合は年々減少傾向で推移している。
一方、「内部昇格」による事業承継は33.4%となり、2018年(31.6%)から1.8ポイント上昇、「同族承継」に次ぐ割合となった。社外の第三者が就任した「外部招聘」は、2019年は8.5%となり、2018年(7.4%)から1.1ポイント上昇した。
この結果、国内企業の事業承継は総じて親族など同族間での事業引き継ぎから、幹部社員など社内外の第三者人材を経営トップに据える傾向が加速している。特に、内部昇格による代表者交代では豊富な業界経験や経営経験を背景に、50代や60代の幹部人材が社内登用により社長に就任するケースが多い。
このほか、2019年は「創業者」への事業承継が4.8%を占め、2018年から0.3ポイント上昇した。創業者への事業承継は、特に70代や80代など高齢社長による事業承継が多くみられる。主だった例としては、一度社長職から代表権のない会長職などに退任し、経営第一線から退いたものの、後継候補の育成や経営幹部人材の不足などから、再度代表職に復帰するケースがある。
後継候補は「子供」が最多、創業者以外で進む後継者の「ファミリー化」
後継候補が判明する全国約9万5000社の後継者候補の属性を見ると、候補として最も多いのは「子供」の40.1%。次いで「非同族」の33.2%が続いた。
承継を受けた社長における先代経営者との関係別(就任経緯別)に、後継者候補の属性をみると、「子供」を後継者候補とする企業が多いのは「創業者」(59.4%)と「同族承継」(49.6%)。
他方、従業員など社内外の第三者である「非同族」を後継候補に位置づけているのは「内部昇格」と「外部招聘」に多く、2018年から傾向は変わらない。ただ、「創業者」では「非同族」への事業承継=脱ファミリー化を考える企業の割合が2018年時点から上昇したのに対し、「同族承継」「内部昇格」「外部招聘」などはいずれも「配偶者」や「子供」=ファミリーへの事業承継割合が上昇した点が特徴。
年代別に見ると、60代以降の社長では後継候補として「子供」を選定するケースが多い一方、50代以下の社長では「親族」や「非同族」を後継候補としている企業が多く、従来の傾向に変化は見られなかった。
M&A型の事業承継が浸透、承継先企業に求められる”目利き力”
今回の調査では、2019年の後継者不在率(全国・全業種)は65.2%となり、2018年から1.2ポイント低下した。事業承継時期に差し掛かる年代の後継者不在率が依然高位に留まっている点は課題として残るが、官民による一連の後継者不在対策が一定の効果を発揮したものと見られる。ただ、事業承継では後継候補の選定から育成、実際の就任までは中長期的かつ計画的な準備が必要となるため、経営余力のない中小企業ほど、事業承継に対して経営資源を割きにくい。そのため後継者への引き継ぎの準備が間に合わず、意図しない形で経営継続を断念したケースは多い。
他方で、近年は幹部社員に承継させる「内部昇格」や、経験豊富な社外の第三者を経営人材として迎え入れる「外部招聘」による事業承継の事例が目立ってきた。「利尻ヘアカラー」などヘアケア用品で全国的な知名度を誇るピュール(現:カラー、福岡)が、発行済み全株式をファンド運営のユニゾン・キャピタルに譲渡。大企業でも、東証一部上場の化粧品大手であるファンケル(神奈川)がキリンHD(東京)からの出資を受け入れ、経営への影響力を友好的に譲渡した。こうしたケースは、経営者が会社の将来を第三者に託した点が特徴で、事実上の後継者問題対策の一つとの指摘もある。技術力などの経営資源を有するものの後継者候補がいない企業で、企業価値を高めたうえで事業承継を実現するという手段が、後継者問題解決の選択肢として有効たり得ることを証明した一例と言える。
今後も企業による後継候補人材の育成といった自助努力のほか、国や自治体によるプッシュ型の公的支援、利便性の高い事業承継制度拡充など、後継者問題への解決に向けた取り組みが引き続き求められる。ただ、企業価値を認めた第三者に経営を委ねる「M&A方式の事業承継」は事業価値に着目する「事業性評価」=目利き力が特に承継先企業へ求められるものの、後継者問題を解決に導く有用な選択肢の一つとして今後浮上するものと見られる。