現状はどうなのか探ってみると、そこには地方再生のヒントにもなる、大阪の新しい挑戦が見えてきた。
■経営破綻から大逆転。破竹の勢いのUSJ
USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)の快進撃が止まらない。今年7月15日オープンの新エリア「ザ・ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」が抜群の集客力を発揮している。
2001年にハリウッド映画のテーマパークとしてオープンしたUSJは、多大な有利子負債にあえぎ、入場者数が伸び悩んでいたが、ゴールドマン・サックスなど外資資本を取り入れ、経営をテコ入れする一方で、映画以外のコンテンツも扱うテーマパークに発展。人気コミックの世界を再現するショーやハロウィーンイベントの導入、さらには家族で楽しめるパークへの転換を図るなど、ギリギリの資本投下を続けながら業績回復の道を一歩ずつ歩んできた。そんなUSJが満を持して打って出た最大の勝負が、ハリー・ポッターだった。
東京ドームのグラウンド3個分の敷地に物語の主要舞台であるホグズミード村とホグワーツ城を再現。ライドアトラクションやショー、さらにはショップ・レストランを配置した。街の細部にいたるまで、映画「ハリー・ポッター」シリーズの美術監督スチュアート・クレイグ自らが担当。大人でもワクワクするという言い方が少しも大袈裟でない出来栄えを実現した。投資金額は450億円。年間売り上げの半分を上回る。失敗は許されなかった。
「実はこの夏、一瞬だけ、ひやりとしたんですよ」
プロジェクトの陣頭指揮をとった運営会社ユー・エス・ジェイ執行役員の森岡毅氏は語る。ひやりとした原因は、雨だった。
「雨だと入場者は3割から4割減りますが、8月は私たちの記録で16日も雨が降った。これは非常にまずいこと。しかし結果として、単月での過去最高入場者数を更新したのです。現在、入場者の関西と関西以外の比率は6強対4弱。これを、関西の絶対数を増やしながら4対6に逆転させて関西依存を脱却したい。それがハリー・ポッターを手がける目的でしたが、蓋を開けてみると遠方から旅行パッケージで入場した人が去年の倍になっていた。遠方から来た人は雨でもそう予定を変更しません。USJは雨に強いテーマパークに生まれ変わっていたのです」
8月の入場者数は過去最高の133万人。関連グッズやバタービールといった名物ドリンクなど、レストランやショップでの売り上げも順調で、売り上げもまた、過去最高を更新した。
快進撃は9月、10月も続いた。入場者数は135万人、146万人に及び、3カ月連続で過去最高を更新した。森岡氏は言う。
「投資の回収も、想定した水準よりいい形で進められる自信を深めました」
ハリー・ポッターエリア開業後のUSJに来る関西圏以外からの客には、外国人も多い。アジア圏だけでなく、ニュージーランド人、オーストラリア人も増えているという。ハリー・ポッターの世界をつくり上げたテーマパークはフロリダのオーランドにもあるが、日本のほうが近いのだ。
『大阪経済大復活』(PHP研究所)の著者、増田悦佐氏は、海外からの来訪者が増えた背景と今後への期待をこう述べる。
「東京や大阪など日本の大都市圏は、安全で清潔。宗教的なタブーもほとんどない。このことを、アジア圏からの観光客はすでによく知っているんです。欧米人はまだそれほどでもないですが、彼らが今後、USJに来るついでに大阪や京都を観光して日本のよさに気付くようになれば、関西圏の経済にかなりのインパクトを与えるでしょう」
■ハブ空港の強みを生かし、アジア人客を呼ぶ関空
USJのハリー・ポッター効果は、ホテル業、旅行業などにも及び始めた。夏には早くも大阪圏のホテル不足が指摘されるほどになり、帝国ホテルともパートナー契約を締結。さらにはJTBやJR西日本などとの連携も強化している。いずれも海外や国内からの集客を促進するためだ。
また、関西国際空港では、USJのハリー・ポッターエリアがオープンする以前の13年度に、国際線の外国人旅客数で2年連続過去最多を記録した。円安と観光ビザ発給条件の緩和といった追い風を背景に、LCC(格安航空会社)を中心とした新規就航や増便によって躍進しているのだ。関空経由で大阪へ入るアジアからの客が、USJを目指したと考えられる。
一方で、関空の今年7月の国際線の外国人旅行客数は、約55万5000人に及び、前年同月比で27%の増加になった。7月は、USJのハリー・ポッターエリアの開業月だ。
関空の好調さがUSJの滑り出しを支え、逆にUSJ効果が関空に及ぶ。つまり、USJと関空の間に、業績に直結する相乗効果が生まれている。そして、両者の業績を大きく左右しているのは、外国人旅行者だ。
内閣が掲げる第3の成長戦略の柱としての観光戦略が、大阪を含めた地方の起爆剤になると指摘するのは、新関西国際空港の安藤圭一社長兼CEO。
「飛騨高山へ観光する外国人は関空に入り、そこから京都、金沢、白川郷を回って高山に行くと聞きました。私自身が富山へ行ったときは、富山空港に路線を持つ中国の空港からたくさんの人が来て、宇奈月温泉や黒部を観光していた。それで街がかなり活況を呈しているという。アジアの中間所得層がLCCを利用して、日本へ大勢来ているのです」
この海外とのLCCの就航数が多いことが、関空の好業績を支えている。日本最大のLCC空港である関空には現在国際・国内合わせて12社が就航。主力のピーチ・アビエーションは関空を拠点空港として低コストで利用できるLCC専用ターミナルを利用する。関空では、LCCが採算をとりやすいようターミナルの建設も一緒に行うという。現在の国際旅客定期便、週782便のうちLCCによる運航は173便。比率は22%。日本全体でのLCC比率が2〜3%程度というから、関空はLCCビジネスで相当に先行しているが、さらにLCC就航を加速していくと安藤氏は続ける。
「現在の第2ターミナルビルでは不足するので、16年秋には第3ターミナルビルを開業します。新規就航には初年度は着陸料を80%ディスカウントし、2年目には50%、3年には30%にするといったインセンティブをつけるプロモーションも行い、関空の有利性をアピールしています」
なぜ関空は、それほどまでにLCC戦略を加速するのか。背景には、関空独特の強みがあるようだ。
「LCCは単一の機種をいかに高稼働させるかがビジネスモデル。1日に4、5航路飛ぶので、混雑や天候で遅れが出ると、空港が定めている最終着陸時刻に間に合わず、次の日は欠航してしまう。関空は完全24時間空港だから、遅れても帰ってこられる。LCCにとって、24時間空港は大事なのです」
もう一点が、関西という立地だ。
「LCCは長距離には不向き。LCCの勝負は、4時間以内です。一方で、拡大する中間所得層を抱え、中長期的に成長するアジア諸国に、関空は近い。羽田や成田より飛行時間にして1時間ほど近い。3〜4時間の中でのこの1時間の差は大きいと思います」
これら2点は、観光立国を目指す日本の西の玄関口として、関空がすでに十分に発揮している、大きな強みといえるだろう。
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ユバーサル・スタジオ・ジャパンの経済効果
※平成24年時の関西大学宮本勝浩教授の計算による
直接効果
●USJの総売り上げ(入場料金、グッズなど商品販売収入、飲食販売収入、その他収入)
●大阪府内の飲食費や交通費
●遠方からUSJに来た入場者の宿泊費、USJ以外での飲食費、土産代、大阪府内交通費、その他消費支出
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10年間で5兆6190億3200万円の経済波及効果があると予測される
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もしも今年、阪神が 日本一になっていたら……
9年ぶりに日本シリーズに進出した阪神。残念ながら優勝は逃したが、もし日本一になっていたらどのくらい経済効果があったのか。宮本教授は429億円の効果を予想。リーグ優勝を逃したことなどで2003年や05年度の経済効果よりも少ないがそれでも影響は絶大。来年に期待だ。
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(大竹 聡=文 水野浩志=撮影 AFLO、PIXTA=写真)