クーガー最高経営責任者(CEO)。電気通信大学客員研究員、ブロックチェーン技術コミュニティ「Blockchain EXE」代表。IBMを経て、楽天やインフォシークの大規模検索エンジン開発、日米韓を横断したオンラインゲーム開発プロジェクトの統括、Amazon Robotics Challenge参加チームへの技術支援、ホンダへのAIラーニングシミュレーター提供、「NEDO次世代AIプロジェクト」でのクラウドロボティクス開発統括などを務める。2018年、スタンフォード大学にてAI特別講義を実施。現在は人型AIエージェント「Connectome」の開発を進めている。
AIとブロックチェーンは強い補完関係にある
宮口:AIが取り込むデータの信頼性の担保にブロックチェーンを使うというアイデアは、ブロックチェーンコミュニティ内ではまだあまり話をしないのですが、もっと語られるべきだと思っていました。
石井:AIとブロックチェーンは強い補完関係にあるんです。AIは「Automate Something(何かを自動化する)」の技術で、ブロックチェーンは「Prove Something(何かを証明する)」の技術なので。あるいは、ブロックチェーンはデータの信頼性を証明することによって処理を自動化する技術だとも言えます。
宮口:スマートコントラクトも、ある意味で自動化ですもんね。
石井:そうなんです。ただ、ブロックチェーンはゼロイチの話になりがちなんですよね。ブロックチェーンは大量にある学習データ全部の保存には使えないので、限界があるだろうみたいな話をされることも多い。でも、ほかに使えそうな技術の候補があるかと聞いても、特にないわけですよね。ならば発展途上ではあるけれど、ブロックチェーンを使ってある程度AIの成長や学習履歴を証明していくことが重要になると思っています。
いま世間がAIに期待してるのは、とにかくある程度の目的に対して精度が高い動きをすることです。言ってしまうと、精度が高ければ何でもいい、という状態だと思うんですよね。これは食べ物も一緒で、まずは「おいしいものを食べたい」という気持ちが先に来るということです。
でも、ある程度おいしいものを食べられるようになったら、今度はその肉や野菜がどこから来ているのかといったことが気になります。AIも一緒で、ある程度の精度で動き始めたら、今度はそのAIがどういうデータで学習されたのかが重視されるようになると思うんです。
また、今後は自律走行車やロボットが増え、それにつれて事故も増えてくると、どんな学習データが使われたのか、どんなテストがされていたのかを証明する必要も出てきます。メーカーも自分を守らなくてはならないからです。
ただ、もしこのときブロックチェーンがなかったら、「あのテストはちゃんと動いてました」と言うだけで、いまあるデータ改ざんの問題と同じことが起きてしまう。
あるいは、GAFAや中国のBATがつくっている巨大なAIがどういうデータを学習して、どういう構造で動いているのかといったことも、今後どんどん注目されるでしょう。こうしたことの重要性は、これからの1〜2年で叫ばれるようになると思います。
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「オープンであること」が強みになる時代
宮口:AIの開発手法は、あまりオープンにはされないんですか?
石井:最先端の手法は、だいたいオープンソースで出ていてますよ。その公開されている最新アルゴリズムにデータを学習させてモデルをつくるわけですが、この学習データに何を使ってるかというところは、オープンにされる場合もあれば、されない場合もあります。
加えて、アルゴリズムがオープンであっても、それが何なのかが説明できていないという問題はありますね。これを解決する概念が「説明できるAI(XAI)」と呼ばれ注目されています。アルゴリズムの内容を説明でき、学習履歴や実行履歴もトレースできる状態にし、なぜこの精度になったのかを説明・再現できるようにするというものです。
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宮口:分散型AIも存在しますよね。イーサリアムの話をしていても、アプリケーションやプラットフォームだけが変わっても意味がないと感じます。やはり、AIやハードウェアも変わっていかなくてはならない。
石井:ブロックチェーンの場合、データがブロックチェーンに入れば非常に安全な状態をつくれます。ただし、実は入るまでの過程も重要です。データが間違っていると、間違ったまま入ってしまうからです。これを防ぐために、インプットするデータをセンサーやカメラから直接、なるべく人を介さずに入れる取り組みも進められています。その延長線上にある取り組みが、ハードウェアレヴェルでアプリケーションの安全な実行環境を実現する「Trusted Execution Environment(TEE)」ですね。
ゆくゆくはIoTひとつとっても、とったデータをブロックチェーンに入れるというよりは、データを取得するセンサーの部分をブロックチェーンベースにして、さらに信頼性を上げることも考えられますよね。
宮口:そうですね。スマートコントラクトに世の中の情報を取り込む「oracles」(オラクル)という仕組みの開発が向上していっていますが、今後AIが当然絡んでいくはずです。その情報が正しいことが必然になりますね。
石井:信頼性の話に関連して、オープンソースへの信頼も強くなっている気がしています。ソフトウェアにしても、昔はマイクロソフトやアップルなどの閉じられた大企業がつくったものが主に使われていましたが、いまではオープンソースのほうが使われることが増えています。それは公開されているものを使うことに、信頼が置かれているからでしょう。
同じことはデータでも言えます。例えば、公開されたデータを使って学習しているAIなどです。そう考えると、短期ではデータを公開することは不利なようにも思えますが、中長期では人々の信頼を得るという点で公開したほうが強いとも言える。企業はデータを公開したくないという思いがある程度はあると思うのですが、ゆくゆくはオープンソースのソフトウェアで起きたようなことが、データ側でも起きるんじゃないかという気はするんです。
宮口あや×石井敦 対談(全3回)ブロックチェーンは、なぜSFで描かれてこなかったのかデジタル空間に「自然のような持続性」をもたらすブロックチェーンAIとブロックチェーンは強い補完関係にある