膨大な量の「エプスタイン文書」だが、その中にある140万通の電子メールを解析し、米史上最大の性犯罪者の実像に迫った英「エコノミスト」誌のレポート全文が、月刊「文藝春秋」4月号で紹介された。以下はその一部である。(近藤奈香訳)
【画像】英国政府の機密資料をエプスタインに転送していたアンドルー元王子
◆◆◆
有力者が職を追われる
ほぼ10年にわたり、ジェフリー・エプスタインの生活に関する情報は断片的にしか明らかになっていなかった。しかし昨年11月、アメリカで検察官の捜査資料の公開を義務づける法律が成立したことを受け、その滴(しずく)のようだった情報の流れは一転し、激流となって噴き出した。

ジェフリー・エプスタイン ⒸSipa USA/時事通信フォト
1月30日、米司法省は300万ページを超える文書を公開した。この公開により、ニューヨークの大手法律事務所の会長ブラッド・カープ、スロバキアの国家安全保障顧問ミロスラフ・ライチャク、パリの文化施設アラブ世界研究所の所長ジャック・ラングなど複数の有力者が、すでに職を追われており、今後さらに増える可能性が高い。米国議会議員らからの異議申し立てを受け、司法省はこれまで黒塗りにしていた氏名の開示にも動き出している。
記録はあまりに膨大で、たとえその一部であっても、いまだ誰も読み通せていない。幸い、ソフトウェア技術者のグループがPDFを分析しやすい形式へと変換した。彼らはAIツール「Reducto」を用いて、電子メールを含むファイルを特定し、送信者・受信者・日付・件名・本文を抽出して、それらを「Jmail.world」というウェブサイトに公開した。
このグループは最終的に140万通のメールを処理し、その作業を2月11日に完了した。『エコノミスト』誌は彼らと協力し、表記の揺れや複数のメールアドレスを統合して、各メッセージを固有の個人にひも付ける作業を実施した。同時に、最も頻繁に登場する500人の経歴を調査した。さらに大規模言語モデル(LLM)を用いて各メールのやり取りを分析し、一般読者にとってどの程度不穏・不快な内容かを数値化した「不穏度指数(alarm index)」を作成した。
エプスタインの通信の大半は、スタッフや業務委託先、ビジネス上の取引相手とのやり取りだった。彼に雇われ、あるいは共に働いていた人々は、頻出上位500人のうち約3分の1を占め、全メッセージのほぼ5分の3に関係している。その中心は秘書のレスリー・グロフ、会計士のリチャード・カーン、専属パイロットのラリー・ヴィソスキらである。ニューヨークやパームビーチの邸宅、さらにはカリブ海の私有島を維持するには、多数の業者や、家事スタッフが欠かせなかった。
ビル・ゲイツに粘着
残りの電子メールから浮かび上がる人脈には目を見張るものがある。頻出上位500人の通信相手は、様々な業界に属しており、全体の19%は金融関係者とのやり取りだった。科学者や医師が10%、メディア・エンターテインメント・広報関係が8%、テクノロジー分野が7%を占めた。弁護士、政治家、学者、その他の実業家はそれぞれ6%、不動産業界の大物は5%だった。金融関係者の割合は2014年に25%でピークに達したが、その後は学術界や法曹界との接点が増えるにつれ低下している。通信相手の多くは米国在住だったものの、英国、フランス、ドイツ、北欧諸国、湾岸諸国、さらにはベネズエラの石油商とも関係を保っていた。
エプスタインが相手にしていたのは、中間管理職に就いているような人物ではなかったことも明白だ。スタッフ以外の主要な接触相手のうち4分の1は、ウィキペディアに専用ページを持つ著名人である。また少なくとも18人の現役または元億万長者とメールを交わしており、その中にはピーター・ティールやイーロン・マスクが含まれる。さらに、映画監督のウッディ・アレンやニューエイジ運動の指導者であるディーパック・チョプラといった著名人、イスラエル元首相のエフード・バラックのような政治家ともやり取りがあった。
多くのやり取りは送受信数がおおむね均衡していたが、例外もある。その1人がビル・ゲイツである。返信は多くなかったにもかかわらず、エプスタインはゲイツに集中的にメールを送り続けていた(もっとも、ゲイツはエプスタインと何度か面会している)。
“Inside Epstein’s Network”, The Economist, 12 Feb. 2026.
©The Economist Newspaper Limited, London 2026
※本記事の全文(4500字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2026年4月号に掲載されています(英「エコノミスト」誌編集部「エプスタイン『性犯罪者の実像』」)。
全文では、エプスタイン氏と交わしたメール数が多かった著名人リスト、業界別のメール送受信のリストが、図表を使って分析されています。
(英「エコノミスト」誌編集部/文藝春秋 2026年4月号)