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通話なら30分以上、警察署での対応なら1時間以上など、一定の判断基準を設けた上で、時間を超える場合には対応を打ち切ったり、警察署からの退去を警告したりできる。対応した職員が幹部職員に報告し、報告を受けた幹部職員がカスハラに該当するか判断する。
運用を開始した5月15日から8月14日までの3カ月間で、70件をカスハラと認定した。70件の内訳は、反復・時間的拘束型が42件と全体の6割を占め、暴言・威嚇・脅迫型が26件、権威型が2件だった。
対応した場所では、電話が50件と最も多かった。勤務時間帯別にみると、夜間や休日の執務時間外が6割だった。対応部門では、外からの対応を受ける総務や警務課で半数を占めた。
県警がカスハラと認定した具体事例は次のようなものだ。
・深夜、警察署に飲酒状態で来訪し、対応した職員に詰め寄り「国家の犬が」「一対一でタイマンしようや」などと1時間にわたって大声で怒鳴り、威嚇するなどを繰り返した(暴言、威嚇、脅迫型)・職員が日中の警察活動の対応の中で、申し出者の連絡先などを聴取しようとしたところ、拒んだ上で「犯罪者扱いされた」と申し立て、同日夜間、警察署に電話をかけてきて「上司に代われ」「対応した警察官に謝罪させろ」など、謝罪や上位階級者による対応を執拗に要求した(権威型)・警察本部への電話で「検察庁になぜ告訴担当窓口があるのか」との申し出を受け、職員が「所管外のことである」ことを告げた上で一般論として説明したが「あなたはおかしい。バカなのか」「頭悪い。幼稚園から国語をやり直せ」など職員を侮辱し、本来の申し出と関係のない申し出を執拗に行った(暴言、威嚇、脅迫型)・日中警察署に電話をかけて「道路の路側帯の草や泥を何とかしろ。区役所に言ったが何も変わらない。いつになったらするのか。警察で指導しろ。道路がきれいになるまで電話する。公務員がそれでいいのか。税金泥棒」などと約45分間にわたって一方的に申し出を繰り返した(反復・時間的拘束型)
70件の中には、カスハラと認定した上で、犯罪の構成要件を満たしたため、建造物不退去容疑などでの逮捕も2件あった。警務課の藤田要管理官は「これまでカスハラ対応は、現場の判断に任せる部分がありましたが、指針を策定することで各警察署でカスハラかどうか判断がしやすくなりました」と話す。
カスハラ対応が適切に行われるように、定期的に公安委員会に運用状況を報告している。また、住民からの正当な申し出や、相談にはしっかり対応するよう指導を強化する。
福岡県警がカスハラ指針策定に動いたきっかけは、前本部長の岡部正勝氏(現・九州管区警察局長)の提案だった。県警は昨年12月に、警部以下の約1万人を対象にしたアンケートを行った。職員の約8割が相手方の対応に苦慮した経験があると答えた。さらにこのうち4割が自身の心身に影響があったと回答した。
藤田管理官は「少数ですが不眠になり、食欲減退や人間不信になった職員もいます。また、断定はできないのですが、辞職の理由の1つになった職員もいるとみています」と話す。
想定を超える深刻な事態を受け、県警では組織を横断してプロジェクトチームをつくり、約半年かけて指針を作った。厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルを参考にしたが、警察組織ではカスハラ指針の前例がなく、対応を打ち切る時間などは時間をかけて検討したという。
福岡県警のカスハラ対応指針については、34の都道府県警察のほか、省庁、自治体、民間企業などからも指針づくりについて問い合わせや視察があるという。
また、県警は2023年度内に県内全てとなる36警察署の電話に、自動音声ガイダンスを導入する。執務時間外は、緊急性の高い相談以外はホームページの利用や、執務時間内のかけ直しを案内する。カスハラ対策だけが導入の目的ではないが、県警は導入により一定のカスハラ抑止になるとみている。
福岡県警のカスハラ対応指針は、カスハラ対策に取り組む関係者や専門家からも「ついに警察までもがカスハラ対策に乗り出した」と注目されている。他の都道府県警察でも同様の動きが出てきそうだ。