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【安価】やる夫は誰かのために戦うようです【R-18】 第69回

2877 名前: ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日:2020/08/10(月) 20:11:48 ID:rneH2lU60 [3/17]

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意識が覚醒して最初に聞こえてきたのは、何かが弾ける音だった。
戦場で聞くような火薬の音とは程遠い、穏やかなものを感じさせる音だ。

ぼんやりとした頭で、その軽い破裂音を聞いていると、
当然の疑問が今更ながらに浮かんだ。なんでこんな音がするのだ。

不審に思って毛布を跳ねのけ、上体を起こす。
重たい瞼を持ち上げながら、音の正体を探した。
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2878 名前: ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日:2020/08/10(月) 20:19:35 ID:rneH2lU60 [4/17]

              _ r―ァ-、―- ミ
             />''"~"''<⌒l   ` <
               7//ヽヽヽヤ⌒〉     \
                ψ/// ソノ }-〈     .|  ヽ ∨
              r{ゞ、>''´/ / Y′   .||  ハ ∨
             }ヘゞ`''<彡‰ソ  ! !  !\ / l| トゝ
                V乂三∠⌒)´ !∧| | .」ノレ' | リ |
              廴乂_)ノl l 八(l ヘ八ソ`メ|/ /
           >''⌒7^Y⌒ ヽ、,人|   ヘ{`¨乂レ′
           /===/`nヘ=====\ilN  |.、_ /              おはよう、ヤルオ。よく眠れたようだな。
            \=/===l.l= \===/ |  | /
              ´/====|.!==== <´≧〈从 |´                 「アルトリアさん……? お、おはようございます。
              _≧s、_ノハ_==== マニニゝ-`‐…¬冖ニニアl
       _ <ニ/ニ二二Y  ̄ ̄ ニニニr'ニニニニ>''´ =|         けど、なんでここに」
     r<ニニ/ニニニニ/二二二ニニニ|ニニニ/二二ニ|-「ヽ∧
     ∨=ニニニニニ二/二二ニニニニニニニニニニニニ上′ニニ\    今日は私も非番だったからな、やることもなし、
       Vニニニニニ/:⌒"''<ニニニニニニニニニニニニ乂ニニニ
        {/ニニニニ/  :     ` マニニニミニニニニニニニニ\ニニ     こうして邪魔させてもらっている。
       <=/ニヘ二/  :        `'マニニニミニニニニニニニニ>
       〈´ニニ二∀     ':,         `'マニニ/冫、ニニニニニニニ      ……安心するがいい、迷惑はかけん。
      }/二二{   ,'    ':,       : : ̄i .イニ=}`''<ニニニニニ
       /ニニニニΚ ,'      '       : : /ニニ=/     `''<ニニ
.      /ニニニニ∧\   ',        _ イ二二ア        `''<
     /二ニニニ/ ∨_\  ',    _ <ニニニ/
.    /ニニニニψ  V二`‐┴―≦ニニニニニリ
.   Yニニニ=/|     VニニГニニニニニニ彡〈
   {ニニニニニ/ヽ.   {ニニヘ二二二ニニニニ/
   ∨二二ニニニ\ /二二/二二ニニニニニ|
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そこには、キッチンに立つアルトリアの後ろ姿があった。
いつもの黒いドレスに簡素な麻のエプロンを付けた様は、違和感ばかりが感じられた。

ぎこちない手つきでフライパンを軽く揺すり、換気扇に吸われていく煙を前にして、
無言で手元を睨みつける彼女の横顔に、呆気にとられた。

なんともいえない非日常感が、見慣れた私室に鎮座している。

そういえば、アルトリアにはルームキーの認証ID、つまりは合鍵を渡していた。
時々部屋の前で待ちぼうけしている彼女を立ちっぱなしにさせるのは、
と渡したものだ。

錆びた機械のような挙動でフライパンの中身を皿へと移すと、
アルトリアは部屋の中央のローテーブルへと上品に置いた。

白い丸皿の上には、オムレツとソーセージが並べられている。
脇にはソーサーの上に置かれたカップがある。

アルトリアは湯気の噴き出るティーポットをいつの間にか手にし、
見惚れるような所作で紅茶を注いでくれていた。

「朝食だ、食べておくといい。味は……保障は、できんが。
朝食、というよりも、こうした習慣というものは大事だ。
粗末にすると心身ともに不安定になっていく」

そういうと、アルトリアは口元を綻ばせて、妖しく目を細めた。

寝起きのだらしない姿を見られたということと、
自室に女性がいるという緊張感と高揚感から、
慌てて「か、顔を洗ってからいただきます」と一言断ってから洗面所へ駆け込んだ。
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2879 名前: ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日:2020/08/10(月) 20:19:49 ID:rneH2lU60 [5/17]

         ____
       /       \
      /   ―   ―
    /     ( ●)  (●)'  ∫
    |         (__人__) | ∬       美味しかったですお……ごちそうさまでした。
    \        ` ⌒´  .| ̄|
____/       ー‐  '-|_|)       「ああ」
| |  /  /          __/
| |  /  /          |             アルトリアさんは、朝ごはんは食べてきたんですかお?
| | (    ̄ ̄ ̄⌒ヽ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|





                  _ -――――- _ __
               ∠            ` 、_}_
               /             、 ` 、⌒ヽ
               /        /           \  ', /
             /   /     '           |   '/\
           '   ′   /           |    |   、ノ}
            l{   /  {   /{   {  |    |    | ̄ア}ノ\
          八  |  ',  l  、  {  l 、 |    |/ ハ___ノ
            \|', ∧| |  \_{\|\\|    |  / /⌒}        簡素なものではあるがな。
              | ∨ャ竿ミ      斗竿ミ|    |/ /__ ノ
              | ∧  Lソ      Lソ |    |ヽ/⌒\         歯を磨いてくるといい。片づけておく。
              | ハ            |    |ノi:i:i:i:i:i:i:\
              l  込、  '          |    |\i:i:i:i:i:i:i:i:i:',      「いや、自分の分は自分で」
              |   | \   r_、     ,|    |、i:i\i:i:i:i:i:i:i:}
              |   |    、      イl|    '{i\i:i:)_i:i:/       そうか。
              人   |     l` ‐  ´   l|  /i:V⌒i: ̄{
                    、|    f≧======≦_|  ,'⌒i{i:i:i:i:i厂
          _-=ニニ=- __ノvニニニOニニニ=|/二⌒⌒^
            _-=ニニニ/ニニ\ニOニニニニニノニニニニ≧ァ≦⌒\
           _-==ニニ {ニニニニニ/\ニニニニニニニニニニニ/ニニニニニ',
         _-=ニニニニ〉二二ニ\/二二二ニニニニニ/ニニニニニニニ',
           _-=ニニニ/ニニニニニ/二二二ニニニニニニ/ニニニニニニニニ',

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慣れというのは本当に恐ろしい。
リンクスになりたての頃の自分が、この光景を見ればどう思うだろうか。
きっと腰を抜かし、混乱するだろう。

けれど、この特殊な状況を受け入れ、それが当然に擦り替わりつつあった。

戦争に参加する。帰ってきて、暖かい布団で寝る。
美味しくて腹を壊す心配もない食事を満腹になるまで摂り、
気が向いた時には誰かと出かけて遊んだりする。

戦う理由や意義といったものは未だ判然とせず、心の底では迷いが燻ぶり続けて
いる。ただ、満たされた時間に浸かる日々の中で、初めて安らいだ気がした。
優しい夢でも見ているかのような気分だった。

外に出れば、そこにあるのは戦場だ。
今や、世界の大半は戦場と化している。
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2880 名前: ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日:2020/08/10(月) 20:25:41 ID:rneH2lU60 [6/17]

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    : :/ ̄´"''ミ /  /  /,/'}|´"''~ .,  〕: :: .                 : :\  ∨        `、
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  : | ../   \{___〉 / /⌒\{  (二二二二二)-、

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現代における戦争とは、即ちビジネスだ。
世界を回すために経済活動の一環に他ならない。

資源の奪い合い、土地の奪い合い、単純な他企業の妨害。
そこに思想や理念は関係ない。民族も宗教も関係ない。
殺し殺され、壊し壊され、世界は回る。

かつて国家間における力の象徴とされた核ですら、今となっては過去のものだ。
どういう事情かまでは自分は知らないが、今では利用された形跡すらない。

現代における力の象徴はコジマ技術であり、その申し子たるネクストだ。

かつての文明は、作ることこそが世界自体のライフワークだった。
現代の文明は、奪い合いこそがライフワークだ。
経済を回すことと戦争をすることは最早同義なのである。
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2881 名前: ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日:2020/08/10(月) 20:42:45 ID:rneH2lU60 [7/17]

                               (                .ノ
                            ノ               ノ
                          (               (
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                              )> ゛     ̄ ̄   <
                           /   ,....................,,_     マ
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                             //:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
                       >.: ,'/.::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::.ム  : V
                      / .{ .{!:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ム j }`ヽ
                    〃  . { V::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::}.: :   寸
                   /    .j  マ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::j,' j    マ
                  /    .∧   マ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::〃 ,'    .マ
                    ;      ∧  `<:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::>`  <(       ,     ___
                 { i      ム    ` -=======‐ ゛    (   マ    ,  〃............`ヽ
                 {.;{        ゝ.               イ⌒ヽ  マ    }! イ.......................}!
                   ムム           .            イ`ー=彡   .〉>..........。s≦、...........ノ
                 ∧/,         \≧=-_-=≦> 。 ___ イ......。s≦´    ⌒ヽイ
                / ∧/,          >''"゚~......⌒ヽ..`.~゚.........。s≦´   ,′
                     / ∧/ ,        /../......................〉....〃´      ./

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戦争こそが経済活動における主な舞台であり、その舞台に上がれぬ者が
下級市民として延々と労働に従事し、配給で食いつないでいく。

そして、戦争にネクストを駆って参加するリンクスである自分への報酬は、
この充実した衣食住と娯楽の数々、そして、こうして与えられる平和だろう。

こうなってしまっては、元のスラム暮らしには戻れそうにない。
野性となった獣は檻には戻れないというが、人は逆だ。
檻の中で与えられる餌の味を覚えたら最後、野生には戻れない。

それもまた、自分がネクストに固執する理由の一つなのだろうか。
そうだとしたらなんとも小さな理由に思えてくるが、すぐに違和感が湧いた。
今、端末で自分の口座情報を出せば、かなりの額が書かれているだろう。
ネクストに乗らずとも充実した生活を送れるだけの額が。
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2882 名前: ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日:2020/08/10(月) 20:46:16 ID:rneH2lU60 [8/17]

         ____
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    /     ( ー)  (ー)'
    |         (__ノ、_,x ,--、
    \.       `ー<  ヾ zヽ ズズ…
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| |  /  /            __ノ
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| | (    ̄ ̄ ̄⌒ヽ.   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

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最近、自分自身のことが分からなくなってきた。
自分自身について考えるようになってきた、と言うべきかもしれない。

自分はどんな人間なのか、何がしたいのか。
何を良しとし、何を憎んでいるのか。

仮に問われたとして、何一つ、答えられないだろう。

他の人達は、どうなのだろうか。
自分が何者で、生きる目的や理由、好むものや憎むものを、
正確に答えられるのだろうか。
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2883 名前: ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日:2020/08/10(月) 20:50:56 ID:rneH2lU60 [9/17]

                   ,、ハ,
                   ノ .::::v!
                 l .:::::::::|
                 r ‐- ‐'7
              r  ´  ̄  ̄ ヽ   
                 /         ヽ
             /:::   ト .__ イ ⌒j
             7⌒ T´ ̄ :::::::::/::::::|'
              /  イ:::::::::::::::::::::レ':::::|
            ヽ.:::::|::::::::::::::::::::::|:::::::|
               `ー!:::::::::::::::::::::ヽ ::ノ
                !ハ ∧   ノ\
                !         ヽ
                !         :.:.:\
                !         \ :.:.\
                !    l:::      ヾ:.:.:.:\
                !    |::.       !:.:.:.:.::ヽ
                !    i:::::...   r‐─ ' ‐ 、:/
                !    |:::::::::::::ノ::::::::::::::::/
               !r'三ゝ人_,<:ィ:::::: r‐′
               1 三 Y   | 三 | ̄´
                  | 三 !   | 三 |

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そう考えるとき、瞼の裏に映るのは、いつだって彼の背中だった。

ストレイト・クーガー。

不思議な男だった。
無軌道なようでいて真っ直ぐで、道化のように振る舞いながらも眼は鋭い。

不敵な笑みから語られる言葉は早口過ぎて上手く聞き取れないことも多いが、
ある種の熱のようなものを持っていて、何かに駆り立てられるような気持ちになる。

社会的には決して褒められたような人物ではない。
けれど、自分にとっては、その存在は日に日に大きくなるばかりだった。
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2884 名前:安価のやる夫だお[sage] 投稿日:2020/08/10(月) 21:03:37 ID:T2jG3BEU0
今日は仕事休みだからリアルタイム参加

2885 名前: ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日:2020/08/10(月) 21:04:56 ID:rneH2lU60 [10/17]

         ____
       /       \
      /   ―   ―
    /     ( ●)  (●)'  ∫       ……というか、今日はどうしたんですかお?
    |         (__人__) | ∬
    \        ` ⌒´  .| ̄|        「朝食を作りに来てみた。特にそれ以上の意図はない」
____/       ー‐  '-|_|)
| |  /  /          __/        お、おお……
| |  /  /          |
| | (    ̄ ̄ ̄⌒ヽ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|






          _,. -r‐、
        ,∠ ― ,rヽ)ノ   ‐ 、
       / 7 ‐-,. ( )'ノ        、
.      i ;   ,‐!ノ'ノ  `/    ,. -
.      ' :,_/〉-,ノ   ./    /"    ヽ
.     r/_.'-‐'   \ .'   / /    ! 、
       `! !.    、,.ヽ!  _.//' ,. ィ  i ! }
      ', !    /、ノ|   .た!ヽヽ/ ノ' ;.ノ
       、 、 ,ヘヽ.l   l l   ´ ,/,イ/       他にすることもなかったのでな。メディカルチェックも先日終えた。
         V/>/∧ l  !l.     {.' .l
.         _l'/////∧l  l|  、 ,.ゝ l         私が出るような任務もないとのことで、ここに来た。
      ,ィニ二二ニ_<,.――--<!  l.|
     /二二二二/::::::::::::::::::::::::::::>、i|         勝手にやっていることだ、気にするな。
   _,./>''" -=/::::::::::::__:::::::::::::::::/}
― /ニi.lニニニニ{::::::-::: ̄::::::::::::::::ヽ:::::://
::::::i=ニ!.!二二ニ/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::; '
:::::l=ニl l二二/:::::::::::::::::::::::::::::::;::::::::::;:〉
::::lニニl lニニ〈::::::::;:ィ二ニ=_、,、::;:::::::jム
::::!ニニ!.l-=二';:::://:::::::::::;::ニ//ヽ::::/ヽ!ム
::::!/ ,イニ=-__ヽ/:::;ィ////////\ニl.!ニ!
::::l'/ニニニニ</////////>!/∧=!l=l
:::::マニ二二ニニ!>_、///////>,/`マ
:::::::マニ二二二ニム<///////>'"////\、

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しばらくの間、無心で紅茶を啜っていると、不意に目の前のアルトリアが
足を組み替え、その衣擦れの音ではっとなった。

彼女と一緒にいるときは、他の女性、つまりははやてやなのはだが、
彼女らと居る時とはまた違った時間が互いの間に流れる。

二人と一緒にいるときは、自分も彼女らも、よく話す。
必要に駆られて話題を探したりはしないが、話したいことや話してもいいと
思えることは、互いにそこそこあるのだろう。
そういった他愛のない話を、とめどなく話している。

アルトリアと一緒にいるときは、少し違った。
自分は彼女に対して話題や言葉を探すときが多いが、彼女は沈黙を保つことも多々ある。
だが、決して気まずいわけではないようで、穏やかな佇まいのままだった。

一度、具合でも悪いのかと顔を窺っていると、ふっと目を細めて見つめ返してきた
ものだから、気恥ずかしさと驚きから目を逸らしてしまったこともある。

つまるところ、彼女との間では、静寂はネガティブなものではなかった。
むしろ、怒っているときは前回のように詰め寄ってくる。

だから今回も、あまりの自然さに訪問の理由を聞くことすら忘れてしまっていた。
╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

2886 名前: ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日:2020/08/10(月) 21:11:36 ID:rneH2lU60 [11/17]

  /            i      \    } >
  /             i       .| / レヘ、
 ,         ヽ   i  .|       |、 / } ノ
 i      .l    i  .ハ. ∧.i      .| l /  |' ゙;
 |    .|  i    .| /! }/ }ハ     .|,ノ / ./"          「なんか、行先とか周りに告げたりしてるんですかお?」
 | .i  .|  ト   1. ,ム斗:r7 }      |  / ./:.:.:.:.:ヽ
. i l  .|  「\  .ハ/ Vツ  ':/     .| / /|.:.:.:.:.:.:.:.:.ゝ       いいや。こう見えて、相応の権限はあるのだ。
. 八ハ  ト |'芯\{  ´   ハ |    ハ /:.:.|:.:.:.:.:.:.:.:/
.  { `:.ハ .ト.}7          }/|   .j y:.:.:.|:.:.:.:.:.:./         実質的には専属とはいえ、形式は雇われとスポンサーだ。
      | ヾ. :,ヽ         / }   j ∩こ)゙,:-イ~
      l   |\  _ -,ァ    イ  .,v⌒/: :ヽ:.:.}     _____,,     昔に比べれば、自由は格段に増したな。
 .     l   .|.   、 ´   /ノ-マ`/: : : : : :’、_ . : : : : : : : :
      丶  i     `ー ' >r"f ゙/: : : : : : : : /: : : : : : : : : : :
        丶 ,      ⊂゙_/: : : : : : : : /: : : : : : : : : : : :





               ____
             /      \
           / ─    ─ \      そ、そうなんですかお?
          /   (●)  (●)  \
            |      (__人__)     |      「ああ、そうだ」
          \     `⌒´    ,/
          /     ー‐    \

2887 名前: ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日:2020/08/10(月) 21:22:53 ID:rneH2lU60 [12/17]

                     __  __
                  __,.r'' _≧´--`≦`ヽ
                     ノ> ´       ` <}
                /  /         .、 ヽ
            __.. -‐  /  /  i    i   ヽ  ,
                 ̄ 7   /   ,:   ハ.    |  ヽ  \!
             /  .,  / ,:  i ',   i!   \. \
                 ,    i , /!.ハ. |  ',    !、  、  ',   ,
             i ,  j/ /ーi'- ', !  ヽ  { ヽ ヽ ',  ',
             レ'  / /r=芋ミヾ     `ィr弍=ァヽ :,  i
             /  ' ∧ ゙ ゞソ ゙   " ゞン " ハヾミー- .._       自分で言うのもなんだが、昔は箱入り娘だったからな。
              /   ハ._,      ,      ム/::::i `丁
           / ィ   {ヽ:::ハ            ハ:::::::! . ',         オペレーターも秘書兼世話係のようなものだったし、
             〃 i :  | ヾ彡:.、    - -    .イ}}:::/ | .ト、 ヽ
         /   | i  | /::::::::::::>      <::::::::::::} !/ ヽ 、       スケジュールも細かく管理されていた。
        __    ', ! | {:::::::::::::::ハ、>.=.< _ハ::::::/ /    \
       /::::ヽ::::`:::::ヾト、!ー--.=彡{::::::::::::::::::::::::::}ー-..__              衣服や食事のメニューもだな。
       ,:::::::::::::',:::::::::::::::::::::::::::::::::ムハ::::::::::::::::::::::ノ',::::::::::::゙:.ー- .._
      .i::::::::::::::::,:::::::::::::;:::::::::::::::ム'  >ー==<.   マ、::::::::::::::::::::::`:ー- .._     ……ふっ。あの頃に『男の部屋に行ってくる』
      ,::::::::::::::::::',:::::::::::i::::::::::::ム' /      ヽ.  マ、:::::::::/:::::::::::::::::::::::ヽ
    r''::、::::::::::::::::::',:::::::::|:::::::ノ=.く         \ _}:::::::::i::::::/:::::::::::::::::i     などと言った日には、どうなっていたことやら。
   /::::::::::ヽ::::::::::::::';::::::j:::/::::::::::::、    ,     .イヽ:\:::/:::::::::::::::::::::::|
   :::::::::::::::::::::::ー:::::::::';:::::/::/:::::::::::::::',.   ,     /:::::::::',:::::',:::::::::::::::::::::::::::i
   ::::::::::::::::::::::::::::::::>:::,::::;'::::::::::弐;:::',   ;:   /:::r'乙:::::'::::::',:::::::::/::::::::::;
   :::::::::::::::::::::> ´   i::::i:::::::::::::::刈:::',. i: /夊_ノ:::::::::::::!::::::;:::::::::::::::::::::::;
   :::::::::::::>"       ';:::';:::::::::::::::::::::::ヽ:/::::::::::::::::::::::::::;::::::/:::::::::::::::::::::::{
   ::::>"           ';:::ヾ:::::::::::::::::::::ハ::、:::::::::::::::::::::::/::::;' '::::::::::::::::::::::〉
                  〈:::ミ=-:::::::::´::/  ';:::≧=-:::::::::/:::r'   ';::::::::::::::::::i
               i::::::i::::::::::::::::::',. /:::::::::::::::::/´:::::;'    ';::::::::::::::::::,

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋
過去の自分と、その周囲を笑い飛ばすかのように、アルトリアは鼻を鳴らした。

アルトリアとクーガーからも軽く聞かされていたが、
かつてのアルトリアは正しく深窓の佳人とでも言うべき存在だったらしい。

それも自然な流れかもしれない。
若くしてランク3のトップランカーリンクス。おまけに西洋系の美少女ときている。
企業イメージを背負っているも同然のランカーリンクスは、
ある意味では政財界の大物にも通じる側面を持つ。

現代においてはゴシップなどすっぱ抜こうものなら消されるだろうが、
ジャーナリズムが生きていた頃であれば、このような行為は大騒ぎになっていただろう。

ランクも7に落ち、一桁ランクとはいえ表舞台に頻出することも
少なくなった今となっては、彼女も自由に動けるのかもしれない。
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2888 名前: ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日:2020/08/10(月) 21:34:45 ID:rneH2lU60 [13/17]

     ____
   /_ノ   ヽ_\
  /( ●) ( ●)\
/ ::::::⌒(__人__)⌒::::\
|        ̄      |
\               /

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋
しかし、クーガーもクーガーだが、アルトリアも変わった人だ。
一応は年頃の男である自分の部屋に頻繁に訪れ、
恋人でもなんでもない相手に朝食まで作ってくれている。

それについては困惑するばかりだったが、彼女にも理由があるのだろう。
恐らく、軽々しく告げるようなものではない理由が。

もっと親しくなれば、聞かせてくれることもあるのかもしれないが、
今の関係では難しそうだ。今の関係自体が良く分からないが。

なのはは師にして専属オペレーターであり、はやては先輩にして師の旧友だ。
だが、アルトリアとだけは、なんとも言えない不思議な関係にあった。

自分の中でも憎からず思っているが、相変わらず未知の存在だ。
╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

2889 名前: ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日:2020/08/10(月) 21:42:37 ID:rneH2lU60 [14/17]

     ____
   /      \
  /  ─    ─\
/    (●)  (●) \     おっ、なのはさんから連絡が来てたお。
|       (__人__)    |
./     ∩ノ ⊃  /      今日一日も非番だお……。
(  \ / _ノ |  |
.\ “  /__|  |
  \ /___ /

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋
端末を開くと、画面には通知が一件来ていた。
なのはからのメールだ。マーシフルの修理が本日付で終了するので、
それに合わせて仕事を取ってきたらしい。ブリーフィングは明日行うそうだ。

こうも仕事の合間が開くのは、AMS負荷の関係もあるが、
一番はマーシフルの損傷頻度だろう。

こうも立て続けに、敵に半壊まで持っていかれるようでは
スケジュールを立てるのにも苦労を掛けているかもしれない。
その点では、自分の不甲斐なさを恥じるばかりである。

とはいえ、いつまでもそれを悔やんでいてもどうにもならない。

クーガーに連絡を入れてみようかと思ったが、やめた。
直感ではあるが、今日も今日とてゴタゴタに首を突っ込んでいそうだと思った。
╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋

2890 名前: ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日:2020/08/10(月) 21:52:54 ID:rneH2lU60 [15/17]

                  _ -――――- _ __
               ∠            ` 、_}_
               /             、 ` 、⌒ヽ
               /        /           \  ', /
             /   /     '           |   '/\
           '   ′   /           |    |   、ノ}
            l{   /  {   /{   {  |    |    | ̄ア}ノ\
          八  |  ',  l  、  {  l 、 |    |/ ハ___ノ
            \|', ∧| |  \_{\|\\|    |  / /⌒}      出かけるのか? なら、私もこの辺りで失礼しよう。
              | ∨ャ竿ミ      斗竿ミ|    |/ /__ ノ
              | ∧  Lソ      Lソ |    |ヽ/⌒\       「え、でも」
              | ハ            |    |ノi:i:i:i:i:i:i:\
              l  込、  '          |    |\i:i:i:i:i:i:i:i:i:',    言っただろう。気にするな、と。
              |   | \   r_、     ,|    |、i:i\i:i:i:i:i:i:i:}
              |   |    、      イl|    '{i\i:i:)_i:i:/     他人を優先するのも、時と場合によるものだ。
              人   |     l` ‐  ´   l|  /i:V⌒i: ̄{
                    、|    f≧======≦_|  ,'⌒i{i:i:i:i:i厂        自分と他人のどちらを優先すべきか、判断できるようになるといい。
          _-=ニニ=- __ノvニニニOニニニ=|/二⌒⌒^
            _-=ニニニ/ニニ\ニOニニニニニノニニニニ≧ァ≦⌒\      ではな。
           _-==ニニ {ニニニニニ/\ニニニニニニニニニニニ/ニニニニニ',
         _-=ニニニニ〉二二ニ\/二二二ニニニニニ/ニニニニニニニ',
           _-=ニニニ/ニニニニニ/二二二ニニニニニニ/ニニニニニニニニ',

╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━╋
明日に向けて英気を養っておいた方がいい。
ただし、ずっと横になっているのも良くない、らしい。
事実、ベッドで瞼を閉じながら一日横たわっていた後よりも、
誰かと一日を過ごした後の方が、心身ともに調子がいい気がした。

自分一人でできる趣味趣向を見つけるべきなのだろうが、
今はまだ見つかっていない。となれば、人と会うのが一番だ。

自分自身、どうも人と話すこと自体は割と好きではあるらしい。

そう思い、身支度をしようと立ち上がると、アルトリアも一緒に腰を上げた。
決して短くない距離から来ているであろうにもかかわらず、
あっさりと帰ろうとするアルトリアに対し、申し訳なさを覚える。

アルトリアもそれを察したのか、特に言葉を荒げたりもせず、気にするなと告げてきた。

さて、どうしたものか。

下↓3
1.なのはに会いに行ってみよう
2.はやてに連絡してみよう
3.アルトリアともっと一緒にいたい。呼び止めよう

【好感度表】
なのは Lv5
はやて Lv5
アルトリア Lv5
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2891 名前:安価のやる夫だお[sage] 投稿日:2020/08/10(月) 21:58:00 ID:vUOlCEW.0 [2/5]

下○形式は今のEXだと踏み台確定過ぎてキツイ

2892 名前:安価のやる夫だお[sage] 投稿日:2020/08/10(月) 21:59:00 ID:vUOlCEW.0 [3/5]


2893 名前:安価のやる夫だお[sage] 投稿日:2020/08/10(月) 22:00:02 ID:vUOlCEW.0 [4/5]


2894 名前: ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日:2020/08/10(月) 22:02:45 ID:rneH2lU60 [16/17]
今回の安価ははやてだね、了解した。

さて、短かくてすまないが、今回の投下はここまでだ。

次回は来週の月曜日、8/17の午後八時からとしよう。

しかし、下↓形式は確かに人数が少ないとどうもアレだね。もっと良い形式があるように思えてくるね。

何か妙案があるというスレ住民は気軽に教えてくれたまへ。モコイさんも少し考えてみよう。シーユーアゲイン。

2895 名前:安価のやる夫だお[sage] 投稿日:2020/08/10(月) 22:06:40 ID:vUOlCEW.0 [5/5]
乙ー
シンプルなのは下1にして単純に早い者勝ちにする
多少手をかけるならイッチが酉に数字仕込んだレスを入れて時間決めて安価を取る
読者は決められた時間内に選択肢と数字(1~100)を入力させる、イッチの酉と選んだ数字が一番近いのを採用とか

EXだとダイス機能ないしこんなもんじゃないかな

2896 名前: ◆x0SRSoJXe.[] 投稿日:2020/08/10(月) 22:10:08 ID:rneH2lU60 [17/17]
>>2895
んー、イケてるね、チミ。

デスペナルティだのなんだのが厳しかったりするスレや、行動選択が多いスレならともかく、

このスレでやることといえば台詞安価とヒロイン選択くらいだからね。

相談するための間としても下↓3とか5とかやっていたんだが、その必要性も薄そうだ。

これからは重要な、ヒロイン決定安価とかは多数決。そうでないのは下↓1にしようかな……

2897 名前:安価のやる夫だお[sage] 投稿日:2020/08/11(火) 01:59:38 ID:/Rj1JiPc0

それがいいかも(多数決or↓1)


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