できない夫はブーツを履き直すようです
(やる夫が人生でいいじゃない さん まとめ)

日本の首都、東京。ここは悪魔による犯罪が数多く起こる魔都である。
だがここには、犯罪から民衆を守り悪魔を狩る、特殊機動部隊があった。
legendary Anti Weapons、通称L.A.W.。
火力と戦略で悪魔を駆逐する、政府の特殊部隊である。

原作設定:女神転生シリーズ。
主人公は表題どおりできない夫と、東方シリーズの鈴仙・優曇華院・イナバ。
ミントドリンクwithココアさんによる中篇。

現代日本、悪魔の存在は政府によって隠されているが、
悪魔を使った犯罪は後を絶たず、それらに対応する組織を作り上げた。
基本的に異能や魔法を持たない、ただの一般人から訓練と訓練と訓練と知識で
生きながら対悪魔専門の武器となった主人公たち。
彼ら専門特殊部隊の、銃器と肉体と戦略で悪魔と対峙する姿がこの物語の見所。
攻殻機動隊などの対テロ特殊部隊な物語が好きな方々なら、
女神転生世界観を知らなくても楽しんで入り込めるだろう。
もちろん女神転生シリーズを知っているのならばなおさら。
各所に散りばめられた世界設定と見覚えのある人名に、ニヤリとさせられるはずだ。

↑に「武器となった主人公たち」などと書きはしたが、
彼らが人間性を失った兵士などというわけでは決して無く。
伝説の勇者(COMP付き)でも人修羅でもペルソナを呼ぶ学生などでも無く。
日々の生活を生きる、本当に普通の一般人から少しだけ踏み出しただけの存在だと、
そういう人間らしいところがわかるエピソードたちと、
特殊部隊としての悪魔との死闘が対比となりとても秀逸な物語。
踏み出す代わりに、彼女たちが最初に捨てたものは一体なんだったのか…
これはぜひ物語を読んで確認してもらいたい。
あ、うん。そこを捨てますか。理解はできるけど…えー。
という気分にさせられることこの上なし。しかしその姿もまた美しい。

女神転生をテーマにした二次創作としてのくくりとしても、非常に珍しいと思われる、
主人公側に魔法能力が存在しないというこの女神転生世界観。
ぜひこのストイックな、悪魔と特殊部隊との戦いを楽しんでいただきたい。




以下はいつものとおり、ネタバレこみの感想になります。
作品は中篇なので、ぜひ読んでからこの先をお読みくださいませ。









いやー個人的にですが、ストイックながらかなり読み応えもありつつ楽しい物語でした。
SWAT…アップルシード…攻殻機動隊…レインボーシックス…XCOM…
といった、特殊部隊が異能無しに犯罪者や敵と戦う物語が私には大好物なもので。
恐ろしい戦闘力を持った敵と普通の人間が戦うあたりは
対宇宙人戦闘なXCOMと同じ感覚を呼び起こされました。
視線が通る位置に魔法、それも呪殺とか破魔とかいうトンデモ一撃必殺が飛んでくる敵なんて
特殊部隊では荷の重い相手ですよねぇ…。

そんな荷の重い敵に対して、現れる敵の情報に合わせて、
あらかじめ特殊弾頭を詰めた銃器を隊員それぞれに配分してから出撃するなんて!
ここまで苦しい戦闘風景、女神転生系の二次創作で初めて読みましたとも。
主人公は異能持ち、魔法や特殊能力や特殊アイテムをふんだんに持っていて、
特殊弾頭の残弾さえも考えたりしないのが大概ですし。
よくよく考えれば都合良く現場で、敵に合わせてリロードできる環境じゃない可能性もありますし、
そもそもそんなに多種多量のタマも持ち歩けるわけないですし、全く持ってリアルな設定であります。
そうして敵に合わせた弾を綿密に準備し、狙撃手を配して、
敵に反撃させることなく弱点を突き、一撃必殺を心がける。
突撃チームの損耗を0に、敵を必ず倒すという「仕事」ぶりに、
公務員的な美学を感じさせられました。か、かっこいい。
普通の特殊部隊でも、ドア破り→グレネード→ショットガンとパターン化されそうな所、
相手が弱点属性や反射属性を持つ悪魔というだけで、
選択肢とやってはいけないことが山のように増える!それを訓練と準備で潜り抜ける!
これまた格好良い!

しかしそんなストイックな戦闘シーンばかりでなく、
合間に挟まれる日常シーンもたまりませんなぁ。シャワールームの攻防なんて大好き。
人間として戦闘力を高めた結果、女子力をかなぐり捨てることになった!なんてもう。
レベルアップのときに筋力と体力と敏捷度に全てに割り振って、
まだ足りないから「魅力」を下げてそっちに振ろう!というゲームでよくあるステータス振り替えを
現実に行うとこうなる!と見せられた気分です。
でも女子力は確かになくなったかもしれないけれど、
人間として限界まで高みを目指す、戦闘力に全てをかけるその姿は本当に美しい。
例え全裸の状態で足もって引きずられていったとしても!
それにしても果たして、都合よく訓練後に調子が悪くなるという女子シャワールームの鍵は、
誰かの異能や策略によるものなのだったりするのだろうか…。

テッドブロイラーさんの夜食をたかりにいく女子…女子?たちのシーンも好きでした。
なんて良い人なんだテッドブロイラーさん…!見た目あんなんなのに。
この「家に帰るのもしんどい&めんどくさい」から食事をたかる姿、
すごく実感がこもってますなぁ。
ベーコン焼きに大盛りご飯という破壊力の高い飯テロ回ぶりも含めて、
実に良いエピソードでした。

さて本編の感想。
いやー、リブートか。リブートかー!
全く予想しておりませんでした。こんな形でタイトルに別の意味が出てくるとは!
連載が終わって、さて感想を書くために読み返そうとすると
またもう一味が出てくる、登場人物たちの白々しさよ。
しれーっと嘘をついているカイトと黒姉とかねぇ。
一度目に読んだときに読み流していた表情にも、意味あるようで良い味が出ております。
できない夫の足のかゆみが出てくる場所と、
メイコが通信に干渉している部分も気にして読むとまた面白い。

管理者であるマルシルの苦悩も一味ふた味と、読み返すたびに面白さが増してくる。
このストレスを吐けるのがラストの提灯屋台ぐらいなんだろうな…。
某ワッハマンで「日本では考えられる限りのセキュリティを運用してるが、
情報そのものは帰りの赤ちょうちんでだだ洩れ
」なんて登場人物がぼやいていましたが、
それを地で行くあたりがなんとも。
そんなところまですっかり日本ナイズ&人間ナイズされてるぜマルシル。

という感じで、読み返しに耐え得るタイムリープものとしても、完成度の高さに唸らされました。
完璧にシナリオ構築をしてから、揺らぎなく連載したので
ここまでがっちりした完成度なんだろうな…。
なにせ連載中は前半は日刊投下という恐ろしいスタイルだったので、
書いていてシナリオの揺らぐ暇もなかったでしょうし。

一番好きな戦闘はやはりラスト。
デビルサマナー対特殊部隊、双方が死力を尽くした上で隠し技の全ても出し尽くし、
肉体と肉体、力と技のぶつかり合いになった上で、
相手を殺さず捕縛して勝利するという息詰まる戦い。
お互いに追い詰められている、焦燥感が伝わってくる戦闘でありました。大好き。
「コーナーショットになっちまってる」は物凄くハイセンスな言い回しだと思うんだけど、
他の読者の方々はわかったんだろうか…。
次点は厳密には戦闘じゃないけれど、公安&月との応酬。
言葉での威嚇と威圧、それも一手でも間違えれば惨事になる緊張感が素晴らしかった。
そんな緊張の中、棚をどけるのに四苦八苦するうどんげがまたプロフェッショナルらしくなく、
ニヤッとさせる対比。これも良い味でございます。

他にも、女神転生シリーズを知っていると幸せになる記述も
物語内に散りばめられていて、探せば幸せになりますな。
スーパーファミコンのコントローラも桐条製だったり。
悪魔召喚プログラムについて旧女神転生なナカジマだろう記述まであったり。
真女神転生とペルソナの繋がりを納得させる設定とか。
…今思ったけれど、ペルソナからこの作品に使われているキャラがいますけど…
もしかして風花さん、あのP3の事件からLAWに配属されたんだろうか。
全てのペルソナが実際にあったことなら、もしかして…。

マルシルさんの正体や「装置」の時代設定なども気になりますなぁ。
マルシルさんが言った「17年」、ペルソナ2が発売された頃からのLAWだったり、
装置ができた「1990年」、旧約の女神転生2が発売された年だったり。
元ネタとして語られていたSCPとの絡みも考えると、
こういう時代設定に対する深読みをいくらでもしてしまいそうで怖いです。
どこまでミントドリンクさんは設定していたんでしょうなぁ。…妄想捗る。


というわけで今作、またも素晴らしい出来栄えの一作でありました。
ネタ切れとスレでは仰っておりましたが…いや、必ず帰ってきてもらえると信じております。
次の作品まで、楽しみにお待ちしたいと思います。







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