これまでベスト16が最高位の日本代表にとって、新しい景色とはそれ以上の成績=ベスト8を意味する。ベスト8は、森保監督が就任会見の席上で口にした台詞だ。それから4年半の間、田嶋会長、反町技術委員長も吐いてきた、サッカー協会の総意でもる。メンバー発表会見では、森保監督の口はさらに大きくなり、「ベスト8以上」に昇格。緊張感をいっそう共有できない感じになっている。
組み合わせ抽選の結果、ドイツ、コスタリカ、スペインと同じ組(E組)を戦うという現実を突きつけられたとき、ベスト8は一端、棚上げすべきである。緒戦のドイツ戦にどうしたら勝利することができるか。これこそが日本サッカー界が総力を上げて取り組むべきテーマになるである。その前に新しい景色の話をするのは、初心者ゴルファーではないが、ヘッドアップ甚だしい。一発ホームランを狙い、ボールをよく見ずに大振りするダメなバッターと言ってもいい。
グループリーグのA組からH組までの8組を眺めたとき、最大の無風区はフランス、デンマーク、オーストラリア、チュニジアが同居するD組になる。英国ブックメーカーの最王手、ウィリアムヒル社の予想では、3番手とされるオーストラリアには15倍のオッズが付けられていて、2位デンマーク3.75倍との間には11.25倍の差が存在する。全8組の中での最大値となっている。E組はその次だ。スペイン1.83倍、ドイツ2.10倍、日本13倍、コスタリカ51倍。2位ドイツと3位日本の差は10.90倍で、デンマーク、オーストラリアより僅かに接近した関係にある。
ブックメーカーの予想オッズで10倍以上の開きがあるチームと、W杯の緒戦を戦うわけだ。この欄でも述べたかもしれないが、ドイツは初戦に全力を注いでくる国として知られる。2002年日韓共催W杯ではサウジアラビアに8-0、2006年ドイツW杯ではコスタリカに4-2と乱戦に持ち込まれたが、2010年南アW杯ではオーストラリアに4-0、2014年ブラジルW杯では強国、ポルトガルに4-0の勝利を収めている。
緒戦に大勝すれば、グループリーグは突破したも同然だ。その後の戦いが楽になる。ドイツは相手が弱みを見せると徹底的に潰しに来る。2002年のサウジアラビア戦などは84分に7点目のゴールを挙げながら、そこで打ち止めにせず、ロスタイムに8点目のゴールを叩き込んでいる。
日本が少しでも怯めば、0-1、0-2ではなく0-3、0-4は十分あり得るのだ。相手が虫の息にあってもフルボッコしてくる恐ろしい気質をドイツは持ち合わせている。そうした意味で危険な相手なのだ。緒戦で大差負けすれば、その瞬間、可能性はほぼゼロになる。新しい景色どころの話ではなくなる。
そのドイツで開催された2006年W杯では緒戦必勝が叫ばれていた。グループリーグの対戦順はオーストラリア、クロアチア、ブラジルで、まず日本は最弱のオーストラリアに勝たなければ、グループリーグ突破の目はないとされた。
ジーコジャパンはにもかかわらずオーストラリアに1-3で敗れる。この瞬間にすべては終わった。ほぼ可能性が潰えた中で2戦目、3戦目の観戦を余儀なくされたわけだが、それは今回、断固として阻止しなければならない。その気概というか心構えが、新しい景色をキャッチコピーに掲げ、本大会に臨もうとしている協会の姿から伝わってこないのだ。