偉大なる冒険者・水銀燈の華麗なる日常
(やる夫叙事詩 さん まとめ)

よくある剣と魔法の世界、冒険者の集う街。
ここには悪しき魔法使いが作った迷宮があり、数多くの人々が冒険を求め賑わっていた。
水銀燈はそのような冒険者の一人として、田舎からこの街へとやってきたのだが。

ファンタジー剣と魔法の世界立志伝もの。
全七話、後日談ありの短編。非安価スレ。
主人公はタイトル通り、ローゼンメイデンより水銀燈。
ヒロインというより相棒役として、やる夫とやらない夫。

主役にやる夫とやらない夫、そしてローゼンメイデンで、
剣と魔法のファンタジー…これはちょっと古典パターン過ぎやしないか。
ちょっと期待出来ないかもしれないな…などと、
読み始める前に思ってしまった自分を殴りたい。ハリセンで。
冒険者としての第一歩を踏み出すため、
冒険者の酒場で仲間を探す水銀燈。
仲間に誘ってくれたやる夫とやらない夫のパーティに入ることになる…までは、
「王道でありパターンに嵌った凡作」だと思っていた。本当にお恥ずかしい。

第一話中盤から雲行きがおかしいな、と気がつく人は居ると思うが、
必ず第三話までは、何も言わずに読むことをお勧めする。

名作。
王道ファンタジーでありがちの舞台設定に、正統な理由付けがされた人間と世界観。
迷宮から産まれる謎と、その謎が解かれていく楽しみと、
謎は解けていくのに関係なく、人間の悪意に翻弄される主人公たち。
短編だというのに一話毎、次々と遷り変わっていく状況。
へこたれず、支え合って生きる冒険者たち、と、
よくもたった全七話の短編に、これらを描ききったと驚嘆するだろう。
後日談の出来までも珠玉。


少しだけネタバレ込み感想を続きに。
短編なんだしすぐ読めるから、未読なら戻って作品を読むんだ。

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ふう。
こういう驚きを与えてくれる作品で、ネタバレなしで紹介することの難しさよ。

第一話で妙な世界観ではあるなと思っていた。
部屋で敵の沸き待ちをしながら、沸くザコを狩り続けて小銭を稼ぐ冒険者、
しかも沸くポイントは予約制とか、ダンジョンの深部は、
ギルドが権益のために封鎖しているとか。
まあこれくらいならMMORPGで見た事はあるし、
世界観を突き詰めて考えれば、こんな乾いたFarmingに生きる
才能の無い冒険者もいるのだろうなぁと。
…実際、BOTやRMT業者の蔓延るネットゲームでは、
この手の底辺アイテム自動集めキャラがぞろぞろ居たしね。

しかし第二話のレアアイテムを手に入れてからの、
話の転がりようは実に素晴らしかった。
他の冒険者から奪われることを警戒し、
やっと家に戻ってからも高額すぎて&状況で売れない。
やらない夫の夢をうちあけられ、先輩からの助言により経済と裏の思惑を感じ始め、
怒涛のような次階層への開放。
仕組まれた裏の目的を読むシーンなど、本当にたまらないね。
この「ただ高額なアイテムを運で掴んだだけで、這い上がっていく」のでは
無い部分が、この物語の魅力的な部分かもしれない。
普通はこういう手に入れ方をしたレアアイテムが、
価値が目減りして7割になっている。売るか?売らないか?という
選択を突きつけてくるのは早々無いだろう。
冒険者がのし上がっていく物語で、レアアイテムを手に入れたら
売るか自分で使うか選んでおしまいだよな、普通の物語なら。

夢のために金を貯めて、危険を冒して、心情を吐露するやらない夫。
そして三人の夢となった宿屋を始めるところも実に素晴らしい。
そしてそんな夢の塊に対し、この店を畳めと言ってくる友人たちと、
それをはね付けるやらない夫のシーンは特に気に入った。
三人で相談する、一緒に戦ってきた、生きてきた信頼から来るだろう
「嘘も虚飾もない相談」のシーンも大好き。
特にこの、昔からの夢を持っている・夢を叶えた・その夢がもろくも崩れ去る、と
全てを揃えたやらない夫の絶望は大好物。

後日談もしっかりと登場人物は網羅している、
主人公たちは実はあまり街の趨勢には関係が無かったオチ、
それなのに物凄い冒険はしてきたとはっきりわかる、と
本当に、痒いところの奥の奥まで手の届いた出来栄えで、
読後の清涼感に一段と深みを増してくれた。
あんな別れ方をしたポルナレフが、やっぱり戻ってきている所なんて
もうたまりませんわ。
関係者の殆どは幸せになって、戻ってくるところはやっぱりここ、という終わりも最高。

ほかにこの作者さんは描いていないのかな…。情報はないかぁ、残念。

蛇足。
作者さんはMMOをプレイしてきた香りが作風に感じられるが、
ううむ、「ギルドがダンジョンを占拠して独占」とか、
「ガントレット・オブ・オーガパワー」とか、PKを許容する世界観とか
敵の沸き待ちFarmingとか鬼湧きとか、
もしやLineageのプレイヤーではあるまいか。
などと思ってしまった。
経済や裏事情など、一プレイヤーが裏にでかい物が存在すると推論できる
ある意味いいゲームでした。業者だらけだったけど。

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