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古いデジタルデバイスとそのデータの管理や処分について考えてみた! |
先日、とあるゲームソフトを売却しました。平成初期のゲーム機「NEOGEO(ネオジオ)」向けのものです。昨今のレトロゲームブームによってとんでもないプレミアが付いており、わずか12本ほどで120万円以上の高値が付き、中には1本38万円などという金額のものもありました。
これは決して売価の自慢をしたいわけではありません。筆者が売ろうと決意した理由には「ゲームへの想い」があります。あまりにも古いゲームシステムであるために自宅に動作環境が構築できなくなり、遊ぶこともないままに押入れの奥へ15年以上もしまい込んだままでした。
このままではゲームソフトが動かなくなり、ただの記念品になって終わってしまうと考えたときにとても切なくなってしまったのです。
かつて友人たちと毎日のように遊んだ想い出の多いゲームばかりだからこそ、その魅力は押入れにしまっておくべきではない。ゲームが動かなくなる前に本当に好きな人の手に届いたほうが良い。そう思ったのです。
ゲーム機に限らず、みなさんも想い出の詰まったデジタルデバイスをたくさん持っているのではないでしょうか。動かなくなった腕時計、電源の入らない携帯電話(いわゆる「ガラケー」など)、埃を被った携帯ゲーム機。そんなデジタルデバイスはどう処分すべきなのでしょうか。また大切なデータはどのように保管しておくべきなのでしょうか。
感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は想い出の詰まったデジタルデバイスの処分方法や保管方法について考えます。
■想い出と、データと、技術の限界と。
デジタルガジェットとはとても儚い代物です。回路が壊れる、バッテリーが切れる、液晶ディスプレイが点かなくなるなど、様々な理由で壊れていきます。しかもゲームソフトのように30年も40年も動くのは非常に幸運なほうでもあり、何十年~半世紀以上もメンテナンスフリーで稼働するデジタルデバイスはほぼありません。
問題はデータのほうです。ただ単に壊れて動かなくなるだけであれば代替製品を利用するという方法がありますが、ケータイやパソコンのようにデータが入ったものである場合、そのままではデータが消えてしまいます。データの消失とは、つまり想い出の消失です。
データ消失の原因はいくつもありますが、昔の製品であればバックアップ電池のバッテリー切れやRAMの経年劣化によるデータ破損が考えられ、その後登場し現在も技術的進化を継続しているフラッシュメモリー(不揮発性メモリー)などは、寿命が3~10年程度とも言われています(環境によりさらに長く保管できることも多い)。
2020年2月に、KDDI主催の「おもいでケータイ再起動」という、主に1990年代~2000年代に購入されたケータイを再起動し、データを取り出してユーザーにプレゼントしようというイベントを取材したことがあります。
イベントには動かなくなった携帯電話を持ち込むユーザーが次々に訪れ、「これには息子の写真が入っていて……」、「このケータイに飼っていたペットの写真が……」と、失って二度と戻らないと思っていた想い出の写真をどうにか取り戻せないかと相談する人が多くいました。
ケータイの場合、バッテリーが切れているだけだからバッテリーを新しいものに交換すれば簡単にデータを取り出せるだろう、と思うかもしれません。
しかしながら実際には、当時の規格のバッテリーも通信ケーブルも通信用ソフトも新規では生産しておらず、通信キャリアであっても保管期限が切れて在庫がないことがほとんどなのです。
しかも、当時はまだオンライン連携やオンラインサービスも未熟な時代です。写真をクラウドバックアップするといった手法もなく、携帯電話で撮った写真は二度と取り出せないということが多々あるのです。
インターネットが普及した頃は「デジタルデータは永久に残る」などと思っていた人も少なからずいましたが、技術の過渡期であったがゆえに、たった1枚の写真でさえ小さな携帯電話から取り出すことができなくなってしまうのです。
たとえ運良くバッテリーの再充電に成功しケータイを再起動できても、データを外部ストレージへ取り出せるとも限りません。
当時のケータイは外部ストレージ規格がなかったり、あっても古い規格で現在販売しているSDカードやmicroSDカードでは認識されないことがほとんどなのです。
ある女性は「それでもいい。またあの仔が見たい」とスタッフに頼み、無事起動に成功したケータイの画面を見ながら号泣していました。
病気で他界した愛猫が映るケータイの画面を何度も何度も撫でながら、スタッフに「ありがとうございます、ありがとうございます」と嗚咽も止まぬままにお礼を言っていたことを、今でも昨日の出来事ように鮮烈に覚えています。
■増え続けるデータをどう残すか
この取材以来、「デジタルの想い出とは何だろうか」と筆者の中で常に考えることが1つ増えました。
モノとしてのデジタルデバイス・デジタルガジェットは残り続けます。マキシマリストを自称する筆者であるため、自宅にはかつて愛用していた大量のデジタルデバイスが保管されていますが、その多くは不稼働となっていることでしょう。
データの保管とは本当に難しいものです。とくに2010年以前のデータはなかなか貴重です。パソコンのデータですら、HDDを抜き出して保管していたものが読み込めなくなっていた、などということは当たり前のように起こります。
そのため筆者は定期的に古いHDDをからデータを新しいSSDなどへ移動・バックアップすることでデータの保全を行っていますが、そんな手間をかけている人も稀でしょう。
今であればオンラインストレージサービスを利用するのが最も手早く確実ですが、筆者はそんなオンラインストレージサービスでもデータ消失事故に見舞われたことが一度あります。業者による人的ミスが原因であったため不運だったとしか言えませんが、そこで消えた画像などのデータは二度と戻ってきません。
取り出せるデータであれば、複数のオンラインストレージサービスへバックアップを取っておく、というのが最も安全で簡単な方法です。
GoogleドライブやMicrosoft OneDrive、Dropboxなど、無料で利用できるものだけでもたくさんあります。月額料金を追加で支払えば100GB~数TBの大容量を利用できるようにもなりますが、容量に応じて価格も高くなっていくのがネックです。
例えばGoogleドライブの場合、100GBであれば月額250円ですが、2TBでは月額1300円になります(年払いで割引あり)。Microsoft OneDriveでは100GBで月額229円、1TBではストレージサービス単体ではプランがなく、Microsoft 365 Personalのオプションとして1TBが付帯する月額1284円のプランがあります。
今や1TBでも手持ちのデータを入れるには容量が足りない、という人も少なくないかもしれません。そうなるとより大容量のストレージサービスを探す必要がありますが、当然料金はさらに高くなります。
大容量になるほど通信量も増えるため、通信プランにも注意が必要になります。また光回線がなかったり集合住宅向けで通信速度が遅い環境の人では、オンラインストレージという選択肢そのものが現実的ではない場合もあります。
ほかにも、年間数万円にもなる維持コストと通信コストを考えると、1TBあたりの価格が1万円を割り込むようになってきたSSDなどに自前で定期的にバックアップしていたほうが安上がりかも……などとも考えてしまうのです。
■デジタルデバイスは「資源」!
モノ(箱)としてのデジタルデバイスの保管の悩みもまた特殊な上にさまざまです。
筆者がNEOGEOのゲームソフトを売却したのは、保管場所に窮したから、というのも1つの理由です。NEOGEOのゲームソフトはカートリッジケースも含めると1本だけでも小さめの家庭用ゲーム機ほどの大きさがあり、しまっておくだけでかなりのスペースを取ります。
想い出の品、というだけでそれだけの収納スペースを確保し続けるのも意外と大変なもので、その大きさゆえに気軽に持ち出してきては想い出を懐かしむ、というのもなかなか難しいほどでした。
古いパソコンなども、処分に困った人は少なくないかもしれません。現在は資源有効利用促進法によってメーカーによる回収とリサイクルが義務付けられていますが、法制定以前のパソコンや自作パソコン、取り外した部品などはメーカーの回収対象外となっていることもあり、PC3R協会などで有料で引き取ってもらう必要があります。
ケータイやスマートフォン(スマホ)の場合、通信キャリアのキャリアショップで回収してもらうという方法があります。
オープンマーケットで購入した機種であれば、メーカーによる回収や買取を行っている場合もありますが、多くは地方自治体や家電量販電で回収してもらえます(有料の場合もあり)。
適切に処分しようとするとそれなりに知識と手間と時間がかかるため、ついつい部屋の片隅に放置してしまったり燃えないゴミとして捨ててしまいがちですが、デジタルデバイスは立派な「資源」です。必ず適切な方法で処分しましょう。
【過去記事】NTTドコモが「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」へリサイクル金属を納入!人々の思い出の詰まったケータイが五輪メダルに【レポート】
■自宅保管で最も厄介な「バッテリー問題」
自宅で保管する場合は注意点がいくつかありますが、最も注意していただきたいのは「バッテリーを外して保管すること」です。
前述のようにバッテリーは完全に消耗してしまうと充電すらできなくなることが多々ありますが、その完全消耗などの劣悪な環境下では劣化も急速に進み、最悪の場合爆発や発火の恐れがあります。
そのため、古いケータイやスマホを保管する場合はバッテリーを取り外し、二度と起動しないのであればバッテリーだけ処分してしまうことをオススメしますが(もちろん必要なデータは先にバックアップしておくこと)、スマホのようにバッテリーを取り外せないタイプのものもかなりあります。
こちらは個人での長期間の保管はあまりオススメできません。常に50%程度の充電を繰り返しておけば劣化はある程度抑えられますが、それでも寿命は必ず来ます。
本体を分解してバッテリーだけ取り出すというのも一般人には決してオススメできないため、できるだけ早めの処分を行ったほうが良いでしょう。
想い出を優先したあまりに自宅で発火事故が起こり、想い出どころか財産すべてを失ってしまった、などということのないように注意したいものです。
ほかにも、経年劣化による電解コンデンサからの液漏れなどはデジタル製品でよくある故障原因の1つです。
こちらは大きな事故には繋がらないことがほとんどですが、他の家具や製品を汚してさらに腐食・故障を広げる原因ともなるため、やはりデジタルデバイスの個人での長期保管はあまりオススメできないのが実情です。
筆者のように、自宅の押し入れに入れっぱなしのゲーム機やケータイが大量にある場合は、定期的に保管状況を確認することが重要です。部屋の片付けや身辺整理の意味でも、こういった確認作業は意外と大切かもしれません。
■価値あるモノを正しく想い出としていくために
想い出とは、アナログ・デジタルの区別なく存在するものです。筆者も若い頃はゲーム廃人の夢として「全部残してアーカイブにするんだ」と鼻息荒く集めていた時期がありました。
しかし何十年もコレクションしているうちに、集めて良いものと悪いもの、保管の難しいものの区別などが必要であることにも気が付きました。
本やCDであれば、たとえ擦り切れて読めなくなっても曲が聴けなくなったとしても、想い出として手元に残すことは容易でしょう。
しかしながら、デジタルデバイスはそのように簡単にはいきません。保存状態を正しく管理し、状況次第では手放す覚悟も必要なのがデジタルデバイスなのです。
だからこそ、筆者はNEOGEOのゲームソフトを手放しました。永遠には残せないもの、いずれ価値が失われるもの。それを分かっていながら価値がなくなるまで手元に置いておくにはもったいないと感じたのです。その価値はもっと多くの人に知ってもらい、楽しんでもらうべきだろうと。
ケータイやスマホも、そのようにして需要があるのなら喜んで手放すところですが、すでに動作しないケータイに市場的な価値などありません。筆者のようなガジェットオタクならいざ知らず、本人以外のほとんどの人間にはただのゴミです。
筆者がある時期から買い替えた古いスマホをすぐに中古業者へ売るようになったのも、このような理由からです。十分な価値があるデジタルデバイスは価値があるうちに手放すべきだろうと考えたからです。
モノを所有することに価値を求めるマキシマリストとしては失格なのかもしれませんが、筆者は代わりに写真や動画、そしてこのような記事として記憶とモノを残します。想い出とはどのような形でも構わないのです。
みなさんは過去に置いてきてしまったデジタルデータやデジタルデバイスがいくつあるでしょうか。またはそれらを適切に管理して保管(アーカイブ)できているでしょうか。
ケータイが普及して二十余年、スマホが普及して十余年。データや想い出を完全に失う前に、一度整理を兼ねて確認してみるのも良いかもしれません。
記事執筆:秋吉 健
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