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J-CASTニュース
――なるほど。夫婦をめぐる時代の移り変わりが速いのですね。
川上さん 一方で、男性の育休取得が推進されるなど世の中の機運を見るにつれ、妻側の夫への期待値は高まり、さらに仕事との両立が進むにつれて家事・育児の負担をより強く感じるようになることで、夫への不満が一層強まってしまっている可能性がありそうです。ただ、中には家事・育児への意識だけでなく、既に具体的に行動を変えている夫もいます。フリーコメントには、夫の家事・育児を絶賛する妻の声がいくつも寄せられました。そんな「覚醒した夫」と、いまだ「眠れる夫」の二極化が進んでいるようにも感じます。そうすると、「覚醒した夫」との比較で「眠れる夫」への不満はさらに大きくなってしまうかもしれません。
――調査では、夫が最も積極的に取り組んだほうがいい項目に、「名もなき家事全般」がトップに上がりました。なぜ、妻と夫側の間で「名もなき家事」をめぐってギャップが生じるのでしょうか。「兼業主夫」というご自身の経験も踏まえて教えてください。
川上さん 料理や洗濯など、名前がついている家事に対し、具体的な名称がつけられていない細々とした家事は、総じて「名もなき家事」と呼ばれています。「名もなき家事」をめぐって夫婦間でギャップが生じるのは、多くの夫には「名もなき家事」が見えていないことが原因です。「名もなき家事」を発見するには、まずすべての家事を知り、全体像を把握する必要があります。一番手っ取り早いのは、自分ですべての家事をこなしてみることです。私は兼業主夫となってもうすぐ丸3年になりますが、1年目は「名もなき家事」の発見の連続でした。たとえば、切れたシャンプーを詰め替えた時、その詰め替え用もなくなったので「シャンプーの詰め替えがなくなったよ」と声に出してから気づきました。それ、自分が買ってくるのだと。自分が主夫になるまでは、妻が切らさないように買ってきてくれていたのですね。つまり、「詰め替え用のシャンプーを買う」「切らさないように管理する」というのも「名もなき家事」だということです。
――川上さんは以前から「家事」に対する能力を「家(いえ)オペ力」と呼び、たとえば専業主婦が仕事に就くときでも「スキル」として役にたつと提言されています。「家オペ力」を身につけることは夫側のキャリアアップにも役立つでしょうか。もし、そうなら夫の家事を奨励するきっかけになりますね。
川上さん 家事や育児に専念している期間は、長くブランクと呼ばれてきました。しかし、家事を切り盛りし育児に携わることは、さまざまな学びの機会でもあります。それがブランク(空白)なはずがありません。私は家事や育児、介護などに携わる期間は、ブランクではなく家周りの仕事をオペレーションしている期間であり、その間に磨かれるスキルの総称を「家オペ力」(家仕事をオペレーションする力)と呼んでいます。家オペ力は、職歴・技術・知識など客観的に評価しやすいハードスキルではありません。コミュニケーション力や企画力、マネジメント力など定性的なソフトスキルです。たとえば、家庭を代表してご近所づきあいする中で、さまざまな年代のさまざまな価値観の人たちと良い関係性を構築するコミュニケーション力が磨かれたりします。ほかにも、毎日の食事の献立を考える企画力、一日3食を365日、年間1095食を作り続ける実行力など、さまざまなシーンで家オペ力は磨かれます。家オペ力は人の内面に備わるソフトスキルなので、夫婦を問わず磨かれますし、転職してどんな仕事に就いても生かされるものです。
――ズバリ、家事・育児を全くしない残念な夫に、家事・育児をさせるにはどうしたらよいでしょうか。
川上さん 残念ながら、家事・育児を全くしない夫に家事・育児をさせるのは、非常に難しいと思います。根本にあるのは、育ってきた環境の違いです。何十年にもわたって夫側は「家事・育児はしなくていい」と育てられ、妻側は「家事・育児をしなければならない」と育てられてきました。それを大人になってから急に意識を変えるのは大変なことです。ただ、夫側は家事・育児をしたほうが得だと思います。家庭内の平和のためというのもありますが、仕事においても得をします。なぜなら、家オペ力が磨かれること、また、時代の流れに鑑みれば性別を問わず誰もが家事・育児に携わる家庭はこれからも増えていくと考えられるからです。そうなると、必然的に、仕事と家庭の両立は女性だけの悩みではなく、働く人すべての悩みになっていきます。その変化は、同僚たちと一緒に仕事したり、管理職になってマネジメントに携わったりする際に少なからず影響を及ぼすはずです。家庭と両立させながら働く仲間たちと一緒に仕事し最大の成果を出していこうとする時に、自分自身も家事・育児に携わり、仕事との両立の大変さなど、その感覚を、身をもって知っていたほうが仕事をしやすくなるのではないでしょうか。
――妻は、残念な夫にどう家事・育児をさせるよう仕向ければよいでしょうか。
川上さん 妻側は夫たちとは育ってきた環境が異なるため、大人になった時点で既に、家事・育児に対して大きな意識格差があることを認識しておく必要があります。床の上に服を脱ぎっ放しにしていても、注意するまで片づけない。あるいは、不機嫌そうな態度をとられ、注意しても片づけない。夫のそんな姿を見ると、どうしようもなく腹が立つと思います。ただ、当の夫は「家事・育児はしなくていい」と言って育てられてきました。中には、「男が家事などするんじゃない!」と怒られて育った夫もいるはずです。「脱いだ服を片づけて」と指摘する妻は間違いなく正しいのですが、洗脳と言っていいほど染みついた過去からの教育によって、その言葉が夫の耳には届きにくくなっているのです。そのため、もどかしいとは思いますが、ストレスを溜め過ぎない範囲で見守ったり、ちょっとしたことでも褒めたりと、子どもを育てるような気持ちで接することが夫の行動を変えさせる近道かもしれません。家事・育児で妻が夫に自分と同じ目線を要求すると、ふてくされたり逆切れしたりされることもあります。妻から見れば「ふざけるな!」と言いたくなると思いますが、幼少期から植えつけられた意識格差が少なからず邪魔をしていることだけは、頭の隅に入れておいていただければと思います。
――残念な夫の意識改革は、育児よりも手がかかりますね。
川上さん しかし、希望はあります。兼業主夫となったこの3年で、明らかにスーパーで男性を見かける比率が増えました。妻から見るとまだまだでも、夫たちは夫たちなりに頑張っているのだと感じています。ただ、多くの夫たちが根本的に間違っているのは、自分たちが家事・育児の主体者だと思っていないことです。夫婦はどちらも、家事・育児を含む家周りの仕事の主体者です。ご家庭によって夫婦の家事・育児比率が1:9の場合もあれば、5:5の場合、8:2の場合もあるかもしれません。しかし、比率がどうであれ、家事・育児の主体者であるという意識を持てているかどうかが「名もなき家事」への気づきなど具体的な行動の差に直結します。家周りの仕事は、家族が生活している限りなくなることはありません。そこに性別などは関係なく、家周りの仕事は家族全員が当事者であり主体者です。しかし、いまだに家周りの仕事は女性の役目と認識されているところがあります。その認識を、誰もが家周りの仕事の主体であり誰もが「しゅふ」であるという認識へと改める「一億総しゅふ化」が必要だと感じます。しかし、いまは「男性は仕事、女性は家庭」という性別役割分業意識の影響が至る所に残っています。成り行きに任せるのではなく、学校教育などを通じて子どものころから認識を変えていくといった能動的な取り組みも重要になってくるのではないでしょうか。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)