安全基準の厳格化で、原発建設はいつ、どんなコストが生じるかわからない、利幅が薄く、リスクも極めて高いビジネスになった。アメリカのGE、ドイツのシーメンスといった巨大企業が次々と原発ビジネスから撤退しているのは、そのリスクを嫌ってのことだ。
だが、東芝は原発ビジネスに執着し、1度ならず2度も巨額損失を出し、経営危機を招いてしまった。完全な判断ミスだ。ただ、原発ビジネスに前のめりなのは東芝だけではない。東芝とともに「原発御三家」と目される日立、三菱重工も力コブを入れている。
日立はイギリスやリトアニアで、三菱重工はトルコで原発建設の受注に乗り出し、三菱重工はフランス政府の要請で、実質的に経営破綻している原発大手のアレバ社に巨額の出資までしようとしている。
そして、そんな日本企業を安倍政権は熱心にサポートしている。原発プラントの輸出を、武器輸出と並んでアベノミクス成長戦略の柱にしているからだ。
欧米の有力企業が原発ビジネスから手を引く一方で、日本だけが官民一体でさらに大きな賭(か)けに出ようとしている。その意味するところは「ババ抜きゲーム」と化した世界の原発ビジネスで、日本がジョーカーを押しつけられているということだ。
その愚に日本企業、そして安倍政権は早く気づかなくてはいけない。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)