(撮影:水野竜也)

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「これまでのどんな作品より、私の素に近い声で演じました。東日本大震災を描くドキュメンタリーのような作品ですから、軽い気持ちではできません。いろいろ考えて、等身大の私のまま、主人公『吉野由紀』とともに悩みながら迷いながら演じたつもりです。キャラクターが確立しているほかの作品より、とても難しかったですね」

『進撃の巨人』のミカサ・アッカーマン、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のヴァイオレット・エヴァーガーデンなど、数々のキャラクターを演じてきた石川由依さん(32歳)が主人公を演じるのは、『とんがり頭のごん太 −2つの名前を生きた福島被災犬の物語−』だ。

福島県浪江町で食堂を営む富田家と愛犬ごん太を、あの日、東日本大震災が襲った。福島原発からわずか9キロの地で、富田一家は泣く泣くごん太を置いて避難。当時はペットを連れていける避難所などなかったのだ。

いっぽう、大学生の吉野由紀は、ペットを救済するボランティア活動に参加。そこでごん太を保護し、「ピース」と名付けて世話を始める。だがピースは悪性腫瘍に侵され、余命1カ月と診断される。由紀はなんとかしてピースを元の飼い主に会わせたいと奔走するが……。

石川さんは、「吉野由紀」と同じく関西出身。由紀がボランティアを始めるきっかけは阪神淡路大震災の思い出にある。

「阪神淡路大震災のころ、私は大阪のマンションの11階に住んでいて、地震を経験しました。私は幼稚園児だったので、揺れに気づかず寝ていたらしいのですが、母が私の上に、父がその上に覆いかぶさり、母の悲鳴で目が覚めたことを覚えています。11階だったからか、いろんなものが落ちて壊れて、地震の怖さを初めて知る体験でした」

由紀とは同世代でもある。

「東日本大震災のとき、私も大学生でした。でも私は『何かできないか』と思いながらも、行動できなかった。一歩踏み出した由紀はすごいと思います」

とはいえ、由紀も不安が大きかったのでは。

「そうですね。不安を抱えつつ踏み出した小さな一歩から、ボランティア仲間や支援してくださる方、それにごん太たち被災犬との出会いなどがあって、少しずつ成長できたのではないかと思います」

石川さんは震災当時、ペットを救済するボランティア活動を知らなかったという。本作との出会いで石川さん自身に変化はあったのだろうか。

「本作では被災犬の救済が描かれていますが、ふと、猫はどうしていたんだろう。ほかのペットは?と、思いをはせました。ペットレスキューの活動をまったく知らなかったときは何も想像できませんでしたが、一を知るとそこから派生して想像が広がるんだなと。

だから、本作でひとつの事実を知っていただき、それをきっかけに、東日本大震災やいまもなお自宅に帰れない福島の方々のことなど、さまざまに考えていただけたらと思います」

震災からもう11年が過ぎたが、まだ避難生活が続く人もいる。

「みなさん、震災のときに感じたことがたくさんあったと思います。でも、忘れかけていることも多いのではないでしょうか。それに、震災を知らない世代も増えています。

いま、あらためて震災を振り返ること、そして忘れずに考え続けることが未来を作るのだと思います。本作はあの震災で本当に起きた事実をもとに描いています。ご覧になる方によって感じるものはいろいろだと思いますが、これからの人生に生かせるものがあると思います。多くの方に観ていただきたい映画です」

『とんがり頭のごん太 −2つの名前を生きた福島被災犬の物語−』は5月28日からフォーラム福島で先行上映が始まり、6月3日〜9日ヒューマントラスト渋谷などで劇場公開が予定されている。原案本『福島余命1カ月の被災地犬 とんがりあたまのごん太』(光文社)が発売中。

(取材・文:森本光由希)