.
130 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:43:10 ID:egOnYakf [2/51]
1117
┏
私は、ちっぽけなスライムの一匹にすぎませんでした。
┛
.
131 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:43:33 ID:egOnYakf [3/51]
1118
┏
そう、スライムといえば、モンスターのなかで
人 一番弱いといわれているものです。
_ノ `、_ ┛
.,r' ~ヽ,
,r'~ ~;,
〈 ● ● 〉 ┏
゙i、 ヽ___ノ / 確かにスライムは、本当に弱い、個体です。
丶---------r'´
戦い方を知っている者なら、子供にも倒せてしまう。
┛
132 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:44:07 ID:egOnYakf [4/51]
1119
┏
しかし、弱いだけでは人間、いえ人間でなくとも、
他の魔物や動物に―――あっさり滅ぼされてしまうでしょう。
┛
人
_ノ `、_
.,r' ~ヽ, ~♪
,r'~ ~;,
〈 ● ● 〉
゙i、 ヽ___ノ /
丶---------r'´
┏
スライム族は、生き延びるために実にいろんな能力を
持っていたりするのです。
┛
133 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:44:46 ID:egOnYakf [5/51]
1120
┏
たとえば、寿命。
┛
____ ヨボッ
/ \
/ \ , , /\
バブッ- -、 / ==⊂⊃=⊂⊃=\
/● ● .ヽ → | ⌒(__人__)⌒ |
、(,、__)○ノ \ ` ⌒´ ,/
.
【Before】 【After】
┌────┐
│ 人間 ..│
└────┘
+ 人 + 人
人 ノ .`、 人 ノ .`、
`Y´+. ,,:'´ `ヽ、 `Y´+ ,,:'´ `ヽ、
. ,、:'` `':、, → . ,、:'` `':、,
〈 ● ● 〉 〈 ● ● 〉
゙:、 ヽ___ノ / ゙:、 ヽ___ノ /
丶---------r'´ 丶---------r'´
【Before】 【After】
┌─────┐
│ スライム .│
└─────┘
┏
実はスライムは、かなり長寿な魔物だったりします。
そして案外知られていませんが、加齢による能力の差はないのです。
┛
┏
まあ天寿を迎える前に、何者かに殺されてしまうことのほうが
実際、多いわけなんですけどね。 ┛
134 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:45:31 ID:egOnYakf [6/51]
1121
┏
そして、弱い生物につきものな高い繁殖力。
┛
ドンドンフエルゼ∧ ∧ ∧ フエルゼ
( `д´) ( `д´)∧ ∧ (`Д´ )
(;`д´)(`Д´;)(`Д´ )
(`Д´;)(`Д´;)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃一体何匹産めば ┃
┃気が済むんだこのスライム! ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
┏
…まぁ、ちょっと言いすぎな感はありますが、
┛
┏
オスとメス、一緒にしておけばいくらでも。と、
ネズミ算ならぬスライム算なんて、言葉が以前あったくらいです。
┛
135 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:46:25 ID:egOnYakf [7/51]
1122
┏
そしてもう一つ―――、スライム、というより
スライム族を生き長らえせている、最大の能力。
┛
○ o
。 ・ o
人 ・ .,-―-、 。
(゚ー゚ ) ,ノ `:、
_, - ' .(・)(・) , `ヽ、
<___ `━━ ' `)
`-、 ,--―'
 ̄ ̄ ̄
w/| ノ^ 、
,ヘ'W゙'i,7 ,;' : : : : ヽ
_,r'"∧'`~゙ラ {, : : : ・∀・}
ゝ,r'"~`ベ'ヽミ `ー---ー’
( ・∀・ ○)フ
┏
非常に高い、環境に対する対応力。進化の速さです。
┛
┏
スライム族の種類が多岐にわたるのは、「あなた方」もご存じのはず。
┛
┏
そして、スライムとして生まれたものは、強く願えば他の種類の
スライムに変化を遂げることも、できたりするんですよ。
┛
136 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:47:06 ID:egOnYakf [8/51]
1123
人
_ノ `、_ ┏
.,r' ~ヽ, 私は、物心ついたときから、なんの力もない。
,r'~ ~;,
〈 ● ● 〉 一匹のスライムにすぎませんでした。
゙i、 ヽ___ノ / ┛
丶---------r'´
┏
しばらくは、それでいいと思っていたのです。
幸いにも、私の住んでいるところは平和なところで、
人間にも魔物にも、諍いというものがほとんどありませんでしたから。
┛
137 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:48:05 ID:egOnYakf [9/51]
1124
┏
しかし、私は知らなかったのですよ。
それが、一人の巫女による力であるものということを。
┛
,.
i //,.-‐''
__ ,, ..,,‐-、 .|./::/r‐- 、
,.r' ‐ 、ヽl::/:/:::::::::::::::`'' ‐ 、 ┏
/r::::::::::::`':::::::::::::::::::::、::ヽ、:ヽ`ヽ、 私の生まれ育った地、エルヘブンは、
イ´/:::::::::::::i::::::::i:::::::ヽ::::ヽ:::ヽ:::ヽ、ヽ
/:::/::::/::::l:::::l:l:::::::::l: l::.l:..',:..',:ヽ:. ヽ:..', 'li 王たる権力者も、英雄たる支配者もいません。
./://:. .l. . .l:. .:l:..l' ‐'1:.l. l:. .:l .:l:.ヽ:. ',:...l 、l! ┛
/l.:l.:l:.. .:l:. ..::l:..:ト .l. |::ト.:ト.::. l:::l:.:::',.::l:..:l !、
/ |.l..:|:. .l:l:..:ト l:.,.l_l::l |l:l l:l十‐l::l,j:::il:::|:::li \
./ .l::l:::l::::l::l:::|r 'l_l,.. li j./レ 'f:マミ、.l::l::l:l.i:l l ヽ、
/ ヽl、l::::l::ト:K´ヒンリ i ゞ‐ ' l|,':::l,/ l `' 、,
/ i {ヽ::l',ヽ,.;:` ´ . ´´´/:l::| ノ ,. r' ┏ ┓
/_ l ヽ|i::ヽ i〉 /l:::l:| ,.. --‐ ' ´ 大巫女・
`' ‐-、_ l|l::l|.ヽ ー_‐ ' , 'lノl::l:|'´ l、ヽ\ モーリアン
l,r-ヽ!li:::l| l:l`. 、 ,.イj,.r.|i::i|‐ ''"ヽ、:ヽヽ ┗ ┛
` ̄`/li::il_ヽ、 l:l` 、 ./ .l ,.r'li:i|ヽ::\:..:ヽ、:::`' ‐ 、
ゝ''l::::l''‐- 、 l ` " .l'´ヽl:::lヽ::\:..\ヽヽ、` ''‐‐` ''ヽ、
l:::l _ ,..,_.ノ 'r''ヽl::l ヽ、::::ヽ:::ヽ:ヽ ヽ ヽ ` ヽ、ヽ、
/ l::l 、''‐`''‐ 、 /, '/l::l .>::::::ヽ`ヽヽ ヽ \ ヽ:::',
/ l::l `ヽ`ヽ ` ン /,.' l::l / `ヽ、::\、:ヽ、 ',l ',ヽ ヽ|
,.r '` ヽ、l::l `ヽ ヽ ' / |l ./ i ヽ ,ヽ`ヽ、ヽl、 l::::', ! ┏
,r ' .l::l \/ | / ,.- 、 l ヽ:::l lヽ、::ヽl::::l たった一人の、しかし偉大な力を持つ
, ' l::l 、 / /,r '::::::::::`ヽ、 /ヽ::l l::::lヽ:::l::l
,.' i ll ヽ、 / ,r ':::::::::::::::::::::::::l ./ ヽl:::::l ヽl:l 大巫女が、聖なる土地であるエルヘブンを
/. l ヽ '/ i:::::::::::::::::::::::::::::::::l/ ',l::::l l:l
/ i / i:::::::::::::::::::::::::::::::::::l l:::ll 神から預かり、守っているのです。
┛
┏
大巫女の力は、凄いものなのです。
一切の魔物の影響を受けず、物理的な力は通用しません。
何故なら彼女らは、代々、神にあるものを託され…、
それを守るために、絶大な力を与えられていたからです。
┛
138 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:49:08 ID:egOnYakf [10/51]
1125
┏
―――と、偉そうなことを言いましたが、
「何」を託されているのか、ということはさすがに私は知りません。
┛
┏
しかし、とても、「この世界に重大な影響を及ぼす何か」、であることは
間違いはないようです。
┛
____
〃 /^lヘ ヽ
!んi ノリノ ))〉
ノんiハ*゚ ‐゚ノ〉
(イ (「 _ソ] l)
)) レト-'iJ
ノ_i_」
┏
たった一人の女性が負うにはあまりに重大な「何か」……、
しかし、エルヘブンの民たちは、大巫女を中心として、それを守り、
平和に――ええ、平和だったと思います――、暮らしてきたのです。
┛
139 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:50:12 ID:egOnYakf [11/51]
1126
┏
何も知らない私がぴょんぴょんと平和な森で過ごしていた頃。
大巫女、モーリアン様の直系に、赤子が産まれました。
┛
..:: ノノノ ノノ ノ ::.. スヤスヤ
..:: / ヽ、::..
..:: / ヽ ::..
..:: / ヽ ::..
..:: / i ::..
..:: | __,ヽ ::..
..:: | ー― 'ヽ ::..
..:: ヽ(⌒ :::::::::::: ,_, :::::: i ::..
..:: ヽ ヽ__) :::::::::::: ::: i ::..
..:: \ ノ  ̄ ̄ ̄ヽ
..:: ヽ、 )ノ
..:: / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
..:: /
┏
そう、それこそマーサ。「あなた」の母であり、私の…母、
と言っては失礼だと思うのですが、ええ、母のように慕っていたのです。
┛
┏
大巫女モーリアン様は、仰ったそうです。
この子こそは、数百年のエルヘブンの歴史上、
最も優れた大巫女になるだろうと。祝福と、愛情をこめて。
┛
140 名前:名前なんて無いだろ常識的に考えて[sage] 投稿日:10/05/30(日) 01:50:47 ID:FG6FT7lx [1/2]
スライムホイホイとかありそうだよな…
141 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:51:42 ID:egOnYakf [12/51]
1127
┏
大巫女に守られた土地であるエルヘブンは、
どうやら弱い者の邪気すらからも守っていたのかもしれません。
┛
ノト |
彳ミ ノiミ
__,,.. .-‐ '''""~~""''' ‐-彡彡ミ .彡ミ..,,____
_,..-'''" 彡彡ミミ 彡;;;ミミ  ̄ ~~""''
__,,.. .-‐ '''""~ 彡彡ミミミミ彡彡ミミミ ____,,.. .-
__,,.. .-‐ '''""~""''' ‐- ...,,____,,.. .-‐ '''""~''''''''''''''''''''''''~""''' ‐-、_ii|__,,.. .-‐''""~
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.,.:,..:.. .,.:,..:.. .,.:,..:.. ... ... ,.:.:.:...:::.. . .,.:,. .:.. .,.:,..:.. .,.: .,.:,..:.. .,. :,..:.. .
.,.: ,..:.. .,.:,..:. ... , .. ... ,.:,. .:.. .,.:,..:.. .,.:,. .,. :,..:..
.,.:, .. .. .,. :,..:.. ,.. ,.:,..:.. .,.:,..:.. .,.:,..:.. .,.:,
.,.:,. .:.,... ,.. ;;,.. ,.. .,.:, ..:.. .,.:,..:..
... ,... ... ,.. . .,.:,..:.. .,. :,..:..
... .,.:,..:.. .,.:, ..:..
,, .,.:, .. .. .,. ,..
┏
私はあの村近くに長いこといましたが、不思議と、凶暴なものはいませんでした。
人も…魔物も…驚くほど平和だった。楽園という言い方はおかしいですが、
あそこほど命を脅かされる心配のない土地も珍しかった。
勿論、食物連鎖としての危険はありました。―――けれど、訳知らず殺される、という危険はなかった。
┛
142 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:52:58 ID:egOnYakf [13/51]
1128
┏
それだから、でしょうね。幼いころのマーサと、
私が出会うのに、時間はかからなかった。
┛
┏
マーサは幼いころから既に大巫女としての「力」に目覚めていましたし、
妙な考えを持つやつらは近寄れるわけもなかった。
┛
゙、::l :::::,'ヽ:.く .:.:.:.:.:.:: //:::::::∧/:::::::l:l::/
「 ねぇ、ピエール。 ';:l ::::{ // .:::::/|:/:::::::::レ'
ヽ::::ヘ ー // ::/::l::::::::::リ
あなた、なんだかオデキができてるみたいよ。 」 ヽ:::::\ /:/:::::/::::::/
\l::::ヽ、 _..:イ//:::::://l/
`'\lヽ -‐ ''´:::::::::::ノイ:i/
「 痒くない? つぶしてあげましょうか? 」 | ::::レ'
_l .::::::',
/:::/l ..:::::::::::ゝ=ヘ
_, -'´/:/ :l _,..-‐'´ ̄ `ヽ、
┏
何より、彼女には差別や区別するという心がなかった…、
不思議ですよね。エルヘブンの民ですら、魔物には一線を置いていた、というのに。
┛
143 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:54:09 ID:egOnYakf [14/51]
1129
人
_ノ `、_ 「 ひどいよマーサ! これはオデキじゃないやい。
.,r' ~: O ←おでき(?) これはね、騎士の芽なんだ! 」
,r'~ ノ ~;,
〈 ● ● 〉
゙i、 ヽ___ノ /
丶---------r'´
゙、::l :::::,'ヽ:.く .:.:.:.:.:.:: //:::::::∧/:::::::l:l::/
';:l ::::{ // .:::::/|:/:::::::::レ'
ヽ::::ヘ - // ::/::l::::::::::リ
「 …騎士の芽? 」 ヽ:::::\ /:/:::::/::::::/
\l::::ヽ、 _..:イ//:::::://l/
`'\lヽ -‐ ''´:::::::::::ノイ:i/
| ::::レ'
_l .::::::',
/:::/l ..:::::::::::ゝ=ヘ
_, -'´/:/ :l _,..-‐'´ ̄ `ヽ、
人
_ノ `、_ 「 そうだよ。ぼく、ずっと前から、スライムナイトになりたいって思ってたの。
.,r' ~: O そしたらね、今日できてたんだ。
,r'~ ノ ~;,
〈 > ● 〉 スライムはね、魂が純粋な子供のうちに強く願うと、
゙i、 ヽ___ノ / 違うスライムに進化することができたりするんだよ! 」
丶---------r'´
144 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:54:57 ID:egOnYakf [15/51]
1130
ハ i i ト、 | 〉 /,' レ'´ レ'
ヽ ヽ、 ト、 ! ヽj 、 ´ /, '.': i 「 ……まぁ。あなたたちスライムって、ほんとに不思議で、
\\ ', \ i  ̄ /: ':/ / 素敵な生き物なのね。お祝いを、言わせてくれる? 」
Y´\! ヽ!丶 /,:',:',:'/ /
| \ ,. '´ /,:'//レ'
| Tー-‐'´ メレ´´
┏
マーサは優しかった。だから、私に騎士の芽が生えた時、
真っ先に報告に行ったのがマーサでした。
┛
人
_ノ `、_ 「 えへへ。ありがとうマーサ。
.,r' ~: O
,r'~ ノ ~;, これで騎士の芽が大きくなって、騎士になったら。色んな鎧や、盾だって
〈 ● ● 〉 装備できるようになるんだよ。
゙i、 ヽ___ノ /
丶---------r'´ そしたらぼく、マーサを守ってあげられる。ぼくがマーサの騎士になるからね! 」
145 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:55:41 ID:egOnYakf [16/51]
1131
ヽ i,| | i |::::| |::',. l, | l ', :::::::... 〈:: | '" '゛
ヽ i 、 |i l、 i::::l |::::i |::|::.. |l:| ::::.. ヽ:l 「 …あたしを…? 」
ヽ', :〉 |:'.,l::ヽ|::::l |::::i |::|::::.| ! ..ゝ
ヽ',ヽ::|\:|l|、:::',. l::::l:i::|i::::| =:ィi´::|
/ ヽ ヽ ! ヽヾ:;l:|';::::||:::l /´/イ::/
/ ヽ>ヽ.i:::l、!:l_,/::::i//:ll/
../` `<_ / |:;' !|/|:::イ'゛ /
/ `ヽ.、 i / ゛ '゛ ´
`ヽ、! l
` '、
\
人
_ノ `、_ 「 そうだよ!
.,r' ~: O だって、マーサって無茶なんだもの。
,r'~ ノ ~;,
〈 ● ● 〉 なんでも友達にしちゃうでしょ。爆弾ベビーとか、
゙i、 ヽ___ノ / メイジキメラまで。 」
丶---------r'´
人
_ノ `、_ 「 そりゃさ、この森や村は平和だよ。
.,r' ~: O
,r'~ ノ ~;, だけどさ、あいつら図々しいもん。
〈 ● ● 〉 餌をもらえるの、当然だと思ってるみたいだし。
゙i、 ヽ___ノ / 凶暴じゃないだけだよ! 」
丶---------r'´
「 それにさ。「あいつ」。いつもマーサをいじめるあいつからも、
ぼくはマーサを守りたいんだ! だから、スライムナイトになるんだ! 」
146 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:56:29 ID:egOnYakf [17/51]
1132
ヽ i,| | i |::::| |::',. l, | l ', :::::::... 〈:: | '" '゛
ヽ i 、 |i l、 i::::l |::::i |::|::.. |l:| ::::.. ヽ:l
ヽ', :〉 |:'.,l::ヽ|::::l |::::i |::|::::.| ! ..ゝ 「 …それって、「イーブ」のこと…? 」
ヽ',ヽ::|\:|l|、:::',. l::::l:i::|i::::| =:ィi´::|
/ ヽ ヽ ! ヽヾ:;l:|';::::||:::l /´/イ::/
/ ヽ>ヽ.i:::l、!:l_,/::::i//:ll/
../` `<_ / |:;' !|/|:::イ'゛ /
/ `ヽ.、 i / ゛ '゛ ´
`ヽ、! l
` '、
\
┏
私は、不安だったのですよ。確かに、マーサの力は強大です。
しかしそれはあくまで魔物相手のこと。
人間には妙な考えを持つ者も、いたのですから。
┛
人
_ノ `、_ 「 そうだよ。あいつ、マーサの次に強いからってさ。
.,r' ~: O 酷いんだよ。乱暴な呪文ばっかり強くてさ。
,r'~ ノ ~;,
〈 ● ● 〉 だからぼく、心配なんだ。
゙i、 ヽ___ノ /
丶---------r'´ ―――マーサがいつか、あいつに酷いことされやしないかって。 」
.
147 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:57:35 ID:egOnYakf [18/51]
1133
┏
だから私は、強くなりたかった。
マーサから、すべてを守れるほどに強くなりたかったのです。
┛
\ \\:> -‐ ‐='´イ :://〃´
` \ヾ\ ,.イイ/'/ 「 大丈夫よ、ピエール。心配しないで。
` |` 、__ ,. ´ | ´
__ ノ ', __ そんなことありっこないから。……だってね、
,. '´ / \ヽ.`ヽ、 彼はね、あたしのことを好きなの。
. / 〈 / \〉 \
/ \ / \ だから、 本当にひどいことなんて、できっこないのよ。 」
/ \ / \
┏
子供のうちに、進化しやすい今のうちに。スライムナイトになって、
彼女の騎士になり、せめて、彼女を守ろうと。―――そう、決心していたのですよ。
┛
148 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:58:36 ID:egOnYakf [19/51]
1134
゛ ! |l '; !'、 < ‐ ,::゛ィ:::/ ゛ /! :::::`/ 「 ピエール。ありがとう、そんなこと言ってくれて。 」
';!|!; '、`、'i ` ´ /::/ / / i .:::::::l
ヽ!`;、ー`=- ,:: ''" /:/ ,.、''ッ‐',イ l ::::::/
li:::`ヾー /‐'゛,、': '" / /ノ:::/:l/ 「 でも、あたしは、よく判らないのよ。
|l:::::::、`:.、_ / ィ´:::::/ 好きってどんな気持ちなのか。
'、;::i:: `i‐-ミ=‐ /:'゛ |!'!:/´
',:|ヽ 、ヽ 、 \ ´ ヽ 父さまや母さまに抱く「好き」とは違うのでしょう? 」
`:、\ヾ、ヽ、 `ー- 、..,,_ ヽ_ ,.、,_
` ヾ、\.、 i /'゛', i ,、 '"´  ̄``'' ー―ァ;;、、
`` '゛ ヽ ! ,、'゛ ,、:'´:::::::::::
ヽ l/ ,.、::'゛:::::::::::::::::::
/`i / _,、 :‐ '"::::::::::::::::::::::::::::::
┏
マーサは自分の力を、他の誰よりも自覚していました。今になって思えば、ですが。
まだ、それほどの年齢でもないのに、いつも目は遠くを見ていた。
……変な言い方をすると、なんだか自分の人生に「見切り」を付けているような感じでした。
┛
ヽ i,| | i |::::| |::',. l, | l ', :::::::... 〈:: | '"
ヽ i 、 |i l、 i::::l |::::i |::|::.. |l:| ::::.. ヽ:l 「 ……ひょっとしたら、あたしは。
ヽ', :〉 |:'.,l::ヽ|::::l |::::i |::|::::.| ! ..ゝ
ヽ',ヽ::|\:|l|、:::',. l::::l:i::|i::::| =:ィi´::| 誰も好きになっちゃ、いけないのかもしれないわ。 」
/ ヽ ヽ ! ヽヾ:;l:|';::::||:::l /´/イ::/
/ ヽ>ヽ.i:::l、!:l_,/::::i//:ll/
../` `<_ / |:;' !|/|:::イ'゛ /
/ `ヽ.、 i / ゛ '゛ ´
`ヽ、! l
` '、
149 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:59:41 ID:egOnYakf [20/51]
1135
┏
まだまだ子供だった私には、マーサの言葉の意味がわかりませんでした。
┛
━┓
人 ┏┛
_ノ `、_ ・
.,r' ~: O
,r'~ ノ ~;,
〈 ● ● 〉
゙i、 ヽ___ノ /
丶---------r'´
┏
誰も好きになっちゃいけない、とか。理解できるはずもなかった。
でも、私はそれでも構わなかった。マーサが誰を好きであろうと、なかろうと。
┛
┏
必ず、マーサを守る。強く、立派なスライムナイトになって! そう、誓っていたのです。
┛
.
150 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 02:00:25 ID:egOnYakf [21/51]
1136
┏
……でも、私の願いは。
マーサを守りたいという、切実な私の願いは、
叶えられることなく、終わったのです。
┛
┏
マーサが……、私の名付け親であり、
母のように慕っていたマーサが……。
ある日突然、村から、姿を消してしまったから。
┛
;
130 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:43:10 ID:egOnYakf [2/51]
1117
┏
私は、ちっぽけなスライムの一匹にすぎませんでした。
┛
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131 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:43:33 ID:egOnYakf [3/51]
1118
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そう、スライムといえば、モンスターのなかで
人 一番弱いといわれているものです。
_ノ `、_ ┛
.,r' ~ヽ,
,r'~ ~;,
〈 ● ● 〉 ┏
゙i、 ヽ___ノ / 確かにスライムは、本当に弱い、個体です。
丶---------r'´
戦い方を知っている者なら、子供にも倒せてしまう。
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132 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:44:07 ID:egOnYakf [4/51]
1119
┏
しかし、弱いだけでは人間、いえ人間でなくとも、
他の魔物や動物に―――あっさり滅ぼされてしまうでしょう。
┛
人
_ノ `、_
.,r' ~ヽ, ~♪
,r'~ ~;,
〈 ● ● 〉
゙i、 ヽ___ノ /
丶---------r'´
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スライム族は、生き延びるために実にいろんな能力を
持っていたりするのです。
┛
133 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:44:46 ID:egOnYakf [5/51]
1120
┏
たとえば、寿命。
┛
____ ヨボッ
/ \
/ \ , , /\
バブッ- -、 / ==⊂⊃=⊂⊃=\
/● ● .ヽ → | ⌒(__人__)⌒ |
、(,、__)○ノ \ ` ⌒´ ,/
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【Before】 【After】
┌────┐
│ 人間 ..│
└────┘
+ 人 + 人
人 ノ .`、 人 ノ .`、
`Y´+. ,,:'´ `ヽ、 `Y´+ ,,:'´ `ヽ、
. ,、:'` `':、, → . ,、:'` `':、,
〈 ● ● 〉 〈 ● ● 〉
゙:、 ヽ___ノ / ゙:、 ヽ___ノ /
丶---------r'´ 丶---------r'´
【Before】 【After】
┌─────┐
│ スライム .│
└─────┘
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実はスライムは、かなり長寿な魔物だったりします。
そして案外知られていませんが、加齢による能力の差はないのです。
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まあ天寿を迎える前に、何者かに殺されてしまうことのほうが
実際、多いわけなんですけどね。 ┛
134 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:45:31 ID:egOnYakf [6/51]
1121
┏
そして、弱い生物につきものな高い繁殖力。
┛
ドンドンフエルゼ∧ ∧ ∧ フエルゼ
( `д´) ( `д´)∧ ∧ (`Д´ )
(;`д´)(`Д´;)(`Д´ )
(`Д´;)(`Д´;)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃一体何匹産めば ┃
┃気が済むんだこのスライム! ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
┏
…まぁ、ちょっと言いすぎな感はありますが、
┛
┏
オスとメス、一緒にしておけばいくらでも。と、
ネズミ算ならぬスライム算なんて、言葉が以前あったくらいです。
┛
135 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:46:25 ID:egOnYakf [7/51]
1122
┏
そしてもう一つ―――、スライム、というより
スライム族を生き長らえせている、最大の能力。
┛
○ o
。 ・ o
人 ・ .,-―-、 。
(゚ー゚ ) ,ノ `:、
_, - ' .(・)(・) , `ヽ、
<___ `━━ ' `)
`-、 ,--―'
 ̄ ̄ ̄
w/| ノ^ 、
,ヘ'W゙'i,7 ,;' : : : : ヽ
_,r'"∧'`~゙ラ {, : : : ・∀・}
ゝ,r'"~`ベ'ヽミ `ー---ー’
( ・∀・ ○)フ
┏
非常に高い、環境に対する対応力。進化の速さです。
┛
┏
スライム族の種類が多岐にわたるのは、「あなた方」もご存じのはず。
┛
┏
そして、スライムとして生まれたものは、強く願えば他の種類の
スライムに変化を遂げることも、できたりするんですよ。
┛
136 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:47:06 ID:egOnYakf [8/51]
1123
人
_ノ `、_ ┏
.,r' ~ヽ, 私は、物心ついたときから、なんの力もない。
,r'~ ~;,
〈 ● ● 〉 一匹のスライムにすぎませんでした。
゙i、 ヽ___ノ / ┛
丶---------r'´
┏
しばらくは、それでいいと思っていたのです。
幸いにも、私の住んでいるところは平和なところで、
人間にも魔物にも、諍いというものがほとんどありませんでしたから。
┛
137 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:48:05 ID:egOnYakf [9/51]
1124
┏
しかし、私は知らなかったのですよ。
それが、一人の巫女による力であるものということを。
┛
,.
i //,.-‐''
__ ,, ..,,‐-、 .|./::/r‐- 、
,.r' ‐ 、ヽl::/:/:::::::::::::::`'' ‐ 、 ┏
/r::::::::::::`':::::::::::::::::::::、::ヽ、:ヽ`ヽ、 私の生まれ育った地、エルヘブンは、
イ´/:::::::::::::i::::::::i:::::::ヽ::::ヽ:::ヽ:::ヽ、ヽ
/:::/::::/::::l:::::l:l:::::::::l: l::.l:..',:..',:ヽ:. ヽ:..', 'li 王たる権力者も、英雄たる支配者もいません。
./://:. .l. . .l:. .:l:..l' ‐'1:.l. l:. .:l .:l:.ヽ:. ',:...l 、l! ┛
/l.:l.:l:.. .:l:. ..::l:..:ト .l. |::ト.:ト.::. l:::l:.:::',.::l:..:l !、
/ |.l..:|:. .l:l:..:ト l:.,.l_l::l |l:l l:l十‐l::l,j:::il:::|:::li \
./ .l::l:::l::::l::l:::|r 'l_l,.. li j./レ 'f:マミ、.l::l::l:l.i:l l ヽ、
/ ヽl、l::::l::ト:K´ヒンリ i ゞ‐ ' l|,':::l,/ l `' 、,
/ i {ヽ::l',ヽ,.;:` ´ . ´´´/:l::| ノ ,. r' ┏ ┓
/_ l ヽ|i::ヽ i〉 /l:::l:| ,.. --‐ ' ´ 大巫女・
`' ‐-、_ l|l::l|.ヽ ー_‐ ' , 'lノl::l:|'´ l、ヽ\ モーリアン
l,r-ヽ!li:::l| l:l`. 、 ,.イj,.r.|i::i|‐ ''"ヽ、:ヽヽ ┗ ┛
` ̄`/li::il_ヽ、 l:l` 、 ./ .l ,.r'li:i|ヽ::\:..:ヽ、:::`' ‐ 、
ゝ''l::::l''‐- 、 l ` " .l'´ヽl:::lヽ::\:..\ヽヽ、` ''‐‐` ''ヽ、
l:::l _ ,..,_.ノ 'r''ヽl::l ヽ、::::ヽ:::ヽ:ヽ ヽ ヽ ` ヽ、ヽ、
/ l::l 、''‐`''‐ 、 /, '/l::l .>::::::ヽ`ヽヽ ヽ \ ヽ:::',
/ l::l `ヽ`ヽ ` ン /,.' l::l / `ヽ、::\、:ヽ、 ',l ',ヽ ヽ|
,.r '` ヽ、l::l `ヽ ヽ ' / |l ./ i ヽ ,ヽ`ヽ、ヽl、 l::::', ! ┏
,r ' .l::l \/ | / ,.- 、 l ヽ:::l lヽ、::ヽl::::l たった一人の、しかし偉大な力を持つ
, ' l::l 、 / /,r '::::::::::`ヽ、 /ヽ::l l::::lヽ:::l::l
,.' i ll ヽ、 / ,r ':::::::::::::::::::::::::l ./ ヽl:::::l ヽl:l 大巫女が、聖なる土地であるエルヘブンを
/. l ヽ '/ i:::::::::::::::::::::::::::::::::l/ ',l::::l l:l
/ i / i:::::::::::::::::::::::::::::::::::l l:::ll 神から預かり、守っているのです。
┛
┏
大巫女の力は、凄いものなのです。
一切の魔物の影響を受けず、物理的な力は通用しません。
何故なら彼女らは、代々、神にあるものを託され…、
それを守るために、絶大な力を与えられていたからです。
┛
138 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:49:08 ID:egOnYakf [10/51]
1125
┏
―――と、偉そうなことを言いましたが、
「何」を託されているのか、ということはさすがに私は知りません。
┛
┏
しかし、とても、「この世界に重大な影響を及ぼす何か」、であることは
間違いはないようです。
┛
____
〃 /^lヘ ヽ
!んi ノリノ ))〉
ノんiハ*゚ ‐゚ノ〉
(イ (「 _ソ] l)
)) レト-'iJ
ノ_i_」
┏
たった一人の女性が負うにはあまりに重大な「何か」……、
しかし、エルヘブンの民たちは、大巫女を中心として、それを守り、
平和に――ええ、平和だったと思います――、暮らしてきたのです。
┛
139 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:50:12 ID:egOnYakf [11/51]
1126
┏
何も知らない私がぴょんぴょんと平和な森で過ごしていた頃。
大巫女、モーリアン様の直系に、赤子が産まれました。
┛
..:: ノノノ ノノ ノ ::.. スヤスヤ
..:: / ヽ、::..
..:: / ヽ ::..
..:: / ヽ ::..
..:: / i ::..
..:: | __,ヽ ::..
..:: | ー― 'ヽ ::..
..:: ヽ(⌒ :::::::::::: ,_, :::::: i ::..
..:: ヽ ヽ__) :::::::::::: ::: i ::..
..:: \ ノ  ̄ ̄ ̄ヽ
..:: ヽ、 )ノ
..:: / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
..:: /
┏
そう、それこそマーサ。「あなた」の母であり、私の…母、
と言っては失礼だと思うのですが、ええ、母のように慕っていたのです。
┛
┏
大巫女モーリアン様は、仰ったそうです。
この子こそは、数百年のエルヘブンの歴史上、
最も優れた大巫女になるだろうと。祝福と、愛情をこめて。
┛
140 名前:名前なんて無いだろ常識的に考えて[sage] 投稿日:10/05/30(日) 01:50:47 ID:FG6FT7lx [1/2]
スライムホイホイとかありそうだよな…
141 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:51:42 ID:egOnYakf [12/51]
1127
┏
大巫女に守られた土地であるエルヘブンは、
どうやら弱い者の邪気すらからも守っていたのかもしれません。
┛
ノト |
彳ミ ノiミ
__,,.. .-‐ '''""~~""''' ‐-彡彡ミ .彡ミ..,,____
_,..-'''" 彡彡ミミ 彡;;;ミミ  ̄ ~~""''
__,,.. .-‐ '''""~ 彡彡ミミミミ彡彡ミミミ ____,,.. .-
__,,.. .-‐ '''""~""''' ‐- ...,,____,,.. .-‐ '''""~''''''''''''''''''''''''~""''' ‐-、_ii|__,,.. .-‐''""~
.,.:,..:.. .,. :,..:.. ,.:,..:.. .... :.:.:...:::. .... .,.:,..:.. .,.:,..:.. .,.:,..:.. .,.:,. .,.:,..:.. .,.:,..:.. .,.:,..:..
.,.:,..:.. .,.:,..:.. .,.:,..:.. ... ... ,.:.:.:...:::.. . .,.:,. .:.. .,.:,..:.. .,.: .,.:,..:.. .,. :,..:.. .
.,.: ,..:.. .,.:,..:. ... , .. ... ,.:,. .:.. .,.:,..:.. .,.:,. .,. :,..:..
.,.:, .. .. .,. :,..:.. ,.. ,.:,..:.. .,.:,..:.. .,.:,..:.. .,.:,
.,.:,. .:.,... ,.. ;;,.. ,.. .,.:, ..:.. .,.:,..:..
... ,... ... ,.. . .,.:,..:.. .,. :,..:..
... .,.:,..:.. .,.:, ..:..
,, .,.:, .. .. .,. ,..
┏
私はあの村近くに長いこといましたが、不思議と、凶暴なものはいませんでした。
人も…魔物も…驚くほど平和だった。楽園という言い方はおかしいですが、
あそこほど命を脅かされる心配のない土地も珍しかった。
勿論、食物連鎖としての危険はありました。―――けれど、訳知らず殺される、という危険はなかった。
┛
142 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:52:58 ID:egOnYakf [13/51]
1128
┏
それだから、でしょうね。幼いころのマーサと、
私が出会うのに、時間はかからなかった。
┛
┏
マーサは幼いころから既に大巫女としての「力」に目覚めていましたし、
妙な考えを持つやつらは近寄れるわけもなかった。
┛
゙、::l :::::,'ヽ:.く .:.:.:.:.:.:: //:::::::∧/:::::::l:l::/
「 ねぇ、ピエール。 ';:l ::::{ // .:::::/|:/:::::::::レ'
ヽ::::ヘ ー // ::/::l::::::::::リ
あなた、なんだかオデキができてるみたいよ。 」 ヽ:::::\ /:/:::::/::::::/
\l::::ヽ、 _..:イ//:::::://l/
`'\lヽ -‐ ''´:::::::::::ノイ:i/
「 痒くない? つぶしてあげましょうか? 」 | ::::レ'
_l .::::::',
/:::/l ..:::::::::::ゝ=ヘ
_, -'´/:/ :l _,..-‐'´ ̄ `ヽ、
┏
何より、彼女には差別や区別するという心がなかった…、
不思議ですよね。エルヘブンの民ですら、魔物には一線を置いていた、というのに。
┛
143 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:54:09 ID:egOnYakf [14/51]
1129
人
_ノ `、_ 「 ひどいよマーサ! これはオデキじゃないやい。
.,r' ~: O ←おでき(?) これはね、騎士の芽なんだ! 」
,r'~ ノ ~;,
〈 ● ● 〉
゙i、 ヽ___ノ /
丶---------r'´
゙、::l :::::,'ヽ:.く .:.:.:.:.:.:: //:::::::∧/:::::::l:l::/
';:l ::::{ // .:::::/|:/:::::::::レ'
ヽ::::ヘ - // ::/::l::::::::::リ
「 …騎士の芽? 」 ヽ:::::\ /:/:::::/::::::/
\l::::ヽ、 _..:イ//:::::://l/
`'\lヽ -‐ ''´:::::::::::ノイ:i/
| ::::レ'
_l .::::::',
/:::/l ..:::::::::::ゝ=ヘ
_, -'´/:/ :l _,..-‐'´ ̄ `ヽ、
人
_ノ `、_ 「 そうだよ。ぼく、ずっと前から、スライムナイトになりたいって思ってたの。
.,r' ~: O そしたらね、今日できてたんだ。
,r'~ ノ ~;,
〈 > ● 〉 スライムはね、魂が純粋な子供のうちに強く願うと、
゙i、 ヽ___ノ / 違うスライムに進化することができたりするんだよ! 」
丶---------r'´
144 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:54:57 ID:egOnYakf [15/51]
1130
ハ i i ト、 | 〉 /,' レ'´ レ'
ヽ ヽ、 ト、 ! ヽj 、 ´ /, '.': i 「 ……まぁ。あなたたちスライムって、ほんとに不思議で、
\\ ', \ i  ̄ /: ':/ / 素敵な生き物なのね。お祝いを、言わせてくれる? 」
Y´\! ヽ!丶 /,:',:',:'/ /
| \ ,. '´ /,:'//レ'
| Tー-‐'´ メレ´´
┏
マーサは優しかった。だから、私に騎士の芽が生えた時、
真っ先に報告に行ったのがマーサでした。
┛
人
_ノ `、_ 「 えへへ。ありがとうマーサ。
.,r' ~: O
,r'~ ノ ~;, これで騎士の芽が大きくなって、騎士になったら。色んな鎧や、盾だって
〈 ● ● 〉 装備できるようになるんだよ。
゙i、 ヽ___ノ /
丶---------r'´ そしたらぼく、マーサを守ってあげられる。ぼくがマーサの騎士になるからね! 」
145 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:55:41 ID:egOnYakf [16/51]
1131
ヽ i,| | i |::::| |::',. l, | l ', :::::::... 〈:: | '" '゛
ヽ i 、 |i l、 i::::l |::::i |::|::.. |l:| ::::.. ヽ:l 「 …あたしを…? 」
ヽ', :〉 |:'.,l::ヽ|::::l |::::i |::|::::.| ! ..ゝ
ヽ',ヽ::|\:|l|、:::',. l::::l:i::|i::::| =:ィi´::|
/ ヽ ヽ ! ヽヾ:;l:|';::::||:::l /´/イ::/
/ ヽ>ヽ.i:::l、!:l_,/::::i//:ll/
../` `<_ / |:;' !|/|:::イ'゛ /
/ `ヽ.、 i / ゛ '゛ ´
`ヽ、! l
` '、
\
人
_ノ `、_ 「 そうだよ!
.,r' ~: O だって、マーサって無茶なんだもの。
,r'~ ノ ~;,
〈 ● ● 〉 なんでも友達にしちゃうでしょ。爆弾ベビーとか、
゙i、 ヽ___ノ / メイジキメラまで。 」
丶---------r'´
人
_ノ `、_ 「 そりゃさ、この森や村は平和だよ。
.,r' ~: O
,r'~ ノ ~;, だけどさ、あいつら図々しいもん。
〈 ● ● 〉 餌をもらえるの、当然だと思ってるみたいだし。
゙i、 ヽ___ノ / 凶暴じゃないだけだよ! 」
丶---------r'´
「 それにさ。「あいつ」。いつもマーサをいじめるあいつからも、
ぼくはマーサを守りたいんだ! だから、スライムナイトになるんだ! 」
146 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:56:29 ID:egOnYakf [17/51]
1132
ヽ i,| | i |::::| |::',. l, | l ', :::::::... 〈:: | '" '゛
ヽ i 、 |i l、 i::::l |::::i |::|::.. |l:| ::::.. ヽ:l
ヽ', :〉 |:'.,l::ヽ|::::l |::::i |::|::::.| ! ..ゝ 「 …それって、「イーブ」のこと…? 」
ヽ',ヽ::|\:|l|、:::',. l::::l:i::|i::::| =:ィi´::|
/ ヽ ヽ ! ヽヾ:;l:|';::::||:::l /´/イ::/
/ ヽ>ヽ.i:::l、!:l_,/::::i//:ll/
../` `<_ / |:;' !|/|:::イ'゛ /
/ `ヽ.、 i / ゛ '゛ ´
`ヽ、! l
` '、
\
┏
私は、不安だったのですよ。確かに、マーサの力は強大です。
しかしそれはあくまで魔物相手のこと。
人間には妙な考えを持つ者も、いたのですから。
┛
人
_ノ `、_ 「 そうだよ。あいつ、マーサの次に強いからってさ。
.,r' ~: O 酷いんだよ。乱暴な呪文ばっかり強くてさ。
,r'~ ノ ~;,
〈 ● ● 〉 だからぼく、心配なんだ。
゙i、 ヽ___ノ /
丶---------r'´ ―――マーサがいつか、あいつに酷いことされやしないかって。 」
.
147 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:57:35 ID:egOnYakf [18/51]
1133
┏
だから私は、強くなりたかった。
マーサから、すべてを守れるほどに強くなりたかったのです。
┛
\ \\:> -‐ ‐='´イ :://〃´
` \ヾ\ ,.イイ/'/ 「 大丈夫よ、ピエール。心配しないで。
` |` 、__ ,. ´ | ´
__ ノ ', __ そんなことありっこないから。……だってね、
,. '´ / \ヽ.`ヽ、 彼はね、あたしのことを好きなの。
. / 〈 / \〉 \
/ \ / \ だから、 本当にひどいことなんて、できっこないのよ。 」
/ \ / \
┏
子供のうちに、進化しやすい今のうちに。スライムナイトになって、
彼女の騎士になり、せめて、彼女を守ろうと。―――そう、決心していたのですよ。
┛
148 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:58:36 ID:egOnYakf [19/51]
1134
゛ ! |l '; !'、 < ‐ ,::゛ィ:::/ ゛ /! :::::`/ 「 ピエール。ありがとう、そんなこと言ってくれて。 」
';!|!; '、`、'i ` ´ /::/ / / i .:::::::l
ヽ!`;、ー`=- ,:: ''" /:/ ,.、''ッ‐',イ l ::::::/
li:::`ヾー /‐'゛,、': '" / /ノ:::/:l/ 「 でも、あたしは、よく判らないのよ。
|l:::::::、`:.、_ / ィ´:::::/ 好きってどんな気持ちなのか。
'、;::i:: `i‐-ミ=‐ /:'゛ |!'!:/´
',:|ヽ 、ヽ 、 \ ´ ヽ 父さまや母さまに抱く「好き」とは違うのでしょう? 」
`:、\ヾ、ヽ、 `ー- 、..,,_ ヽ_ ,.、,_
` ヾ、\.、 i /'゛', i ,、 '"´  ̄``'' ー―ァ;;、、
`` '゛ ヽ ! ,、'゛ ,、:'´:::::::::::
ヽ l/ ,.、::'゛:::::::::::::::::::
/`i / _,、 :‐ '"::::::::::::::::::::::::::::::
┏
マーサは自分の力を、他の誰よりも自覚していました。今になって思えば、ですが。
まだ、それほどの年齢でもないのに、いつも目は遠くを見ていた。
……変な言い方をすると、なんだか自分の人生に「見切り」を付けているような感じでした。
┛
ヽ i,| | i |::::| |::',. l, | l ', :::::::... 〈:: | '"
ヽ i 、 |i l、 i::::l |::::i |::|::.. |l:| ::::.. ヽ:l 「 ……ひょっとしたら、あたしは。
ヽ', :〉 |:'.,l::ヽ|::::l |::::i |::|::::.| ! ..ゝ
ヽ',ヽ::|\:|l|、:::',. l::::l:i::|i::::| =:ィi´::| 誰も好きになっちゃ、いけないのかもしれないわ。 」
/ ヽ ヽ ! ヽヾ:;l:|';::::||:::l /´/イ::/
/ ヽ>ヽ.i:::l、!:l_,/::::i//:ll/
../` `<_ / |:;' !|/|:::イ'゛ /
/ `ヽ.、 i / ゛ '゛ ´
`ヽ、! l
` '、
149 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 01:59:41 ID:egOnYakf [20/51]
1135
┏
まだまだ子供だった私には、マーサの言葉の意味がわかりませんでした。
┛
━┓
人 ┏┛
_ノ `、_ ・
.,r' ~: O
,r'~ ノ ~;,
〈 ● ● 〉
゙i、 ヽ___ノ /
丶---------r'´
┏
誰も好きになっちゃいけない、とか。理解できるはずもなかった。
でも、私はそれでも構わなかった。マーサが誰を好きであろうと、なかろうと。
┛
┏
必ず、マーサを守る。強く、立派なスライムナイトになって! そう、誓っていたのです。
┛
.
150 名前: ◆VeXhfoQdhw [] 投稿日:10/05/30(日) 02:00:25 ID:egOnYakf [21/51]
1136
┏
……でも、私の願いは。
マーサを守りたいという、切実な私の願いは、
叶えられることなく、終わったのです。
┛
┏
マーサが……、私の名付け親であり、
母のように慕っていたマーサが……。
ある日突然、村から、姿を消してしまったから。
┛
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