＿＿＿＿＿＿＿__
　　　　　　　　　　　　　　　　 _,.xXΧΧΧΧΧΧΧΧΧ二二ﾆ= ､__
　　　　　　　 　 　 　 　 　 ／ΧΧΧΧΧΧΧΧΧΧΧΧ二二二ヽ＼
　　　　　　　　　　　 　 ／ΧΧΧΧΧΧΧΧΧΧΧΧΧΧ二二二} } i
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　　　　　　　　　　￣　 ――――――――――┴


　　1月11日　野球殿堂入りを決める野球体育博物館の表彰委員会から
　　3人が選出され、殿堂入りを果たした。










941 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:18:54 ID:3QcCHZQg0




　　 　　 ＿_＿__　　　　　━┓
　　　 ／　―　　 ＼ 　　 ┏┛
　　／ノ　　( ●)　　 ＼　 ・
.　｜ ( ●) 　 ⌒）　　　|
.　｜　　 （__ノ￣　　　 /　　　　　　3人？
.　｜ 　 　 　 　 　 　 /
　　＼＿　　　 ⊂ヽ∩＼
　　　　/´　　 　 (,＿ ＼.＼
.　　 　|　　/　　　　　＼＿ﾉ


　　もしかすると3人という表現に違和感を感じられる方がいるかもしれない。
　　大野豊氏と外木場義郎氏の名前は出てくるが、
　　あと一人は･･････





942 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:19:31 ID:3QcCHZQg0




　　殿堂には、大きく分けて2つの部門がある。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　_,,,,,,,_
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ／　　 ドト､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .,'ｲﾄ,　ト､i ',ｊ　',
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 iｊ､ｊ ヽ,ｊ ｀'　､ｲｊ　__,,,,_
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .',ﾞヾﾂ　　,,イィ'"　　 ,,＞､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ゞ-､_ｨ''" /∧' ７／　　', i
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　/　ｊゞ辷イ/　ｊ／　ヽ　/ｊ ｊ
　　　　　　　　　　　　＿　　　　　　　　　　　　　　/／ ヽﾆﾆﾆ∠ﾆヽ　 ヽ/ ｊ
　　　　　　　　　　　　　ミ｀_,,,ｨ- ､ 　　　　　　　　ぐｊ´',ｨﾆﾆイ､二ニヽ　／/
　　　　　,ｲ_辷ヾヽ￣￣7ヽ　　　 ヽ‐‐‐‐-------ﾆ-､＜‐ヾ ',ヽｉ .ｉ .ｉ ﾞｊｊ二i
　　　　/./　　ヽ ヽヽ　 ﾉ　 ',　　　ﾉｊ　　　　　　　', ｉ　　 ￣ｿ ｊ　ｊｊ､i_ｊ//-‐ｊ
　　　　i i,　　　 ｊ　i .i　,'　　ノ　　,' .,'　　　　　__,,,--'-‐'''''i＿'辷ィ､ /　　　i
　　　　', ヽ、　,/ ,' ﾉ　 ヾ'"　　　∨-‐''''''"´´　　　',i ヾヾｊ ｉ　　　 ﾞ"　　　.',
　　　　 ヽ辷ﾆ_ノイ--‐‐'''ヽ-ッ´　　　　　　　　　 ヽ　｀,,,ィ―iィ―ｨ---‐'.',
　　　　　　　　　　　　　彡"彳　　　　　　　　　　　 ｀'''´ /‐--!ィﾆゝ――''',
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　/　　　　　　　　　　.',



　　一つは、主にプロ野球選手を対象とした競技者部門


　　もう一つは、アマチュア野球競技者や選手に関わらず、野球に多大な貢献を
　　した人に送られる特別表彰部門である。





943 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:20:04 ID:3QcCHZQg0




　　今年は、特別表彰として福島一雄氏が選ばれている。


　　　　　　　　　　　　　　　　_＿_
　　　　　　　　　　　　　　／.:.:.:.:.:.:.＼
　　 　 　 　 　 　 　 ／´￣￣｀ヾ｀ヽ.:｝
　　　　　　　 　 　 /.:.:.:￣￣＞＜´￣｀ヾ｀ヽ､、
　 　 　 　 　 　 __/＿二ニｲﾍ:.:.:｀ヽ｀ヽ｀ヽ.:.}.:｝｀ｰ.､
　　　　　　　　 | ｉ´.:.:.:.:.:.:/.:|.:.:.＼,rへr─‐.､j.:ｊ.:,.:}.:｝ヽ
　　　　　　　　 | | :.:.:.:／小ヽ ／.:.:.:./.: //∧///く/:く
　　　　　　　　 { {_:／／{ヽ .://,:.:.:./.: //://|/∧.:.:｀Y^>　　　　　　　戦後初の夏の甲子園連覇
　　　　　　 　 /ヽ_／／ﾊゞ////／／/:/ﾍV/|/.:.:.:.//
.　　　　　 　 /.:.:.:/ /.:/⌒Y.:/／／　 ;:/ 　 　 !.:.:.: 从　　　　　　　　初めて優勝旗の関門海峡越えを成し遂げる
　　　　　　 /.:.:.:／／｛こノ／ﾊ㍉、　;:i　　 　 |.:.:.:.|.Y
　　　,.. -≠＜´／／ハ／ｲ/　 ｀ｰ＼ヽ　　 ,,小.:.:.|:.|　　　 　　　　　戦後唯一1大会すべての試合を完封
　／:.:／ .:.:∠二二=／／:.| 　 　 　 　 '.　ｨシ'|.:.:.:.| 乂
.:.:.:／ .:.:／ﾊ::::::::::／／/ｌ:.:.|　　　　　　∧ 　 /!.:.:. |　　 ｀ヽ、　　　　夏優勝2回春準優勝2回
／ .:.:／.:.//ﾊ_／／!::/ :ｌ.:.:|､　 -ｰ_､_'´　ヽ´ﾊ|.:.:.:.| 　 　 　 ＼
.:.:.／:／//// ／ヽ∧∨ｌ.:.:|:.＼　　　／:::::::ヽ::∨:∧　　　　 　 ＼　 甲子園の砂を初めて持ち帰った高校生
彡＜厂'/,V ∧///,＼ヽl.:.:|:　　 ー个＜:::: /∨∨:∧＿＿＿＿　ヽ
////ﾊ/,∨∧////////l .:|　　　 .:.ﾊｌ!: : :｀|∧∨＼ ∨二二二二二＼二二ニﾆ７>
二ニ＝∨∧/////////l:.:|　 　 .:/　il : : : |/∧∨/,＼＼////////ハ∨///////
/////∨∧//////////l :ﾄ､　 .:｛　 :il: : : :|//∧∨/,ハ ∨////////} ｝'//////
//////l |///////////∧ヽ＼　　　:iｌ: : : |//Ⅵ ｝///,｝ ｝'//////,∨///////
//////l |//////////∧ﾊ: : ヽ＼　 :il : : :|/// ∧///ﾉ ﾉ///////／//////

　　　　　　　　　　　　　　　福島一雄





944 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:21:46 ID:3QcCHZQg0




　　プレーヤーに目が行きがちになるが、野球の発展に顕著な貢献をした人である特別表彰者も
　　忘れてはいけない偉大な方々である。


　　そして、これから始まる物語の主役も特別表彰者の一人である。



　　　　　　　　　　　　　　＿＿＿,,
.　　　　　　　　　　　 ／´　　　 　 ＼
　　　　　　　　　　,,-ﾞ　　　　　　　　　ヽ
.　　　　　　　　　（,､_､　　　　　.,　 ,　　|
..　　　　　　　　　 ',.　｀'｀ｰ｀ｰ''ﾞ｀'ﾞ (　　|
　　　_　_ ._　 　 　 l　＿　　　＿　 ,-､ﾉ
　　/ / / /,､　　　/　　 ﾟ 　 ﾟ　　 .∂!
　 /~ ~ ~ / /-⊂ ! ＿＿＿＿_　 ｀i´ﾆﾆ⊃、
　 ヽ､＿ (,ノ ｝／/ヽ､＿｀''"＿＿ノ　　　　　ヽ
　　　＼　 ／　l l く_ヽ　<二>　／フ /　　　　l
　　　　 ｀ヽ＿ l | |　く ＼　 ／ ／　 l　　　　　!
　　　　　　　　｛ | |　　＼Y ／ .㍼㍻l＿ 　　　!
　　　　　　　　 ! .| |　　　　　　 ▽▽l　　　　　l
　　　　　　　　 l　.| |　　　　　　◎◎i=＝＝＝l
　　　　　　　　[lllllllllllllll(二)llllllllllllllllll]　i　　　　｝
　　　　　__,,-‐''　　　　　　　　　　　 ∪_＿＿ノヽ､.
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　　　　　　　　　　　　　　　　 みんなでプロ野球１２球団紹介スレ　　　　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 水野仁吉物語

　　　　　　　　　　　┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛





945 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:22:31 ID:3QcCHZQg0




　　明治17年5月15日　安八郡大垣町（現在の岐阜県大垣市）
　　大工の棟梁水野利八（36）と妻ゆき（20）の間に次男が生まれる。
　　赤ん坊は、仁吉と名づけられた。


　　　　　　　　　　　＿＿＿
　　　　　　　　／￣　　　　　￣＼
　　　　　　 ／　　　　　　　　　　　ヽ.
　　　　　　/ ─､＿＿＿＿＿　　　ヽ　　　　　父は、大工といっても
　　　　　　ゞ|　　　　　　　　　 (,-‐、|
　　　　　　　〉　─-　　-─　　　６ ｝　　　　　旧大垣藩の殿様ご用の棟梁と呼ばれ、
　　　　　　 {　　　　　　　　　　 ﾄ､_ﾉ
　　　　　　 ヽ　ー‐━──'　　l　　　　 　　　苗字帯刀が許された人物だ。
　　l.TTT l　 ゝ、＿￣＿＿__ノ二二)、
　　|　　　∩く ＼　,◇、／＼　　　　　＼　　 頭が高いぞ。
　　ゝ､＿ノ　　ゝ ＼ ∠ -‐七　　i　　　　!





946 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:23:05 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 (二二二ﾆ/二二ﾆ/二｜二二ヽ二ヽ二ニニ)
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 //＿/__//＿/__//＿/| |ヽ＿ヽヽ＿ヽヽ＿ヽヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　//＿/__//＿/__//＿/_| |__ヽ＿ヽヽ＿ヽヽ＿ヽヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　 //＿/__//＿/__//＿/__| |＿ヽ＿ヽヽ＿_ヽヽ＿ヽヽ
　　　二二二ﾆ/二二ﾆ/二二二//＿/__//＿/__//＿/＿| |＿_ヽ＿ヽヽ＿_ヽヽ＿ヽヽヽ二二ヽ二二ヽ二二ヽ二二ヽ
　　 //＿/__//＿/__//＿/__///＿/＿//＿/__//＿/＿ | |＿_＿ヽ＿ヽヽ＿ヽヽ＿ヽヽヽヽ＿ヽヽ＿ヽヽ＿ヽヽ＿ヽヽ
　　//＿/__//＿/__//＿/__//○====○====○======.○=====○===○===○===○ヽヽ＿ヽヽ＿ヽヽ＿ヽヽ＿ヽヽ
　 //＿/__//＿/__//＿/__//＿|　　　|┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬|＿＿|＿ヽヽ＿ヽヽ＿ヽヽ＿ヽヽ＿ヽヽ
　○====○====○====○===.|　　　|││││││││││││││││||　　||===○===○===○===○===○
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　　＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿|　　　|││││││││││││││││|　 　 |＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　＼／＼／＼／＼／＼／＼|　　　|││││││││││││││││|　 　 |＼／＼／＼／＼／＼／＼／
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　　"""￣￣￣'''''''''''''''"""""￣"""￣￣''''''''''"""""""""""""""""""""""""""￣￣'''''''''""""￣￣￣￣"""""""""


　　生家は、大勢の木挽（製材作業者）・女中がいる間口13間の大きな家であった。





947 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:23:40 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　, '.´￣｀ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ,'´｀ヽ　　　　　　　　　　　　　　ヽ、＿,'　　ノ　　 ,'
,ィ´￣..｀.:ヽ...、　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 　 ,'　　　　'::::,、＿　　　　　　　　　　　　　｀ー　=　'´
　　　　　　　　ヽ、　　　　　　　　　　　　　　　　　　 （ , '　　　　　　　　　'.:::､
　　　　　,.:'´￣　　）、　　　　　　　　　　　　　　　　 ,.::'　,　　　　 ,.:'　　　　　(
.,,;_,_,_,_,_;_　　　　　　　｀ヽ　　　 　 　 　 　 　 　 　 ,'　　 i　　　　 ':...､　　　　　':...､
: : : ;_; ; : : ': :.:.:.: ., , , _　＿ヽ ___＿＿＿＿＿＿,,;'＿＿,';;＿＿＿＿;'::.,＿＿＿＿;':.､＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
:.:.,;'l; 弋二￣　￣　二ﾆ = -―　　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:, :, :, :, :, :,:, :, :, :, :, :, :, :,:, :, :, :,:, :, :, :,:, :, :,
戈江ﾆ戈　　　　弌 ＿　　 :,　 :,　 :,　 :,　 :,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :,
弋　＼　　　　　　　　　｀丶 、　 :,　 :,　 :,　 :,　 :,　 :,　 :,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :,
　 ',　　',,,　　　　　　　　　　　'一二三　　 　:, 　:,　 :,　 :,　 :,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :,
　　' ,,,　　　　　　　　　　　　　　　　　　｀丶 、:,　 :,　 :,　 :,　 :,　 :,　 :,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :, :,
　:　:　:　:　:　:　　　　　　　　　　　　　　　　　 ’'ー二三二 　 :,　 :,　 :,　 :,　 :,　 :,　 :,　:,　:,　:,　:,　:,　:, :, :, :, :, :, :, :,
:　:　:　:　:　:　:　: ..　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ’'ー　、＿;,　　 :,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,
　:　:　:　:　:　:　:　:　:　..　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ’'ー二三二 　 :,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,　:,
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　:　:　:　:　:　:　:　::　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　..　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　｀ ー　二
:　:　:　:　:　:　:　::　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　::　:　:　:　:　:　:　:　..
　:　:　:　:　:　:　:　::　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　::　:　:　:　:　:　::　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　..
:　:　:　:　:　:　:　:　::　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　::　:　:　:　:　:　::　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　:　..


　　休みの日には、桑名海岸まで出掛け、半日遊び、
　　帰りは、当時最新鋭の乗り物であったポンポン蒸気船に乗って、半日がかりで川を上って帰る
　　贅沢な余暇を過ごしていた。





948 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:24:23 ID:3QcCHZQg0




　　明治18年5月　仁吉が生まれて1年後に長男貞一が亡くなる不幸もあって
　　両親から期待と愛情を一身に受けて育った。
　　仁吉が5歳の時、父から茶箪笥の上にある矢立（携帯用の筆記用具）を取ってくるよう頼まれた。
　　5歳の子では、当然茶箪笥の上には手が届かない。


　　　　　　　　　　　＿＿＿
　　　　　　　　／￣ミ/彡　ミ￣＼
　　　　　　 ／　　　　　　　　　　　ヽ.
　　　　 　, - 、(⌒　　　⌒),,,,, ,.- 、- 、
　　　　 　(◎|ゞ　　　　　　"" (,◎ ））））
　　　　 　, =､〉　─-　　-─　 ｀=､"─、
　　　　　(◎{　　　　　　　　 　(,◎ ））））　　　　 ／￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
　　　　　 ｀‐'ヽ　ー‐━──'　 ｀‐'" "　 　 　 ＜　ちょっと試してみるか
　　l.TTT l　　ゝ、＿￣＿＿__ノ二二)、 　 　 　 ＼＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　|　　　∩|||||｛　,（__）、　丿　　　　　ヽ
　　ゝ､＿ノ　　 丶イ| | |ヽノ＼　　　　 　ヽ

　　　　　　　　　水野利八



　　父が、息子に与えた試練である。


　　　　　|
　　　　　|＝
　　　　　| |　　　⌒ヽ
　　　　　|＝＝　　　',
　　　　　|　　|　　　　',
　　　　　|＝＝＝＝　',　,　⌒ヽ　　　
　　　　　|　　　　　|　 .V　 　 　 ｀､.　
　　　　　|＝＝＝＝＝＝　　　　　',
　　　　　|　　　　　　　　|　　　　　　',
　　　　　|ーーーーーー　　　　　　 ',
￣￣￣


　　仁吉が下から順番に引き出しを引っ張り出して、
　　階段状にして矢立を持って来たとき、父は大変喜んだという。





949 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:25:09 ID:3QcCHZQg0




　　明治24年4月　大垣の名門興文尋常小学校へ入学。


　　　 ＿＿＿_　　　　　　 　　　＿＿＿_　　　　　 　 　 　 ＿＿＿＿＿
　　　|＼＿_〔￣￣￣〕　　　　　|＼＿_〔￣￣￣〕　　　　　|＼＿_〔￣￣￣〕
　　　| `l |ﾆ_　l |￣| |　　　　 　 | `l |ﾆ_　l |￣| |　　　　 　 | `l |ﾆ_　l |￣| |
　　　| |.| | l＼| |＿| |　　　　 　 | |.| | l＼| |＿| |　　　　 　 | |.| | l＼| |＿| |
　　　　 | | | `l　＿_　|　　　　　 　 | | | `l　＿_　|　　　　　 　 | | | `l　＿_　|
　　　　　　l | |_|　　|_l　　　　 　 　 　 l | |_|　　|_l　 　 　 　 　 　 l | |_|　　|_l

　　　　　 ＿＿＿_　　　　　　 　　　＿＿＿_　　　　　 　 　 　 ＿＿＿＿＿
　　　　　|＼＿_〔￣￣￣〕　　　　　|＼＿_〔￣￣￣〕　　　　　|＼＿＿＿＿＼
　　　　　| `l |ﾆ_　l |￣| |　　　　 　 | `l |ﾆ_　l |￣| |　　　　 　 | `l |二二二二| |
　　　　　| |.| | l＼| |＿| |　　　　 　 | |.| | l＼| |＿| |　　　　 　 | |.| |￣￣￣￣| |
　　　　　　 | | | `l　＿_　|　　　　　 　 | | | `l　＿_　|　　　　　 　 | |　 　 　 　 | |
　　　　　　　　l | |_|　　|_l　　　　 　 　 　 l | |_|　　|_l


　　成績がクラス上位に付けるくらい頭は良かったが、
　　それ以上にやんちゃ坊主で、勉強そっちのけで愛宕神社の境内の松に
　　カバンをかけて遊び回っていた。





950 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:25:43 ID:3QcCHZQg0




　　カバンを忘れて、家に帰ることは日常茶飯事で、



　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　 .r´'　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　 .（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l
　　　 　　　 　　π　　　　　　　　 r　 .!
　　　　　　　　　（| ‐‐-､ 　,.-‐‐　 F-､j
　　　　　　　 　　.! 　　　　　　　　 i ∂!　　母上、僕のカバンはどこにいった
　　　　　/｀/｀/｀)　､＿＿＿＿,　 .!- '
　 　　　/　 　 /｀) ､_　 ｀=´　　 _,ノ二二)
　　　　（＿（ _,／ !'|| （_ヮョヮ_〉＞　 　ヽ　＼
　　　　　＼　　　,'　|| >',〉llll〈/<　　〓〓.l　　',





951 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:26:18 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　_,,.　-──-　､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 _,.イ::::::::::::::::::::::.....‐-｀`''-､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　,.r''";;:i::::::;: ｧ　 ﾐ''､､::::::::ミ ヽ､::｀ヽ、
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ／::／:::::i!:: ,.r‐-､ ミ､::::::::::::::::`,　:::::::::ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /::::::::::::,ィ:::;:':::::::::::::ヽ ヾ:`::::::::::::::::､''::::::::::::':,
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /:::::::::／:l!!::l::::::::::::::::::::＼＼::::::::::::::iヽヽ:::::::::::!
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　/::::::::/:;rl;l;|!;i:::::::i::::::::::::::::::＼ヽ::::::::::::i､丶 ::::::::i
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /:::::::::::::;i　　　i;::::::|:::::::::::::::::::::::ヾ｀'‐､:::::i :i ､::::::::l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /::k::::::::::!!　　　 |､:::::!:::::ﾄ､::::::::::::::::ヽヾヾ,,'i::::::::::::::!
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 i,|:::!::::::::::||- .,,_　 |＼::i::::ll, ＼;;::::::::::::::`､ヾ､ i:::::::::::!
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 !!;'l:!::::::::::l.l.r.r::ミ'. !　iヽ:;:l,i-‐_ヾ､::ヽ::::::::iヽ::::::::::::,'
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　!:! i:!:::::::::i'i.i`'ﾞー'` ヽ ヽ ヾ'', :r';;::''>､' ､:::::::::::::::::/,........､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　l:|　i::::::::::ﾄヽ.、 　 　 ＼ ＼_ ￣￣・ ＼ヽ､;;;;;;;;;;'_, 　　 i
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ヽ,. `､:::::::!`　　　 i'　　　　　　　　　　　　 r;}､;;;＿,　　 |
　　愛宕さんに行っておいで、　　　`'‐ﾞ､:､::ﾞ､　　　 ,..._　　　　　　　　　 ./-:'::::::iヽ　　 /
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ﾞ''､:::ヽ　　 i`'''ヽ　　　　　　　／!:::::::::::::!　＼/
　　神さんが預かっておいでだよ　　　　　 ';:!::i＼　 '､_,ﾉ　　　　,. ‐'"　 i:::::::::::/:ヽ,　 i
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 i:!:ﾄ､ 丶,_　　_,. ‐''"　　　 ,.l､:::::::/ i:::::l,.ノ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 l::|　ヽ,r'''''''ﾞ‐-----─'''";;;;;;ヽ;':'''::::::l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ﾘ　　 l;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i::::::::/
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 __,,../ -─';;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;!;／
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 r;'''''"";;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;`'-､

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　水野ゆき


　　こんな会話もしょっちゅうであったらしく、仁吉の行動は家族にも筒抜けであった。





952 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:27:00 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　 .r´'　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　 .（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l　　　　　　　　　　　　　　弟の利三はおとなしい子なのに＞
　　　 　　　 　　π　　　　　　　　 r　 .!
　　　　　　　　　（| ‐‐-､ 　,.-‐‐　 F-､j　　　　　　　　　　　　　　　　　　　仁吉兄さんの方は・・・＞
　　　　　　　 　　.! 　　　　　　　　 i ∂!
　　　　　　　　　 i　､＿＿＿＿,　 .!- '
　 /^l　 　　　(二ヽ､_　 ｀=´　　 _,ノ二二)　　　　　l^ヽ
　（　ll￣￣l￣　Y '|| （_ヮョヮ_〉＞　 　ヽ　￣l￣￣ll　 ）
　 ヽ.ll＿＿l＿　,´ .|| >',〉llll〈/<　　〓〓.l＿_l＿＿ll_ノ
　　　　　　　　 .ｌ　　ll ＼',.ll./／　　万万 l
　　　　　 　　　l　　 ll　　 V '　　　 ○○　l
　　　　　　　 .,'　　　.ll　　　　　　　　　　　.',
　　　　　lﾞ'-､.lﾆﾆﾆﾆﾆ::[三]ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆL＿_,.-'l　_/⌒i
　　i⌒､_＼　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ／　　　＿
　　　　　　＼　　　　　　　　　　　　　　　　　／　　、 _ 　 ）
　（　 ／　　　ﾞ--------------------´
　　　　　／　　／　　/　/　　＼　　　＼　　　＼　　　_ノ
　　く　　　　／　　　/　/　　　　＼　　　＼　　　　　）
　　　　(´＿)　／i＿　､　 　　　　　　,.　､＿）　-'
　　　　　　　　　　　　　- '　　｀-- '


　　家から墨つぼやカネ尺を持ち出しては叱られ、町内からも噂されたいたずら好きは、
　　ひどい時には木にもしばりつけられたこともあったにも関わらず懲りることはなかった。





953 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:28:04 ID:3QcCHZQg0




　　両親と兄弟達に囲まれたちょっと裕福で幸せな日々
　　そんな毎日は、一つのアクシデントで崩れ去ろうとしていた。


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:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::Y:::::::::::::::::::::::::: ピキッ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
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　　明治24年10月28日　岐阜県を震源とする地震が、中部地方を襲った。
　　のちに濃尾地震と呼ばれる大地震である。





954 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:28:51 ID:3QcCHZQg0




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工エ::「 /〈. ::〈|-､_/::::::..＼r':.|.::[,/T>.:/ﾛ〃乢　　　　　　　　　　　,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,.-―'冖''l''~ﾞﾞ￣￣ﾞﾞﾞﾞﾞﾞ´"""""""""""
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: :ﾚ|[:::《　　　'　　　ー―＜,,,,,,....ﾆ=---ｒ'"　　 .｝ .ｽ　! l__,　" " .! lﾞ .! ./ ｀ｰi￢ ､
_〈l〈V＼|コ..ｌ　　　　　　　 　 　 　 　 　 ＼ |゛　.ｌ　 ! i1.ｌ, ￣｀''､、/　|ﾞ'!　　､|,　 .lﾞ.ﾞ/';;- ､....,,,_　　　 　 　 　 　 　 _,,､
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: :|ｪﾚ ".... ､!　　　　　　　　　　　 _,,-''´ ., | .!´|　　...ﾑ.ト‐゛　　　　　　　　 ｀'''''ー !,_ / .､ヽ.! !│,,!　 ,,二ﾆ'"ﾞ''ﾞ‐'~゛
／　,..-ﾆ" ﾞ'- ........ 　,,__.. -‐'''"´　 .! ｰ,,! ﾞl　 .ｌ　/ 　　　　　　.,ﾉ''‐　　　.、　　　 ,,彳　,! 　!､ .!" .../
.lゞ´　　　｀''-、'レ l . i .，　 ｌ　 |,　　!　|.,　|　 /ｯ........yｯr=｀-“′　.-'"..｀　 _,.. i‐'./ .l|　　i　.!　l .|　!'----､,,,　 .ｰ''"⌒
　　　　　 . ＿/ﾘ"│.,! .|　 . !､　′/ .,,"|　′,!,ﾉ'''"゛ . ｌ　　　　 　 　 　 　 ｀'ｰ|.._" l .｀i　lﾞ，` .′|│　． /　｀ﾞ￢----
　　 _..-'{´、 ,i　 l　":!　 !　 !　.!　　.|.；| .,／ﾞﾞﾞﾞ＼,　　　 !._,,,..、　　　 　 　 　 　 　 ￣"''―--　,、　!　 | .′i　 |　. !　/
'ｰ'″.､ ." !　! ''i ﾞ‐i .! .,!、 l./ .!′　!,ｱ´　　　　　レ. ／ 　　 ＼　_.. - ..,、　　　　 　 　 　 　 　 ﾞｺ/　 .lﾞ　 .ｌ .、　!　 |｀
. l　　│　/　.ｌ .!　 | .，リ　 .| ＿_／　　　　　　　 ﾞi　 　 　 　 　 ＿　　　　 　 　 　 　 　 　 : ..､(,.l．　 "1　.",!　 !　 {、
　!″,i'ﾞ、 .!　|| .! .､.ｌ .l　｀　／　　　　　　　　　　　l !　　　　 _..‐"　 .--―ｰ､、　 .__,,,,,．　　　　　｀ﾞl、　 !　 ...|　.,.i　/│
　 〉.!　.ヽ "」″　.! ` ﾞ .／゛　　　　 　 　 　 　 　 た.ｌ　　　　　　　　　　　　　｀ﾞ´　　　-、　　　　　 `ｰ-..,,,..「　 .|.! .| /


　　仁吉が住む大垣も深刻な被害を受け、市街は一瞬にして崩れ去り、
　　全壊2676戸、圧死者427名、焼死者243名の大きな被害であった。





955 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:29:25 ID:3QcCHZQg0




￣〕
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ィ
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:.＼＼＼＼＼＼＞''" ,. ＜_,r-//　　　　　从/　 .／ｲ {!⌒ヾ=-≦ヾ＼二Z二Zﾆ=-==='⌒!￣￣´　　　 ./
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:.＼＼＼＼＼＼＼＼　廴j .//　 〉　_／　_／／　-Ll二ﾆ=-イ　〉廴___＼＼-‐'´//`ー-／＿＿／　r/
::＼＼＼＼＼＼＼＼＼二//二/二,､　／／　　　 ,､　　 〕､ .L//⌒}　　 >　>__//＿＿f＜＿_/＿／j
:.＼＼＼＼＼＼＼＼r一.//Tｰ'-勹　^~^? 　 r ､ /　`'＜　 〉// _＿`ク＿／ .//　　 ／..:.:/＿ノ }Ｌ　廴＿
:.＼＼＼＼＼＼＼＼{　.// ,:Lr√二ヽ　 `^Z」　〈　　 .＿＼//'Y　　＞--=ミ//　 .／.......:/　＿_厶''"´￣
.:＼＼＼＼＼＼＼＼ゝ//＿_人　r'^⌒了＿r--く`ー'　　 〈/L之 ∠　　-―　　　　　´￣＿　　　　　-―
:.＼＼＼＼＼＼＼＼＼＼＼＼＼ー-z､＿　　　　　　　　 r―=＝￢冖ニ二　　　　￣
.:＼＼＼＼＼＼＼＼＼＼＼＼＼＼........／　　　　　　　 /　　　　　,ﾙ'´


　　町の中心部にあった水野邸も瞬時に倒壊・焼失し、
　　仁吉のすぐ下の妹タケもこの震災でこの世を去った。





956 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:30:00 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　　　　　／⌒ヽ
　　　　　　　　　　　 （ヽ´ω`）
　　　　　　　　　　　　/　　_ノ⌒⌒⌒`～､_
　　　　　　　ε(￣⊂人　//⌒　ｷ　 ﾉ　#ヽ）
　　　　　　　⊂ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆニニニニニﾆ⊃


　　町の復旧作業で、家にほとんど帰らず現場で指揮を執り続けた父は、
　　過労のため寝こみがちなって、明治26年5月に亡くなる。
　　45歳の若さであった。





957 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:30:40 ID:3QcCHZQg0




　　侠気のあった父は、自分のことは後回しにしていた節があり、
　　亡くなった時も家はまだ仮住居のままであった。


　　　　　　　　　　　 　 　 　 〈　　　　　　ヽ　　　_ _　　　　　　　　　　　　 　 　 　 r'　　　　　　　　　　 _ ノ
　　　　　　　　　　　　　 　　　ゝ　　　　　　,　／　　ヽ　　　　　　　　　　　　 　 　 i　　　　　　　　　　　ヽ　　　　 , -
　　　　　　　　　　　　　　　　　　｀ヽ　　　　´　　　　ﾉ　　　 　 　 　 　 ,,　　　　　　｀ー ､ __r -　　　　 　 ｀＝-､ｲ: :
　　　　　　　　　 _　　　　　　　　　　｀ー,　　　 　 　 ヽ　　　　　_　　- iﾊ　　　　　　　r ´　　　　　　　r ´ . .: : : :ヽ: :
　　　　　 　 　 r' 　｀ヽ　　　　　　　｛　　　　　 　 　 　 〉,　＜. . . . . . . /＞ ､　　　　　ゝ _ ノ､., - ‐ ´: : : : : : : :: : :: ::
_ r‐ ､　　　　　ゝ　_ ノ　　　　　　　　｀ー　‐　　--　´／. . . . . . . . . . /＝＝ヽ　　　　　　　　ゝ: : : : : : :: : ::: : : : : :: :
　._　 〉_　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 r=iﾆ/. . . . . . . . . . . ./// // /∧　　　　　　〃: : : : : :: : : :: :: ::: : : : :
　| |ヽ　ヽ.　　　　,　´　ヽ　　　　　 , - ､ 　　, ＜ｦ|/. . . . . . . . . . . ./￣￣￣∨∧　　　_　r': : : : : :: : : : : :: : : : : :: : :
、| |　＼ノ　　　 ｛ _　 ,ﾍ_ ｀ヽr ‐､/　　, ＜三三ｲ|'. . . . . . . . ,ﾍ. ./　|二i二|　∨∧_,, r'. . : ヽ: : : : : : :: : : : : : : : : : :: :
　| |　,r､＼　　　 _iヾソ: : ヽ.　　　, ＜三三三三/. . . . ヽサ｀レ'ハ_ .|＿|＿!　 ∨∧: : ::: : : : : : : : : : : : : : : : : : :: :: :: :
　| |,ｲ: :ヾ　ヽ_ ノ: : : : : : : ﾉ , ＜三, ＜三三三/. . . . .ｲヽツキi /ﾉ ,ﾉﾚ_|＿| 　 .∨∧: :: : : :: : : : : : : : : : : : : : : : : :: : :
=,| |. : : : i〉,/ ＼ : : : : : , ＜三, ＜三/i三三ﾆ/. . . . . ヽゞ∧メハ＞ ´/　　　 　 .∨∧ ､: : : : : : : :: : : : : : :: : : :: :: : :::
: :| |: : : : ソ｀ー-＼, ＜三, ＜三三 / .|三三/. . . . . ＜｀キミイ≧三ソ二二匝匠匤,∧　＞ ､: : : : : : : : : : : :: : : : : ::
: :| |｀ー,ｲ. . .: ,r'ﾆﾆﾆﾆ＜二二二二ﾚ'二二/二二二二ゝﾞヽﾚ'ｲヽゞ/十十| |十十|　|二ヽ＿＿＞ ､ : : : : : : : : :: : : : : :
: :| | : : : .ﾞ_., ＜二二二二二二二≧| .〃ヽ　|　　　|田田|　 |ﾐ| |ﾐ|　|十十| |十十|　|＿＿| |＿二二〉: : : : : :: : : :: : ::
: :| |: : ≦二二ﾆ|　　　　|　|　 | 田　.|　ゞソ　.!..　　.|田田|　 |ﾐ| |ﾐ|　|十十| |十十|　|　 　 | |　 |　 r': : :: : : : : : : : : : :
: :| |: :: :||＿＿__.!　　 　 |　|　 |　 　 .|￣￣￣|　 　 ￣￣ 　 .|ﾐ| |ﾐ|　|十十| |十十|　|　 　 | |　 |　 |　: : :: : : : : :: : : : :
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´￣'' ´¨￣￣ ´¨￣｀￣￣ ￣"''￣￣￣""￣￣ ¨｀ ￣￣ ￣￣￣〈二二二二二二〉´￣　¨｀｀¨´｀￣ ￣゛゛￣´¨ ￣
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　　母子家庭となり、母の内職による収入で罹災から3年2ヵ月後にやっと本住居が完成した。
　　ただ、その家は震災前よりはるかに小さいものであったという。





958 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:31:14 ID:3QcCHZQg0




　　仁吉が、9歳になる直前に父利八はこの世を去ったため、彼が父と一緒に過ごした期間は短い。
　　ただ、少ないながらも父から受けた影響は決して小さいものではなく、父の教えを終生大事にした。
　　その教訓の一つにモチの話がある。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .r´'　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 （ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 π　　　　　　　　　r　 .!
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　.┌||┐（| ‐‐-､ 　,.-‐‐　 F-､j
　　　今日は、慌て者は必ず損をする　　　 | ll |　 ! 　　　　　　　　 i ∂!
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　| ll |.　i　､＿＿＿＿,　 .!- '.､
　　　というお話を申し上げます。　　　　　　 | ll |／ヽ､_　 ｀=´　　 _,ノ::::::::＼
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 l⌒i::::::::::::::::l＼_／l::::::::::::::::::::::::::ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 |　┴┐o::::l r'⌒ヽ!::::O::::::::::::::::::::｝
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 l　￣y'::::::::l ヽ＿,;'l:::::::::::::::::::::::::::::|
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ヽ＿ﾉ:::::::::|　　　　|::::::::::::::::::::::::::〈


　　こんな枕詞で始まるのは、仁吉が幼い頃に父からよく聞かされた話であった。





959 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:31:51 ID:3QcCHZQg0




　┌──────────────────────────────────────┐
　│　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 │
　│　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 │
　└──────────────────────────────────────┘
　┌───────────────────┐
　│　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 │
　└───────────────────┘
　┌──────┐
　└──────┘
　┌──┐
　└──┘
　 □









　　　　　　 　 　 　 　 　 ／|　　　 ／　　　　　　　　　　　　　　　 　 　 ／|　　　／
　　　　　　　 　 　 　 ,／ || | 　 ／　　　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 ,／ || |　 ／
￣￣￣￣￣￣￣￣|　　|| | 　 |￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣|　　|| |　 |￣￣￣￣
￣￣￣￣￣￣￣￣|　　|| | 　 |　　 -┐　 　 -┐ 　 　 　 　 　 　 |　　|| |　 |　　　 し1
　 こ　 や　 き 　 　 |,＿,||_| 　 |　　 ニl　￣　ニl　￣ 　 つ　り 　 |,＿,||_|　 |　　 　 ノ
＿＿＿＿＿＿＿＿|　　||　　 .|＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿|　　||.　　|＿＿＿＿
　　　　　　 　 　 　 ||　　 ||　　　||　　 ||　　　　　　　　 　 　 　 　 ||　　 ||　　 ||
　　　　∧ ∧　　　 ||　　 ||　　　||　　 ||　　　　　　　　 　 　 　 　 ||　　 ||　　 ||
,__,_,　 (ﾟДﾟ ,) 　 　 ||　　 ||　　　||　　 ||　　　　 　 ／⌒＼　　　　||　　 ||　　 ||
__,|_| ⊂i y　lつ　　 || 　／ |　　 ||　　 ||　　 ♪～（´ー｀　） 　 　 .||　　 ||　　 ||　ΩΩΩ
.　| | 　 |￣''|| 　 　 ||／ 　 |　　 ||　　 ||　　　　　 （__V＿_,） 　 　 ||　　 ||　　 ||　｜｜｜
￣￣￣￣￣￣￣￣| 　 　|　　 ||　　 ||＿＿＿＿（__（| | ||＿_____||__　,.|| 　 |￣￣￣￣
　 　 　 　 　 　 　 　 |　 ／　　...||　／∧ ∧ :;Ｑ::ＯQＯＱ:;ＯＱＱ:||' |　　　　|
　 　 　 　 　 　 　 　 |／　 　 　 ／.:;::;(　　 ﾟ),::ＯＱ::Ｏ::ＱＯＯ;:／,||'　　 　 ∩＿∩
￣￣￣￣￣￣￣￣　　　　 　 |￣￣/　　づ￣￣￣￣￣￣l／　　　　　（´∀｀　） ￣
　　　　　　　 ●　　　　　　　　　　～（＿＿) ￣￣￣￣￣￣　　　　　　　（　　　　）
　　　　　 ∧（（∧　　　　　　　　　　　　　　　∧＿∧ 　 　 '⌒⌒丶 　　　 /　 人
　　　　　（　・∀・）　　 ∧＿∧　　　　　　　∂ノﾉﾊﾍヽ　（从 从） ,l 　 　 （___人__）
　　　　　（　ヽy/,）　　（ (´∀｀）　　　 (⌒ )　|ﾊ｀∀´ﾉ　　ゝﾟ‐ ﾟ ﾉソ
　　　　 ノ__/∞Lゝ 　 （　　y ,）　　　　 ￣と「　　y　）　　 （　y　　）
　　　 ／＿＿|＿|　　　人 , -,　　　　　　　　T三三l　　　　l三三」
　　　　　　　　　　　　（＿（__ノ　　　　　　 　 （__v）v）　 　 （v（v__）


　　お祭りの日に一文貰った慌て者が、モチ屋の前を通りかかると





960 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:32:33 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　　 _,.---.､
　　＿人 　　 ,.r'´ | D_）　｀ヽ､
　　＼　　　　,'　　_|_|_　　　　　､
　＜　　　l´　　　　　　　　　　ヽ
　　厶　　　';_';＿l_（＿_）_j_j_| }　 ＼
　　　　　　/ |ｆ､ a｀　 "a ア|　　　　｀''ﾌ
　　　　　 // ',　　　　　　　ﾉ　　　　 ｿ
　　　　　ぐ// ヽ　 ヮ　 ／ / l　 l .ﾝ
　　　　　　｀''-r────i ､ﾉ＿j/
　　　　　　　f-l　　◎　　 レj-､
　　　　　　/ .Y:::/￣￣￣ヽi　　ヽ
　　　　　 ヘ /:::「￣　　　　ヽ、==；


￣￣￣￣￣￣￣￣,.　-─-　 、￣￣￣￣|＼
￣￣￣￣￣￣￣／　　　　　 　 ＼￣￣￣＼ ＼
　γ⌒ヽ　　　　/　 　 　 　 　 　 　｀、　　　 　＼ ＼
　 ゝ __ノ　　 　 l　　　　　　　　 　 　 l　　　　　　 ＼ ＼
　　　　.　　　 　 l　　　　　　　　 　 　 l　　○　　　　＼ ＼
　　　　.○　　 　 ､　　　　　　　　 　 /　　　　　　　　　＼ ＼
　.., ‐:､.　　　　 　 ＼　　　　　　　／　　γ⌒ヽ　　　 　　＼ ＼
　弋_丿.　　　　　　　 ｀ ｰ- 　 -‐´　　　 ゝ __ノ　　　　　　　＼ ＼
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　＼ ＼
￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣|
　　一個一文　　　　　　　　　　　　　　　一個一文.　　　　　　　　　|
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿|


　　大きいモチ一つとたくさんの小さいモチが並べてあり、
　　一個一文と書かれている。





961 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:33:08 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　　　　　　 r ､　 ｎ ,-,　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　／
　 　　　　　　　　　　　　 ', ', /_{' /li　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　／
　　　　　　　　　　　　 　 |　lｒヽ/|! 　　　　　　　　　　,--─-　　　　　　／
　　　　　　　　　　 　 　 lﾉ. /_/| 　　　　　　　　　　./　　　　　｀ヽ.　 ／
　　　　　　　　　　　 l r'l||'ﾟ/ /|| 　　　　　　　　　　|　 　　.　 　　|／
　　　　　　　　　　　,/,/　/ /|!|ヽ＿_,...l|_ 　　　　　' ,　　　　　 ／
　　　　　　　　　l|/ |l　　｡　|l!　_|l,...l!__li!ﾉ 　　　　　　ヽ. ＿_／
　　　　　　　　 /|　 ｡　　　　｀゛` -l|!__　　　　　　　　　　 ／　　　i|||l::::ill:::/ .>i､:::i:::::::::|::､
　　　　　　ll l!ﾉ　　 　 j　ノﾌ|￣｀ｰ-|-'　　　　　　 　　 ／　　　　iliil:l|iilll　 ﾊililiﾍ:|;;;;;;i::::::i
　　　 　　 l|／|　　　 _,. -' ´　　　　　　　　　　 　　 ／　　　　　 ll:|:||:|||　　 ﾊliiillli> --|-'
　　 　 l|／| 　　, '／　　　　　　　　　　　　　　　 ／　　　　　　 i|l||i:::ll　　　　｀ｰ´
　　 |l／l| j 　l |l／　　　　　　　　　　　　　　　／　　　　　　　 |!:l::|:|
　 ／!　　　|li／　　　　　　　　　　　　　　　／　　　　　　　　　:!!||:|i　　 /　￣￣￣ / .__
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　／　　　　　　　　　　　!lii l　　/＿/￣/　 /／/ 7
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ／　　　　　　　　　　　　!i||　　　　　　匚　 ./i／i／　∧∧　,ヘ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　／　　　　　　　　　　　　　　l|　　　　　　 /　./　　　　　l /l / / ./
　　　　　　　　　　　　　　　　　 ／　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　/　./　　　　　　　 ／.／
　　　　　　　　　　　　　　　　／　　　　　　　　　　　　　jヽ人し/　　　　　　￣　　　　 　　　　￣
　　　　　　　　　　　　　　 ／　　　　　　　　　　　　　 ソ　　　　て



　　そこで、番台に一文投げ出して、大きいモチを抱えて、一生懸命逃げ出した。





962 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:33:49 ID:3QcCHZQg0




　　店の人間が追いかけてきたが、隠れてやり過ごし、大きいモチにかぶりつくと


　　　　　_ｎ__ 　 　　　　　　　　　 　 ｎ　 　
　　　　└i七┐　　　に二二l　　 . /厶__　
　　　　（r匕r'_） 　　　　　　　　　 └'^ｰ┘..
　　　　　　　　　 _,.---.､
　　　　　　　 ,.r'´ | D_）　｀ヽ､
　　　　　　　,'　　_|_|_　　　　　､
　　　　　　l´　　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　';_';＿l_（＿_）_j_j_| }　 ＼
　　　　　　/ |t==､　 ,.r==ｧ |　　　　｀''ﾌ
　　　　　 // ',　　　　　　　ﾉ　　　　 ｿ
　　　　　ぐ// ヽ　 ヮ　 ／ / l　 l .ﾝ
　　　　　　｀''-r────i ､ﾉ＿j/
　　　　　　　f-l　　◎　　 レj-､
　　　　　　/ .Y:::/￣￣￣ヽi　　ヽ
　　　　　 ヘ /:::「￣　　　　ヽ、==；

…━…━…━…━…━…━…━…━…━
　　　　　　　　　 /:7　 　 _　 _　 　 __　 　 __
　　　　　　rー- '.::::.ｰ-､/://:/ 　 /:/　　/:/
　　　　　　￣¨7:/￣/:/://:/　　/:/　　/:/
　　　　　　　 /:/　 /:/`　`　　　`　　 /:/
　　 　 　 　　` 　 /:/　　　　　 　 　 /:/
　　 　 　 　 ＼　 `　 　 　 　 　 　 /:/
　 　 　 　 　 　 ＼、_ ﾉし'/／　　　`　
　　　　　　　 ＿＿）　　　　て
　　　　 ――＝二　　　　　 ＝――一
　　　　　　　　　　ﾒ、　　　 （_
　　　　　　　　　　　　 Ｙ＾　 ＼　`
　　　　　 　 　 　 　 　 |　　 　 ＼
　　　　　　　　 　 　 　 !


　　それは、木でできた看板のモチだった。





963 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:34:28 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .r´'　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 π　　　　　　　　　r　 .!
　　子供の頃から慌て者だったので、　　.┌||┐（| ‐‐-､ 　,.-‐‐　 F-､j
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　| ll |　 ! 　　　　　　　　 i ∂!
　　戒めるために話してくれたのです　　　 | ll |.　i　､＿＿＿＿,　 .!- '.､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　| ll |／ヽ､_　 ｀=´　　 _,ノ::::::::＼
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　l⌒i::::::::::::::::l＼_／l::::::::::::::::::::::::::ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　|　┴┐o::::l r'⌒ヽ!::::O::::::::::::::::::::｝
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　l　￣y'::::::::l ヽ＿,;'l:::::::::::::::::::::::::::::|
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ヽ＿ﾉ:::::::::|　　　　|::::::::::::::::::::::::::〈


　　慌て癖は、生涯無くならなかったものの、努めて出ないよう気にしていたとのこと。





964 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:35:28 ID:3QcCHZQg0




　　その他にも「男は無闇にしゃべるんじゃない。まず他人のいうことをじっくり聞くもんだ」
　　と叱られたり、


　　　　　　　　　　　＿＿＿
　　　　　　　　／￣ミ/彡　ミ￣＼
　　　　　　 ／　　　　　　　　　　　ヽ.　　　　　いいか、何をしてもいい。
　　　　 　, - 、(⌒　　　⌒),,,,, ,.- 、- 、
　　　　 　(◎|ゞ　　　　　　"" (,◎ ））））　　　日本一、
　　　　 　, =､〉　─-　　-─　 ｀=､"─、
　　　　　(◎{　　　　　　　　 　(,◎ ））））　　　と人から言われるような
　　　　　 ｀‐'ヽ　ー‐━──'　 ｀‐'" "
　　l.TTT l　　ゝ、＿￣＿＿__ノ二二)、　　　人間になるんだぞ
　　|　　　∩|||||｛　,（__）、　丿　　　　　ヽ
　　ゝ､＿ノ　　 丶イ| | |ヽノ＼　　　　 　ヽ



　　などと、口を酸っぱくして仁吉に言い聞かせたという。





965 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:36:11 ID:3QcCHZQg0




　　母ゆきも子供達にきびしい人生訓を日頃から言い聞かせ、



　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 _,,.　-──-　､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　_,.イ::::::::::::::::::::::.....‐-｀`''-､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ,.r''";;:i::::::;: ｧ　 ﾐ''､､::::::::ミ ヽ､::｀ヽ、
　　たとえ百円でも借金したら　　　　　　　　／::／:::::i!:: ,.r‐-､ ミ､::::::::::::::::`,　:::::::::ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　/::::::::::::,ィ:::;:':::::::::::::ヽ ヾ:`::::::::::::::::､''::::::::::::':,
　　どんなに親しい人でも　　　　　　　　　/:::::::::／:l!!::l::::::::::::::::::::＼＼::::::::::::::iヽヽ:::::::::::!
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /::::::::/:;rl;l;|!;i:::::::i::::::::::::::::::＼ヽ::::::::::::i､丶 ::::::::i
　　二百円にして返さなければ　　　　 /:::::::::::::;i　　　i;::::::|:::::::::::::::::::::::ヾ｀'‐､:::::i :i ､::::::::l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　/::k::::::::::!!　　　 |､:::::!:::::ﾄ､::::::::::::::::ヽヾヾ,,'i::::::::::::::!
　　いけないものです。　　　　　　　　i,|:::!::::::::::||- .,,_　 |＼::i::::ll, ＼;;::::::::::::::`､ヾ､ i:::::::::::!
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　!!;'l:!::::::::::l.l.r.r::ミ'. !　iヽ:;:l,i-‐_ヾ､::ヽ::::::::iヽ::::::::::::,'
　　貸した側にすれば、　　　　　　　　!:! i:!:::::::::i'i.i`'ﾞー'` ヽ ヽ ヾ'', :r';;::''>､' ､:::::::::::::::::/,........､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　l:|　i::::::::::ﾄヽ.、 　 　 ＼ ＼_ ￣￣・ ＼ヽ､;;;;;;;;;;'_, 　　 i
　　百円を返してもらっても　　　　　　ヽ,. `､:::::::!`　　　 i'　　　　　　　　　　　　 r;}､;;;＿,　　 |
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 `'‐ﾞ､:､::ﾞ､　　　 ,..._　　　　　　　　　 ./-:'::::::iヽ　　 /
　　あの人にお金を貸したことが　　　　　　 ﾞ''､:::ヽ　　 i`'''ヽ　　　　　　　／!:::::::::::::!　＼/
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ';:!::i＼　 '､_,ﾉ　　　　,. ‐'"　 i:::::::::::/:ヽ,　 i
　　あるという気持ちを　　　　　　　　　　　　　　 i:!:ﾄ､ 丶,_　　_,. ‐''"　　　 ,.l､:::::::/ i:::::l,.ノ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　l::|　ヽ,r'''''''ﾞ‐-----─'''";;;;;;ヽ;':'''::::::l
　　いつまでも持っているからです　　　　　　　　ﾘ　　 l;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i::::::::/
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　__,,../ -─';;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;!;／
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　r;'''''"";;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;`'-､





966 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:36:58 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 _,,.　-──-　､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　_,.イ::::::::::::::::::::::.....‐-｀`''-､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ,.r''";;:i::::::;: ｧ　 ﾐ''､､::::::::ミ ヽ､::｀ヽ、
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　／::／:::::i!:: ,.r‐-､ ミ､::::::::::::::::`,　:::::::::ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　/::::::::::::,ィ:::;:':::::::::::::ヽ ヾ:`::::::::::::::::､''::::::::::::':,
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /:::::::::／:l!!::l::::::::::::::::::::＼＼::::::::::::::iヽヽ:::::::::::!
　　だから、反対に　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /::::::::/:;rl;l;|!;i:::::::i::::::::::::::::::＼ヽ::::::::::::i､丶 ::::::::i
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　/:::::::::::::;i　　　i;::::::|:::::::::::::::::::::::ヾ｀'‐､:::::i :i ､::::::::l
　　もし人様から百円貸して欲しい　　　　　　　　/::k::::::::::!!　　　 |､:::::!:::::ﾄ､::::::::::::::::ヽヾヾ,,'i::::::::::::::!
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　i,|:::!::::::::::||- .,,_　 |＼::i::::ll, ＼;;::::::::::::::`､ヾ､ i:::::::::::!
　　と頼まれても、決して貸してはなりません　　!!;'l:!::::::::::l.l.r.r::ミ'. !　iヽ:;:l,i-‐_ヾ､::ヽ::::::::iヽ::::::::::::,'
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　!:! i:!:::::::::i'i.i`'ﾞー'` ヽ ヽ ヾ'', :r';;::''>､' ､:::::::::::::::::/,........､
　　あとあとまで貸してやったんだという　　　　 l:|　i::::::::::ﾄヽ.、 　 　 ＼ ＼_ ￣￣・ ＼ヽ､;;;;;;;;;;'_, 　　 i
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ヽ,. `､:::::::!`　　　 i'　　　　　　　　　　　　 r;}､;;;＿,　　 |
　　気持ちを残すくらいなら　　　　　　　　　　　　　 `'‐ﾞ､:､::ﾞ､　　　 ,..._　　　　　　　　　 ./-:'::::::iヽ　　 /
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ﾞ''､:::ヽ　　 i`'''ヽ　　　　　　　／!:::::::::::::!　＼/
　　すまないがこれで勘弁して頂けないか　　　　　　　　　';:!::i＼　 '､_,ﾉ　　　　,. ‐'"　 i:::::::::::/:ヽ,　 i
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　i:!:ﾄ､ 丶,_　　_,. ‐''"　　　 ,.l､:::::::/ i:::::l,.ノ
　　そう謝って五十円を　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 l::|　ヽ,r'''''''ﾞ‐-----─'''";;;;;;ヽ;':'''::::::l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ﾘ　　 l;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i::::::::/
　　さし上げてしまいなさい　　　　　　　　　　　　　　　　 __,,../ -─';;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;!;／
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　r;'''''"";;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;`'-､



　　父母のこうした人生観は、仁吉の生き方にも当然影響を与え、
　　やがて侠気と理知に富み、慈愛を併せ持った青年へと成長させる糧となった。





967 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:37:55 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　,.-‐´￣￣￣ ﾞ ､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　.r'´　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（,nヾ-ヾ─-　　　　　　ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　l　　　　　　 ﾋ　　　　　'i
　　自分の手で水野家を再興する　　　　　　　　　 )　,.-‐‐　　 .き-､　　　.l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /　　　　　　　 θ）　　　l
　　水野家最高のあかしとして、　　　　r､　 　　　 i　　　　　　　 「ﾞ '　　　　j
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（｀　｀ii‐‐､--､　　　　　＿ヽ ,　　 ,,ノ
　　間口は昔と同じでも、　　　　　　　 「　　||　　ヽ／l￣￣￣＿,.:-｀''￣　ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＼__ll　 .／lll/ ､-‐'''´´　　　(二二二)
　　高さは百尺の店を建ててみせる　　　　 ｀./lllll/／　　 ＿iヽ‐''´l　　　　 ',
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ﾚ／_,.-‐''´´〓〓　　l　　　　　|
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ｲ‐''´　　　　 万万　　l-------l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 r　　　　　　　○○　 .l　　　　　l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　[三]ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ l＿＿＿_l


　　尋常小学校4年生の頃には、すでに周囲の人間にこう言いふらしていたらしく
　　周りに人間も「仁吉さんならやるだろう」と自然に受け止められていたことから
　　この言葉を納得させられるだけの雰囲気をすでに持ち合わるほどに成長していた。





968 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:38:29 ID:3QcCHZQg0




　　明治28年　興文尋常小学校を卒業した仁吉は、そのまま興文高等小学校へと進学する。


　　　　　 ,.-:::::::::::::::::::､
　　　　　 〉:::::::::::;;::::;;;::::';
　　　　　 i　｀''''´　　｀i:::l　　　　　　　本当の商売人になろうと思ったら
　　　　　⊂⊃F⊂⊃i:.:.l
　　　　　.|　　 |_　　　9ｿ　　　　　　　大阪へ行かなあかん。
　　　　　 ﾞi　/＿ヽ/ /l
　　　　　　ヽ　　　_ノ' |　　　　　　　　お前らは大阪へ行って
　　　　　＿_i｀--'´.-‐〉＼
　　　ｒ‐'´:::::(＞o＜)／:::::::｀''‐‐､　　大いに勉強して偉くなれ
　　 ,'::::::::::::::ヽ l　／:::::::::::::::::::::::ヽ


　　高等1年を終えたとき、先生からこう言われた仁吉。
　　当時は、商売人になるには11,2歳の頃から商家へ行って商売のことを
　　学ばないとダメだということが常識だったので、大阪行きを決意する。





969 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:39:21 ID:3QcCHZQg0




　　仁吉は商売の道に進むことを母親に打ち明けた。
　　母は、早速易者にわが子の未来を占ってもらったところ


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 _,,.　-──-　､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　_,.イ::::::::::::::::::::::.....‐-｀`''-､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ,.r''";;:i::::::;: ｧ　 ﾐ''､､::::::::ミ ヽ､::｀ヽ、
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　／::／:::::i!:: ,.r‐-､ ミ､::::::::::::::::`,　:::::::::ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　/::::::::::::,ィ:::;:':::::::::::::ヽ ヾ:`::::::::::::::::､''::::::::::::':,
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /:::::::::／:l!!::l::::::::::::::::::::＼＼::::::::::::::iヽヽ:::::::::::!
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　/::::::::/:;rl;l;|!;i:::::::i::::::::::::::::::＼ヽ::::::::::::i､丶 ::::::::i
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　/:::::::::::::;i　　　i;::::::|:::::::::::::::::::::::ヾ｀'‐､:::::i :i ､::::::::l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /::k::::::::::!!　　　 |､:::::!:::::ﾄ､::::::::::::::::ヽヾヾ,,'i::::::::::::::!
　　　　　　　　　　　　　　　　　　i,|:::!::::::::::||- .,,_　 |＼::i::::ll, ＼;;::::::::::::::`､ヾ､ i:::::::::::!
　　仁吉、易には、　　　　　　　!!;'l:!::::::::::l.l.r.r::ミ'. !　iヽ:;:l,i-‐_ヾ､::ヽ::::::::iヽ::::::::::::,'
　　　　　　　　　　　　　　　　　　!:! i:!:::::::::i'i.i`'ﾞー'` ヽ ヽ ヾ'', :r';;::''>､' ､:::::::::::::::::/,........､
　　東へ行きなさい。　　　　　 l:|　i::::::::::ﾄヽ.、 　 　 ＼ ＼_ ￣￣・ ＼ヽ､;;;;;;;;;;'_, 　　 i
　　　　　　　　　　　　　　　　　　ヽ,. `､:::::::!`　　　 i'　　　　　　　　　　　　 r;}､;;;＿,　　 |
　　西へ行けば失敗する、　　　 `'‐ﾞ､:､::ﾞ､　　　 ,..._　　　　　　　　　 ./-:'::::::iヽ　　 /
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ﾞ''､:::ヽ　　 i`'''ヽ　　　　　　　／!:::::::::::::!　＼/
　　と出ているが・・・　　　　　　　　　　　 ';:!::i＼　 '､_,ﾉ　　　　,. ‐'"　 i:::::::::::/:ヽ,　 i
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　i:!:ﾄ､ 丶,_　　_,. ‐''"　　　 ,.l､:::::::/ i:::::l,.ノ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　l::|　ヽ,r'''''''ﾞ‐-----─'''";;;;;;ヽ;':'''::::::l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ﾘ　　 l;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i::::::::/
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　__,,../ -─';;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;!;／
　　　　　　　　　　　　　　　　　　r;'''''"";;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;`'-､





970 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:40:22 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　,.-──────--.
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　|:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　|:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: |
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　,ｒ──────---l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 π　　　　　　　　 し l !.!
　　易は当たっても当たらなくても迷信です。　　　　（| ‐‐-､ 　,.-‐‐　 F-､l ',
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 l ! 　　　　　　　　 i ∂!ヽヽ
　　易者がそういうのなら、　　　　　　　　　　　　　　.l､i　､＿＿＿＿,　 .!- 'ヽヽヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　.,.-' ヽ､_　 ｀=´　　 _,ノ｀ -　、 ＼
　　なおさら僕は西へ行きます　　　　　　　　　 ／　　　ヽﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆノ　 　　　＼
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　,´　　　　', |　　　　　　| ,'　　　　　 ',
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 （　　　　　 ＼ r'⌒ヽ ／　　　　　　　',
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ヽ　　　　｜ ヽ＿,;'　｜　　　　　　　）


　　母は、諦めて学校を中退しての大阪行きを認め、いとこの川崎次郎兵衛に頼みこんで
　　大阪の道修町にある彼の薬種問屋に住み込みで働くことになった。





971 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:41:08 ID:3QcCHZQg0




　　店では、一番下っ端の小僧だったため、入浴は週に1度、散髪は2ヶ月に1回、
　　勤めてはいたが、商売の見習い、つまり商売の勉強に来ていたのだから給料は出ない。
　　食べさせてもらうだけで、小遣いやふとんなどは自分持ちだった。



　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　 .r´'　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　 .（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l　　起きてから寝るまでが就業時間だったけれど
　　　 　　　 　　π　_＿　　＿_　　r　 !
　　　　　　　　　（| 　　 ﾟ 　 ﾟ　 　　F-､j　　それは苦にならなかった。
　　　　　　　 　　.! 　　　　　　　　 i ∂!
　　　　　　　　　 i　 ＿＿＿＿_　 .!- '　　つらかったのは、空腹だ。
　 　　　　 　　／ヽ､_　 ｀^´　　 _,ノ　 ＼
　　　　　　 ／　 　　_　　　　__　　　　　 ＼
　　　　　 ,´　　 i　 　　　　　　　　　　l　　　',
　　　　　,'　　　 l　　　　 l　　　　　　　l　　　l





972 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:42:14 ID:3QcCHZQg0




　　　　　 　 　 　 　 　 ,,..　　　-‐…・・・…‐-　　 ..,,
　　　　　　　　　　　 ´　 ／}／　⌒ヽｰ- ミ___: : .　　`ﾞ≪二_
　　　　　　　　 ／　　,ﾍi{　八 (⌒ヽ_ｊｰ…=ミ　 Y⌒ヽ:. ヽヽ二二＿_
　　　　　　 　 ' . : :ｆ'ﾞ｛　 ゝ,,r'ﾞﾟ: : : : : : : : : : : ﾞﾏj!⌒ヽ: :.　 ,　｡ 二二二_＿
　　　　　 　 /. : ::八　＼r'ﾞﾉ: : : : : : ｡oO。 : : : :j!≫xｉ{: : .　′′二二二二_
　　　　　　 i{ : : (　ﾉ＼ノ{｛: : : : oS％Qυ: : : : {!｀ヽり⌒ヽ　}！二二二二二＝―
　　 　 　 　 , : : ::)ﾞ　{_(　ﾊ ，: :ﾟ οS:℃: : : : : :;}!　 }]{__ﾉ,ﾊ: ; ⅰニニﾆ二二二／＼
　　　　　 　 ′: (‘ー=ﾆ二ゝ゜，,_: : : : : : : : : :/八 ﾉ八　　 };　厂二二二二,／　ｘ／＼
　　　　 　 　 》, : （__≧=ｰ--=ﾆ二二二ﾆ=彡ﾞ(__彡'ﾞ 　 ｰ=ﾉﾞ 二二二／^Ｘ　 x／　／
　　　　　　／_,ノ⌒ヽ_　　　　　　　｝ ｝'ﾞ´ ｀ヽ　)　 　 　 ／ ,_ニ二_／　　　 `ﾞ<　／
　 　 　 ／／　く_ ノ }　≧=ｰ―…'ﾞ 人　(⌒>'i{””¨¨アﾞ _,.二二／　,　　　　　　>
　　　 "／　　　　　人､≧=ｰ―=ﾆ二二≫'ﾞ　　≫'ﾞ __ﾆ二二／　／ 　 　 　 ／
　　　　　　　 　 ／　ゝ ≫　`ー=ニ二ニ=ｰ'ﾞ´_,,..ニ二二_／　／ 　 　 　 ／
／　　　　　　〃　　 ／ _,,..　≧=…ー…=ﾆニ.二二二／　／ 　 　 　 ／


　　食べ盛りの年頃だったので、仕事の合間に立ち食いうどんを食べたり
　　荷物の中からコンデンスミルクを失敬して空腹をしのいだ。
　　この頃の経験からうどんは、大好物であった。





973 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:43:02 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 γ"￣￣`ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ／） （　ﾐ"`ー"ν
　　　　　　　　　　　　　　　　　 / ￣/　C 　´∀｀）＿
　　　　　　　　　　　　　　　　　 |　　 / ￣|つy/ ＿＿|つ
　　　 　,>:' ´l｀ﾞ'ヽ、　　　　　　 |　／　￣ 　 / |
＿.|＿/ ＼ ..|.. ／ヽ 　　　　　　く　ヽ=====ﾛ /
三三 l＿＿ x ＿＿i三ニニニニニニニニニニニニｺ/
.　　　 !　 ／.|.＼　 ,!　　　　　　　　　 |　　　 |
　　　　 ＼ _..|.._ ／　　　　　　　　　　/＿＿/
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 し'


　　お店に入った時から客に声を掛けて売り上げをあげた仁吉も
　　体が小さいハンデを克服することは難しく、坂道で荷車を支えきれず、
　　加速がついたまま四つ角の家の壁に衝突して、泣く泣く謝ることもしばしばであった。





974 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:43:40 ID:3QcCHZQg0




===========================================================ｆi
.ミ//三//三//三//三//三//三//三//三//三//三//三//三//三//三/λ
ﾐ//三//三//三//三//三//三//三//三//三//三//三//三//三//三/　λ
//三//三//三//三//三//三//三//三//三//三//三//三//三//三/　　λ＿＿＿＿＿＿
/三//三//三//三//.ﾐ┌───────┐ 三//三//三//三//三/　　　λ──────
⌒@⌒`@⌒`@⌒`@⌒`|　　梅　田　駅　 　 |⌒'@⌒`@⌒`@⌒`@⌒`　　　　λ＿＿＿＿＿＿
　　　　　　　 　 　 　 　 └───────┘　　　　　　　　 　 　 　 |　　　 　 |　　　||　　　|　 |
＿＿＿＿＿＿＿_ l二二二二二二二二二二二二二ｌ　　　　　　　　｜　 　 　 |￣￣￣|　　|　 |
|　||　||　||　||　||　||　 |＿||;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;|;;;;;;;;;|.　　　　　　　 　 　 |　　　 　 |―――'､　 |　 |
~~~~~~~~~~~~~~~ ||　 |　 ||:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|:::::::::|　　　　　　 ,---------,　 . .|　　　　　　 .|　 |
　 ll┌───┐l ||　 |　 ||. ============= |　　 |.　　　　　　|￣￣|￣￣|,l. 　..|二二二二二二
　 ll│[] [] [l] │l ||　 |　 ||__________ |　　　　　.|￣.. |.　　　　　　|￣￣|￣￣|.| 　 .||| || || || || || ||
　 ll│[,] [] [] │l ||　 |＿||￣|l｢￣| |　　　　　.|　　 |　 ＿_ 　　 |　 　_|　 　_|.| 　 .||| || || || || || ||
　 ll└───┘l ||　 | o.||＿|l|＿｣ |　 □ 　 [￣￣|.　|.〒|　　 |　 / .|　 / .|.| 　 .||| || || || || || ||
￣￣￣￣￣￣￣　　|￣||　　　　　|┬┼┬　|　　 |.　|.＿|　　 |　 | . |　.| . |.| 　 .|￣(◎) ￣￣￣
　　　　　　　　　　 　 .|　 || ''''''''''''''' |│││ │ 　 |.　　||. 　　 |￣￣|￣￣|.l,,　 .|､,,,ヽ|ﾉ,,,,、,,、,,,、,,
￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣´´￣￣￣￣￣￣￣￣
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　　薬問屋なので、毎朝地方へ発送があり、自分で荷物を積んで、梅田駅まで荷車を引く。
　　駅の受付は混雑して、小柄な仁吉はいつの間にか後回しにされてしまう。
　　まさか毎朝顔を会わす小僧達と喧嘩するわけにもいかず、
　　早暁一番に現れて受付を待つようになったという。
　　彼自身、早起きは全く苦にせず、「早起きは習慣にせよ、二十徳あり」と後に語っている。





975 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:44:19 ID:3QcCHZQg0




　　彼が奉公していた川崎屋の取引先に”しかま”という薬屋があった。
　　本店は材木や薪を販売して、薬は副業であったが、
　　最近番頭が亡くなり、「どこかにいい人がいないか」探すため、川崎屋にも声がかかった。
　　それならばと店で頭角を現し始めた仁吉が主人の推薦で”しかま”に勤めることになった。


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　　　　　　　　　　 　 　:　;;,ｲ,,二二二二二ニニニニニﾆﾆﾆﾆﾆ
　 　ﾆﾆニニニニ@　　　　ヽ||―――升――,;r┬―f ‐r ‐r ‐r
　　:::::::::::::::::::::::, へ、　　　.:.::||二二二| |╋╋|==i===i==i==!==!
　　::::::::::::::::::／, へ ヽ、 　 .::||―――| |╋╋|＾´l｀^´l｀＾l´^!　 l
　　::::::::::::／∠二二ゝ､ヽ : : ||―――| |╋╋}　 i /ヽ_/ヽ､l　 i'
　　::::::／∠二二二二ｽ　 l二二二二二二二|　 i!-‐　ｰ- l　 l
　　 　／|ﾆゝ--------孑 /;;:::;;;::::::::::::::::::::::::: l　 ヽ、∀　,ﾉ、 ヽ
　 　 　 | |ﾓ幵幵||幵幵l <元三三三三三三 ヽ､,_,x,_,x_,x,_,x,,_
　 　 　 | |ﾓ幵幵||幵幵 /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::||
　 　 　 | |ﾓ幵幵||幵ﾎ ﾑニニニニニニニニニニニニニニニニ
　 　 二二二二ニニニ |_|ﾆﾆニﾆﾆﾆﾆニﾆﾆニ:i! ﾄ-‐|l| |￣￣||￣
　 　＿||＿_||＿_||＿||_; | ||||||||||||||||||||||||||||||||∥|llii!:|l| |　 　 ||
　 　＿||＿_||＿_||＿||_; | ||||||||||||||||||||||||||||||||∥|llii!:|l| | 　 Q||Q
　 　＿||＿_||＿_||＿||_; | ||||||||||||||||||||||||||||||||∥|llii!:|l{ |　 　 ||
　 　＿||＿_||＿_||＿||_; | ||||||||||||||||||||||||||||||||∥|llii!:|l| |　 　 ||
　 　＿||＿_||＿_||＿||_; | l二二二二二二二二ｌ| |ﾆ´}」 |＿＿||＿
　　　　　　　　　　　　　'| |＿＿＿＿＿＿＿＿i! |, -'　￣￣￣￣
　　　　　　　　　　　　　 ~ ￣￣￣￣￣￣￣￣ ~


　　身分は小僧のままであるが、仕事内容は番頭格であった。





976 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:45:18 ID:3QcCHZQg0




　　薬屋の店舗一切を任された仁吉は、一日の売り上げ二、三円に過ぎない
　　小さい店舗をみるみる大きくしていく。
　　大きな瓶につめたまま、無造作に店舗に陳列していた丸薬を小分けして袋につめて
　　徳用品として売り出したり、夕方になると本店から来る幼児を連れた乳母に店舗を任せて
　　遅くまで得意先を回ったりして、思いつくまま自由に駆けずり回った。


　　　　(二二)
　　　　んvﾍゝ　　　　　　　　 　 　 ＼
　　　 / 　　　ヽ　　　　　 ￣￣￣￣　＼　　　　　　　　　　l二l_
　　　｜ 　　　|　　　　　　　　 　 　 　 　 ＼　　　　　　　 / 徳 ﾊ
　　　｜　　　 |　　　　　　　　　　　　　　 ／　　　　　　　 | 用 .| |
　　　｜　　　 |　　　　　　＿＿＿＿　／　　　　　　　　　| 品 .| |
　　　 ヽ_＿_ノ　　　　　　　　 　 　 ／　　　　　　　　　　　 ￣￣





977 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:46:19 ID:3QcCHZQg0




　　この頃、主人の子供が商品である磨き砂の中に道路の砂を混ぜるいたずらをした際、
　　仁吉は男の子の頭を殴りつけている。


　　　（⌒／￣￣￣（ ⌒ ）
　　　（ /　　─|─　（　　　）
　　 　(|　 ～　　～　(,─、）
　　　 l,〉　≠ l　 ≠　　9 ｝
　 　　 l､ヽ / |_　ヽ /.ﾄ-".　　 ／￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
　　　　| 　|　_＿　|　 |　　　＜　小僧のくせに主人の子供を殴るとは何事か
　　　　ゝ、＿￣＿,ノ　　　　　＼＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　　　　匸(_)こｌ


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 -'´￣￣￣ ﾞ '┛┗
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　.r´'　　　　　　　┓┏
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　.（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　π　　　　　　　　 r　 .!
　　商人には商品が一番大切じゃわい。　　（| ‐‐-､ll ll,.-‐‐　 F-､j
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　.! 　　　　　　　　 i ∂!
　　店の信用を落とすような仕業は、　　　　　i　､＿＿＿＿,　 .!- '
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .(二ヽ､_　 ｀=´　　_,ノ二二)
　　誰でも許されるか！　　　　　　　　　／　 Y '|| （_ヮョヮ_〉＞　 　ヽ　＼
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　,´　　 i　 || >',〉llll〈/<　　〓〓.l　　',



　　店の者から叱られたものの、切り返して、主人夫婦を感心させたこともあったという。





978 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:46:57 ID:3QcCHZQg0




　　全く売れないものでも工夫次第で売れていく商売の面白さに取り付かれた仁吉は、
　　やがてもっと大きい商いをしたくなる衝動に駆られていた。



　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　 .r´'　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　 .（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l　 　店舗を任せてもろたけど
　　　 　　　 　　π　__ノ　　＼_　　r　 !
　　　　　　　　　（| 　二ﾟ 　 ﾟ二　　F-､j　　薬の小売りは、商売として小さいな
　　　　　　　 　　.! 　　　　　　　　 i ∂!
　　　　　　　　　 i　 ＿＿＿＿_　 .!- '　　 あんまり勉強にならんわ
　 　　　　 　 .(二ヽ､_　 ｀^´　　_,ノ二二)
　　　　　　／　 Y '|| （_ヮョヮ_〉＞　 　ヽ　＼
　　　　　 ,´　　 i　 || >',〉llll〈/<　　〓〓.l　　',



　　仁吉が13歳の頃である。





979 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:47:50 ID:3QcCHZQg0




　　そんな時、実家から電報が届いた。


　　　　　　　|￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣|
　　　　　　　|　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 |
　　　　　　　|　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 |
　　　　　　 /　　　￣￣￣￣　　 　　　/＿＿＿__
　　　　 　 /　　　　　　　　　　　　　　/ヽ＿＿／/
　　　　　/　　 　ハハビョウキ 　 　/　　/　　　/
　　　　 /　　　　　　　　　　　　　　/　　/　　　/
　　　　/　　　＿＿＿＿　　　　　/　　/　　　/
　　 ／　　　　　　　　　　　　　／　　/　　　/
　／　　　　　　　　　　　　　／ 　 　/　　　/
　￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣/　　　/　　　/


　　急いで大垣に帰った仁吉が見たのは、元気な母の姿であった。
　　大阪へ行ったきり全く帰ってこない息子を心配した苦肉の策
　　偽報の電報であったのだ。





980 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:48:25 ID:3QcCHZQg0




　　久しぶりの親子水入らずの時を過ごした仁吉は、母に現在の悩み事を打ち明けた。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 _,,.　-──-　､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　_,.イ::::::::::::::::::::::.....‐-｀`''-､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ,.r''";;:i::::::;: ｧ　 ﾐ''､､::::::::ミ ヽ､::｀ヽ、
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　／::／:::::i!:: ,.r‐-､ ミ､::::::::::::::::`,　:::::::::ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　/::::::::::::,ィ:::;:':::::::::::::ヽ ヾ:`::::::::::::::::､''::::::::::::':,
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /:::::::::／:l!!::l::::::::::::::::::::＼＼::::::::::::::iヽヽ:::::::::::!
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　/::::::::/:;rl;l;|!;i:::::::i::::::::::::::::::＼ヽ::::::::::::i､丶 ::::::::i
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　/:::::::::::::;i　　　i;::::::|:::::::::::::::::::::::ヾ｀'‐､:::::i :i ､::::::::l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /::k::::::::::!!　　　 |､:::::!:::::ﾄ､::::::::::::::::ヽヾヾ,,'i::::::::::::::!
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　i,|:::!::::::::::||- .,,_　 |＼::i::::ll, ＼;;::::::::::::::`､ヾ､ i:::::::::::!
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　!!;'l:!::::::::::l.l.r.r::ミ'. !　iヽ:;:l,i-‐_ヾ､::ヽ::::::::iヽ::::::::::::,'
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　!:! i:!:::::::::i'i.i`'ﾞー'` ヽ ヽ ヾ'', :r';;::''>､' ､:::::::::::::::::/,........､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　l:|　i::::::::::ﾄヽ.、 　 　 ＼ ＼_ ￣￣・ ＼ヽ､;;;;;;;;;;'_, 　　 i
　　そんならお母さんが大阪へ行って　　ヽ,. `､:::::::!`　　　 i'　　　　　　　　　　　　 r;}､;;;＿,　　 |
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 `'‐ﾞ､:､::ﾞ､　　　 ,..._　　　　　　　　　 ./-:'::::::iヽ　　 /
　　川崎屋さんに話してたげる。　　　　　　　　　ﾞ''､:::ヽ　　 i`'''ヽ　　　　　　　／!:::::::::::::!　＼/
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ';:!::i＼　 '､_,ﾉ　　　　,. ‐'"　 i:::::::::::/:ヽ,　 i
　　もう少しの間、辛抱しときや　　　　　　　　　　　 i:!:ﾄ､ 丶,_　　_,. ‐''"　　　 ,.l､:::::::/ i:::::l,.ノ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 l::|　ヽ,r'''''''ﾞ‐-----─'''";;;;;;ヽ;':'''::::::l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ﾘ　　 l;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i::::::::/
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　__,,../ -─';;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;!;／
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　r;'''''"";;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;`'-､



　　それから1年後の明治31年の春、母の直談判の甲斐もあって、
　　仁吉は川崎屋へと戻った。





982 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:49:21 ID:3QcCHZQg0




　　”しかま”での1年間の経験を経て大きく成長した仁吉は川崎屋の仕入れ一切を任され、
　　年配の人にも負けないくらいの能力を備えていた。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　,.- ' ´二二二 ﾞ -_､__
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /二二ﾌ＿＿　__- ' 　＼
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 |_,.-'´､＿､_｀- ､　＿　ｒ´
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　π　　　　　　　　｀t、-|
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（| ‐‐-､ 　,.-‐‐　 F-､j
　　　　14歳の仕入れ係だぞ　　　　 .! 　　　　　　　　 i ∂!
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 i　､＿＿＿＿,　 .!- '
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ／ ヽ､_　 ｀=´　　 _,ノ＼フ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　／　　　　|＃　ｖ　 .#| 　　　＼
　　　　　　　　　　　　　　　　　 ,´　　　　　l_＃　_,_,_ _|　　　　　',





983 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:50:09 ID:3QcCHZQg0




　　しかまの1年間を挟んでの川崎屋での奉公生活において仁吉は、暇を惜しんでは本を読み漁った。
　　”中学世界””偉人の伝記”など新聞も知識源の一つとして見ていた。


　　　　　　　 ＿ ＿　_　_　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 ＿
　　　　　　　 | il|　　　　　　￣　　¨　 　 ‐- 　 ．__ 　 ．　　-‐　　 ¨　 ￣　　　　　|
　　　　　　　 | il|　...................................................... 　 |　　　 　 　 　 　 　 　 .............. 　 |
　　　　　　　 | ｉl|　...................................................... 　 |　....................................................... 　 |
.　 　 　 　 　 | ｉl|　...................................................... 　 |　....................................................... 　 |
.　　　　 　 　 | il|　......................................................　　|　 ....................................................... 　 |
.　　　　　　　 | il|　......................................................　　|　 ....................................................... 　 |
　　　 　 　 　 | li|　......................................................　　|　 ....................................................... 　 |
　　　　　　 　 | ll|　......................................................　　|　 ....................................................... 　 |
¨::::￣:::`:.. 　　| il|　......................................................　　|　 ....................................................... 　 |
:::::::::::::::::::::＼__| il|　.....　 ⌒Ｙ...................................　　|　 ....................................................... 　 |
::::::::::::::::::::::／ :| il| ,　'　　／ ....................................　　|　 ....................................................... 　 |
::::::::::::::::Ｙ´　 ..:|_／　 　, ............................................　　|　..............................
::::::::::::::::{ 　 　 ´　 　 〃　 .........................................　　|　..................
::::::::::::::::: 　 　 　 　　 {　　................................　　　 　 |
:::::::::::::::::|　　　　　　 /　　　　　　　　　　__　 ．　-‐
:::::::::::::::::|　　　　　　ハ__　 ．　-‐　　¨
:::::::::::::::::|　　　 　 　|´



　　こっそり本を読んでいて、ふろに水を入れないまま炊きつけて、
　　こっぴどく怒られたエピソードもあるくらい没頭して読んでいたようである。





984 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:50:44 ID:3QcCHZQg0




　　やがて、本や雑誌に刺激され、新大陸・開拓者精神に憧れアメリカに行きたいと思い始めた。


　　　　　　　　　　　＿＿＿
　　　　　　　　,-‐"´､,、　　 ｀ﾞｰ 、
　　　　　　 ／　 ,,-‐―"‐-､,,　　 ヽ
　　　　　 /　　ﾞ/　 　　　　　ヽ、 　 ヽ
　　　　　 | 　 ,,-‐-､,,-‐"´￣｀ﾞ|′ 　 i
　　　 i､ ｛　_ノ　ﾉi　ヽ、　　 　 」,,　　　}ヽ、
　　　 ゝ７jjl|l||!''ゝ! 　　ヽ,,-‐"´ |′　　i′ﾞｰ-、
　　　　ﾞﾅjjﾉ ' ﾞ ,, | 　 　　ﾞｰ-､　 |, 　 　|　 |　 i ヽ
　　　　 ｆjjﾉ　 悠ﾐ} 　 　　　　|,￣ ∟＿,,}　 |　 |　|
.　　　　 | 　　 " ｌ|j 　 　　　　川＿ 　　｀ﾞｰ､|　|　j
　　　 　 |　　　 ∥　　　　　 }ﾐ￣＿｀ﾞ''７ｰ-,,Ｌ＿j
.　　　 　 | 　　 /厂 　　　　/_＿_＿__/＿_＿＿/
.　　　　 〈､　,ｭ〕'　　　　　 /＿_＿＿/＿＿＿/＿
　　　　　 ｀Ｔ''ﾞ　 _ 　 了 /＿_＿ ＿」＿什"ム|::::|i
　　 　 　 i":|　 f´｀ｉ　/''ﾉ＿＿__厂＝|::::|i乃ー|::::|i]
　　　　　 |::::|、 Ｙ l　i' ﾉ∧_:::::ノ＝＝|::::|i]　￣ |::::|i
.　　　　　 |;;;;!、 | |　}l { ∥ ￣''￣￣"|::::|i　　　 ￣
　　　　　　￣1 {　| { | i"　　　　　　　 ￣
　　　　　　　 f_''|/_ l辷!
　　　　　　　f,,_,,ｉ_,, j
　　　　　　　　　 ￣


　　事実、アメリカに移民は流れ込んでおり、仁吉の周りでも渡米を志す人が何人かいた。





986 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:51:18 ID:3QcCHZQg0




　　思い立ったら吉日とばかりに早速仁吉は、大阪中之島にあるＹＭＣＡに英語を習いにいき始める。
　　しかし、彼の英語は全く上達せず



　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　 .r´'　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　 .（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l　　　 ／⌒ヽ_ノ） ) ）
　　　 　　　/｀l｀π　,.-‐-､_,.-‐､　r　 !l｀|｀| ,'　;'⌒'ー''´
　　　　　　（_ て（| /.ヽ､＿＿,..ﾍ　F-､j ~ヽ |　i|　　　　　　　　　　　　　　　発音が悪いですねぇ＞
　　　　　　 .|￣　!/:::::::::::ｨ⌒｀ヽ　 i ∂!￣ ﾉ ,'.!
　　　　　　 .|　 /.i-‐'´￣　｀＼　＼'、' ..／ //　　　　　　　　　ちょっと舌が長いんと違いますか＞
　 　　　　 　',　l　ヽ､-‐''三ﾞ''‐＼､_＞'´　ノ'´.|
　　　　　　／　l ／|| （_ヮョヮ_〉＞`ｰ一''´l　|
　　　　　 ,´　　/　 || >',〉llll〈/<　　〓〓',　 |


　　この講師の言葉にカチンときた負けん気の強い仁吉は、


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 -'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　.r´'　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　.（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 π　,.-‐-､_,.-‐､　r　 !
　　人の悪口を言うようなところなら　　 （| /.ヽ､＿＿,..ﾍ　F-､j
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　.!/:::::::::::::::::::::::::ﾍi ∂!
　　辞めたるわい　　　　　　　　　　　　　 i-‐'´￣￣￣｀'-.!- '
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　.(二ヽ､-‐''三ﾞ''‐‐っノ二二)
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ／　 Y '|| （_ヮョヮ_〉＞　 　ヽ　＼
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　,´　　 i　 || >',〉llll〈/<　　〓〓.l　　',


　　英語の勉強は、僅かな期間で終わったらしい。





987 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:52:18 ID:3QcCHZQg0




　　すぐに辞めた理由には、薬屋関係で神戸の商館に勤めないかという話があったことも一つであった。
　　”英語も自然と身につくだろうし、渡米のチャンスもあるかもしれない”
　　と思っていたが、この話は破談に終わる。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　_,,.　-──-　､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 _,.イ::::::::::::::::::::::.....‐-｀`''-､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　,.r''";;:i::::::;: ｧ　 ﾐ''､､::::::::ミ ヽ､::｀ヽ、
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ／::／:::::i!:: ,.r‐-､ ミ､::::::::::::::::`,　:::::::::ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /::::::::::::,ィ:::;:':::::::::::::ヽ ヾ:`::::::::::::::::､''::::::::::::':,
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　/:::::::::／:l!!::l::::::::::::::::::::＼＼::::::::::::::iヽヽ:::::::::::!
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /::::::::/:;rl;l;|!;i:::::::i::::::::::::::::::＼ヽ::::::::::::i､丶 ::::::::i
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /:::::::::::::;i　　　i;::::::|:::::::::::::::::::::::ヾ｀'‐､:::::i :i ､::::::::l
　　お前のお父さんは、家に縛られて　　　　　　　　　/::k::::::::::!!　　　 |､:::::!:::::ﾄ､::::::::::::::::ヽヾヾ,,'i::::::::::::::!
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 i,|:::!::::::::::||- .,,_　 |＼::i::::ll, ＼;;::::::::::::::`､ヾ､ i:::::::::::!
　　自分の思うような生き方が出来なかった　　　　 !!;'l:!::::::::::l.l.r.r::ミ'. !　iヽ:;:l,i-‐_ヾ､::ヽ::::::::iヽ::::::::::::,'
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 !:! i:!:::::::::i'i.i`'ﾞー'` ヽ ヽ ヾ'', :r';;::''>､' ､:::::::::::::::::/,........､
　　だから子供達はどこへでもやってくれ　　　　　　l:|　i::::::::::ﾄヽ.、 　 　 ＼ ＼_ ￣￣・ ＼ヽ､;;;;;;;;;;'_, 　　 i
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ヽ,. `､:::::::!`　　　 i'　　　　　　　　　　　　 r;}､;;;＿,　　 |
　　と始終言ってたくらいだから、　　　　　　　　　　　　 `'‐ﾞ､:､::ﾞ､　　　 ,..._　　　　　　　　　 ./-:'::::::iヽ　　 /
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ﾞ''､:::ヽ　　 i`'''ヽ　　　　　　　／!:::::::::::::!　＼/
　　アメリカでもどこへでもお行き　　　　　　　　　　　　　　　　 ';:!::i＼　 '､_,ﾉ　　　　,. ‐'"　 i:::::::::::/:ヽ,　 i
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 i:!:ﾄ､ 丶,_　　_,. ‐''"　　　 ,.l､:::::::/ i:::::l,.ノ
　　でも、20歳になるまでは日本で勉強して欲しい　　　　　　　l::|　ヽ,r'''''''ﾞ‐-----─'''";;;;;;ヽ;':'''::::::l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ﾘ　　 l;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i::::::::/
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 __,,../ -─';;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;!;／
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 r;'''''"";;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;`'-､



　　母からの説得を受けて、神戸行きを諦めた。





988 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:52:59 ID:3QcCHZQg0




　　母は、同時に内職を通じて知っている絹や織物の繊維関係の商売を
　　しっかり身に付けておくことを強く勧めた。
　　明治33年7月　母の忠告を素直に受け入れた仁吉は、知人の紹介で
　　京都の織物問屋・小堀商店へ奉公することになった。


:::....::::::........ 　.　.::::::... .... ..::::::::::::::::....::::::........　.　.::::::... .... ..::::::::::::::::....::::::........　.　.::::::... ....::::::::::
.. .. . ...　.::::..　.　.　.::　:　:..　.　...　:::　:::..　... .. .. ...　...　..::. .. .
　　..　.　..　.:::::　　　　　　::　:.　　　　　　　　　...　.:::::　:...　.　.::::　..　. .
... .. .. 　　. ...　...　　　　..::　　　. .. .　.. . .. .. 　　.　 ...　...　　　　　　..　..::　　　. .. .　..
　. .. .　.. ... .. .. 　　. ...　...　　　　..::　　　. ..　...　　　　　::　　◯　　　　:　　　. .. .
.　.::　:　:..　.　...　:::　:::..　　　§. .. .　.. .. .. .. 　　 　...　...　...　　　....　..::　　　.
　. .. .　.. .. .. .. 　　. . . .. .　　§　　. ...　...　　　　　　. .. .
　..　.　..　.::::　::　　　　　-‐'" ﾞ''‐-　　. ...　...　　　　　. ...　...　　　　..::　　　.
　　..::　　　. .. .　.. 　　　｀`侖侖''"　　　　　　　　　　　　　　　. .. .
　　　　　　　　　　 　　 -‐'"韭 ﾞ''‐-　. ...　...　　　　..::　　　.
ﾞ''､,,_,,,,-‐'゛｀`''､,　　　 ｀`侖侖侖''"
;'' ;~'',;'''',;'';'' ;~'',;''ﾟ ;~'',;;-‐'"韭韭 ﾞ''‐-
,;'',;''ﾟ ;~,;":;;;:　: ;: ;: ;::::::｀｀ﾞ''ｰ-侖侖''"::;.-‐'゛~ﾞ｀ﾞ''-、.,,,::　　　　. ...　...
::;.:".:;.:'"ﾞ:.:ﾞ,:;、,"'.:.:;,`:;,':,:;.,:;.:::;.:"ﾞ''､,;.:'"ﾞ:.:ﾞ,:;、,"'.:.:`;'' ;｀`'‐.､;;;;;;;.,.,.,.,..,.,.,.,.
:;,':,:;.,:;'' ;~'',;''ﾟ ;~'',;;~'',;';~.:.:;,`:;,':,:;.ﾞ:.:ﾞ,:;、,"'.:.:;,`:;,':,:;.ﾞ:.:ﾞ :: :;":;; ~ﾞ"'ｰ-;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;...
":;;;:　: ;: ;: ;:　　; ::;　: ;:; :; :　 :: :; '' ;~'',;''ﾟ ;~'',;'',;'　ｖ'ﾟ ;~,;''ﾟ ;~ﾟ''ﾟ ;~'',;'',;'~,;ﾞ''､,,_ｭiｭ... .. .. 　　. ...
::;...;;.;;ii:i;;:;i,'' ;~'',;''ﾟ ;~'',;'',;'　'ﾟ ;~,;''ﾟ ;..;;.;;ii:i;;:;i'',;'',;''ﾟ ;~,;::;.:".:;.:'::;...;;.;;ii:i;;:;i|ﾞ:.:ﾞ,:;、,"ｺｴ...HE
ﾞゞ:.ﾐ,,;'',;' 　;~,;''ﾟ ,:;,`ﾞゞ:.ﾐ,,;'',;'　;~ﾞゞ:.ﾐ,,;'',;'　;~,;''ﾟ ;~ﾟ''ﾟ ;"i|:;.::;,,;''ﾟ ;~ﾟ''ﾟ ;":;.::;,ﾞゞ:.ﾐ,,;'',;'　;~,;''ﾟ ,:
:.ﾐ,,;'',;' 　;~,;''ﾟ ,::.ﾐ,,;'',;'　;~,;:.ﾐ,,ii;'',;'　;~,;''ﾟ :.ﾐ,,;'',;'　;~,;''ﾟ ,:;,`ﾞゞ:.ﾐ,;'',;'　;~ﾞゞ:.ﾐ,,;'',;'　;~,;,:.:.､;:...:,:.:.､
.:.:;,`:;,':,:;.ﾞ:.:ﾞ,:;、,"'.:.:;,`:;,':,:;.ﾞ:.:ﾞ.:.:;,`:;,':,:;.ﾞ:.:ﾞ,:;、,"'.:.:;,`:;,':,:;.ﾞ:.:ﾞ.:.:;,`:;,':,:;.ﾞ:.:ﾞ,:;、,"'.:.:;,`:;,':,:;.ﾞ





989 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:53:47 ID:3QcCHZQg0




　　全く経験のない織物問屋業界でも明治34年の春には300円の大商いを成立させ、
　　来て一年足らずで異例の番頭さんにまで登り詰めている。



　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .r´'　　　　　　　　　ヽ
　　この時代でも経済思想や　　　 .（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　π　　　　　　　　 r　 .!
　　財政機構の本を読んで　　　　　（| ‐‐-､ 　,.-‐‐　 F-､j
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .!,r‐‐､＿＿,.ｒ‐‐､i ∂!
　　独学で理論的には　　　　　　　　il::::::::::::::::::::::::::::::::l.!- '
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .(二ヽ､::／⌒⌒＼::,ノ二二)
　　マスターしていたぞ　　　　 ／　 Y '|| （_ヮョヮ_〉＞　 　ヽ　＼
　　　　　　　　　　　　　　　　　 ,´　　 i　 || >',〉llll〈/<　　〓〓.l　　',



　　商売人に理論はいらない、ソロバンさえわかればそれで構わないという時代に
　　企業経営の理論と実践の基礎をこの時代に身に付けることになるのである。





990 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:54:21 ID:3QcCHZQg0




┼┤│　 ││;;;||-|-|-|-|-|-|-|-|-||::::::::::::::::::::::::: ||-|-|-|-|-|-|-|-|-|││
┼┤│　 ││;;;||-|-|-|-|-|-|-|-|-||::::::::::::::::::::::::: ||-|-|-|-|-|-|-|-|-|││
┼┤│　 ││;;;||-|-|-|-|-|-|-|-|-||::::::::::::::::::::::::: ||-|-|-|-|-|-|-|-|-|││
┼┤│　 ││;;;||-|-|-|-|-|-|-|-|-||─────||-|-|-|-|-|-|-|-|-|││
┳┥│　 ││;;［田田田田］［田田田田］［田田田田］［田田田田］ |..│
┻┥└─┘,,|／=======================================;;;|..│
　ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ
ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣
￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣ﾉ￣
==@==@==@==@==@==ｒ─ー─‐-──ー┐@==@==@==@==@==@==
─────────‐|　小　堀　商　店.│─────────
:: : :|　|;;| :::: :::: :＿＿＿＿｀ー─-─-‐ー─┘＿＿＿＿:::::::::::::: :|　|;;| :
　　|　|;;|　　　::||三三三|￣￣|￣￣|￣￣|￣￣|三三三||:　　　　|　|;;|
　　|　|;;|　　　::||三三三|＿＿|＿_,,ﾉ＿__,ﾉ＿__,,|三三三||:　　　　|　|;;|
　　|　|;;|　　　::||三三三三||::::: :::::::: :: ::: ::::: ::||三三三三||:　　　　|　|;;|
　　|　|;;|　　　::||三三三三||:::::: ::: :: :::::::: :::: ::||三三三三||:　　　　|　|;;|
　　|　|;;|::::　／||三三三三||:::::: ::: :: :::::::: :::: ::||三三三 ／:: :::::::::::::|　|;;|:::::
|￣￣|￣￣|.　||三三三三||:::::: ::: :: :::::::: :::: ::||三三三||￣|￣￣|￣￣|￣
|　 　 |　 　 |.　||三三三三||::::: :::::::: :: ::: ::::: ::||三三三||　 |　 　 |　 　 |
|　 　 |　 　 |.　||三三三三||::::: :::::::: :: ::: ::::: ::||三三三||　 |　 　 |　 　 |
|＿＿|＿＿|／;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;||＿|＿＿|＿＿|＿


　　仁吉が勤めた小堀商店、この当時は主人が亡くなり、26歳になったばかりの
　　息子が跡を継いでいた。
　　息子は、商品確保のため当時常識だった織物工場への融資を行うも結果は、
　　裏目に出て手形が不渡りになる。
　　店は、”ご隠居さん”と呼ばれた当主の祖母こまが、資産を投げ打って、
　　大幅なリストラを行ってなんとか倒産を免れる状態であった。
　　そのため、小僧3人を含め9人の少人数体制になった店は、
　　自然と番頭である仁吉の双肩にかかっていた。





991 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:54:56 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /(⌒ ヽ
.　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /　 ゝ 、_　)
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /ﾍ _　　　 /
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＿　-- 'ゞ､ヾ｀ﾆさ
　　　　　　　　　　　　　　　　 へ￣　　　　　　 /　￣　＼
.　　　　　　　　　　　　 　 　 /. 　 ＼. 　 　 　 /　　　　　 ＼
＼　　　　　　　　　　　　　 /　　　 　 ＼　　 /　　　　　　　 ＼
　　＼　　　　　　 　 　 　 /　 　 　 　 　 ＼/　　　　　　　　　 ＼
　　　　＼.　　　　　　 　 /＿＿＿＿＿__//￣￣￣￣￣￣￣7/
　　　　　　ヽ__　　　＿_//.　 ￣￣￣￣//＿＿＿＿＿＿＿_./
　　　　　　　　￣￣　.// 　 　 　 　 　 //　＿＿_＿_　 　　　/
　　　　　　　　　ヽ＿//.　　　　　　　 //　/日本酒/　　　　/
　　　　　　　　　　　　￣￣ヽ　　　　//￣￣￣￣￣￣￣7/
　　　　　　　　　　　　　　　丿　 　 //　　/ ヽヽ　 (ﾟДﾟ,,) /
　　　　　　　　　 ノ￣￣￣　　 　 // ｰ７￣ . ー―７　　/
　　　　　　　￣７　　　　　　　　 .//ｰ７￣　ー―. ′　./
　　　　　　　　/　 　 　 　 　 　 // 　 ､ヽ 王　　 / 　 /
　　　　　　　　　　　　 　 　 　 // 　　ノ /ヲ　フ/く　/


　　この頃、織物を仕入れに来る上客の多くは、地方の資産家である。
　　観光も兼ねて春秋の京、とくに祇園に集中して訪れた。
　　それに伴い、呉服の商いの場も花柳界の酒席がメインになっていたのであるが
　　仁吉はそういう場所での取引を一切しようとしなかった。





992 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:55:31 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　　　　,．-── - ､
　　　　　　　　　 ／　　　　　_ ＿ ＼
　　　　　　　　 /　　 rﾆ二j j! |　ﾉ <
　　　　　　　　lﾆ　ﾆ,〉 ij　｀"""´r‐┴‐- ､　　　　　　　　　お客さんを接待しているうちに遊び癖がつく
　　　　　　　　|三云ﾉ 　＿-┼-,>--y　　 ＼
　　　　　　　　V 6jﾘ‐（ _＿）^（ ＿）jし（ 　 八　　　　　　　自分一人でいくようになる
　　　　　　　　　ゝ-ｿ ,r''"｀`ヽ''"´｀ヽ!┴r＝'⌒ヽ .
　　　　　　　　　 _｀iY'､　　　 　 　 ﾉﾉー|l　　　　l　:　　　　月給ではとても足りないから店の金を使い込む
　　　　　　　, ィ´　 ｀ﾄ､ﾆ二´ ｀二ソ　ヽ||　　　　|　:
　　　　　　/／l　　　|＿（ﾟ｡ﾟこﾟ｡ﾟ）__ヽ　 !＼＿／ .　　　 　そんな失敗をした人をたくさん見てきたんじゃ
　　　　　 / ／i!　　　|￣ ＼ j! / ￣/ 　 l／





993 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:56:05 ID:3QcCHZQg0




　　夜の営業をしなかった仁吉は、その分売り上げをカバーするため、新しい顧客を開拓に取り組む。
　　目をつけたのが三井呉服店（三越の前身）である。
　　四条西洞院にある店に立ち寄り、初日に担当者の名前と座っている場所を聞き取りをしておいた。
　　それからは、暇を見つけては、毎朝通いつめた。
　　紹介者などおらず、担当者がこちらを向いた瞬間、


　　　　　　　　　　,..-‐''''''''''ｰ､
　　　　 　 　　,r''´　　　 　 　 ヽ
　　　 　 　 　 ヾ!`ｰーｰｰｰﾋ　 l
.　　　　　 　 　 ,! ‐-　 -‐ ヾr ）　　　　　　　　　　　　　 ,-'´￣￣｀ヽ''´l_/｀ ｰ､
　　　　　 　 　 l -‐'ニー‐-',[___　　　　　　　　　　　　/´　　　　　　 ,.ゝ-､-､._　ヽr‐=‐‐‐ｺ
　　　　　　　　,r`ｰr､-‐'7´l７'''ヾ　　　　　　　　　　　l　　　　　　 ,...-!‐ ､‐'ヾi　　 ヽ＿／
　　　　　　　 /r(ミ｀ ｀Y´ー!￣｀l　　　　　　　　 _,r'ヾ! 　　　 ,.r'´｀ヾヽ　 `i　!.li　　 l　 l
　　　　　　　,!´ヾヽ＿ﾉ　 　 ` .ﾉ　　　　　　　.r'r',.. 　li､　　（r'´　　 ,!l＿_ ' '´i l　　.ﾄﾞ　!
　　　　　　　ヽ.....-く ｀ー---‐'l　　　　　　　　.`‐'‐‐'´`｀ｰi┴く-‐‐'l フ`',-､ノﾉ 　 / 　ﾉ
　　　　　＿_,..l -‐ェ`―i――ﾉ---､_　　　　　　　　　　　 l.ヾｰゝ_/'´ ロﾌﾞr'´　 /__,.ノ
　　 　　 ｀ヽ､._ ￣￣￣￣￣_,.,-‐'´　　　　　　　　　　　　　ヽ、｀ヽ＝!‐''´　_,.r'"´
　　　 　 　 　 l ￣￣ T ´￣　l　　　　　　　　　　　　　　　　　｀!ｰ-､.......ィ´l/
　　 　 　 　 　 l. 　 　 l　　　 ,!　　　　　　　　　　　　　　　　　　ヽ、　　 ﾉ-‐l
　　　　　　　　_,l----.l----く._　　　　　　　　　　　　　　　　　　　｀ ￣ヽ_ノ
　　　　　 　i二...ゝ-==!ﾆrｰ-'....二!


　　頭を下げる。





994 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:56:39 ID:3QcCHZQg0




　　やがて、向こうも毎朝やってきて丁寧に頭を下げる人間を気に留めるようになり


　　　　　　　　　　　　　　　　　〃　　　ｉｉ　　　 !| 　 　 　 ｉ ||　 　 | |　　│　　　　　│　 |　　　|
　　　　　　　　　　　　　　　　　{i　　 　 ｉｉ　　　 !| 　 　 　 ｉ ||　 　 | |　　│　　　　　 |　　|　　　|
　　　　　　　　　　　　　　　　　ｉi　　 　 ｉｉ　　　 !|　 　 　＿｣L　-‐ ニ二 |　　　　ｉ　│　 |　　　|
　　　　　　　　　　　　　　　　　ｉｉ　　　_｣≧ニ二¨ミ￣＿｛ 　 ﾝ匀ｱﾘ''＜| 　 ｉｉ　 ｉ　 |　　|　　　|
　　　　　　　　　　　　　　　　　`　-ﾍ　{　　/杁う`7'⌒　{ 　､　ゞ-┘ ´ |　　ｉｉ 　i　 |　　|　　　|
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　l　{　 　 ゞ'┘′　　 ヽ、＿___　　　|　　ｉｉ 　i　 |　　|　　　|
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　|　` r‐…　 7　 　 　 　 　 　 　 　 |　　ﾘ 　i　 |　　|　　　|
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　|　　l.　　　/　　　　　　 　 　 　 　 |　〃 　ﾉ　ﾘ　　| 　 ! i|
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　|　　|ﾍ　　ヽ　 　 ::...、　　　 　 　 厶 -r…￢　　 ,,'　　ｉ ｉ|
　　君はいったい　　　　　　　　　　|　　|　|:.　　 ｀　　　　　　　 　 　 　 　 |　　 }} 　 ''　　 ii i|
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　|　　|　i　ｉ:.　　 ﾏ二二二二ヾ　　　 　 | 　　ﾘ　/　　　ｉi i|
　　何を売りにきたんや 　 　 　 　 ﾚ⌒|　i　i ﾊ　　　ー─　　　　　 　　　j　 〃≠-‐　　￣
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 |　i　i _,ﾑ　 . ...::... . .　　　　,.イ　 /／／..::::::::::::::::::::::
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 |　ﾚ'.:::::::::ﾄ:._:_:..:..:..:..:.:._;.．'´''´　／／..::::::::::::::::::::::::::::
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　／..:::::::::::::|::::|ﾄ､￣￣ ／ 　 　　／..::::::::::::::::::::::::::::::::::
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ／..:::::::::::::::::::|::::||　＼／　　　　／..::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


　　声を掛けられたのは、56回目のことであったという。





995 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:57:13 ID:3QcCHZQg0




　　この日のために夜は織物工場に通い、説明を聞いて機械に触るなどして、
　　品物を見極める目を養ってきた仁吉。
　　いい品を安く仕入れる腕は、誰にも負けない自負を持って商品の説明を担当者に行う。
　　すると担当者は大いに喜び、今後の取引を約束してくれた。


　　　　 　 ／　　　　　　　　　　　 ｀
　　　　／　　　　　　　　　　　　　　　　＼
　 　 /　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ヽ
　　/　　 　 .ｌ　|　| |　　　　',　　　　　　　　　',
　　|.　 　 ｌ　|　|　|_|　　　　 ',　　　　　　　　　',
　　|　| |　|　レ|／ .|　　　 　 ',　|　　　　　　　 |
　　|　| |　レ ／ ',＝|　 |　　　|　|　　 ,　　　　 |
　　|　| レ　ｆ　　 〉　 |　 |　　 .|　|　　 ',　|　　 .|
　　レﾚ ,.､"ゝ '"　　 .|　 |　　 .|　|　　 |　|　　 .|
　　　　〈_l　　　　　　 |＿|＿|_|　 |　|　|　|　　 |　　　小堀の若い番頭が持ってくる
　　　　　l　 _　　　　　　　　 |　 | |　|　|　l　　 |
　　　　　゛ー　　_,.　　　　　 |　 | |　|　|　|＿__|　　　品物は確かなもんや
　　　 　 　 ヽ '´　　　　　　 |＿|_|__|ーー
.　　　　　　　 l,,,,,,,,,,,,,,,,,,,;;／
　　　　　　　　:;_;:'''''''' ´


　　良いことは、それだけに留まらず担当者が周囲に言い回してくれたお陰で
　　口コミで顧客が増えだしたのである。




3 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:58:43 ID:3QcCHZQg0




　　接待と並んで仁吉がしなかったものがもう一つある。
　　値切りである。



　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .r´'　　　　　　　　　ヽ
　　商売というもんは商品に対する信用や　　　　 .（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　π　 ⌒　　⌒ 　　r　 !
　　お客さんの方でもあいつは値引きせんが　　　 （| 　二ﾟ 　 ﾟ二　　F-､j
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .! 　　　　　　　　 i ∂!
　　ええ品物くれよる、結局得や　　　　　　　　　　　 i　 ＿＿＿＿_　 .!- '
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .(二ヽ､_　 　-　　 _,ノ二二)
　　ということでひいきにしてもらいました　　 ／　 Y '|| （_ヮョヮ_〉＞　 　ヽ　＼
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ,´　　 i　 || >',〉llll〈/<　　〓〓.l　　',



　　接待や値切りをしない新しい商法で、彼は同僚との売り上げ競争でも
　　常に上位にいることが出来た。





4 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:59:16 ID:3QcCHZQg0




　　仕事一筋だった仁吉に余暇の楽しみが出来たのは、明治36年11月のことであった。
　　依然アメリカなどの諸外国に興味があった仁吉は、今日外国人がたくさん集まっているとの噂を聞きつけ、
　　三高野球部（現在の京大）と外国人チーム・神戸クリケットクラブの野球の試合を休暇の日に見に行った。


　　　　　　　　　　　 /￣￣￣ /
　　　　　　　　　　　 ｰ‐'￣/　/　　　　　　　　　　　　　　 /￣￣￣ /
　　　　　　　　　　　 ＿__ノ　/ ./￣￣.￣/　　　　　　　　 ｰ‐'￣/　/
　　　　　 ,r=ヽ、　/＿___,.／　 ￣￣ ￣;;:;:;;:::;;;;;;;;;;;;ヽ、　　＿__ノ　/ ./￣￣.￣/
　　　　　j｡ ｡ﾞLﾞi　　　　 rﾆ二`ヽ.　　　Y",,..、ｰt;;;;;;;;;;;） /＿___,.／　 ￣￣ ￣
　r-=、　l≦ ﾉ6)＿　　　l_,.､ヾ;r､ﾞt　　 lｦ '・=　 ）rテ-┴- ､
　｀ﾞゝヽ、`ｰ!　ﾉ::::::｀ヽ､ L､ﾟﾞ　tﾉ`ｿﾞ`ｰ ﾞiｰ'　 ,r"彡彡三ﾐミ｀ヽ.
　　にｰ `ヾヽ'":::::::::::: ｨ"^ﾞiﾌ　 _,,ﾉ　,　　ﾞtﾌ　ﾞゞ''"´　　 ﾞifrﾐソﾍ,
　,.、　｀~iヽ､. ｀~`''"´　ﾞt　（,,￣,　frﾉ　　 ゝ-‐,i ,,.,...、　 ヾミく::::::l　　　　　　　　　ここでヒットが出れば、同点やぞ
　ゝヽ、__l::::ヽ｀iー- '''"´ﾞi,　ヽ　ヽ,/　　　/　　lｦ ｪ｡､　　 〉:,r-､::ﾘ
　W..,,」:::::::::,->ヽi''"´::::ノ-ゝ ヽ､_ﾉｰ‐ﾃ-/　i　/ ,, 、　　 '"fっ)ﾉ::l　　　　　　　　　2点入れば逆転や、
　　￣r＝=ミ__ｨ'{-‐ﾆ二...,-ゝ、'″ ／,/｀ヽl : :`i- ､ヽ　　,.:ﾞ''" )'^`''ｰ- :、
　　　 lﾐ､　　／ f´　 r''/'´ミ)ゝ^),ノ>''"　 ,:ｲ`i /i､ヲﾞi　.:" ,,.　/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;｀ﾞ　　　　日本男児の心意気見せてやれ！
　　　 !　ヾ .il　　l　　l;;;ﾄ､つノ,ノ ／　　 ／:ﾄ-"ﾉﾞi　　,,.:ｨ'"　/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
.　 　 l　　　ハ.　l　　l;;;;i _,,.:イ　/　　 ／ 　,ﾚ''";;;;｀ﾞﾞ" ヽ_,,ノ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
　　 人 ヾﾆﾞi　ヽ.l　 yt,;ヽ　 ﾞv'′ ,:ｨ"　　/;;;;;;;;;;;;;;r-'"´｀i,;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
　 r'"::::ゝ､_ﾉ　　ﾞi_,/　 l ヽ　　ﾞ':く´　_,,.〃_;;;;;;;;;;;;f´' 　 　 ll;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
　 ｀￣´　　　　 ／　　l　 ヽ　　　ヾ"／　 ｀ﾞ''ーハ.　　 　 l;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
　　　　　　　 ／　　　 l　　ﾞt　　　 `'　　　　 ／^t;＼　　,,.ゝ;;;;;;;;;;;;;;;i;;;;;;;;;;;;





5 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 21:59:59 ID:3QcCHZQg0




　　試合は、三高が満塁のチャンスを作り、大きな盛り上がりを見せていた。
　　見物していた仁吉は、野球のルールも何も分からなかったがここがゲームの山場で
　　あることは、何となく分かった。
　　声援が一段と盛り上がった瞬間、ど真ん中に来た絶好球をジャストミート
　　ボールはレフトの頭を越えて、外野の後ろに張られたロープを超えていった。



　　　　　　　　　　　　　　,≡､､
　　　　　　　　　　　　　　ヾﾐｒ:.ヘ　　　 　 ﾄ､
　　　　　　　　　　　　　　　 ｀~i"::i　　　　 形
　　　　　　　　　　　　　　　　　i:::::;　　　　|:::|
　　　　　　　　　　　　　　　　　ゝ‐ﾞ:ﾗ 　 .ﾉ::ﾉ
　　　　　　　　　　　　　　　　 {_:__ク〉-'ﾍ:;:'　　　＜オアーッ！
　　　　　　　　　　　　　　　　　 ｿ=く i!　 〉
　　　　　　　　　　　　　　　　　 ｀､　 ｀ﾍ'
　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 }、 　 i
　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .ヾ｀ゝ__〉
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 i＾i￣ ｀ー＜ﾆ ､　　　　_
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ヽ_､_＿＿__ __ 》`ｰv´:::ﾉ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〉､:;'｀ ‐ - '
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 　i//
○　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 r':､_
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　｀ｰ"



　　結局、これがエンタイトルツーベースと判定されて、10対8で三高が逃げ切った。




7 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:00:38 ID:3QcCHZQg0




　　初めて野球を見た仁吉は、理屈抜きに野球の虜になった。



　　　　　　　　　　　　　　 ,.-､/⌒ヽ
　　　　　　　　　　　　　　 {　｜ Ｏ j
　　　　　　, - ､, - 、　 　　ヽ　　／
　　　　　 ゝ.　　　ﾉ　　　　　. }／　　　　　　　　　 _
　　　　　　　＼／　　　　　　　　　　　　　　　, '´　）
　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '- ､　　､__ノ 　 .'⌒)
　　　　　　　　　 .r´'　　　　　　　　　ヽ　 ｀ ｰ--‐ '´
　　＿　　　　 .（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l
　{　　｀Y´} 　　π　.:::-‐　 ‐-:::.　 r　 !　　　　ｒ'｀ｖ´｀i
　.＼　　 /　　　（|　ゞﾓｦ 　ﾓﾃｱ　 F-､j　　　　! 　 ／
　　　ヽ/　　 　　.! 　　　　　　　　　i ∂!　　　　|／
　　　　　　　　　 i　 　　 `=　　　　 !- '
　 　　　　 　 .(二ヽ､_　 　　　　 _,ノ二二)
　　　　　　／　 Y '|| （_ヮョヮ_〉＞　 　ヽ　＼
　　　　　 ,´　　 i　 || >',〉llll〈/<　　〓〓.l　　',


　　それからは、仕事で出かける度に三高のグランドに寄って
　　ある時はバックネット裏近く、ある時はグランドの植え込みの間からと
　　場所を変えて度々見学に訪れた。




9 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:01:31 ID:3QcCHZQg0




　　あまりに頻繁に出掛けるものだから、店では仁吉目当ての客が来た際、
　　よく行方知らずになっていたようである。


　　　　　　＿＿＿）＼＿＿
　　　　／　＼　　|　 　|　　/＼
　　／　＼　　|　　|　　|　 /　／＼
　　|ヽヽ､　＼ |　　!　 /　/／　　　|
　　|＝|　　　　　　　　　　　＝＝＝|
　　ヾ=|　　　　　　　　　　　＝＝＝|
　　　i‐|　「￣￣゛l「￣￣゛l　|,─、丿　 ／￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
　　　l､|　!､＿＿ﾉl.＿＿_ !　　.９ }　 ＜　仁吉はどこだ～～～！！
　　　　|　　　 　／＼　　 　 ト-イ.　 　 ＼＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
　　　　|　　　／　　　＼　 　!
　　　　 ヽ　　＼　　　／　／
　　　　　　＼　 ＼／　／
　　　　　　　　ヽー‐ "




11 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:03:00 ID:3QcCHZQg0




　　やがて、老番頭が店を去り、19歳の仁吉がほとんど一人で切り盛りする状態になった。
　　そんな姿を見ていた店の一人娘小堀すがは仁吉に惹かれていた。


　　　　　　　　　　　　　　　　　,. -‐' ´￣￣｀ ` ‐ ､
　　　　　　　　　　 　 　　 ,.　'´Z::::::::::::::::::...⌒`ﾐ::::::.ヽ､
　　　　　　　　　　　　 ／::::.／／::::::::::::::::::::::::::::::::..／:::ヽ、
　　　　　　　　　　　／::::::::...Z:::::::::::::::::::::::::::::...::::/.::::::::::::...',
　　　　　　　　　　/::::::::::::／:::::::::::::::::::::::::::::::::／::i::::::ヽ:::::....l
　　　　　　　　　/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::;.ｲ::::::::i:::::::i..::.:i!..::|
　　　　　 　 　 /::::::::::::::::::::::::::::://::::::::::::/　ｌ::::::::::::i!:::.i..N:...l::l
　　　　　　　 /::::::::::::::::::/:/:::::/:/:/::::/:/　 |::::::::::|N....|:|:::::::::::',
　 　 　 　 　 i::/|:::::::::::::| i⌒Yi|i//::///｀`ヽ::::::::::l:.....:i:::|::::::::::::',
　 　 　 　 　 |l　|::::::::::::| ゞソ i! 　 ! 　, r￢|:l:::::::::|::..:i::l::l::::::::::::::',
　 　 　 　 　 |!　|:::::::::::|. 〃 　 　 　 　 i ツ:>､:::::::i:N:::::::::::::::::::::::l
　　　　　　　　　|:::::::::::',　　 〈　　　　　` ''"　|:::::::|:i|::::::::::::::::::i:::::::l
　 　 　 　 　 　　|::::::::::::ヽ、 ヽ､__,　　 〃　　|::::::::li::::::::::::::::::::|:::::::::l
　　　　　　　　　 |:|i:::::::::::::＼　　　　　　 ,.／|::::::::li::!:::::::::::::::::i!:::ﾄ::::|
　　 　 　 　 　 　 |l.|!::::::::::::::::` ┐－ ' "　　/::::::::::/:::::::::::::::::::::i!| |:::|
　　　　　　　　　　| li:i:::::::::::::::::丨　 　　　 /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::i|　|::|
　　　　　　　　　　　 〉::::::::::::::::::|　　　　／:::::::::::/ヽ::::::::::::::::::::::::ﾄ　|:|
　　　　　　　　　　／::,. - ‐－/　　　／/:::::/／　　 ヽ、:::::::､:::::lヽ ,||
　　　　　　　　　,.　'l´ll 　 /´ ,.　-／／:::::／　　　　 　 ＼ﾐ､＼::l ＼|
　　　　　　　／､ 　 l .ll r' ' ´　／／:::::／　　　　　　__`ﾆヽヽ､　`　 |!`
　　 　 ,. -‐'　´ `j介-ｭ／￣｀ ─-ニニニﾆﾆ-‐ ' ´　　 　 ヽヽ

　　　　　　　　　　　　　　　　小堀すが（17）





12 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:03:35 ID:3QcCHZQg0




　　二人は、お互いの思いを確認するかのように向かい合って、火鉢にかざしていた
　　手と手がからみあうこともあったという。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 r――' 二ニニェ‐=ニニニニ＝――､
　　　　　　　　　　 　 　 　 　 　 　 　 >――㌧＿＿＿_＞―――――---く
　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　 >― '／　　f⌒ヽ　　　_＿＿＿＿＿_ノ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＞'　　　 　 ＼____＞'　　　ﾉ　　＼　　　　　　　　　　 　　　／￣￣￣￣￣
　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 ／　　　　　　￣　　　　　 ＜　 　 　　 ＼　　　　　　　　　　 ／ ⌒ヽ
￣￣￣￣￣ ㌢￣ヽ_＿＿＿_／　　　　　　　 　 　　 ,.＜　　　　　　　　　　`ー―――――――――＼
　　　　　　　　ヽ 　　 ＼　　　　　　　　　　 　 　 　 ／　　＼ 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 　 　 ＼
　　　　　　　　　',　 　　 ヽ　　　　　　 　 　 　 　 ／　　 　 　＼ 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 　 　 ＼
　　　　　　　　　 }　　　　 |　　　　　　　　　　 ／　　　　　 　 　.＼ 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 　 　
　　　　　　　　　 |　　　　 |＿＿,. ------- ´　　　　　　　　　　　 ｀　ー---一 冖　ー――――――t―t――
　　　　　　　　　/＿＿＿j　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＼ ＼
　　　　　 　 　 /　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 ＼ ＼
　　　 　 　 　 /





13 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:04:09 ID:3QcCHZQg0




　　二人の様子を暖かく見守っていた祖母こまは、仁吉の人柄と才能を高く買っていて
　　いずれは仁吉を養子に迎えたいと考えていた。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　,.. ....,,,,,,,.,,,,,,,,,......,,,,、
　　　　　　　　　　　　　　　　　 / .丶 　 ｀''-､ .,..-'" ｀ﾞﾞ''''''―-､
　　　　　　　　　　　　　　　　 : l　l　,i-― ､　.|゛　　 . _、　　　 : l<
　　　　　　　　　　　　　　　　　!　! .l,ﾞ..　-　.ｌ l/ﾆ,ﾞ￣´ ´|　 .,!　 | ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　lﾞ .i　l.--―---....,,,,_;´ﾞﾞ''''|　　,!　.|　 .ｌ
　　　　　　　　　　　　　　　　　|　!　!,,,,,,,,,......,,、,,,,　 ⌒ﾞ |　　|　│　.l
　　　　　　　　　　　　　　　　　!　　ｌ._,,................,,,,,,ﾞﾞ;￢‐. !　　|　 lﾞ'､　!
　　　　　　　　　　　　　　　　│ ｉ .l'''''''￢　　 ｰ......二''''ｲ　　|　 !..､ﾞ'/
　　　　　　　　　　　　　　　　 l　lﾞ l　'ﾐク".,i　　 .<_ゞ｀.' |　　.|　i!　.`ｲ
　　　　　　　　　　　　　　　　/ .:゛｝　 ...　 /　　　．｀ﾞ"　!　 .ヽ l､ ﾞ'　i!
　　　　　　　　　　　　　　　　l　.! | 　.゛ .../　　　　ﾞ　　..,!　 .．.l　＼ l
　　養子に来て欲しい　　　,!　,!.| .!.| .r .―--ヽ‐ .､..., ./ !　 ,! .|　　,i"､
　　　　　　　　　　　　　　　　|　.l !ﾞllﾞ　!　......,,,、　 .} .　l !　 lﾞ / 　/　,i ＼
　　　　　　　　　　　　　 . ,r'ﾞ.!　|.|　l-ﾐ.　 ､､　 ｀` .,,ﾞ,/,,|　 ! .i!ｒ'" . / 　　 ﾞ''ｰi､
　　　　　　　　　　　　 .／　　! .!.|　｝ . ﾞ'-､..,,　 ..,ﾆ/‐ﾞ ! ./ .,!　 ／　　 ./ 　 /;;＼
　　　　　　　　　　　.／　　　 .! l'.!　ヽ　　　 .￣゛　　 ./ i" /,,r"　　　 /　　/ ;;;;;;;;;.＼
　　　　　　　　　　 / . 、　　　.ﾞl" .ｌ　 ゝ、 　 　 　 　 ",,ソく゛　　　 ／ .,／;;;;;;;;;;;;;;;;;;;,i!;;､
　　　　　　　　　 ./　　.!　　　　　　!　 ､..￣ﾞﾞ'''''''^'"ﾞﾞ´　 、　　 .,／　,i'";;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ﾝ　ｌﾞ! ＼
　　　　　　　　　 ｌ　　　|　　i　　　 .!　　 ＼ 　 _,,,.. -‐''"　.,..-'"　　/ ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; / .,「.lﾞ.、 . ヽ
　　　　　　　　　ｌ　　　 ,!　　ｌ　　　.!　　　　｀´　　　,.. ｰ'"　　　 ./ ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;./ / " ,．."　　 ｝


　　やがてこまから意思表明があり、2,3度話し合いの場が持たれた。





14 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:05:06 ID:3QcCHZQg0




　　考え抜いて仁吉が出した結論は、


　　　　　　　　,.r'´￣￣￣ﾞ '- ､
　　　　　　　.'´　　　　　　　　　.）
　　　　　　,.´　　　　　　　　　 ｒi'
　　　　 　 !　　　　　　　　　 ,-､l
　　　　　　!　　　　　　　　　! 6 l　　　　ありがたいお話ですが、
　　　　　　.!　　　　　　　　　'-,' ､
　　　　　 　i　　　 　　　　　　 l　ヽ　　 今の僕にはお受けできません。
　　　　　　　!_j_j＿＿＿＿＿,.!　　）
　　　　　　　/:::::::::::::::::::::::::::::::::i ⌒ i
　　　　　　 /:::::::::::::::::::::::::::::::::::|　　 |





15 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:05:40 ID:3QcCHZQg0




　　生涯メモ魔であった仁吉が、この頃に書いた日記には”恋愛におち入るなかれ”だの
　　”妻を養うに足らざるに決して妻を娶るなかれ”といった文字が並ぶ。
　　その他にも成功と結婚について8項目の努力目標を書き出し、早婚の条件は
　　この8項目の実業的習慣を妻が励行するかどうかで決まるという記載もあるように
　　彼の心はも大いに揺り動かされたことが伺える。



　　＿＿00　ｎｎ 　　 ＿＿00　ｎｎ
　 └‐┐l　　UＵﾉﾞ7└‐┐l　　UＵﾉﾞ7
　　　　(ノ　　　く／　　　(ノ　　　く／
　　　　　　　　　　　　 _,.. -‐‐‐‐‐‐ ､
　　　　　　　　　　　／　　　　　　　　＼　　　　　　身を立てて家を起さむ
　　　　　　　　　　 /　　　　　　　　　　　､
　　　　　　　　　　,'　　　　　　　　　　　　',　　　　　一事一業なし遂げむにもまた国家の富強ひらくも
　　　　　　　　　　l　　　　　　　　　　　　 .l
　 　　　　 　 .(二 l　　　　　　　　　　　　 .l二二)　源はただひとつ　自治独立自治独立
　　　　　　／　 Y ､　　　　　　　　　　　 .,'　　＼
　　　　　 ,´　　 i　 ',　　　　　　　　　　 ,.' |　　　',　これぞすべての基となる
　　　　　l　　　 ｌ　　ヽ,＿ﾉ＿ﾉ＿＿,..ｨ'　 l　　　 l
　　　　　　　　　　　　　　　　＿＿00　ｎｎ 　　 ＿＿00　ｎｎ
　　　　　　　　　　　　　　　 └‐┐l　　UＵﾉﾞ7└‐┐l　　UＵﾉﾞ7
　　　　　　　　　　　　　　　　　　(ノ　　　く／　　　(ノ　　　く／



　　迷いながらも独り言を呪文のように繰り返して、仁吉は心の動揺を抑えた。
　　最終的に彼を決断させたのは、水野家を再興させるという高い志であった。
　　間口13間、高さ100尺のビルを建てて見せる決意が、養子に入ることを認めさせなかった
　　のである。





16 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:06:18 ID:3QcCHZQg0




　　明治36年暮れに入って、小堀商店は再びピンチに陥っていた。


　　　　　　│|∥┃│┃┃∥┃│┃∥│　＿
　　　　　　│|∥┃│┃┃∥┃│┃∥│　７/ 　 |`=､
　　　　　　│|∥┃│┃┃∥┃│┃∥│ 〈〈_＿ノﾉ
　　　　　　│|∥┃│┃┃∥┃│┃∥│　`ー‐ '′
　　　　　　│|∥┃│┃┃∥┃│┃∥│　「|　　 lヽ
　　　　　　│|∥┃│┃┃∥┃│┃∥│　.l L..　 |ﾉ
　　　　　　│|∥┃│┃┃∥┃│┃∥│　 V'´
　　　　　　│|∥┃│┃┃∥┃│┃∥│　「|　　 lヽ
　　　　　　│|∥┃│┃┃∥┃│┃∥│　.l L..　 |ﾉ
　　　　　　│|∥┃│┃┃∥┃│┃∥│　 V'´
　　　　　　│|∥┃│┃│∥ 　│┃∥│　「|　　 lヽ
　　　　　　│|∥┃│┃　 │ 　 　 　∥│　.l L..　 |ﾉ
　　　　　　｜|　 │　　　　_ 　 　 ､)ﾉﾉ | │　 V'´
　　　　　　│|　 │　　　 |i┴-､. 　| |　| ｜　 「|　　 lヽ
　　　　　　│|　　　　　　└‐ｌ　 l ,/､|　|　|　 .l L..　 |ﾉ
　　　　　　│ 　 　 　 _r―;rミ巛彡./　　 |　　 V'´ ､__..、
　　　　　　│　　　　└ヽ/ヽ､|Ｍ|ノ 　 　 |　　 　 　 つﾉ
　　　　　　│|　　ミ`--へ／ ￣　 　. 　 │　　　o
　　　　　　│|∥ 　 ￣￣　│┃　 ┃││　　　o
　　　　　　│|∥┃│ 　│∥┃│┃∥│　　　o
　　　　　　│|∥┃││┃∥┃│┃∥│　　　o
　　　　　　│|∥┃│┃┃∥┃│┃∥│　　　o


　　義和団事件からロシアとの対立を深めた日本の軍事的緊張が、
　　国内にも不況をもたらしていたからである。





17 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:06:57 ID:3QcCHZQg0




　　ただ、独学で習得した簿記を応用して帳簿をつけて自分なりに利益率まで把握していた仁吉には、
　　店の苦境の原因がほかにあることが分かっていた。


　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　 .r´'　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　 .（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l　　　　　　このピンチを切り抜けるため、
　　　 　　　 　　π　＼　　 ／　 　r　 !
　　　　　　　　　（| 　二｡:::: ｡二　 .F-､j　　　　　資本として1割を出してください。
　　　　　　　 　　.! 　....:::::::::::!liill　 i ∂!
　　　　　　　　　 i　 ＿＿＿＿_　 .!- '　　　　　　僕の棒給は一切要りません。
　 　　　　 　 .(二ヽ､_　　　　　　_,ノ二二)
　　　　　　／　 Y '|| （_ヮョヮ_〉　,､l^l r､　,､　　　けれども一つ条件があります。
　　　　　 ,´　　 i　 || >',〉llll〈/<　| | リ レ' ﾉ　ヽ
　　　　　l　　　 ｌ　　ll ＼',.ll./／　ヽ＿＿ノ 　　l
　　　　　 ､　　.l　　 ll　　 V '　　 　ヽ￣　､　　ﾉ
　　　　　　　-,'　　　ll　　　　　　　　＼＿＿ノ
　　　　　　　 lﾆﾆﾆﾆﾆ::[三]ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆL





18 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:07:56 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .r´'　　　　　　　　　ヽ
　　店の経費をはっきりさせるため　　　　　.（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　π　　　　　　　　 r　 .!
　　僕の印鑑のあるものは認めるが　　　　 （|　‐─｡　｡─‐　.F-､j
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .! 　　　　　　　　 i ∂!
　　それ以外は、個人経費として　　　　　　　i　 ＿＿＿＿_　 .!- '
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .(二ヽ､_　 ｀^´　　 _,ノ二二)
　　自腹で支払ってください　　　　　　　／　 Y '|| （_ヮョヮ_〉＞　 　ヽ　＼
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 （　　 ┴──,-､ll〈/<　　〓〓.l　　',
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ヽ　　　　　 l　 |l./／　万万　 l　　 l


　　会社とプライベートを切り分け、個人の遊興費を店の経費で賄うことのないよう強く申し出た。
　　こまは、この案に賛成したものの、店として採用されることはなく、
　　仁吉は憮然としたまま、小堀商店から去ることになった。





19 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:08:47 ID:3QcCHZQg0




　　小堀を辞めた際、彼の能力を高く買っていた取引先から有益な情報が入った。
　　繊維製品の貿易を商いとしていた京都・三条の塚本商店が、サンフランシスコ支店に
　　勤務する人間を探しているというのである。
　　かねてから渡米することが念願の夢であった仁吉は、紹介状を持ってすぐに訪問し、
　　すんなりと話はまとまった。



　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 -'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　.r´'　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　.（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 π　　　　　　　　 r　 .!
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 （| ‐‐-､ 　,.-‐‐　 F-､j
　　　　　　母との約束の20歳まで　　　　　.!,r‐‐､＿＿,.ｒ‐‐､i ∂!
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　il::::::::::::::::::::::::::::::::l.!- '
　　　　　　もうすぐだからな　　　　　　　.(二ヽ､::／⌒⌒＼::,ノ二二)
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ／　 Y '|| （_ヮョヮ_〉＞　 　ヽ　＼
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　,´　　 i　 || >',〉llll〈/<　　〓〓.l　　',





20 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:09:49 ID:3QcCHZQg0




　　明治37年2月　仁吉が、渡米準備に追われていた頃、日本軍とロシア軍が仁川沖で交戦。
　　これをきっかけに戦線は一気に大陸まで拡大する。日露戦争の始まりである。
　　この影響により仁吉のアメリカ行きはなくなってしまった。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　;人;;从;;
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　;;:（´⌒;人;;从
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(´⌒;:⌒`～;;从
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ﾞ;`（´⌒;;:⌒∵⌒
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　' (´:（´;⌒;从;;人;;;
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ﾞ;"(´⌒;（´∴人;;ﾉ;
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　~ (´⌒;;:（´⌒;人;;从;;；;:
　　　　|　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　,:;:;;: (´⌒;;:（´⌒;人;;从
　　　　|　　　　　　　　　　　　　　　　..:::::::::　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（''゛ j! ..:;;:;;⌒｀）;";⌒`）｀)
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　 　 ﾋ　　　　　　　　　　　 |　　 |　　　　　　 |　　|　　　　　|　　|　 　 　 |　　|　 丶､v{　ﾋ!　　　i!||il.　　 , 八 Ｚ
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＿__||＿_　　 rt=ｪｪｪｪi-===ｪ===ｪ====ｪ=====================＿　￣｀ζ｣'(´ ヽ　　j!　゛　,ィ彡′_.. -
－－－--｀ｰ'ﾞ-､＿_ノ_,_,_,_,_,'_,'_,'_,'_,'_,'_,'_,'_,'_,'_,'_,'_,'_,'_,'_,'_,'_,'_,'_,'_,'_,'_,'_,'_,二 ﾆ ﾞて∠rιｸ_;.,､_,ｰ-'＾- =ﾆ_
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 　 r '´
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　..　　....　　 　 .......　 ヽ;;;;
;-､,-､;;..､､,,;;;-:;_;_,､､,,-､;;.,.､､,,-、,-;-:;,''';:;,;:;.,..,''';',''';:;,;:;.,..,''';',''';:;,;:;.,..,''';',;,''';:;,;:;.,..,''';',''';:;,;:;.,..,'',''';';.,..'';:;,;:;;',''';:





21 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:10:58 ID:3QcCHZQg0




　　アメリカ行きのキャンセルとなり、失意の仁吉は、故郷大垣へと戻った。


　　　　　　　　　　 ,.- '´￣￣ﾞ '- ､
　　　　　　　　 .r'´　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　 ,.'　　ｎ､＿､_､__､_,,,,. 　 ）
　　　 　　　　l　　r'　 __ノ　　＼_ ｀Y!'
　　　　　　　 ',.-寸　 二ﾟ 　 ﾟ二　 l)
　　　　　　　　Y６　　　　　　　　　 !
　　　　　　　　　ﾞi　　 ＿＿＿＿　 l　　　　また、機会を逃した
　 　　　　 (二二ヽ､_　　 ｀^´　 _,ノ二)
　　　　　／　 Y　'||＜ （_ヮョヮ_〉〉 ヽ　＼
　　　　 ,´　　 i　　||　>＼〉llll〈/<〓〓.l　',





22 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:11:31 ID:3QcCHZQg0




　　大垣では、補充兵として待機を命じられた後、明治38年7月に仁吉へ召集命令が下る。
　　石川県金沢にて身体検査を受けて、第九師団第二十三補助輸卒隊第二小隊第三分隊
　　に配属することとなった。


　　　　　　　　　　　 -'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　　.r´'　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　　.（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l
　　　　　　　　　π: : : : : : : : : : : : r　 .!　　　まっていろよロシアの諸君
　　　　　　　　　 （| ==-､: : ,.-==: : F-､j
　　　　　　　　　　.!: : : : : : : : : : : : :i:.∂!
　　　　　　　　　　i: :､＿＿＿＿,: : :!- '
　　　　　　　 .,.r‐ヽ､_: : ｀=´: : :_,ノ二二)
　　　　　　 ／　l　　ﾞ ｔ------y-'　 ﾞ ／＼
　　　　　　,´､　 ヽ＿＿＿＿＿,..r‐‐'´l　　',
　　　　　 l　　､　　ﾞ----------'　/ll　l ヽ l
　　　　　 ,l､　　ヽ＿＿＿＿＿＿ノ .ll　l　 ﾉ





23 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:12:55 ID:3QcCHZQg0




　　この頃、知人の紹介を通じて、一人の女性と知り合っている。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　,..　 -- ─,─--　.,
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　,.　- '":::::::::::::::,:::::::/'' ,::ヽ::::::::"'　,
　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ,.　'"::::::::::::::::::::::::::::|',:::ﾍ::::::',:::::ヽ､:::::::::ヽ　,.-'"
　　　　　　　　　　　　　　　　　／:::::::::::::::::／:::::::／::::::',::::',::::::',:::::::',＼:::::::::＼__,
　　　　　　　　　　　　　　　　/::::／::/:::::／:::_,.-:::／:|::::',:::::',:::::',::::::::',ﾐヽ:::::::::::ヽ
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　　　　　　　　　　　　　 |:l:| .|:l:/i : i´j　　 l|　 -',::l::|-.,_l:::::::::::::|::::::::::l:::|::::::::::彡/:
　　　　　　　　　　　　　 l:::l　li:/|.　ゝ'　　 |i　　 -,::l.,,_ .|::::l:::::::l:::::l:/:|:::l_,.-::::／:::
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　　　　　　　　/ ,　　!　　.|　　 i　　/フ　　　　 ;:;:;:;:　　 /l::/:// l／l:::lヽ）' |:::l:::l::
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　　　　　　　　|　ヽ -l､　 ,___, -,／./　　　　　　　　　 //:://,,＿,,.. -l:::',:::|:::l::::l::::
　　　　　　　/ l　　'－｀''´"　'-'　,/ヽ.　　　　　　　　.//::/--──- ヽ:',- ､.,__::::
　　　　　　　/i.l、　　／　　　ヽ,/　　　'── ､''　 ／ ''"´　　 ｀"' -､., ヽ, ;;;;;;;;;｀'
　　　　　　　／ "'''- ､.,___　　ノ ヽ　　　　　　　ヽ" 　　　,.-　　　 ､　　.ヽヽ ;;;;;;;;;
　　　　　　　／／.／／　/ / /./　　　　　　.／ '　　,.-'"　　　　　　　ヽ 、ヽ､;;;;;;
　　　　　　　／.／／　／／ .／　　　　　 ／ '　 ,／　　　　　　　　　　　 ヽ、＼;;
　　　　　　　.／／　／／　／　　　　　　/, ' ,. '"　　　　　　　　　　　　　　ヽ '-ヽ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　関戸美津子


　　大変な美人だったようで、仁吉は彼女と文通で写真を交換することを約束していたという。





24 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:13:50 ID:3QcCHZQg0




　　美津子との文通のほかにも小堀商店の状況を心配して、毎日手紙を出した。
　　もともとメモ魔だった仁吉が軍隊にいる間は、手紙魔と化した。
　　一日に51通と発送した日もあったという。


　　　　　　　　　　＿＿＿＿＿
　　　　　　　　　/ ヽ＿＿__／/
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　　　　　　￣￣￣￣￣


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　　　　　　　|　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 |
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　　　　 　 /　　　　　　　　　　　　　　/ヽ＿＿／/
　　　　　/　　 小堀商店御中　　　/　　/　　　/
　　　　 /　　　　　　　　　　　　　　/　　/　　　/
　　　　/　　　＿＿＿＿　　　　　/　　/　　　/
　　 ／　　　　　　　　　　　　　／　　/　　　/
　／　　　　　　　　　　　　　／ 　 　/　　　/
　￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣/　　　/　　　/





25 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:14:32 ID:3QcCHZQg0




　　軍隊では、入隊して４日目にして、本部付となった仁吉。
　　慣れない軍隊での食事と日々の緊張感から胃腸を壊す。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .r´'　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　π　＼　　 ／　 　r　 !
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（| 　二｡:::: ｡二　 .F-､j
　　本部にいる人間の中では　　.! 　....:::::::::::!liill　 i ∂!
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 i　 ＿＿＿＿_　 .!- '
　　僕が一番働いているな！.(二ヽ､_　　 　 　 ._,ノ二二)
　　　　　　　　　　　　　　　　／　 Y '|| （_ヮョヮ_〉＞　 　ヽ　＼
　　　　　　　　　　　　　　　 ,´　　 i　 || >',〉llll〈/<　　〓〓.l　　',


　　にもかかわらず、持ち前の頑張りで真面目に働き、分隊長からも
　　「お前の働きぶりが大変いいと本部で褒められた。俺も肩身が広い
　　これからもしっかり頑張ってくれ」と褒められている。





26 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:15:08 ID:3QcCHZQg0




　　彼が所属した部隊が、金沢を出発したのは7月27日
　　一旦広島に寄り、集結してから、8月9日 4隻の輸送船で宇品港を出発する。
　　朝鮮の城津港に到着した後もひたすら戦場への行軍行軍の毎日･･････


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ''';;';';;'';;;,.,　　　　し・・・ま・・・
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　''';;';'';';''';;'';;;,.,　　　進撃・・・し・・・
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　;;''';;';'';';';;;'';;'';;;
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　;;'';';';;'';;';'';';';;;'';;'';;;
　　　　　　　　　　　　 rっ　　　　　　　　vymyvwymyvymyvy、　　　進撃します
　　　　　　　　　　　　 ｜|　　　　　　 ｍVvvMvyvｍVvvｍvyvｍVvv、
　　　　　　　　　　　　　| ﾊ,,ﾊ 　　.ﾊ,,ﾊ　(ﾟ ﾟ)ﾊ,,ﾊ (ﾟ ﾟ)　／ﾊ(ﾟ ﾟ)　ﾊ,,ﾊ 　進撃します
　　　　　　　　　　　　　（ ﾟωﾟ　）（ ﾟωﾟ ),,ﾊ( ﾟωﾟ)／,,ﾊ ﾟωﾟ)　　( ﾟω)-っ 進撃します
　　　　　　 　ﾊ,,ﾊ　　　| 　　_二二二つ ωﾟ ）（＼ （ ﾟωﾟ ）二⊃ 　　ﾊ,,ﾊ　 　　　　進撃します
　　((⊂二（ ﾟωﾟ　）二ノ 　　/（ ﾟωﾟ ）　　⊂二＼＼_／ﾊ,,ﾊ二二（　 ﾟωﾟ）二⊃)) 　　　進撃します
　　　　　　 ヽ 　　　| (´ .＿ノ　ヽ　 　 ﾊ,,ﾊ つ　　＼（　 ﾟωﾟ） 　|　　　 /
　　　　　　　 ソ　　） ＼＼⊂二二二（ ﾟωﾟ ）二二二⊃ ⊂＿) （　ヽノ
　　　　　　　（　< ＼　　レ’＼＼　　　ヽ　　 /　　　i　） ノ 　　 　ﾉ>ノ
　　　　　　　　＼|＼|　　 　　　レ　　（⌒）　|　　　/ノ￣ 　 　　レﾚ





27 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:15:52 ID:3QcCHZQg0




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''"""'''''"""''""'"""'''''""　,:'/,　　:'/　　"''""''"""'''''"""''""''''""''"''''""　,:'/,　　:'/　　"''"""'''''"""''"''"""'
:::....::::::........　　,:'/,　　:'/　　::::::从 MwM 从 MwMmw M从 MwM 从 MwMmw MwM''"""'''''"""''""''''""'


　　行軍の間中、雨が降りしきってもただひたすらに前へと進み続けた。
　　一週間ほどの大休止があったが、再出発した部隊の行軍は厳しかった。
　　止むことのない雨の中で仁吉たちの部隊は、渡河中に戦友の一人を失っている。





28 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:17:15 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　,.r'´￣￣￣ﾞ '- ､
　　　　　　　.'´　　　　　　　　　.）
　　　　　　,.´　　　　　　　　　 ｒi'　　　　昨日も山を越え、
　　　　 　 !　　　　　　　　　 ,-､l
　　　　　　!　　　　　　　　　! 6 l　　　　今日も山を越ゆ。
　　　　　　.!　　　　　　　　　'-,' ､
　　　　　 　i　　　 　　　　　　 l　ヽ　　 実に道は困難なり。
　　　　　　　!_j_j＿＿＿＿＿,.!　　）
　　　　　　　/:::::::::::::::::::::::::::::::::i ⌒ i
　　　　　　 /:::::::::::::::::::::::::::::::::::|　　 |


　　仁吉も日記に記すほどつらい行軍は、確実に彼の小さな体を蝕んでいた。





29 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:17:49 ID:3QcCHZQg0




　　仁吉の部隊がこれほどまでに急いだのには、訳があった。
　　当時の戦況は、日露両軍60万人が激突した奉天大会戦や日本海海戦に勝利したことにより
　　ほぼ大勢を決した状態であり、ポーツマスではすでに講和会議が開かれていた。


　　　　　　　　　　　　　　　　　○
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　　　　　　　　　　 　　　 　　/ /∴　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　,.　' ´/
　　 　　　　　　　　 　　　　 / /∴∴｀ .、　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　,.　' ´÷./
　　　 　　　　　　　　　 　　/ /∴∴∴∴｀ .、　　　　　　　　　　　　　　,.　' ´÷÷÷./
　　　　　　　　　　　　　 　/ /∴∴∴∴∴∴｀ .、　　　　　　　　 ,.　' ´÷÷÷÷÷/
　 　　　　　　　.　　　　　 / /∴∴∴∴∴∴∴∴｀ .、　　　　,.　' ´÷÷÷÷÷÷/
　　.　　　　　　　　　　.　/ ./∴∴∴∴∴∴∴∴∴｀ .、　' ´÷÷÷÷÷÷÷÷./
　　　　　　　　　　　　　/ /∴∴∴∴∴∴∴∴,.　' ´｀ .、÷÷÷÷÷÷÷÷÷/
　　　　　　　　　　 　　/ /∴∴∴∴∴∴ ,.　' ´　　　　　｀ .、÷÷÷÷÷÷÷./
　　　　　　　　　　　　/ /∴∴∴∴∴,.　' ´　　　　　　　　　　｀ .、÷÷÷÷÷/
　　　　　　　　　 　　/ /∴∴∴ ,.　' ´　　　　　　　　　　　　　　　｀ .、÷÷÷/
　　　　　　　　　　　/ /∴∴,.　' ´　　　 　　　　　 ､__人__人__人__人__人__人__人__人__,
　　　　　　　　　　 / /∴＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿_）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 （_
　 　　　　　 　 　 / /　　　　　　　　　　　　　　　　_）　　皇国ノ興廃此ノ一戦ニ在リ　 （_
　　　　　　　　　./ /　　　　　　　　　　　　　　　　 _）　　各員一層奮励努力セヨ 　 　 （_
　　　　　　　　 / /　　　　　　　　　　　　　　　　　　）　　　　　　　　　　　　　　　　 　 　 （
　　　　　　　　/_/　　　　　　　　　　　　　　　　　　⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y





30 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:18:44 ID:3QcCHZQg0




　　少しでも条件を有利にするためにも日本軍は、
　　後詰部隊を一刻も早く戦場に届けなければならなかったのである。


　　　　　　 ＿,　 　 ＿, 　 　 ＿　 　 ＿ 　 　 ＿ 　　 ＿,　 　 ＿　 　 ＿
　　　　　　 |_|_|　　 |_|_| 　　 |_|_|　　 |_|_| 　　 |_|_|　　 |_|_|　　 |_|_|　　 |_|_|
　　　　|￣|＿　|￣|＿　|￣|＿　|￣|＿　|￣|＿　|￣|＿　|￣|＿　|￣|＿
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　　　　|＿|　　 |＿|　　 |＿|　　 |＿|　　 |＿|　　 |＿|　　 |＿|　　 |＿|
　　　　　　　　∧,,∧　　　　　　　　 　 ∧,,∧　　　　　　　　　 ∧,,∧
　　 　 ∧,,∧（・ω・´） 　 　 　 ∧,,∧（・ω・´）　 　 　 ∧,,∧（・ω・´）
　　 ε=━┓Ｏニ)< > 　 　 ε=━┓Ｏニ)< >　 　 ε=━┓Ｏニ)< >
　 　 /　　 ノ lﾐl_, (ヾゝ　　 　./　　 ノ lﾐl_, (ヾゝ　　　./　　 ノ lﾐl_, (ヾゝ
　　 (o_o,ｲ 　 ヽ´|(__) ﾉ~⌒）(o_o,ｲ 　 ヽ´|(__) ﾉ~⌒.(o_o,ｲ 　 ヽ´|(__) ﾉ~⌒）彡
　　　 　 ﾉ　 　 ヽ| |￣ノl　ﾉ　　　ﾉ　 　 ヽ| |￣ノl　ﾉ　　 ﾉ　 　 ヽ| |￣ノl　ﾉ
　　　　 / /~ヽ ﾉ'''''''~ヽヽ＼ヽ_ ./ /~ヽ ﾉ'''''''~ヽヽ＼ヽ_ / /~ヽ ﾉ'''''''~ヽヽ＼ヽ_
　　　　 ヽニﾌ|_|　　　(_/　　ヽﾉ ヽニﾌ|_|　　　(_/　　ヽﾉヽニﾌ|_|　　　(_/　　ヽﾉ
　　　　　　 　 (_ヽ　　　　　　　　 　 　 (_ヽ　　　　　　　　　 　 (_ヽ





31 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:20:18 ID:3QcCHZQg0




　　示威行動の成果があったためか、ロシアはポーツマス会議で敗戦を認め、
　　9月5日 調印式というスピード決着で話がまとまっている。
　　ただ、講和条約の内容が、南樺太の割譲だけに留まったため、
　　国内では焼き討ち騒動が起こるなど不満が高まっていた。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '┛┗
　　　　　　　　　　　　　　　　　.r´'　　　　　　　┓┏
　　　　　　　　　　　　　　　　.（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l
　　　　　　　　　　　　　　　　 π　　　　　　　　 r　 .!
　　今回の講和条件は、　　（| ‐‐-､ll ll,.-‐‐　 F-､j
　　　　　　　　　　　　　　　　　.! 　　　　　　　　 i ∂!
　　全く納得できるか！　　　 i　､＿＿＿＿,　 .!- '
　　　　　　　　　　　　　　　.(二ヽ､_　 ｀=´　　_,ノ二二)
　　　　　　　　　　　　　　／　 Y '|| （_ヮョヮ_〉＞　 　ヽ　＼
　　　　　　　　　　　　　,´　　 i　 || >',〉llll〈/<　　〓〓.l　　',


　　仁吉も新聞で見た講和内容に憤慨し、大阪朝日新聞に国への抗議並びに
　　条約廃棄の運動を起こすよう投書している。





32 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:21:59 ID:3QcCHZQg0




　　休戦の間、仁吉は度々体調を悪くした。
　　無理な強行軍で、元々丈夫でない体は悲鳴を上げてためである。
　　10月2日早朝 輸送任務中に高熱を持った体は限界を超え、民家に倒れこんでしまう。


　　　　　　　　　　　　＿
　　　　／￣￣ ヽ　.__|_...|
　　　〈/＼＞ﾍ ； l ..|％| |
　　　 ｣ ┐┌ └/　|＿| |
　　 ＿l、‐=ｰ　_丿、ノ　 |
　 /|　/＞-‐ 〈＿人　　 |
　||, ～～'⌒⌒ヽ～-.､...|
　||＼　　　'　 ,　 ｀　　ﾞヽ
　||＼.＼||￣|￣|￣|￣|￣||
　　　 ＼||￣￣￣￣￣￣||
　　　 　 ||￣￣￣￣￣￣||


　　戦友の肩を借りてなんとか隊に戻ったものの
　　翌日から体が動かず、食事も採れない状態のため、野戦病院に入院する。




33 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:22:33 ID:3QcCHZQg0




　　その後、輸城→清津と後送された仁吉は、病院船神宮丸にて10月18日宇品港に帰国する。


　 　 　 　 　 　 _
　　　　　　　　ﾉ |_ 　 ll__l---||＿
　　　　　　rj「ｌ＿_｀ｰ'　 ヽｌーｊ　 L---┐
　　　　　 |―┴┴―｀ｰｒｭ-‐<￣.ｨｊ .__ｊｌ
　　　　　 |[][][][][][] i　""" _..,,ｒr=''´　l
　　　　　 l￣￣￣￣/7-‐'´　　　 　／
　　　f　 ｊL-､ ＿-‐'　　　　　 -‐´~~
　　　ヽ |　￣　　＿ｊ＿ -‐'~´~~
　　　　 ｀ー～´~~~~


　　船で診断された病名は、肺尖カタルであった。
　　船の中では、幾分体調も回復し、「実業之日本」や「天人論」といった書籍を読むほどには
　　元気になったようである。





34 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:23:09 ID:3QcCHZQg0




　　帰国してからは、傷病兵を乗せた列車に乗せられ、金沢へ。
　　現地に着いて、即陸軍病院に入院させられている。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ノ　. ..:.::.:;;;.;.ノ
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　　　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 ,.r'"´ ￣|￣〔｀二´〕￣￣¨¨￣¨´￣￣￣￣¨¨￣¨´
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　　　　　 　 　 　 　 　 　 　 l ┃ .:: 　 .:i:　　　l´｀l_ 　 　 i　　　i　　 i　　i　　 i　　 i|
　　　　　　　　　　　　　　 __」.┃「:!　　 i:　 　 l二l_ 　 　 i　　　i　　 i　　i　　 i　　 i|
　　　　 　 　 　 　 　 ［〕Yff:::! 　 |:|;　(Ｏ)　 (（;;;;;;;;）)__ 」__ 」 __」 __ 」 __ 」 __ 」 __ 」 |
　　　　　　　　　　　　_」f1;:;:;!.　　 ;　　 i;;　　;,`〒´ : 二ﾆﾆ工工工||王王王||圭圭|
　　　　　　　　　 　 〈.:.:l.:;:;:;:;;',　　 ;　　..i;　 　 ,.ｲ;;;:;;;:;:;;;;:;:;;;;:;:二ﾆﾆﾆﾆ＝==━━━|
　　　　　　　　　 　 /ヽl;;;;;:;:;:;:',__ _ﾚｲ［fff〕==:クﾆﾆiﾆﾆiﾆﾆiﾆﾆiﾆﾆiﾆﾆiﾆﾆiﾆﾆiﾆﾆi|
＿＿＿＿＿＿＿/,//＼;;;;;;;:;:;:fjfjlｲ;;;;;:;:'"´ .: :;:;;:;:;:;;:;:;:;:;; :; :;:;:;:;:;:;;;:;:;;:;:;:;:;;:;:;:;;;;;:;:;;:;:|
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　　　　　　　　　　 ＼＼ ///;;;;;;;/ﾆiﾆiﾆ.：＿_：　fi;　　　fi;;　fi　　fi　Y;:;:;;;;;;;;;;　fi;　
.　　　　　　　 　 　 　 ＼＼l圭圭;;;;;;;;;;;;;;:;:;.:.:.:.:{三米三};;;{三米三};:;:;:;;;:;:;;;;;;;;;{三米
＿＿＿＿＿＿＿＿＿_＼|￣`(◎)__ _ ＿＿ ヾﾉ爪シ¨¨ヾﾉ爪シ´¨¨ ¨¨ ¨¨ヾﾉ爪





35 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:24:18 ID:3QcCHZQg0




　　その途中、石川の小松駅で彼を待っている人がいた。


　　　　 　 　 　 　 　 !　　　　　　　i　　　i
　　　　　　　　　　　 ,Ｌ. __　　　　/'　　/'
　　　　　　　　　　　 Y´￣二　／〉　／〉
　　　　　　　　　　　　|　　 　 　 /! 　 /!
　　　　　　　　　　　　|　　　 .／ ｣.／　｣
　　　　　　 　 　 　 　 ｌ　　　　 　 !　 　 !
　　　　　　　　　 　 　 |　 　 　 　 |　 　 |
　　　　　　　　　　　　│ 　 　 　 .|　　　|
　　　　　 　 　 　 　 　 !　　　　　 |　　　|
　　　　　 　 　 　 　 　 |　 　 　 　 !　 　 !
　　　　　　　　 　 　 　 |　 　 　 　 ｌ　 　 ｌ
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　　　　　　　　　　　　　|　　　　 ／｀i .／｀i
　　　　　　　　　　　　　|Ｌ... _　　　 │　　.|
　　　　 　 　 　 　 　 　 「￣　`　 　/　 　/
　　　　　　　　　　　　　 |.._＿ ,　／〕､　〕､
　　　　　　　　　　　　　/￣　｀　　￣|　　|
　 　 　 　 　 　 　 　 ∠.. _　　　　 ／!. ／!.
　　　　　　　　　　∠￣　 ￣二ﾆ､　厶､　厶
　　　　　　 r‐=≦￣ `　　　　　　∨　　∨
　　　　　　 iＬ.. ＿＿＿＿r‐=ｉﾆﾆ｣=ｉﾆﾆ｣
　　　　　　　　　 ｀ ￣￣￣￣





36 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:25:16 ID:3QcCHZQg0




　　戦地に赴く前に知り合った関戸美津子である。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　／ヽ,. .‐ ｧ- ―　-..､ 　　ヘ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 /:.:／:.:.:.:ｲ､:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:Y:.:.:.:.:＼
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　/.:./.:./｀V:.:.:.ヽ￣｀ヽ:.:.:／.ﾊ-ﾍ:.:.:..
　　　　　　　　　　　 　 　 _,,. ､r- '―' ｭ￢､:.:.:.:.:.:.:Yヽ:.:.:.Y:.:.:/.:.i:.:.ヽ:.:.:i
　　　　　　 ＿,,.　-―　￣......::i|::.........:::/::ﾘ 〉二二二ｿ:.:.:.:.ﾄ:.:.:.:.:.!:.:.:.:.:.:.|
　　　 _r「￣... ..:.::::::::::::::::::::::::::ﾉi::::ｰ-:::::`(ノ ｒー―‐く:.:.､:.:.:i.:!ﾍ:.:.|:.:.:.:.:i:.:!
　　／::| !..:::::::::::::::::::::::::::::::::_,, ‐￢― r-､ ヽ ＼:.:.:.ト､:.:.:!:.:.:|:|:.:.ヽ!:.:.:.:.:|:.i
　/ ..:::::ヽ ､:::::::::::::::::: -‐ ￣　　　|:.:.:.:|:.:.ハ丿　ヽ:.| __ヽ|:.:.:.:.i: -､|:.:.:i:.:.|:.|
...{..::::::::::::... ＝=く￣ 　 　　 　 　 i:.:.:.:.!:.'‐-､! 　　!' ,ｨr::tｧ､:.:.|'ｨ ﾘ:.:.:..|:.:!:.|
　｀ヽ:::::::::::::::::::::::::ヽ_　　　　　　　!:.:.:.:|:i　ｧ=､　　　　ゞ ' 1:.:.,_／:.:.:.:.:.:.:|:.:i
　　　＼::::::::::::::::::....　｀ヽ-､　 　　|:.:.:.:|ｲ､　　　,　　　""　!:./!､:.:.:.:.:.:.:.:.:i:.:.!
　　　　 ヽ;::::::::::::::::::::.... 　 ＞､--,L＿:!.:.:ト.. 　 一='　　 ｲ'　|::ﾄ､:.:.:.:.:.:.:.:.:.|
　　　　　　｀ヽ:::::::::::::::::: ´:::::::::＼! |　i丁｀ヽ_＞、 _　イ　　／　.:i:.:.:.:.:.:.:.:.:.|
　　　　　　　　 ＼:::::::::::::. :::::::::::::ヽ|　| L ..／::ｲ　　　　　./､　.::::|-ｧ- ,.＿.|
　　　　　　　　　　 ヽ;::::::::. :::::::::::.::｀￣／::::::/　　　　　　':::::＼::::|/　/　/_＞
　　　　　　　　　　　　｀ヽ;::... ..::::::::∠＿_ ／　　 ,.　´￣|!:::::::::::ヽ!､ |　/_,,. -‐＼
　　　　　　　　　　　　　　 ｧ--／.:　 ／　　　　　　　　 |!::::::::::::::::::::ヽー--＜二ヽ
　　　　　　　　　　　　　　/:.:/　　　!'　　　　, 　 　 　 　|!::::::::::::::::::ﾍ:::::::::/::::::::::::::::＼
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　　再会した時に以前約束した写真を送り合うことが話題となり、仁吉は病室に入って
　　すぐに自分の写真を彼女に送っている。





37 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:26:21 ID:3QcCHZQg0




　　入院して２日後に戦地から転送されてきた美津子からの写真が届いた。
　　それからも入院中の仁吉の所には、美津子の母が見舞いに来たり、
　　伯父が来たりして順調に交際は深まっていった。


　　　　　　　　　　　　 _,,,,,,,,,,,,,、
　　　　　　nnｎ　,,;ｒ'⌒　　　　｀ヽ　nｎｍ
　　　　　　川 ,,;ｒ'⌒　　　　　　　 }ｎｊ ｊ ｊ }
　　　　　 （　(（ｖﾞﾞﾞ''''''''''''''''''''´|　　} ｀)　 |
　　　　　　F＝ |　ー-　-一　ﾋ=ｖ'Ｆ＝=ｪ
　　　　　　{　　 {｝＃　　　＃　ｊ６ ）､　　|　　山遊び
　　　　　　|　/´（ー―=―一　ﾉ''ﾍ　） ;|
　　　　　　ﾚ'　 ||ﾞー‐---‐一'ｲ　　Ｙ | |　　 思わぬ花に迎えられ
　　　　　　ﾉ　 ||>　|　◆　/＜　　　|ﾉ/
　　　　　 （ 　 ||ヽ　| ▲ /　 /㌍㍊ |'　　　 会わんとすれど道がわからず
　　　　　　｝　||　ゝ、▼/,,,,ノ∇∇　|
　　　 ｒー<ﾆー-､___ゝレ'　　＠＠　|
　　　入　　　￣ー┴-ニコニニニニト､
　　Ｋ　ヽ､__　　　　　　　　　　　　イ　　,ゝ
　　|　ヽ､____二＞--､＿＿＿＿＿__,,イ
　　Ｌ＿＿__,,」　　　　ト=--＿＿＿　 |
　（　　ﾍ＿＿ｊ　　　　 Ｙ￣ー―――‐|
　　￣￣￣￣　　　　　＼､____________,,,,|
　　　　　　　　　　　　　　　＼__／⌒ヽ|
　　　　　　　　　　　　　　　　 ｀ー---''’


　　その頃の日記には、さりげなくこのような一首が綴られている。





38 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:27:32 ID:3QcCHZQg0




　　仁吉は、5ヶ月の病院生活を過ごし、明治39年3月に退院する。
　　故郷大垣へ向かう途中で、小松に下車して関戸家に立ち寄っている。


　　　　　　　 　　　　　　　　/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::i
　　　　　　　　　　　　　　 /／::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ﾞﾞ- _::::::::::::::::::::ヽヽ::::::::::ヽ::::i
　　　　　　　　　　　　　　 /:::::::::::::::::::::::::::／::ヽ::::::::::::::::::::＼::::::::::＼:::ヽヽ::::::::ヽ:::::i
　　　　　　　　　i　　　　 /::::::::::::::::::::::::::／::::::::::＼::::::::::::::::::::＼::::::::::ヽ:::ヽヽ::::::i:::::::i
　　　　　　　　　i:ヽ　　 /::::::::::::::::::::::::／:::::::::::::＼:::＼::::::::::::::::::＼:::::::::i::::ヽ::ヽ:::::::::::i_ --ﾞ
　　　　　　　　　 i::::＼ /::::::::::i:::::/:::::/::::/:i::::/::::::::i＼:::::::::::::::::::::::ヽ::::::::i:::::ﾞﾞ---__ﾞﾞﾞ::iﾞﾞ
　　　　　　　　　　ヽ::::ﾞi::::::::::::i::::i::::::/::://i::::i ヽ::::::i ヽ::::::i:::::::::::::::::::i::::::::i::::::::-----_ﾞﾞiﾞﾞ
　　　　　　　　　　　＼ i::::::::::i::::i:::::i:::/i:i i::::i　 i::::::::i　 i:::::iヽ::::::::::::::::i:::::::i:::::::::__--ﾞﾞ::::i
　　　　　　　　　　　ヽ/i:::i:::::::i:::i:::::::i　ii　i:::i　u i::::::i　 .i::::i　 ヽ::::::::::::i:::::i-ﾞﾞﾞi:::::i:::i:::::::i
　　　　　　　　　　　//ヽi:i:::::::i:::i:::::i,,__i　 i:i　　　i::::i__,- i::iﾞﾞﾞﾞ ヽ:::::::::::i::::i　　i:::::i:::i::::::i
　　　　　　　　　　/::/:::/:ヽ:::::i:::i:::::i　 iﾞﾞﾞﾞ i　　　 i::i　　 .i:i,,____,,,ヽ:::::::i:::i　　/::::::i::i::::::i
.　　　　　　　　 ／:/::／/::ヽ:::i::::i:::i,,---,,, i　　　 i:i　 _,-i（;;　;;;jﾞ i:::::::i:::i .／::::::::::i::i:::::i
　　　　　　　 ／:／::/:/::::::/i:::::::i::::iﾞﾞヽ'__'' i　　　 i/　　 ﾞiﾞ　-　　 i:::::i::i -i:::::::::::i:::i::i:::i
　　　　　　 ／:::::::::::/::::::::/::/i::::::i::::i　　　　　　　 i　　u// ///// i:::i:/i::i:::::/:::/i:::i:i::i
　　　　　 /::::::::::::／::::::::/:::/::ヽ::::i:::i //////　　,　　　　　　　　　i:/:/:i:/::/:::::/i::::i:i/
　　　　 /::::::::::／i::::::::::_____-_::::ヽ::i::::＼　　　　　 _　　　　　　u_ /:/::::i:/::/:::::/ i:::::/
　　　 /::::::::／ _--ﾞﾞﾞﾞﾞ　　 ヽ;;;;ヽヽ:i:__::::ﾞ--,,_　　 -'　　　_,,- ﾞﾞ／-- ____,,,,,,/,,,,,i----,,,,,,___
　　 /::::::／　 /i i　　　　　 ヽiiiiiiiiiiiiヽiiiiiﾞﾞﾞﾞﾞ　ﾞﾞ--,,,___,, -ﾞ　 ／　 iiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii／　　/　ﾞ-_
　　/:::::/　　./ i i　　 i　　　　ヽiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii-ﾞﾞﾞ　　　　　　　　　　　ヽiiiiiiiiiiiiiiiiiii／　　　/　　　 i
　 /:::/　　 ./　i i　　　i　　　　＼iiiiiiiiiiiiiiiiiiii　ﾞﾞﾞ- _　　　　 _　　　　／iiiiiiiiiiii／　　　　　　　　　i


　　美津子も知人とともに駅で出迎え、関戸家で夕食をご馳走になっている。





39 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:28:07 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　,.-‐´￣￣￣ ﾞ ､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　.r'´　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（,nヾ-ヾ─-　　　　　　ヽ
　　美津子氏は是非の美人なり。　　　　　　 l　　　　　　 ﾋ　　　　　'i
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　)　,.-‐‐　　 .き-､　　　.l
　　予はいまだこのような美人を見ず。　　 /　　　　　　　 θ）　　　l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　.i　　　　　　　.「ﾞ '　　　　j
　　余りの美人ゆえ、　　　　　　　　　　　　　､　　　　　＿ヽ ,　　 ,,ノ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　／l￣￣￣＿,.:-｀''￣　ヽ
　　予の妻には不相応とも思う　　　　　 ／lll/ ､-‐'''´´　　　(二二二)
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　/lllll/／　　 ＿iヽ‐''´l　　　　 ',
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ﾚ／_,.-‐''´´〓〓　　l　　　　　|
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ｲ‐''´　　　　 万万　　l-------l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　r　　　　　　　○○　 .l　　　　　l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　[三]ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ l＿＿＿_l


　　3月8日の日記にて彼女の美しさを絶賛した仁吉。
　　この日の夕食でも二人の結婚が、大きな話題となった。





40 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:28:54 ID:3QcCHZQg0




　　しかし、翌日の午後3時過ぎに小松を出て大垣に向かった後、仁吉が美津子に会うことはなった。
　　二人を結ばせるためにこの後半年間ほど尽力した人もいたようであるが、
　　仁吉たちが結婚することはなかった。


　　　　　　　　　　　　　　　　　_,.. -,.―　､、
　　　　　　　　　　　　　　 ,.　´:.:.､:.:.,. ﾍ､:.:.:.｀ヽ
　　 　 　 　 　 　　　　 ／:.;.:.:.:.:.:.,:!:.:.ヽ:...＼:.:.:..ヽ
　　　　　　　　　　　　/:.:./:.:.:.／/,:.:.:.:.:ヽ:.:.:.＼.:.:.:ﾞ､
　　　　　　　　　　　 /:.::/:.:.;ｲ:../!;ﾍ:.:ﾄ､:..ヽ:.:.:.:ヾ､:.ﾞ､
　　　　　　　　　　　,'.:,:.':.:./ｲ!:.| |i　|:.! !|ヽ:.:`.､:.:.:.＼!
　　　　　　　　　　 ﾑイ!:./!:.i_|:.!_|!　|:i. |!'"_,､:.:､ヽ:.:.:.＼
　　　　　　　　_,,..ィ.:./.:イ!|.|ｨr::ﾐ､!　ヾ　ｲﾋ;:ｿ|:.ヽ､:.:.:.:､＼__　　　あの時、つきあっときゃよかった！って
　　　　　　　　 ,/.／イi｀!:.|!ゞﾞ‐'　　　　　　　 !ﾘ| /:.￣Tﾍﾞ｀ヽ
　　　　　　　／イ/:.:/.:ゞ!:.!|　　　　_'__,..　　　/!ｲ!:.:..:ヽ.:.:.＼　　言わせてやるんだからね！
　　　　　　　 /.:/.:./.:.:.:.ﾊ:.|ヘ　　　ヽ /　　,.ｲ|i:.:|:.:.:.:.:.:.:.:.:..:.＼
　　　　　　／:.:.:.;.'.:.:.:.:/:.|iヾ:..:.|! ト.._ ｀_ ／_,.!ｧ-;ｧァ''￣｀ヽ:.:.:.:＼
　　　　 ／.:..:.:../:.:.:.:.:/:.:.:!_,..L -ｧ}:.... 　／::／／::::;r'´￣.:｀ﾞﾄ､:.:.:.＼
　　　／イ/:.:.,ｲ:.:.:...／!|i::::::;.-''"　　　/::／／::::／.:.:::::::.:.::::::.:ﾉ!:.:.:ヽ＼､
　　/:.:/:.!|:.:.:/:.!:.:.:.:{:::::|i !'´　｀　 ,. -/イ-'':::::／!:.:.:::::::::.:.:::::/.::::ﾞ､:.:.:.:.丶ト､
　 /:.ｲ.:.:.|:.:..:.:.:|:.:._,!'::´:7ﾞ　　　　 ∠:::-‐:::''".::.:{:.:::.:::::::.:::/::':.::::::.:.ヽ、:.:.:ヽ、＼
　 |:.! |:..:.:./:.:.:.:／.:／'´　 ,.:´ ／::.:::.::.:::.:::.:.::::::::､::.:::.:::.:/:.:.:'::::::|:::.::.:.:ﾞﾄ、:.:.:ヽ　ヽ
　 |.i　!:.:.:ﾊ!:../.::,ｲ　　　 /:;.ｨ'::.::::.:::.::.::.:..::::::::::.::::ヽ､::::::.:.:./:::::::!:::::::::::ハ､:.:.:.:.:､　!





41 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:29:28 ID:3QcCHZQg0




　　彼を結婚について思い止まらせるに至ったものは、不明である。
　　おそらくは、お家再興の夢と現在の状況がそうさせたのではないだろうか。


　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　 .r´'　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　 .（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l
　　　 　　　 　　π　　　　　　　　 r　 .!
　　　　　　　　　（| ‐‐-､ 　,.-‐‐　 F-､j
　　　　　　　 　　.! 　　　　　　　　 i ∂!
　　　　　　　　　 i　､＿＿＿＿,　 .!- '
　 /^l　 　　　(二ヽ､_　 ｀=´　　 _,ノ二二)　　　　　l^ヽ
　（　ll￣￣l￣　Y '|| （_ヮョヮ_〉＞　 　ヽ　￣l￣￣ll　 ）
　 ヽ.ll＿＿l＿　,´ .|| >',〉llll〈/<　　〓〓.l＿_l＿＿ll_ノ
　　　　　　　　 .ｌ　　ll ＼',.ll./／　　万万 l
　　　　　 　　　l　　 ll　　 V '　　　 ○○　l
　　　　　　　 .,'　　　.ll　　　　　　　　　　　.',
　　　　　lﾞ'-､.lﾆﾆﾆﾆﾆ::[三]ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆL＿_,.-'l　_/⌒i
　　i⌒､_＼　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ／　　　＿
　　　　　　＼　　　　　　　　　　　　　　　　　／　　、 _ 　 ）
　（　 ／　　　ﾞ--------------------´
　　　　　／　　／　　/　/　　＼　　　＼　　　＼　　　_ノ
　　く　　　　／　　　/　/　　　　＼　　　＼　　　　　）
　　　　(´＿)　／i＿　､　 　　　　　　,.　､＿）　-'
　　　　　　　　　　　　　- '　　｀-- '


　　明治29年4月末から上京してからの十年間･･････
　　水野家を再興させるため、懸命に働き続けた結果、病気だけが彼の体に残った。





42 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:30:53 ID:3QcCHZQg0




　　戦場で病気になったとはいえ、普段の勤続疲労も影響したはずだと判断した仁吉は、
　　これまで”ことをあまりに急ぎすぎた”と反省した。
　　他人の手を借りず、どんなに小さい商いでもいいから一歩ずつ階段を上がっていくべき
　　だと考えを改めた。


　　　　　　　　　　　　 _,.. -‐‐‐‐‐‐ ､
　　　　　　　　　　　／　　　　　　　　＼
　　　　　　　　　　 /　　　　　　　　　　　､　　　　　　我には固き心あり
　　　　　　　　　　,'　　　　　　　　　　　　',
　　　　　　　　　　l　　　　　　　　　　　　 .l　　　　　 人をたのまず、人に頼らず
　 　　　　 　 .(二 l　　　　　　　　　　　　 .l二二)
　　　　　　／　 Y ､　　　　　　　　　　　 .,'　　＼　　たとえいかなる困難ありとも
　　　　　 ,´　　 i　 ',　　　　　　　　　　 ,.' |　　　',
　　　　　l　　　 ｌ　　ヽ,＿ﾉ＿ﾉ＿＿,..ｨ'　 l　　　 l　　我はただ、我がことをなさむ



　　百日近い熟考して決めた誓いは、これからの彼の行動を結論付けたといえる。
　　同時に他人の事業を足場すべきでないとの結論から永年の夢であった渡米も
　　すっぱり諦めている。





43 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:31:26 ID:3QcCHZQg0




　　軍隊生活で全く違う生活環境や職業の人たちと触れ合って、
　　仁吉が実感したのは世間にはまだまだ自分が学ばなければならないことが
　　たくさんあるということであった。


　　　　　　　 ＿ ＿　_　_　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 ＿
　　　　　　　 | il|　　　　　　￣　　¨　 　 ‐- 　 ．__ 　 ．　　-‐　　 ¨　 ￣　　　　　|
　　　　　　　 | il|　...................................................... 　 |　　　 　 　 　 　 　 　 .............. 　 |
　　　　　　　 | ｉl|　...................................................... 　 |　....................................................... 　 |
.　 　 　 　 　 | ｉl|　...................................................... 　 |　....................................................... 　 |
.　　　　 　 　 | il|　......................................................　　|　 ....................................................... 　 |
.　　　　　　　 | il|　......................................................　　|　 ....................................................... 　 |
　　　 　 　 　 | li|　......................................................　　|　 ....................................................... 　 |
　　　　　　 　 | ll|　......................................................　　|　 ....................................................... 　 |
¨::::￣:::`:.. 　　| il|　......................................................　　|　 ....................................................... 　 |
:::::::::::::::::::::＼__| il|　.....　 ⌒Ｙ...................................　　|　 ....................................................... 　 |
::::::::::::::::::::::／ :| il| ,　'　　／ ....................................　　|　 ....................................................... 　 |
::::::::::::::::Ｙ´　 ..:|_／　 　, ............................................　　|　..............................
::::::::::::::::{ 　 　 ´　 　 〃　 .........................................　　|　..................
::::::::::::::::: 　 　 　 　　 {　　................................　　　 　 |
:::::::::::::::::|　　　　　　 /　　　　　　　　　　__　 ．　-‐
:::::::::::::::::|　　　　　　ハ__　 ．　-‐　　¨
:::::::::::::::::|　　　 　 　|´


　　病院生活で経済、地理、作文、算術、新聞、外国地理など幅広い学問知識を
　　凄まじいハードスケジュールでこなしていった。





44 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:32:16 ID:3QcCHZQg0




　　知識を吸収すると同時に今後の行動計画も練っていたらしく、母や弟と頻繁に手紙の
　　やり取りをしている。
　　独立・自営を意識し始めた仁吉の脳裏に日露戦争で玄界灘を渡る時に交わした会話
　　が思い出された。





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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　□





45 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:33:20 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 r'´　.￣.ｒ‐‐．‐-y::::...￣ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　i´　　..::::::l　 ：　 ,':::::::::::､　　',
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .l　　 ;::::;r‐､　：　,r‐､::::::::::;　　ｌ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　}　　;:::::l　 ''; ： /　　l::::::::::::;　 l
　　いやあ、野球ってのはおもしろいですな　　　　ﾉ　 ,:::::::{f､-a　,.a-ｧ　9）::::::;　 i
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ,.ｨ'　　,:::::::::::',　　､　　　.,-'i:::::::::､　､
　　バットでボールを打つだけなのに　　　　　<　.......;:::::::::::::::ヽ 　ｰ'　 ノ　 ';:::::::::::,...｀ﾞ''‐､_,
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 `ｰ---:::;;;;;;ノ__l￣；￣|＿_ ヽ;;;;;;;;;;:::::::::_;;-’
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /:::::::::ﾍ　 ：　　　|:::::::::::ヽ-‐''´
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〈:::::::::::::l　 ：　　 .,'::::::::::::::::',



　　　　　　　　,.r'´￣￣￣ﾞ - ､
　　　　　　,.r'´　　　　　　　　　,）
　　　　　,.´　　　　　　　r''''´^''ｨ
　　　　　!　　　　　,-､,,ｼ　　　 l
　　　　　i　　　　/-､　　 ‐‐-､(　　　　　　　僕も京都の三高のグランドで試合を見てたんですけど
　　　　　!　　　 （６　　　　　　 ヽ .l￣l
　　　　　ヽ　　　 ﾞｼ´　　　　　　 ', |l｀i l　　 おもしろくって。つい仕事のことを忘れてしまいましたよ
　　　　　　| ｀ﾞ'''''''‐‐‐‐‐‐-----'、￣￣}
　　　　　 (二二二)　　｀ﾞ'-､｀ﾞ'､ ll＼　　l
　　　　　　|　　　 |　　　　 く　　',　lll＼ l





46 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:34:15 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 r'´　.￣.ｒ‐‐．‐-y::::...￣ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　i´　　..::::::l　 ：　 ,':::::::::::､　　',
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .l　　 ;::::;r‐､　：　,r‐､::::::::::;　　ｌ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　}　　;:::::l　 ''; ： /　　l::::::::::::;　 l
　　いっそ自分達もやってみたい　　　　　　ﾉ　 ,:::::::{f､-a　,.a-ｧ　9）::::::;　 i
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ,.ｨ'　　,:::::::::::',　　､　　　.,-'i:::::::::､　､
　　気分になりますな　　　　　　　　　　<　.......;:::::::::::::::ヽ 　ｰ'　 ノ　 ';:::::::::::,...｀ﾞ''‐､_,
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 `ｰ---:::;;;;;;ノ__l￣；￣|＿_ ヽ;;;;;;;;;;:::::::::_;;-’
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /:::::::::ﾍ　 ：　　　|:::::::::::ヽ-‐''´
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〈:::::::::::::l　 ：　　 .,'::::::::::::::::',


　　　　　　　　　　 ,.- '´￣￣ﾞ '- ､
　　　　　　　　 .r'´　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　 ,.'　　ｎ､＿､_､__､_,,,,. 　 ）
　　　 　　　　l　　r'　　　　　　　 ｀Y!'
　　　　　　　 ',.-寸　‐‐-､ 　,.-‐‐ l)
　　　　　　　　Y６　　　　　　　　　 !　　　　　戦争が終わって無事に帰国できたら
　　　　　　　　　ﾞi　　､＿＿＿＿,　l
　 　　　　 (二二ヽ､_　　 ｀=´　 _,ノ二)　　　野球チームを作って試合をやりませんか
　　　　　／　 Y　'||＜ （_ヮョヮ_〉〉 ヽ　＼
　　　　 ,´　　 i　　||　>＼〉llll〈/<〓〓.l　',





47 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:35:37 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 r'´　.￣.ｒ‐‐．‐-y::::...￣ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　i´　　..::::::l　 ：　 ,':::::::::::､　　',
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .l　　 ;::::;r‐､　：　,r‐､::::::::::;　　ｌ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　}　　;:::::l　 ''; ： /　　l::::::::::::;　 l
　　　　　そりゃいい。　　　　　　　　　　　　　ﾉ　 ,:::::::{f､-a　,.a-ｧ　9）::::::;　 i
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ,.ｨ'　　,:::::::::::',　　､　　　.,-'i:::::::::､　､
　　　　　是非やりましょう.　　.　　　　　<　.......;:::::::::::::::ヽ 　ｰ'　 ノ　 ';:::::::::::,...｀ﾞ''‐､_,
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 `ｰ---:::;;;;;;ノ__l￣；￣|＿_ ヽ;;;;;;;;;;:::::::::_;;-’
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /:::::::::ﾍ　 ：　　　|:::::::::::ヽ-‐''´
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　〈:::::::::::::l　 ：　　 .,'::::::::::::::::',


　　　　　　　　　　 ,.- '´￣￣ﾞ '- ､
　　　　　　　　 .r'´　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　 ,.'　　ｎ､＿､_､__､_,,,,. 　 ）
　　　 　　　　l　　r'　　　　　　　 ｀Y!'
　　　　　　　 ',.-寸　‐‐-､ 　,.-‐‐ l)
　　　　　　　　Y６　　　　　　　　　 !　　　　　将来、実業人の野球チームでの大会ができたら
　　　　　　　　　ﾞi　　､＿＿＿＿,　l
　 　　　　 (二二ヽ､_　　 ｀=´　 _,ノ二)　　　 面白いですなぁ
　　　　　／　 Y　'||＜ （_ヮョヮ_〉〉 ヽ　＼
　　　　 ,´　　 i　　||　>＼〉llll〈/<〓〓.l　',





48 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:36:12 ID:3QcCHZQg0




　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 iヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　iヽ -'　｀ﾞ'-、
　　　　　　　　　　　　　　 iヽ-'　｀ﾞ'-、 ﾞ'､ヾヽ
　　　　　　　　　　　,. ---'　｀ﾞ'-、ﾞ'､ヾヽ‐ヽ､ l',
　　　　　　　　　 ,.'´｀ﾞ'-｀､-ﾞ'､ヾヽ‐ヽ､ l', 　　y　　そりゃ無理では・・・
　　　　　　　　,',｀ﾞ'---､__ｨ-‐ヽ､ l', 　　y￣ﾝ(
　　　　　　　　i｀ﾞ'------l　　　　y￣ﾝ( 　　 〉
　　　　　　　　!ニニニ.,-､　（￣ﾝ( 　　 〉 ⊂´　　　　　　いや出来る
　　　　　　　　 '-----（６　　　　 〉 ⊂´-‐. '
　　　　　　　　　 ､二二人　　 ⊂´-‐. '
　　　　　　　　　　　-'´　　r--‐. '　　 二)＼＼
　　　　　　　　　 　|""''''''''ll''l　二)＼＼ |　 |　|　　　　　　　　　　　　おもしろそうだな
　　　　　　　　(二二二二)＼＼ |　 |　|.　　|　|
　　　　　　　　 |　　　　　|　　|　|　　|　|


　　　　　　　　　　　 　 　 　 □
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　 　 　 　 　 　 　 ┌─┼─────────┼───┐
　 　 　 　 　 　 　 │　 └─────────┘　 　 　 │
　 　 　 　 　 　 　 │　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 　 　 │
　 　 　 　 　 　 　 └───────────────┘



　　仁吉の独立計画の中にスポーツ用品という選択肢が増えたのもこの頃のことである。





49 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:36:45 ID:3QcCHZQg0




　　結果的に見れば、見習いから10年間、懸命に働き模索した準備期間と
　　その後の60数年間の間に挟まった5ヶ月間の療養生活は、
　　かれにとって大きなターニングポイントとなった。



　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　 .r´'　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　 .（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l￣ｖ￣ヽ､　＿ ＿__
　　　 　　　 　　π　　　　　　　　 r　 .!＼　　　　､'''''' l ／
　　　　　　　　　（| ‐‐-､ 　,.-‐‐　 F-､j　､ ､　　　 ', ￣',
　　　　　　　 　　.! 　　　　　　　　 i ∂!　　', ',　　　',　　.i
　　　　　　　　εi　､＿＿＿＿,　 .!⊂⊃､.. l l　　　 ',＼ |
　 　　　　　,.- ´　ヽ､_　 ｀=´,.- ´　　ヽ　ﾉ　 l l　　　 |　 ,'
　　　　　／r ,.｀ヽ　 X＜_／r ,.｀ヽ　　） '　　l l　　　 l--'
　　　　　Y_∠__,ノ- ' ＼　Y_∠__,ノ- '　　　 l l　　　 ,'
　　　　　　　　　　　　　 -､　　　　○○　ノノ　　　/
　　　　　　　　　　　　　　 ヾ＝[三]＝＝'' ''　　／
　　　　　　　　　　　　　　　 ﾞ‐- ､＿＿＿_,..-イ
　　　　　　　　　　　　　　　　　 ',　　　　ν） ト'
　　　　　　　　　　　　　　　　　　ヽ､＿＿ノ__l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　|　　l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　｀--'



　　この期間に学び、蓄積した知識と経験を元に具体的なプランを練り上げた。
　　その計画をもとに仁吉は、これから世にどんどん突き進んでいくことになるのである。





50 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:37:19 ID:3QcCHZQg0




　　大垣に帰った仁吉は、父への墓参りを済ませたあとまっすぐ大阪へと向かった。


　　　　　 |　クツ下　カラー　ハンカチ　タオル　半ズボン.　　　　　　|
　　　　　 |　　.　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　野球ボール　.|
　　　　　 |＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿|
　　　　　　　　　　　　.| |　　　　　　　　　　　　　　 　 　 　 　 .|
　　　　　　　　　　　　.| |　　　　　　　　　　　　　　 　 　 　 　 .|
　　　　　　　　　　　　.| |　　　　　　　　　　　　　 ∧ゞ∧　 　 .|
　　　　　　　＿＿_ 　 | |＿＿＿＿＿＿＿＿＿ (ﾟДﾟ　)＿＿|
　　　　　 ／　　／| 　|/　　　 ＿∧□∧　 　 　 くつとﾉ　　　|
　　　　　 |￣￣|／|　 ￣￣￣　（´∀｀　） ￣￣￣￣￣￣￣
　　　　　 |￣￣| |￣￣￣|＼ 　（⊃□と） .　 　＿＿＿_ ＿
　　　　　 |￣￣| |＿＿＿| / ￣￣￣￣￣￣／／／.／|／|
　　　　　 |￣￣|_|＿＿＿|/　　　　　　　　　 |￣￣￣|／　..|
　　　　　 |￣￣　　　　　　￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣.|　 　│
　　　　　 | 学生向け洋品雑貨　水野兄弟商会　　|　 　 |.　.／
　　　　　 |＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿_|／


　　明治39年4月1日、仁吉は弟利三とともに大阪北区芝田町に水野兄弟商会を開業する。





51 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:37:59 ID:3QcCHZQg0




　　世の中の店と違ったのは、たった二人の店にも関わらず、びっしりと書き連ねた会社規則
　　があったことと仕入課・販売課・庶務課・商況課など組織が細分化されていたことである。



　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　__,,,.. -‐ ＜ ．_
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ／　＿　-‐ 　 i　 　｀゛＜
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　..... -‐＝'' ¨ ￣',:::　　　　　　|::::... 　 　 ‘　，
　　　 　 　 　 　 　 　 .... -‐＝'' ¨ ￣　　 　 　 　 　 　 ',:　　　　 　 |¨¨:::..　　　　　＼
　　　 　 -‐＝'' ¨ ￣　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 r─-----‐‐‐ト= ....　　　 　 ＼　　 　 _
　　　　 |　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ゝ､ ＿＿＿　　　　　　　　　　　 ＼／／｀ﾞ＜
　　　　 |　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　..... -‐　',ヽ　　　　　　 　 　 　 / /
　　　　 |　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ..... -‐＝¨　　　　 　 ',::::ヽ　　　　　　　　 / /
　　　　 |　　　　　　　　　　　　　　 ..... -‐＝¨　　　　　　　　　　　　　 ',::::::｀ ‐-::::...............,' .,'
　　　　 |　　　　　　 ..... -‐＝ ¨　　　　　　　　　　　 　 　 　 　 　 　 　 ',ヽ::::::::::::::::::::::::::::|　!
　　　　 |　-‐＝ ¨ 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　', ｀＞ｭ-‐＝二¨l　l
　　 　 ∧　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 ',　　　　　　　　l . l
.　 　 　 ∧　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 __...... -‐＝ ¨　.＼　　　　　　 ', .l
　　 　 　 ∧　　　　　　　　　　　　　　　　　　__...... -‐＝ ¨ 　 　 　 　 　 　 　 ＼　　　　　 ＞ｭ､
.　 　 　 　 ∧　　　　　　　　 　 __...... -‐＝ ¨　　　　　　 　 　 　 　 　 　 　 　 　 ＼
　　 　 　 　 ∧　__...... -‐＝ ¨　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 　 　 　 ＼



　　そればかりでなく、予算・決算もはっきり決められており、当時としては珍しく
　　営業費や雑費とか区分されて広告費が計上されている。
　　このことは、すでに広告について先見の明があったことを印すと同時に
　　間口13間、高さ100尺のビルを建てる時点までの計画が出来ていたことを表している。





52 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:39:02 ID:3QcCHZQg0




　　店は間借りで、近くに北野中学（現在の北野高校）があった。
　　そのため、カラーや靴下など学生向けの洋品がよく売れたという。


　　　　　　　　　 ,.-──────--.
　　　　　　　　　 |:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|
　　　　　　　　　 |:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: |
　　　　　　　　 　,ｒ──────---l
　　　 　　　 　　π　　　　　　　　 し l !.!
　　　　　　　　　（| ‐‐-､ 　,.-‐‐　 F-､l ',　　　　　随分あちこちの店に
　　　　　　　 　 l ! 　　　　　　　　 i ∂!ヽヽ
　　　　　　　　 .l､i　､＿＿＿＿,　 .!- 'ヽヽヽ　　　出入りしたぞ
　 　　　　 　 .,.-' ヽ､_　 ｀=´　　 _,ノ｀ -　、 ＼
　　　　　　／　　　ヽﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆノ　 　　　＼
　　　　　 ,´　　　　', |　　　　　　| ,'　　　　　 ',
　　　　　（　　　　　 ＼ r'⌒ヽ ／　　　　　　　',
　　　　　　ヽ　　　　｜ ヽ＿,;'　｜　　　　　　　）


　　元来の凝り性のため、糸の種類や縫製の手順など自分が扱う商品は
　　隅々まで知っていないと気がすまないことに加え、品物を見分ける目も
　　あったので店の評判は徐々に上がり始めた。





53 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:39:37 ID:3QcCHZQg0




　　箱車を引いて、福島（大阪市福島区）あたりまで行商に出かけ



　　　　　　　　,.r'´￣￣￣ﾞ - ､
　　　　　　,.r'´　　　　　　　　　,）
　　　　　,.´　　　　　　　r''''´^''ｨ
　　　　　!　　　　　,-､,,ｼ　　　 l
　　　　　i　　　　/-､　　 ‐‐-､(　　　　　　　　僕の店は、お宅の息子さんが行ってはる
　　　　　!　　　 （６　　　　　　 ヽ .l￣l
　　　　　ヽ　　　 ﾞｼ´　　　　　　 ', |l｀i l　　　　北野中学の近くにありますねん
　　　　　　| ｀ﾞ'''''''‐‐‐‐‐‐-----'、￣￣}
　　　　　 (二二二)　　｀ﾞ'-､｀ﾞ'､ ll＼　　l
　　　　　　|　　　 |　　　　 く　　',　lll＼ l



　　学生の家まで飛び込みで売り歩いた。
　　その甲斐もあって、順調に売り上げは伸び始め、店は軌道に乗せることができた。





54 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:40:15 ID:3QcCHZQg0




　　洋品雑貨のほかにも店では、ボール7個など野球用具の取り扱いがあったことが
　　売り上げ記録から分かっている。
　　これは、北野中学で盛んに行われていた野球の練習試合に仁吉が、よく見に行っていたからである。
　　不思議と彼が見に行った時は、北野中学が負けることが多いらしく



　　　　　　　　　　　　_,r:､　 　 　 　　　_,r:､　 　 　 　　　_,r:､
　　　　　　　　　　 ／:::::::::ヽ....　　　 ／:::::::::ヽ....　　　 ／:::::::::ヽ
　　　　　　　　　 .（::::::::::::::::::）　　　.（::::::::::::::::::）　　　.（::::::::::::::::::）　　おっさん、来んといてや。
　　　　　　　　　　 l:::／＼::,l　　　　 l:::／＼::,l　　　　 l:::／＼::,l
　　　　　　　　　　 ､:＼／:;ﾉ　　　　 ､:＼／:;ﾉ　　　　 ､:＼／:;ﾉ　　　おっさんが来ると負けるさかい
　　　　　　　　　／:::::::::::::::::＼　　／:::::::::::::::::＼　　／:::::::::::::::::＼


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .r´'　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　π　　　　　　　　　r　 !
　　　　お前らが弱いからや。　　　　　　　（| ---。　。---　 F-､j
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .! 　　　　　　　　　i ∂!
　　　　もっと練習して強うなりや。　　　　 i　　　　　　　　　 .!- '
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .(二ヽ､_　　0　　 　_,ノ二二)
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　／　 Y '|| （_ヮョヮ_〉＞　 　ヽ　＼
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ,´　　 i　 || >',〉llll〈/<　　〓〓.l　　',


　　学生達からは不評であった。





55 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:40:55 ID:3QcCHZQg0




　　最初の得意客となった北野中学野球部員たちに仁吉は、


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 ＿
　　　　　　　　　　　 　 　 r‐ ､　 ――´‐- .ヽ
　　　　　　　　　　　　 -‐　　　　　　　　　　　｀ v⌒ヽ
　　　　　　　　　 ,　´　　　　　　　　　　 　　 ノイ!＼　 V
.　 　 　 　 　 ／ヽム　　　　　　　　　　 　 ノイ!　　 '.， V
.　　　　　　 /　　　ヽム　　　　　　　　 　 ノイ!　　　　'　 V　　　　　　今日は新しいボールやから
　　　　　　 ′　　　　ヽム 　 　 　 　 　 ノイ!　　 　 　 ’　|
.　 　 　 　 ｉ　　　　　　 ヽム　　　 　 　 }イ|　　 　 　 　 '　| ＿　　　　エラーしたら笑われるで。
.　 　 　 　 |　　　　　　　|イ{　　　　　　 }イ|　　　　　　　|/´ 　{
.　　　　 　 '　　　　　　　|イ{　　　　　　 }イ|　　　　　　　|　 　 |　　　　今日持ってきたボール
　　　 　 　 ’　　 　 　 　|イ{　　　　　　 }イ|.　　　　　　 ;'　　　|
　　　　　　　'，　 　　　ノイ!　　　　　　　ヽム 　 　 　 / 　 　 ,　　　　ちょっと小さめなんや。
　　　　　　　　' , 　 　ノイ!　　　　　　　　　ヽム 　 　/ 　 　 /
　　　　　　　　 　 , ノイ!　　　　　　　　　 　 　ヽム / 　 　 /　　　　　それでいて重い感じがあるから
　　 　 　 　 　 　 | ＼!　　　　　　　　　　　　　　／　　　 ,
　　 　 　 　 　 　 |　 　' ，　　　　　　　　　 ,. イ　　　　 ,　　　　　　　試合前にたっぷりキャッチボール
　　 　 　 　 　 　 i　　 　 ｀≧=‐---‐=≦´ 　 　 　 　 /
　　　　　　　　　　､　　　　　　 ヽ//'　　　 　 　 　 　 '　　　　　　　　して、感じを掴んどいた方がええで
　　　 　 　 　 　 　 ＼　　　　 　 ｀′　　 　 　 　 ／
　　　　　　　　　　 ／_ヽ　　　　　　　　 　 　 　 ∧_＼
　　　　　　　　　　{ (//∧　　　　　　　　　　　　|///) }
　　　　　　　 　 　 Y｀ー┴-　　　＿＿＿　　-─一'´|
.　　　　　　　 　 　 ト 　＿＿＿　　 　 　 　 ＿＿_ 　 |
.　　　　　　　 　 　 ト　＿＿＿　　　　　 　 ＿＿　　 ,|


　　アドバイスをしながら、手渡していた。
　　当時のボールは、大きさや重さなどがまちまちで規格が統一されていない。
　　その問題点に気付いてから仁吉は、自分で作りたいという気持ちを募らせていた。





56 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:41:41 ID:3QcCHZQg0




　　売り上げがどんどん伸び、店が順調に成長していく中で
　　店舗は間借りから筋向いの空き家を買い取り、自前店舗を構えることができた。
　　それと同時に店員も二人増やして、会社は右肩上がりに成長して行く。

　　仁吉の心配の種であった健康についても自分で大丈夫だと確信したのは、
　　この頃のことである。



　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　 .r´'　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　 .（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l
　　　 　　　 　　π　　　　　　　　 r　 .!
　　　　　　　　　（| ‐‐-､ 　,.-‐‐　 F-､j
　　　　　　　 　　.!,r‐‐､＿＿,.ｒ‐‐､i ∂!　　健康のために戸外運動や冷水まさつをやったぞ
　　　　　　　　　 il::::::::::::::::::::::::::::::::l.!- '
　 　　　　 　 .(二ヽ､::／⌒⌒＼::,ノ二二)
　　　　　　／　 Y '|| （_ヮョヮ_〉＞　 　ヽ　＼
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　　健康な体を手に入れるため、著名なスポーツマン達に積極的に近づいて
　　健康法を聞き込みし続けたことが良い結果に結びついた。





57 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:42:28 ID:3QcCHZQg0




　　聞き込み調査で仲良くなったスポーツマンたちは、やがて仁吉の店に出入りするようになった。
　　彼らのオーダーを聞いて特別に作った運動服は日本のスポーツウエアの走りとなった。


　　　　　　　　 　 　 ／: : : : : :;:斗|: :.ﾄ　　　　　　　　i: ﾊ
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58 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:43:29 ID:3QcCHZQg0




　　スポーツマンからの要望があっても普通の店では、そのニーズに応えられないのだが
　　水野兄弟商会には、それを可能にする技術があった。
　　仁吉が普段から仕入れや商談で訪問した際に必ずそこで糸の使い方や縫い方などを
　　聞くなどして時間を費やしていた。その過程で仁吉の熱心さに打たれた技術者達は、
　　何人か彼のアドバイザーになってくれた。
　　オーダーメイドのスポーツウエアを作ったのもそんなアドバイザーの一人であった。
　　彼女はのちに社内で伝説の婦人工場長として語り継がれるのだが、
　　水野とはこの頃に専従契約を交わしている。


　　　　　　　　　　　　　 !ﾞ''- ､
　　　　　　　　　　　　　 ,〉　　 ヽ､
　　　　　　　　　　　　／　',　,.ｨ´　ヽ
　　　　　　　　　　　/ .キ　ｒ´　ヘ,rﾍ
　　　　　　　　　　　l　　＼|／　　　 |ﾌ
　　　　　　　　　　　',　t-､　､-ァ　ﾉｼ
　　　　　　　　　　　　､==《==-==ﾉ''
　　　　　　　　　　　　ヽ、..l　　 ノ=l
　　　　　　　　　　　　　 ヽ.|_,／ 三|
　　　　　　　　　　　　　／ 三三三＼
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　　　　　　　　l ｛　 l,ﾍ　　　 .|　　　　　 ｿl　 l
　　　　　　　　}　',　　ﾍ　,.　 .|　　,､　ﾍ/ i　　l

　　　　　　　　　　　　↑脇屋ヌイ
　　　　　　　　　　（伝説の婦人工場長）





59 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:44:03 ID:3QcCHZQg0




　　水野が作ったオーターメイドのウエアは評判となり、縫製技術者に注文を流す仕事が、
　　大きく拡大した。
　　仁吉は小堀商店での経験から手形ではなく、現金で商売を行っていたことから
　　技術者達は、急ぎの仕事でも喜んで仕事を引き受けてくれた。
　　やがて、水野兄弟商会の下には、自然と下請けグループが生まれた。


　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　 .r´'　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　 .（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l
　　　 　　　 　　π　 ⌒　　⌒ 　　r　 !　　（いつまでも技術者達を注文あつらえという
　　　　　　　　　（| 　二ﾟ 　 ﾟ二　　F-､j
　　　　　　　 　　.! 　　　　　　　　 i ∂!　　 不安定な地位のままにしておくことは出来ないな）
　　　　　　　　　 i　 ＿＿＿＿_　 .!- '
　 　　　　 　 .(二ヽ､_　 　-　　 _,ノ二二)
　　　　　　／　 Y '|| （_ヮョヮ_〉＞　 　ヽ　＼
　　　　　 ,´　　 i　 || >',〉llll〈/<　　〓〓.l　　',


　　事業の拡大によって手狭になった店舗や周囲のグループのことも考え、
　　仁吉は大きな決断を下す。





60 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:44:38 ID:3QcCHZQg0




　　明治43年夏　天神祭りの休暇を利用して、高野山や生駒を参った仁吉は



　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　 .r´'　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　 .（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l　　これまでのオーダーメイドだけでなく
　　　 　　　 　　π　,.-‐-､_,.-‐､　r　 !
　　　　　　　　　（| /.ヽ､＿＿,..ﾍ　F-､j　　運動服装の既製品を作って売り捌いたほうが
　　　　　　　 　　.!/:::::::::::::::::::::::::ﾍi ∂!
　　　　　　　　　 i-‐'´￣￣￣｀'-.!- '　　　もっと多くの人に利用してもらえるはずだ。
　 　　　　 　 .(二ヽ､-‐''三ﾞ''‐‐っノ二二)
　　　　　　／　 Y '|| （_ヮョヮ_〉＞　 　ヽ　＼
　　　　　 ,´　　 i　 || >',〉llll〈/<　　〓〓.l　　',



　　　　　　　　　　　-'´￣￣￣ ﾞ '- ､
　　　　　　　　　 .r´'　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　 .（ ,nヾ､＿､_､__､- 　　 l　　利潤だって当然多くなる。
　　　 　　　 　　π　　　　　　　　 r　 .!
　　　　　　　　　（| ‐‐-､ 　,.-‐‐　 F-､j　 運動用具の仕入れももっと増やそう。
　　　　　　　 　　.! 　　　　　　　　 i ∂!
　　　　　　　　　 i　ｒ⌒──'⌒ﾍ .!- '　　 足りなければ、工夫して自分で作ればいい
　 　　　　 　 .(二ヽ､土土土土土ノ二二)
　　　　　　／　 Y '|| （_ヮョヮ_〉＞　 　ヽ　＼
　　　　　 ,´　　 i　 || >',〉llll〈/<　　〓〓.l　　',



　　決意を新たにして、新店舗探しに邁進する。





61 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:45:12 ID:3QcCHZQg0




　　翌明治43年　梅田新道にある店舗を買収して、芝田町にあった店舗をすべて売却する。
　　新店舗に全精力をつぎ込んで、店員もさらに4名増員した。



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　:::.. ::: .:: :: .: .:: ..: ..: :' ..: ..: ; ;; /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
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　　　　　　　　　　 　 　:　;;,ｲ,,二二二二二ニニニニニﾆﾆﾆﾆﾆ
　 　ﾆﾆニニニニ@　　　　ヽ||―――升――,;r┬―f ‐r ‐r ‐r
　　:::::::::::::::::::::::, へ、　　　.:.::||二二二| |╋╋|==i===i==i==!==!
　　::::::::::::::::::／, へ ヽ、 　 .::||―――| |╋╋|　　　　　　 動　運
　　::::::::::::／∠二二ゝ､ヽ : : ||―――| |╋╋}　　　　　　器防服
　　::::::／∠二二二二ｽ　 l二二二二二二二|濃 .津 .美具寒装
　　 　／|ﾆゝ--------孑 /;;:::;;;::::::::::::::::::::::::: l店本阪大　 品
　 　 　 | |ﾓ幵幵||幵幵l <元三三三三三三 ヽ､,_,x,_,x_,x,_,x,,_
　 　 　 | |ﾓ幵幵||幵幵 /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::||
　 　 　 | |ﾓ幵幵||幵ﾎ ﾑニニニニニニニニニニニニニニニニ
　 　 二二二二ニニニ |_|ﾆﾆニﾆﾆﾆﾆニﾆﾆニ:i! ﾄ-‐|l| |￣￣||￣
　 　＿||＿_||＿_||＿||_; | ||||||||||||||||||||||||||||||||∥|llii!:|l| |　 　 ||
　 　＿||＿_||＿_||＿||_; | ||||||||||||||||||||||||||||||||∥|llii!:|l| | 　 Q||Q
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　　　　　　　　　　　　　 ~ ￣￣￣￣￣￣￣￣ ~





62 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:45:46 ID:3QcCHZQg0




　　店の屋号も「美津濃商店」に変更した。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ,.-‐´￣￣￣ ﾞ ､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 .r'´　　　　　　　　　ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 （,nヾ-ヾ─-　　　　　　ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 l　　　　　　 ﾋ　　　　　'i
　　将来、店が発展したとき、　　　　　　　　　　　　　)　,.-‐‐　　 .き-､　　　.l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　/　　　　　　　 θ）　　　l
　　子孫以外の人材に立派な才能を持った　　　 .i　　　　　　　.「ﾞ '　　　　j
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　､　　　　　＿ヽ ,　　 ,,ノ
　　人ができることも考えてますんや。　　　　　　 ／l￣￣￣＿,.:-｀''￣　ヽ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　／lll/ ､-‐'''´´　　　(二二二)
　　僕の出身が、美濃の大垣という　　　　　　 /lllll/／　　 ＿iヽ‐''´l　　　　 ',
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ﾚ／_,.-‐''´´〓〓　　l　　　　　|
　　ことにも絡ませてますけど　　　　　　　　　 ｲ‐''´　　　　 万万　　l-------l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　r　　　　　　　○○　 .l　　　　　l
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 [三]ﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆﾆ l＿＿＿_l


　　これは、出身地である美濃に港を意味する津を加えたものである。
　　大阪が港町であることと人材が集う港になればという願いが込められていた。





63 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:46:20 ID:3QcCHZQg0




　　そして、彼の名前も亡き父の名を継いで”水野利八”と名乗るようになった。


　　　　　,, -－''""￣￣￣￣'''－- ､
　　　 ／　　　　　　　　　　　　　　　＼
　 ／　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ヽ
　l　　　　　　　　　　　　　　　　　 .i 　　　|
　{　　|｀ゝ､入＿＼＿、入__ゝ、　 U　　　}
　 ヽ ﾉ　　　　　 ￣　　~　　　　（　　　　　}
　　　} 　　　　　　　　　　　　　　ﾐ　__　　 |
　　/ ,}　ｰ―-､ 　　 　 , -――　 ' 　ヽ ./
　　|　}　　　　　|　　　 |　　　 　 　 /~､Ｖ
　　 { | 　 　　　　　　　　　　　　 　l⌒'ノ
　　　| 　 　　　　　　　　　　　　　　レ'
　　　|　　 --―――――-　　　　人　　　　　　正式な襲名や届出はまだだがな
　　　 ゝ　　　　 ￣￣　　　 ,,-"￣￣￣￣ ヽ
　　　,,ノ＞ 　_　_＿_ --ー'　　　　　　　　　 }
　 ／　　|　　　　　／　　　{＿,,-―――"￣ |





64 ：名無しのやる夫だお：2013/02/15(金) 22:46:54 ID:3QcCHZQg0




　　明治39年に設立された会社が、やがてトップスポーツメーカーへと登り詰める方向性を
　　決めた瞬間であった。
　　この時仁吉、いや利八は26歳であった。


　　　　　　　　　　　　　　＿＿＿,,
.　　　　　　　　　　　 ／´　　　 　 ＼
　　　　　　　　　　,,-ﾞ　　　　　　　　　ヽ
.　　　　　　　　　（,､_､　　　　　.,　 ,　　|
..　　　　　　　　　 ',.　｀'｀ｰ｀ｰ''ﾞ｀'ﾞ (　　|
　　　_　_ ._　 　 　 l　＿　　　＿　 ,-､ﾉ
　　/ / / /,､　　　/　　 ﾟ 　 ﾟ　　 .∂!　　　　　　青年実業家と呼んでくれたまえ
　 /~ ~ ~ / /-⊂ ! ＿＿＿＿_　 ｀i´ﾆﾆ⊃、
　 ヽ､＿ (,ノ ｝／/ヽ､＿｀''"＿＿ノ　　　　　ヽ
　　　＼　 ／　l l く_ヽ　<二>　／フ /　　　　l
　　　　 ｀ヽ＿ l | |　く ＼　 ／ ／　 l　　　　　!
　　　　　　　　｛ | |　　＼Y ／ .㍼㍻l＿ 　　　!
　　　　　　　　 ! .| |　　　　　　 ▽▽l　　　　　l
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　　　　　　　　[lllllllllllllll(二)llllllllllllllllll]　i　　　　｝
　　　　　__,,-‐''　　　　　　　　　　　 ∪_＿＿ノヽ､.
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　　　　￣''‐- 、＿　　　　　　　　＿, ,　-─""´
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　　　　　　　　／　　　　|　　　　　　゛>､　　　　　　　　　　　みんなでプロ野球１２球団紹介スレ　　　　　　
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、　　　　　 　￣￣￣￣　￣￣￣￣￣￣　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　水野仁吉物語 　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　終わり

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