目黒の森で出合う、都市のオアシス──国立科学博物館附属自然教育園で都心の暮らしに“深呼吸”を。
目黒の森で出合う、都市のオアシス──国立科学博物館附属自然教育園で都心の暮らしに“深呼吸”を。
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【写真】まるで別世界!?都会の真ん中で自然に囲まれる園内
目の前の大通りから一歩入っただけで、空気が変わる。森を感じる場所
東京ドーム4.2個分の広大な森が、目黒駅からわずか徒歩約7分のところにある。この意外性が、まず心をつかむ。心が緑を求めるくらいのストレスを感じてしまう前に、リフレッシュしに行ってみたいおすすめスポットだ。
■ACCESS|目黒から徒歩約7分。都会にあるとは思えない、平坦で優しいアプローチ
目黒駅・白金台駅のどちらからもアクセス良好。坂の多いエリアにありながら、自然教育園までの道のりは不思議と平坦で歩きやすい。歩きながら周りを見るとおいしそうなお店も多い。ランチをしてから自然教育園へお散歩に行くというのもおすすめだ。
駅から続くまっすぐな道。ベビーカー、車椅子、どんな人にも歩きやすい
園内に階段のあるところは一部あるものの、ベビーカーや車椅子でも無理なく楽しむことができるようなコースも用意されている。園内の森を感じながら歩ける通路は砂利が敷かれており、快適に歩けるよう整備されている。森の入口に到着した瞬間、木々の香り、ひんやりとした空気を感じるだろう。街の喧騒が遠ざかり、里山に紛れ込んだかのようだ。ここは、まるで都会に浮かぶ“天空の城”のようだ。
■おすすめフォトスポット「物語の松」
樹齢約300年。江戸時代から景色を見続ける1本の松。見上げると、枝の隙間から見える空の形が美しい。樹形も独特で、写真を撮らずにはいられない。時代を超える存在感に、思わず息をのんでしまう。
紅葉の時期の物語の松
■HOW TO ENJOY|ただの散歩が、静かな冒険に変わる場所
この森の魅力は、余計な人工物がないことにある。遊具もカフェも派手な仕掛けもない。あるのは、ありのままの里山のような自然だけ。だからこそか、子どもたちは驚くほど生き生きとし始める。
光と影がゆっくり移り変わる森。余白の時間が、心をほどく
「カマキリが卵を産んでる!」
「この実なに?」
「見て、この葉っぱ!」
普段は疲れた〜などと連発していた子どもが、ここではまるで探検家のように歩きはじめる。大人としては、その姿を眺めるだけでうれしくなって、ふと、思う「ああ、この子だって“都市の住民″なんだよなあ」。
仕事、学校、友人関係、予定や習い事に追われる毎日。暇や余白のない都会の日々は子どもたちをも疲れさせてしまう。森にいることは、その“余白”を与えてくれるのかもしれない。なんて思う。
■KIDS GUIDE|職員に聞いた、キッズとも楽しめる自然教育園
とはいえ、インドア派の子どもたちを外に連れ出すにはどうしたらいいのだろう。そこで、自然教育園の職員・下田さんに、大人にもおすすめな一歩先の楽しみ方や子どもを「連れ出す」ためのアイテムや工夫を聞いてみた。
小さなレンズ1つで、森は秘密基地に変わる
ーーただ散歩するだけでもいいと思うのですが、ツウな楽しみ方を教えてください。
【下田さん】ちょっとした観察ツールを持ってくると、見え方が変わるので楽しいですよ。たとえば、100円ショップで買えるスマホ用ズームレンズ。これはスマホのカメラレンズに取り付けられます。クリップ型で小さいのですが、葉脈、小さな虫までクッキリ見えるので、いつもと違う風景にびっくりしますよ。
そのままレンズをつけたままで、スマホ撮影もできます。レンズをつけて撮影した写真を拡大するとさらに細かいものも見えるので、普段遠くて見えない鳥などを撮影して画像確認すると、種類がわかったりして、とてもおもしろいと思います。
同じく、超小型のハンディ顕微鏡も、持っていくと落ち葉や実の構造、その内部の細胞の模様などが見えて、初めて見る形など発見があるのでおすすめです。
ーー子どもともっと楽しむには何かおすすめはありますか?
【下田さん】はい。先ほどご紹介したカメラや顕微鏡などは、子どもとも一緒に楽しめるおすすめツールです。あとは、園オリジナルの『スパイTHEネイチャー』という子ども向けのパンフレットもご用意しています。入口そばにあるので、ぜひこのパンフレットを手に出発してください。
園内の自然を守るルールや楽しみ方のコツを“スパイのミッション”として書いた名作パンフレットです。自然のスパイになりきってもらえたらとっても楽しめます。ミッションがいくつか書かれていて「森の落とし物の手ざわりを確認せよ」など、自然を楽しむコツが詰まっているんですよ。
たとえば、“華麗なスパイの作法” として、“森の落し物は元の場所にそっと戻す”などと書いてあります。楽しみながら、園内の自然を守ることができるように、ネイチャースパイ指南があるんです。園内散歩が終わったら、ミッション終了!ということで、特製スタンプを押すスペースもあるので、スタンプを押して記念に持って帰ってください。
ぜひこのパンフレットを開いてスパイになりきろう
園内のことを楽しく説明してくれる職員・下田さんのおすすめフォトスポットは「水生植物園」なんだそう。背の高い木々に囲まれた園内で、水生植物園からは水辺を縁取る木立の向こうに、ひょっこりと都会のビル群がみえるというギャップのある景色がよいのだという。園を知り尽くした人ならではの視点だ。
水辺に揺れる草花の向こうに高層ビルがみえる。都市と自然のコントラストを感じる場所
■FOR ADULTS|大人こそハマる静かな宝探しをしよう
まずは、入口の近くに掲示してある、「自然教育園見ごろ情報」のポスターを探そう。そこで紹介された見どころの動植物を探しながら園内を歩くのがおすすめだ。なお、この見ごろ情報は毎週新しいものに更新されているので、こまめにチェックしたい。
お目当ての植物は数種類絡み合ったり、重なって見にくい場所にあったり、草木の影にあったりと、なかなか簡単には見つけることはできないのが楽しさを倍増させてくれる。目を凝らして園内を歩いていると、まるで宝探しをしているようだ。ほかのおもしろい植物や動物を見つけることもできるかもしれない。
あれ、どこだ、見つからない時間すら心地いい。大人のための宝探しの地図、“見ごろ情報”をチェックしよう
何度か往復して(見つからないこともあるが)、やっと探していた植物と出合えた瞬間の静かな喜びをぜひ味わってみてほしい。ここにいたんだね!と植物に語りかける自分の姿すら楽しくなってくるはずだ。建物だらけの都会の生活では味わいにくい、丁寧で、自然を相手に心弾む時間がそこにある。
■HISTORY|この森が、何度も消えそうになったという事実
自然教育園のある場所一帯には、はるか縄文の昔から人が暮らしてきたという。室町時代には豪族の屋敷、江戸時代は松平讃岐守の下屋敷もここにあった。明治時代は陸軍の武器庫が作られ、大正時代には宮内庁の御料地となった。戦後は一部田畑が作られて地域を支えた時期もあったという。
時代が変わっても守られ続けた森にすむ動物たち
そして昭和には首都高建設計画、ホテル買収計画の話などもあったそうだ。そういった都市化の波に飲み込まれてこの森は何度も消えかけたが、そのたびに学識者と地域住民によって守られてきたという大事な歴史がある。
東京という目まぐるしい都市に、これほどの森が残ったのは、人々の強い意志と深い知識の積み重ねのおかげだろう。
■BIODIVERSITY|たった20ヘクタールが、都市の生態系を支えている
自然教育園の敷地面積のうち、一般公開の区域は全体のわずか15%。残り85%は非公開区域となっている。非公開区域では人の影響を極限まで減らし、都市の中で自然がどう変化するのかを、観察、研究し続けている。
研究によれば、この森は東京の生物多様性の基盤となっている。ここで育った昆虫、鳥などが周囲の小さな緑へ飛んで生き、都内でかろうじて姿を消さないように命をつないでいるのだ。そして森を保つことにより、ヒートアイランド現象の緩和にも効果を発揮している。森の中は、周辺の気温よりマイナス4度。周囲の住宅地の気温にもよい影響を与えている。
森の空気は、都市を確かに支えている。平均マイナス4度の“天然クーラー”
もし23区に、このスケールの森が各区に2〜3つずつあったなら--東京の現実や未来はきっと違っただろう。自然教育により、森や動植物がどんなに大事なのかがもっと周知の事実になれば、東京の森は増えるかもしれない。そうしたら未来は少し明るくなる。
自然は、人間にとっても都市にとっても、決して“贅沢なこと”ではなく、必要なものなのだとよくわかる。
■自然教育園を支えている仕事を知る
自然教育園を何度か歩いていると、ふと疑問が浮かぶ。ここは本当に“手つかずの自然”なのだろうか、と。実はその答えは、半分イエスで、半分ノーだ。
一見、何も起きていないように見える森。その裏側で、静かな管理が続いている
園内の約85%を占める非公開地域では、武蔵野の自然が人の手をほとんど加えずに保たれている。そこでは、都市の中に森が置かれたとき、自然がどのように変化していくのかが長期的に調査され、その研究成果は教育や私たちの暮らしにも還元されている。
一方、約15%の公開地域は、「植生管理」によって維持された森だ。自然は放っておくと変化していく。草木が茂り、光が遮られ、やがて景色は一変する。植生管理とは、その変化を読みながら、人の手を適切に入れることで、里山のような「明るい森」を保つことを指す。
クマ問題などをきっかけに里山管理が話題になっているが、自然教育園の公開地域は、都市における里山管理の実例でもある。そして、その広大な森約20万平方メートルを、実際に現場で管理作業をしているのは3人の職員たちなのだそう。そこで、実際の作業の一部を見せていただいた。
■森を読む仕事──職員・奥津さんに聞く植生管理の現場
自然教育園の維持管理を担当する職員の1人、奥津さん。林業を専門に学び、自然教育園で働き始めて約40年になる。いくつか質問をして教えていただいた。
森の様子を確かめる。管理は、まず“観察”から始まる
――現場で管理作業をされているのは3人だそうですね。それぞれ、どのようなことを担当しているのですか?
【奥津さん】森林、植物、動物など、得意分野はそれぞれ違います。でも、自然を相手にしているところは同じですね。
公開エリアは、路傍植物園、水生植物園、武蔵野植物園と区分され、3人で役割を分担しながら管理しています。定期的にボランティアの人たちの力も借りつつ、日々の判断と作業も、職員3人で相談しながら進めています。
――園内には、植物の名前が書かれた木の立て札=ラベルがたくさんあるんですね。
【奥津さん】植物は季節によって姿を変えています。芽を出したばかりのときはまだ背が低いので低いラベルを立て、植物の背が伸びたら足が長いラベルに差し替えています。植物の高さと名前ラベルをそろえると見やすくなるんですよ。どの植物の名前なのか、来園者がパッと見てわかるようにしています。
倉庫に並ぶ、手作りの木製ラベル。植物の数だけ、名前がある
■落ち葉を掃く理由ーー秋冬の作業が、芽吹きの春をつくる
取材した日は秋の作業日だったので落ち葉がたくさんあった。奥津さんはブロワーという機械で落ち葉を吹き飛ばし、熊手で1カ所に寄せていく。
「秋冬の間にこうやって落ち葉を吹き飛ばしておいて、あとは草刈りや下枝を整理しておくと、早春に芽を出す植物によく光が届くんです。光が当たらないと、芽は出ませんから」
奥津さんが、アオキという植物を小さなノコギリで切っていくと、その一手で、周囲の光の入り方が変わる。この森を把握し、判断し、最小限に手を入れる。奥津さんは、木の手入れができるときは特に作業に熱が入ると話してくれた。
切ったアオキをフゴという袋へ入れていく 
季節の実を集めた小さな展示コーナーも、奥津さんが拾い、入れ替えている
■もっと知りたくなったらーープロが語る、植生管理のリアル
自然教育園では、現場の職員たちが出演するYouTube動画も制作している。植生管理について、現場の視点でわかりやすく解説したシリーズだ。特に印象的だったのが、水辺の管理を扱ったYouTube回。ヨシやヒメガマが生い茂る水辺は、適切に刈らなければ、やがて陸地化してしまうという。「刈らないこと」もまた、自然を変えてしまうのだと知った。
■四季折々の自然を歩いて楽しめる場所
足もとに小さな虫の発見がある。見上げれば、季節ごとの植物が迎えてくれる。
ただ歩く。歩くだけで鳥の声が聞こえる 
フジバカマに吸蜜するアサギマダラが見られることも
自然教育園は、都会のあわただしいペースをほどよくゆるめてくれる場所。気ままに歩くだけでも、植物や動物を探すなんていう探検を試みてもいい。1人でも、誰かとでも、そのときの気分に合わせて受け止めてくれる。園内を見渡すと、来園者はそれぞれ自由に自然を楽しんでいる。
国立科学博物館附属自然教育園
住所:東京都港区白金台5-21-5
電話:03-3441-7176(代表)
時間:9月1日〜4月30日 9時〜16時30分(閉門16時)、5月1日〜8月31日 9時〜17時(閉門16時30分)
休園日:毎週月曜日(ただし、祝日・休日の場合は開園し、火曜日が休園)、祝日の翌日(ただし、土・日の場合は開園)、年末年始(12月28日〜1月4日)※上記の休園日でも臨時に開園することがあります。
料金:320円(現金のみ)、寄付つき入園券 500円または1000円※18歳未満・65歳以上は無料、※ 5月4日(みどりの日)、5月18日(国際博物館の日)、および11月3日(文化の日)は入園料が無料
取材・文・撮影=レックス
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