イムバドゥの悪魔
(このやる夫スレ、まとめてもよろしいですか さん まとめ)


地球帝国のヘリウム3産出を一手に手がけるスペースコロニー郡、「劉天自治区」。
彼らは地球帝国の圧制に対し、ついに叛旗を翻した。
人類による初の星間戦争の中、イムバドゥの悪魔と呼ばれる一人のエースが誕生する。

「スパイダーマン》8《アトラク=ナクア」「ゴブリンスレイヤー」のKUMOさんによる中篇。
主人公は『魔法科高校の劣等生』の通称さすおに、司馬達也。

現在一部のやる夫安価スレ作者の間でブームになっている、「あんこスレ」による物語。
「あんこスレ」とは安価スレにあらず。
作者自身が選択肢を準備し、
作者自身が掲示板の機能によりダイスをふって、
そのダイス目結果に応じて物語を紡いでいく、という方式である。
(もちろん作者毎に、適度に安価を挟んだりといったアレンジも行う)

余談となるが、詳しくはイムバドゥの悪魔をまとめていらっしゃる
「このやる夫スレ、まとめてもよろしいですか」さんに掲載の
◆YEKWjQDMZ6さんのまとめ作品、
戦国尖っている」「機動戦士ガンダ…」などを読んでいただければ、
その破壊力が解っていただけるだろう。合言葉は熱烈歓迎。
これらのスレの破壊力から、KUMOさんやそのご近所に至るまで
この「あんこスレ」による作品構築が一時ブームとなっていることは間違いない。
同システム・同作者の「生体につき、取り扱い注意」は
新世紀エヴァンゲリオン(テレビ版)を下敷きにしたあんこスレであり、
その物語構築とカオスに私も度肝を抜かれた一作。
今作を読み終わった方は、同作品にも一度触れてみていただきたい。

さてイムバドゥの悪魔。
これまでのKUMOさんの作品ではあまり切り込まれなかった、宇宙空間での戦闘活劇である。
スペースオペラであり、SFである。
物語が始まる前は、そんな未経験な舞台設定で、
新しい物語構築システムを試してみて大丈夫なのかという不安もあったが、
ダイスの転がり方はそんな心配を吹き飛ばす。
名前や地名、月日や戦闘結果、人間関係や感情、会話の流れまでダイスによって決められたこの作品が、
全てがランダムであるなどとは信じられない不思議なまでの完成度と、
ランダムであるが故の緊張感、そしてKUMOさん自身にも想像していなかった物語の
引き出しを開く結果となっている。
読み進めるごとに、なぜか物語が偶然の手によって完成していく奇跡を目の当たりにするはずだ。
私も最終話まで読み終えた後は、何かの魔によって、
白昼夢を見せられていたのかと思ったほどの感動を受けた。
この感想文を書くために二度目を読み直しているが、
まだ何かに騙されているんじゃないのかと思うほどである。…なんでこのタイミングでこんなダイス目が…。

KUMOさん自身がTRPG慣れしているせいもあるだろうが、
予想外の選択肢がダイス目によって出ても、その後の選択肢を即座に作るセンスが光る。
また読者達のセンスの良い書き込みやセリフ、各種設定も拾う。
…などなど、GM能力の高さもこの物語が完成・完結した一因であるだろう。
そんなKUMOさんも作中、ダイスのあまりの荒ぶり方に、
ダイス自身に喧嘩を売ったシーンは見もの。
そのシーンがどこなのか、ぜひ楽しみながら読んでもらいたい。(勝負にはもちろん負ける



以下はいつもどおりネタバレこみの感想。
ぜひとも作品の読後に戻ってきてくださいませ。







読み返せば読み返すほど味が出てくる…。
シオニーと代表の会談とか、読み終わってからだとなんとも…こう…ねぇ。
準備されていたけれどもダイスでとられなかった他の選択肢にも、
あんな意味やこんな意味があったんじゃないかと思ってしまうじゃろ!?
もちろんダイスで後に生えてきた設定であり、その時点では主人公との関係なんざ
欠片も決まっていなかったのであるが。
不思議不思議。

というわけで、私の一番好きなシーンはこの会談シーンであります。
ダイスで決まるとはいえ、二つの国の合意に向けての折衝というシーンですが、
第一案と第二案の選択肢の差や、代表がこの案を呑むかどうかの成功率設定がGMの技。
前述した「女の戦い」は後で生えてきた味わいあれど、
政治的駆け引き緊張感バリバリのこのシーンは実に味わい深くありました。

次点はKUMOさん、ダイスに向けて「受けてたつぞ」のシーン。
いやもう振れば振るほどドラマチックが溢れ出して止まらないダイスの暴走からの、
「こいつガチだ(素) 」。「教訓:ダイスさんを挑発してはいけない」。
「俺はもうダイスに従うことにしたよ 」。
いやもうニヤニヤが止まりませんわ…。
ナンデ!?ナンデコウナルノ!?と読みながら腹抱えて笑っておりました。

キャラはもう、どのキャラもダイスで決めたとは思えないほど魅力的で。
主人公が「ストイックで修行大好き機械のようなエースキャラ」のイメージから
「実は家族思いで行動の端々に人間味の溢れる不器用なクールキャラ」に変貌していくところとか。
ダイスの女神に愛されまくったおかげで、ただの敵対者からラスボスに登り詰めた犬姫様とか。
(出てくる登場人物全てに「嫌い」ダイスが振られ、ついに固定値になったことはもう奇跡としか)
悲しくなるほどセメント対応を突きつけられ続けたネロちゃまとか。
運命力にてヒロインの座をもぎ取った代表とか。
突然現れたように見えて、ヒロインだった革命軍エースな人とか。
…本当にダイスで全部決まったの?KUMOさんがプロットを書いてたんじゃないの?と
思わせるほどの濃いキャラたちでございました。ステキ。


最後に。
多分この文章を読んでいただけている方々には周知のことかも知れませんが、
KUMOさんが「蝸牛くも」の名前で「ゴブリンスレイヤー」を小説化されることが決定しました。
…どころか2月には出版予定でございます。





実際のところ、かなりの間執筆活動に注力されていたご様子で、
雑談スレを追いかけている身としては「このままもう、スレでの創作物は描かれないかもな…」と
それが当たり前ではあるのですが、寂しい気持ちになってもいたところでありました。
だがそんな中で、突然スレにてこのイムバドゥの悪魔の連載開始!そして堂々の完結!素晴らしい!
「まとめても」さんでまとめられる映画評や創作お話も好きですけども、
やっぱりKUMOさんのストーリーも読みたいのですよー!(贅沢)

そしてこの完結に留まらず、次は冷戦が未来まで続いたソ連が舞台の渋い銃撃戦サイバーパンク!
やる夫スレ世界でもまだ、その創作物を読めるのは非常に楽しく、ありがたく思います。
次はダイスがどう転がるのか…楽しみでございます。


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