通信会社とフードデリバリー系サービスについて考えてみた!

NTTドコモの「とあるサービス」が6月30日に終了しました。そのサービスとは当ブログメディアでも紹介していたようにフードデリバリーサービスの「dデリバリー」です。

dデリバリーの終了に「コロナ禍で巣ごもり需要が増加しているはずのに、何故?」と思われた方も多いでしょう。実際、この業界の大手である「Uber Eats」や「出前館」などは業績を大きく伸ばしており、業界的にも十分伸びしろが期待できる状況でした。

一方、NTTドコモにはdデリバリーと似たようなもう1つの宅配サービス「dミールキット」があります。こちらは料理や惣菜を宅配するのではなく、食材やレトルト食品など、自宅で調理が必要な素材を宅配するものです。

通信会社であるNTTドコモが、一見すると畑違いにも思えるフードデリバリーや食材宅配サービスに注力し続ける理由とは一体何でしょうか。そしてそれはNTTドコモに特異的な動きなのでしょうか。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はNTTドコモのサービスを中心に、通信会社とフードデリバリーおよび食材宅配サービスについて考察します。

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需要が見込めるはずのサービスを敢えて終了する背景にあるものとは


■複雑に絡み合うdデリバリー終了の舞台裏
はじめにNTTドコモのフードデリバリーおよび食材宅配サービスの変遷について簡単におさらいしておきます。

NTTドコモがdデリバリーを開始したのは2014年5月です。前述したフードデリバリー大手のUber Eatsが日本国内でサービスを開始したのが2016年ですので、それよりも2年早くスタートしたことになります。

当時、NTTドコモは「選べる店舗数は国内最大」とアピールし、同社のポイントサービスである「dポイント」や決済サービス「ドコモ払い」などとの連携により、いつでもどこでもスマートフォン(スマホ)から料理を注文できる手軽さをセールスポイントとしていました。

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同社のポイント経済圏を動かす重要なサービスの1つでもあった


しかし、残念ながらそのサービスは2021年2月に終了時期の発表が行われました。実はこのサービスの終了は唐突なものではなく、業界関係者には2019年頃から予想されていたものです。

というのも、そもそもdデリバリーは前述した出前館との提携によって運営されていたサービスであり、その出前館はdデリバリーを開始後にLINEの持株会社となり、そしてLINEは2019年にソフトバンクグループ傘下のヤフーとともにZホールディングスへの経営統合を発表し、2021年に経営統合されました。

つまり、2014年の時点ではどこの通信会社とも対等な独立系サービスであった出前館が、2016年のLINEの仮想移動体通信事業者(MVNO)への参入(LINEモバイル)を経てソフトバンクグループに組み込まれたことで、経済圏(エコシステム)サービスとして不整合が起きてしまったのです。

そのため、2019年の時点でこの事態を予測・想定していたNTTドコモは、フードデリバリー系の新たなサービスとしてdミールキットを用意してきたのです。

dデリバリーとまったく同じ業種・業態を選択しなかった背景には、突然のサービス終了は業務提携やサービス継続性の観点から難しく緩衝期間が必要であったことや、同業サービスが並列で行われるデメリットと混乱を回避する目的もあったものと推察されます。

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dミールキットでは食材宅配サービス大手のOisix(オイシックス)と提携した


■食を制するものは経済圏を制す
NTTドコモだけではなく、そもそもLINEが出前館の持株会社であった点も含め、通信関連企業がフードデリバリーや食材宅配サービスに注目し続けるのには理由があります。それは、現在のスマホ文化(スマホアプリ)との相性の良さに加え、人々の生活基盤を押さえられる、という点です。

人間らしい生き方を示す基本的なものに「衣・食・住」がありますが、その中でも「食」は生命の根源でもあり、私たちが絶対に欠かすことのできないものです。それだけに、食の習慣や文化に根付いたビジネスモデルやサービスには絶対的な強みがあります。

dミールキットのような食材宅配サービスはまさにその強みを活かしたものです。「日々の食材を届ける」という便利さは高い継続性を生み、サブスクリプション方式の契約を行うために販売数や売上の予測が立てやすく、いわゆる「食品ロス」と呼ばれるような、食材・食品販売で起こりがちな廃棄コストを大幅に削減できます。

そこにNTTドコモが武器としている約8000万人のdポイントユーザーとその経済圏が加われば、サービスを提供する事業者側としては非常に効率の良い事業展開が期待でき、提携先であるNTTドコモとしても経済圏へのユーザーの囲い込みに利用できます。

さらにユーザー視点でも安くて安定した品質の食材を自宅に届けてもらえる上にポイントまで貯められるという利点があり、三者三様それぞれに大きなメリットが生まれます。

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NTTドコモらしく、dミールキットに光回線契約や他オンラインサービスも絡めることでもらえるポイントを増やし、さらに強固に囲い込む狙いだ


奇しくも、時代的な潮流としてSDGs(持続可能な開発目標)への企業の取り組みが注目を集めるようになり、食材宅配サービスは食品ロスを削減し効率的で健康的な生活を送るために有益なサービスとしてアピールできるようにもなりました。

人や環境に優しく、そしてコロナ禍でも安心して食を楽しめるフードデリバリー系のサービスは、通信会社が経済圏の魅力を主張する道具としてこの上なく適していたのです。

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持続可能な社会に向けて、さまざまな企業が動き始めている


実は、NTTドコモはdデリバリーよりもさらに以前の2012年に食材宅配サービス「らでぃっしゅぼーや」を買収して完全子会社化していました。しかし、肝心のビジネスモデルの部分で本業である通信との連携や経済圏への有効な組み込みができず、企業内外から「浮いたサービス」として見られていた印象があります。

当時のNTTドコモはソフトバンクが仕掛けたiPhoneブームに押される「負け組」の様相を呈しており(NTTドコモがiPhoneシリーズの取り扱いを開始したのは2013年のiPhone 5sおよびiPhone 5cから)、いわゆる「ガラケー」の敗北が濃厚になる中、端末販売や通信回線契約以外での収益の柱を模索し始めていました。

しかしながら、当時のNTTドコモは(他の通信キャリアも同様だったが)経済圏構想に本腰を入れる前であり、さまざまな業界と分野に手を出してみたものの、それを十分に活かせるノウハウも経営戦略もありませんでした。

その後、NTTドコモは「中期戦略2020『Beyond宣言』」として2017年度から本格的な経済圏構想を打ち出すに至り、ようやく多分野を包括できる基盤の整備へ着手し始めたのです。

らでぃっしゅぼーやは後に外部企業へ売却されましたが、その売却先がまさにOisixでした。経済圏の運営と拡大が軌道に乗り始めたNTTドコモは、敢えて自社でサービス展開を完結させるのではなく、サードパーティーとの提携による運営という形態を取ることで、効率的でリスクの低い戦略を取れるほどに進化していたのです。

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らでぃっしゅぼーやは現在、Oisixのサービスブランドの1つとなっている


■通信の寡占化から経済圏の寡占化へ
「またドコモが変なサービスをはじめたぞ」……NTTドコモがdミールキットを発表した「2019年夏 新サービス・新商品発表会」の会場では、そんな声があちこちで囁かれていたのを思い出します。当時社長を務めていた吉澤和弘氏への囲み取材でも何故このタイミングで食材宅配サービスなのかと尋ねる声すら聞かれました。

しかしながら、今思えばその計画もその後のdデリバリーのサービス終了も非常に高度な企業間駆け引きと各社の経済圏戦略による用意周到な計画の1つであったことに気付かされます。

人の生活の根幹の1つである「食」を掴み、自社経済圏への囲い込こんでその動力源としていく。それはNTTドコモや出前館を傘下に収めたソフトバンクに限った話ではありません。

例えば、楽天であれば「楽天西友ネットスーパー」や「楽天ぐるなびデリバリー」などがその役割を担い、KDDIもまたフードデリバリーサービス「menu」との資本業務提携を6月1日に発表したばかりです。

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フードデリバリーの世界でも通信会社の戦いが繰り広げられている


通信契約と端末販売の完全分離などによって通信契約だけでは囲い込めなくなった各社は、ありとあらゆる業種・業界を自社経済圏へ取り込み、もはや通信会社の範疇を超えた超巨大コングロマリットの様相を呈しつつあります。

そもそも当のNTTドコモでさえ、現在は元鞘とも言えるNTTの子会社です。通信の寡占が危惧されていたのも今は昔、現在はさらに大規模な、経済圏の寡占化が大きく進み始めているのです。

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通信会社の巨大化と経済圏の拡大は止まらない




記事執筆:秋吉 健


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