通信各社の経済圏と人々の意識について考えてみた!

みなさんはポイントカードや電子マネー決済のポイント利用の可否を気にしながら買い物をするでしょうか。かくいう筆者はポイント利用に非常に疎く、ポイント2倍デーなどのキャンペーンにもあまり食いつかないタイプであるため、恐らく相当損をしているのだろうなぁと感じることが多々あります。

そんなポイントサービスや決済関連のエコシステムを「○○経済圏」と呼ぶようになって久しい今日この頃、その多くは通信会社を中心に構築されています。これは現代の電子決済システムの根幹をモバイル通信が担っているからですが、ここ数年で通信会社の経済圏とユーザーの関係や意識が大きく変わってきています。

人々は何を理由に経済圏を選び、どのように使いこなしているのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は通信会社各社が構築する経済圏の現在について考察します。

as-298-002
あなたはどの経済圏を使っていますか?


■経済圏の構築に注力する通信会社
通信会社の経済圏と一言で言っても、あまりピンとこない人もいるかも知れません。

例えばNTTドコモの場合、電子マネー決済システム「d払い」が経済圏の中心であり、このd払いを利用できるレストランやコンビニといった各種小売業との提携が重要になります。

レストランで食事をした際にd払いで支払いを済ませるとポイントが貯まり、その貯まったポイントはNTTドコモで契約しているスマートフォン(スマホ)などの月額料金の支払いに充当することができます。

このため、「どうせ買い物をするならd払いを使えるお店の方がいい」、「スマホの契約がドコモだから決済もd払いにしておこう」、このようにユーザーを誘導することで、通信会社としては「うちと契約すればお客が増えますよ」と各種事業者へ提携を勧めるのです。

as-298-003
通信料金の支払い設定でポイントを利用する設定にしておくことで自動的にポイントが消費される


もちろんユーザーへの訴求や勧誘も全力です。例えば楽天モバイルでは楽天ポイントが利用できますが、楽天ポイントは期間限定でのポイントアップキャンペーンやポイント還元セールを大量に用意し、ユーザーをより積極的且つダイレクトに提携企業の店舗へと誘導します。

一見えげつなさすら感じるほどの「客引き」ですが、ユーザーとしてはあまりデメリットもありません。純粋にポイントの多い店舗を利用し、貯まったポイントは買い物や通信料金の支払いに充当するだけで良いのです。

この「非常にお得だがデメリットは少ない」という部分が経済圏の最重要ポイントです。とにかく利用するほど経済的な負担が減っていくというシステムを維持することで、ユーザーが他の経済圏に流れることを防いでいるのです。

as-298-004
楽天グループのポイント攻勢は凄まじい。利用できる店舗やサービスの豊富さも魅力だ


■人々の意識を一気に改革した「インフレ経済」
では、ユーザーはこういった経済圏をどの程度活用し、どのように評価しているのでしょうか。

MMD研究所が8月に公開した「2023年7月経済圏のサービス利用に関する調査」によると、「経済圏に対する意識」という項目では、ポイントサービス単体ではなく経済圏として意識してポイントサービスや決済サービスを利用しているかという設問に対し、70.2%の人が「意識している」と回答しています。

興味深い点は、この「意識している」という数値がほぼ一定の割合で、しかもかなりの勢いで上昇し続けている点です。

詳細は後述するグラフを見ていただければ一目瞭然ですが、調査日時から逆算すると、分かっている範囲(2022年4月から)でも月平均で1.5%近くも上昇しているのです。

わずか15ヶ月の間に経済圏への人々の関心が20%以上も上昇するなど、通常では考えられない勢いです。

as-298-005
人々の経済や社会システムへの意識がここまで一気に変化することは非常に稀だ


この要因として考えられるのはただ1点、円安を引き金とした異常な物価上昇です。

昨年春頃から始まった給与の上昇を伴わない(あるいは上昇幅が追いつかない)物価上昇は確実に家計を直撃し、今尚各家庭を苦しめています。

当然そのような中で人々が考えるのは節約です。食費も電気代も異常な上昇を続ける中、如何にして出費を抑えるのかを必死に考えた結果、辿り着いた答えが「ポイントを上手に活用しよう」だったのです。

各通信会社もこの点を見逃すはずはなく、各企業との提携を強化し、今まで以上にお得なポイントキャンペーンや特典サービスを次々と打ち出すことで顧客獲得に奔走しました。

as-298-006
ピンチこそチャンス。通信各社は経済圏強化を推進する


■満足度は高いがNPSが最低!? 数字に隠された人々の意識
MMD研究所の調査によれば、2023年7月の時点で通信会社が提供する経済圏の中でも最も意識されているのが楽天経済圏で46.0%と圧倒的に高く、ついでドコモ経済圏(17.7%)、PayPay経済圏(16.2%)、au経済圏(10.9%)、イオン経済圏(9.1%)となっています。

楽天(楽天モバイル)の場合、他の通信会社とは異なり元々強固な経済圏を構築することを目的として経営戦略が組み立てられ、その経済圏を動かす原動力として通信事業が必要であったために仮想移動体通信事業者(MVNO)としての楽天モバイルが生まれ、さらなる強化を目指し移動体通信事業者(MNO)としての認可を得たという経緯があります。

そのため、まず通信事業ありきでその通信事業のユーザーを増やし固定化するために経済圏構想を打ち立て戦略化した他の通信会社とはそもそものスタンスが違うことから、経済圏への注力度合いも大きく異なり、それがユーザーからの印象や意識にも反映されたものと思われます。

as-298-007
楽天経済圏の強さがこの調査からも分かる


経済圏に対する満足度を見てみると、いずれの通信会社の経済圏も「満足」が20%台前半、「やや満足」が50%前後もあり、経済圏への関心や意識の高さに関わらず、総じて「かなり満足度が高い」という印象を受けます。

as-298-008
「不満」、「やや不満」と答えた人が合計しても5%にも満たないという点も驚異的だ


ところが、ここでも非常に興味深く面白い数字が見て取れます。

これだけの高い評価を貰っている各社の経済圏だけに、NPS(ネット・プロモーター・スコア/顧客推奨度)もさぞかし高いのだろうと調べてみれば、利用している経済圏を他人に勧めたいと考える「推奨者」はほとんどが20%以下に留まり、一方で勧めたくないと考える「批判者」(非推奨者)はほとんどが40%前後にも上るのです。

as-298-009
NPSスコアがまさかの大惨敗!? これは一体……


自身が利用する上では非常に満足度が高く、利用への意識や関心も非常に高いのに、他人への推奨度では圧倒的なマイナスポイント。一見すると信じがたい数字ですが、実はこれも「通信会社の経済圏である」という点を考慮すると1つの仮説が立てられます。

それは、人々がまだ通信契約と経済圏を切り分けられていない、あるいは切り分ける必要がないと考えている、という仮説です。

通信会社が提供する経済圏は、かつて通信契約を必須としている場合がありました。それが数年前から通信契約を必要としない方向に変更され、現在では通信契約を必須とする経済圏はありません。

変更された理由は総務省による消費者の流動化への要請および指導であったり、他通信会社を契約している人も取り込むための施策であったりとさまざまですが、結果として人々は現在でも自身が契約する経済圏以外をメインに利用している人はあまりいないように感じます。

つまり「自分としては契約している通信会社の経済圏に非常に満足しているが、他人へ勧められるかと言われるとその人の契約している通信会社やポイント利用の環境があるため安易に勧められるものでもない」と考えている可能性があるのではないかと推察するのです。

as-298-010
実際、ソフトバンクユーザーにau PayやPontaポイントを勧める人は少ないだろう


前述のように、各経済圏のポイントは通信料金の支払いなどに充てることができます。物価上昇によって節約への意識が高まる中、貯めたポイントは無駄なく使いたいという意識も強いはずです。

そのため、この調査でのNPSは驚きでもあり、また考察するほどに納得する数字でもあったのです。

as-298-011
スマホの機種は人に勧められても、通信会社とポイント経済圏は人ぞれぞれ


■経済圏を賢く活用して厳しいインフレを乗り切ろう
厳しいインフレは現在も止まらず、今秋にも食料品から衣料品、鉄道運賃、電気代など、あらゆるものの値上げが既に決定されています。食品・飲料に限定しても6500品目以上に上るとも言われています。

このような状況だけに経済圏への関心はますます高まり、より安く、より多くのポイントが貰えるサービスに人々は押し寄せます。

筆者の懐事情も決して楽ではありません。これまでのように無関心を決め込んでいるわけにもいかず、メインの通信回線をLINEMOにしたこともあり、そろそろ真面目にPayPayでも使ってみようかと検討している最中です。

たかが1ポイントされど1ポイント。1ポイントを笑うものは1ポイントに泣く。そんな時代になってしまったのかもしれません。

as-298-012
どうせ支払うお金なら、少しでもお得に使いたい


記事執筆:秋吉 健


■関連リンク
エスマックス(S-MAX)
エスマックス(S-MAX) smaxjp on Twitter
S-MAX - Facebookページ
連載「秋吉 健のArcaic Singularity」記事一覧 - S-MAX
このエントリーをはてなブックマークに追加

タグ :