やらない夫と黄昏のミレニアム
(yaruyomi さん まとめ)

世界は滅んだ。東京に落ちたICBMと、その後の核戦争によって、世界は一度滅んだ。
しかしかつての日本・東京には、神が作ったといわれる巨大な町、ミレニアムがいつの日か存在し、
神を信じるごく少数の人々が、管理と平和の中で暮らしていた。
物語はその地に、ある記憶喪失の青年が目覚めるところから始まるーー。

ゲーム原作:真・女神転生2
主人公:やらない夫

全54話の長編。
前作に、「やる夫と悪魔召喚プログラム」(同じく yaruyomi さん まとめ)

女神転生というゲームがある。
3Dダンジョンという日本のRPGに受け入れられにくい特徴を持ちながら、
一時期はあのファイナルファンタジー・ドラゴンクエストと並んで評価されたほどのゲームである。
もともとは西谷史原作の小説の、メディアミックスの一環としてのゲーム化であったが、
「敵として現れる悪魔と会話し仲間にする」
「核戦争後の荒廃した世界」
「悪魔を呼び出すのは術などではなくコンピュータ」
といった、当時としては尖りに尖った世界設定・ゲームシステムその他が
人々の心を鷲づかみにした。
私も鷲づかみにされた一人で、友人Jも同じ趣味を持つ同志である。
(余談:友人Jは、声付き真女神転生1をプレイしたいがために「メガCD」を手に入れた筋金入り)

やる夫スレでもこの女神転生シリーズを取り上げたり、
女神転生から派生した「ペルソナ」シリーズを世界観に組み込んでいる作者は多く、
人気が高い素材であることが伺える。
…なのだが。惜しむらくは、原作のゲームが大長編であること。
ストーリーを追うだけで、作者のほうが息切れしてしまうことも多く、
「女神転生」をテーマに扱い、完結に至ったやる夫スレ作品は数えるほどしかない。

その上この作品の原作、「真女神転生2」は、
端的に言って、二次創作という面であまり人気がない。
理由としては、上記あらすじのとおり、
前作・真女神転生1のラストで神が作った町、ミレニアムを物語最初の舞台としており、
天使たちが作りあげ、ある程度の時間が経ったガチガチの管理社会が、
二次創作を考える上で自由度が低いからなのだろうなと思う。
実際原作ゲームとしても…うん、前作真女神転生1や女神転生2はストーリーを覚えているのに、
真女神転生2のストーリーは記憶がおぼろげであったり。
私も一周しかプレイした記憶がないんだよなぁ。
とまあそんな原作作品なのである。

前置きが長くなったが失礼。
そんな二次創作を作り辛い原作を調理し、再構成し、独自の味付けを加えた上で、
しっかり完結まで描いたこの作品。
原作をプレイした人なら、読めば記憶が呼び起こされ、
「ああ、こんなんだったこんなんだった」と再構成されること間違いなし。
また、この女神転生シリーズというもの、
ストーリーで何もかも語るのではなく、少しだけ匂わせて想像に任せる部分が多い作品なのだが、
その想像力で埋めるべき隙間の部分をも、作者自身の手で丁寧に埋めていることがわかるだろう。
原作ゲームで、「ある女性に渡される悪魔がケルベロス」という部分をこの作品は掘り下げている。
という↑の言葉に心がワクっときた人は、ぜひこの作品を手に取ってもらいたい。

一応前作として、真女神転生1を原作とした作品、
やる夫と悪魔召喚プログラム
があるのだが、残念ながら今回私は未読。
読まなくても十分に楽しめる出来にはなっているとは思うが、
作中で何度か前作の話が語られるので、興味がある方はそちらから読まれるといいだろう。




続きを読むの下には例によってネタバレ感想。
読んでいない人はお戻りください。
















…え、あれ?天使銃は?あれで終わり?
あそこから「BAROQUE」的世界観に侵食されて精神塔やら偽翼をつけた天使やらが
現れると思っていたのに!
メタトロン的な人造天使が出るところまでは想像していた。残念!
(やると物語が終わらなくなります)

真メガテン2の記憶ももうおぼろげとなった私ですが、
序盤の記憶喪失状態~ベスとの別れまでのストーリーは克明に覚えておりまして。
この作品も読んでいてまあ序盤から、彼女との会話が痛いこと。
未来にある別れを知っているわけで、会話が刺さって来ます。
遥か昔に読んだ、御祗島千明が描いた真メガテン2の漫画でも、
全三話という短さゆえに仕方ないことなんですが、
記憶喪失の主人公が彼女と別れるところまでしか描かれていないんですよねー。
なんというかもう、その漫画の記憶と自分のプレイした記憶とで、
私にとってこのゲームのヒロインはベス。異論は認めない。
そのせいで↑の作品紹介でヒロイン:を書くかどうか迷った。
原作では作られたメシアのためにあてがわれた、
主人公の力及ばず殺されるために生まれた、
主人公に十字架を背負わせる役としての存在だった彼女ですが、
この作品ではそこまでダークな設定でなく、救いがあってよかったと思います。
別れから再会のシーンもね…。

水銀燈さんも可愛いですけどね。
処女懐胎&インセスト・タブーはちょっとヒロイン属性としては…と当時も思っていたけど、
それなのに作中でさっくり踏み越えたやらない夫はすげぇと思った。
もし深く掘り下げたら昼ドラ真っ青だよ!

ザインもダレスも、与えられた役柄に諾々と従うキャラクタでなく、
彼らなりに悩み選択した末の運命であるところもよかった。
誠はもっと幸せになっていい。ホレ薬なんてなくていい、なくてよかったんや…。

ちょっと私が作中気になったのが、やらない夫の精神性。
ロウにもカオスにもあまり染まらず、双方の企みを破壊する中立に生きるという結論に至るまでが
少し人間らしくはないかもなぁ、と思いました。
彼が非常に強固な、譲れない自分を持っている、と作品を読んでいて実感するのですが、
どうにもそれが頑ななイメージがありました。
ロウ側の良い面に出会い、「ロウ側に立つのもアリなのか」とグラリときたり
カオスの説得に会い、「彼らと手をとるのもいいかもな」と揺らぐ、
グラグラ揺れる天秤のような葛藤をもう少し深く描いてほしかったかなぁと思います。
序盤のセンターのやってきたことを考えれば、
ロウに反感を抱くようになるのは当然とは言えるんですけどね。

大天使達や悪魔達、仲間達もNPC達も、悩んで悩んで戦っている描写はすごくいいんですが、
彼の精神性だけは惑い揺れる人間というよりはニュートラル・ヒーロー。
その姿はさすが主人公というべきか、
ルイ・サイファーや四文字さんとそっくりだと思いました。揺るがない・曲がらない。
それは物語のオピニオンリーダーとしては仕方がないことなのかもしれませんが、
私の好みとしてだけですが、少しだけ残念なところでした。
…もしかして前作で、人間らしく揺らぐ心はやってしまったのかなぁ。そのうち読まなければ。

あ、最終戦の描写は大好きです。
思い出の詰まったそれまでの武器を使い潰していくところは本当に好き。
最後の武器を振るって、彼の拳が砕けるところまで想像してましたが
そうはならなくてよかった…!


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