日本人の食生活に欠かせない米は、アジアだけでなくヨーロッパやアフリカなど世界各地でも食べられています。そんな米が世界で親しまれるようになった歴史や、稲作が地球にもたらす環境負荷について、教育系
YouTubeチャンネルのTED-Edがアニメーションで解説しました。
Why is rice so popular? - Carolyn Beans -
YouTubeアメリカの伝説的コメディアンであるミッチ・ヘドバーグはかつて、「腹ぺこで何かを2000個食べたいなら、ご飯が最高だ」と語ったことがあります。
どれほど米が世界で愛されているかというと、毎年消費される米と世界中の人口をてんびんにかけると米が圧勝するほどです。
米は人類の年間消費カロリーの20%を占めており、韓国のビビンバ、ナイジェリアのジョロフ、インドのビリヤニ、スペインのパエリアなどさまざまな料理の主役となっています。
稲作の起源はアジア、アフリカ、南米に住んでいた初期の農民たちが米を作物化した数千年前にさかのぼります。
最初に登場したのはアジア米で、多くの植物遺伝学者は現在の中国が起源だと考えています。
1万年以上前、現在の中国に当たる地域に住む遊牧民たちが稲の原種の種を集めて食べ始め、約9000年前にはその種を植えて農村に定住するようになりました。こうして誕生した稲作農家たちは、収穫のたびに粒が大きく豊かなもの、香りのよいものなど、自分たちが最も好む稲の種を選んで植えました。
この品種改良の繰り返しにより、数千年かけて多種多様な品種のアジア米が生み出されていきました。
3000年前には、アフリカでも稲が作物化されました。現代では、稲作が行われるのは西アフリカに限られています。
南米でも4000年前に稲が作物化されましたが、ヨーロッパ人の襲来によって途絶えました。
こうして米は広く普及し、アジアのみならず世界の食生活と文化の根幹を担っています。例えば、インドやネパールのヒンズー教徒たちは、乳児が初めて米を味わう「アンナプラシャン」という儀式で乳離れを祝います。
日本人ならよく知っているとおり、「ご飯」という言葉が「炊いた米」と「食事」の両方を意味するほど、米は日本人の食生活の中心になっています。
米がこれほど普及したのは、稲が熱帯から温帯まで幅広い気候で育つ植物だからです。
さらに、一般的な植物は土壌中の酸素がなければ根の細胞が呼吸できませんが、半水生植物である稲の根には空気の通り道があるので、水没した土壌でもすくすくと生長することができます。
稲と競合する雑草の多くが水中では生き残れないという優位性を利用し、米の生産者は伝統的に水田に稲を植えてきました。
これにより稲は高い収量を誇りますが、水田は大量の水を必要とします。その結果、世界の農地面積の11%しかない水田が、世界の灌漑(かんがい)用水、つまり農業に使う水の3分の1を消費しているとのこと。
しかも、水田は
温室効果ガスであるメタンを発生させてしまいます。
その原因は、水中に生息するメタン生成菌です。この細菌は、地球上に酸素がほとんどない時代に進化したため、酸素がない環境でよく繁殖します。
メタンは二酸化炭素の25倍もの温室効果があるため、牛のゲップにより大量にメタンを放出する畜産業がよく問題視されていますが、水を張った水田からもメタンガスが発生します。
稲作は人為的なメタン排出の約12%を占めるといわれています。
いいニュースもあります。実は、米が育つ上では水を張り続ける必要はないことがわかってきました。
研究者や生産者は、収穫量を維持しながらメタンを削減する方法を探し続けており、その有望な手法のひとつが「湿潤・乾燥交互灌漑法」です。これは、定期的に水田の水位を下げてメタン生成菌の増殖を抑えるというもの。
この農法により水の使用量は30%、メタンの排出量は30〜70%削減できるとのこと。
自動車の排気ガスなど、
温室効果ガスは人の営みのさまざまな場所から発生します。従って、稲作を持続可能なものにすることは、壊滅的な
温暖化を回避するために取り組まなければならない問題の1つに過ぎませんが、だからといって軽視していいわけではありません。
動画は末尾で、「今でも多くの稲作農家がシーズン中にずっと田んぼに水を張りっぱなしにしています。数千年来の慣習を変えるには大きな発想の転換が必要ですが、地球環境を健やかに保ちつつ私たちの食卓を豊かにするためには、常識に逆らうことが必要なのです」と訴えました。