やる夫は魔法世界に流れ着くようです
(やる夫まとめに挑戦 さん まとめ)

ある日やる夫が目覚めると、そこは異世界。
魔法と個人の才能を表す「札」と、
ダイスとが人々に密接に関わる魔法世界だった。

異世界召喚主人公成長物語。大長編。安価スレ。
2012年8月~2014年4月まで連載された、長期連載。
主人公はやる夫。
ヒロインは決定されず、物語が進んでからの話となる。
上のまとめさんで読む時、プロローグの直後にシステム説明のまとめがあるが、
プロローグよりも後の質問に対して語られた部分も同ページ内にあり、
ネタバレとこれなんのこと?で頭の中が???マークで埋まることになるので注意。
シナリオ最初の、村でのあれこれが一段落ついたぐらいに、
具体的には最初の年の7月イベント終了
読み返しに戻ってくるのがちょうどいいだろう。
(個人的にはこの質問に答えるページ、二つ三つに分けたほうが良いような気もする)

最初に何もかもすべてが決まっていない、真っ白な状態という
安価スレとしては非常に珍しい状態から始まる。
世界がどのようなものか、魔法とはなんなのか、
数少ない情報源から世界を理解することが最初の関門。
その上で最終目的どころか、主人公がどこに行くのか、何をするのか、
誰に会うのか、どう成長するのかも全てが安価で決定。
最初期のウルティマも斯くやと思わされる自由度である。
残念ながらそれは、五里霧中の状態で手探り足探りで歩き出すような
とっつきにくさと表裏一体。
そのため新しいシステムに対して悩み、大量の疑問が湧き出る参加者達と、
GMとの折衝・世界観の共有のための摺り合わせとが
少しばかりスタートダッシュにブレーキをかける感がある。が、
参加者たちと読者に世界観の共有が出来た位から、
勢いよく物語が転がりだす。

このシステムの肝であり、成長システムの根幹である「札」も特徴的である。
主人公のやる夫は成長するため、技能を覚えるために指導者に学び、
一定の経験値を得るとその技能の「ダイス」を手に入れる。
そのダイスを神殿に住まう神官の下で振ることにより、
対応する6種類の、スキルが書かれた「札」から一枚手に入れるというもの。
この札、ダイスを手に入れただけでは、どんな札が手に入るのかも未開示。
札自体にレベルがあるものもあり、6回振れば全てが手に入るわけでもなく、
コンプリートまでの道程も大体は未開示。
しかし主人公成長のためには、手に入る全てのダイスを振るわけにもいかず
取捨選択を迫られる。
先の見えない成長と、有限である金をどうダイスに振り分けるかは
この物語の見所である。

ちょっとシナリオ後半に至って、データの肥大とシステムの軋みの蓄積に
GMの悩むところが多かったらしく、連載が滞る部分も見えるが仕方なし。
連載が長ければ長いほど、登場人物や過去との整合性、
固まってしまった世界観など、縛られるものが多くなるもの。
しかしこの長期連載を切り盛りし、グランドフィナーレと言えるほどの
エンディングを迎え、奇麗に物語を締めた。
この手腕には素直に拍手を送りたい。




以下はいつも通り、ネタバレこみの感想になります。
まだ未読の方はここで戻って下さい。



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この物語のポイントは、「自由度」だと感じた。
この札システムとGMの、
「世界観についてはGMは深くは説明しない、キャラを操って自分で見聞きしてください」な
プレイングに瞳を奪われていたため、
この恐ろしいまでの自由度に気がついたのは既に、
文筆の虜になった主人公を見てからだった。
…もしかしてこれ、別の成長をしていれば、
全く違った人々と共に、同じ問題に相対していたんじゃないのか、と。
シナリオでは安価の決定が、
「成長するためにもダイスを振る、そのために金が必要だ」から
「文筆系の仕事をする。ほぼ全ての金は一点集中文筆系ダイスだ」に繋がってしまったが。

GMのアバターであるキョン子さんの口からも、
少なくとも冒険者ルートや最初の村で暮らすルートがあったと聞いた。
うむむ、もしかしてシナリオがある一定方向へ暴走すれば、
やる夫が闇へ闇へと転ぶシナリオさえもあったかもしれないと思うと、妄想が捗る。
村から町へ出たあたりで悪い仲間を見つけ、盗賊へと身をやつすやる夫の姿や
暗黒に堕ちた竹魔導師として覚醒、虐げられた魔族と出会うなんてのも面白いじゃないか。
もちろん遺跡漁り、冒険家として秘宝を探るのもよし、
傭兵として国と国の戦いの場に身を立てるのもよし。
どんなルートでも許容される場を作ったという、自由度の高さ。
その挑戦的な試みは高く評価されてしかるべきだろう。

この夢広がる世界観、自由度の高さを生かすためにも、
同じシステムと世界観と時間軸で第二部・第三部と続けて欲しいな。
一話をもう少し短く、具体的には三年程度で時間設定し、
エンディングに相当するフラグやステータスを得たらその時点でエンディング、とか
シナリオ面の軽量化も含めて、挑戦的にやってみてほしい。応援しています。
参加者の人々とGMとの共通認識が固まっているので、
これまでよりも格段にスムーズに物語が進むと思うんだ。

もちろん乗り越えなければいけない部分も大量にはある。
ダイスを振るよりも魅力的なお金の使い道の提示と、
肥大化するステータスを、GMが扱いやすいように簡易化することだ。
お金は…まあ頑張って考えてもらうとして、
ステータスに関しては一年ごとに、
細分化されているデータをまとめて統合するタイミングがあるといいかも。
物語一年目と二年目と三年目で、戦闘のバランスががらっと違ってもいいじゃないか。
…とはいえ、私程度の者が考えることなんて、もう既に通っていそうだな。

物語に話を戻して。
どこで主人公が立ち止まってしまってもいいほどに、
最初からかなり濃い目の人間関係を描いていたのが良。
村に留まるか、街に出て行くか。町に留まるか、王都に出て行くか。
この二回の重い選択は、実に良かった。
まるで故郷を離れて東京へ働きに行く地方出身者のように、
出会いと別れの重さをずしりと感じ取らせてくれた。
この世界で最初にできた友人とも言える、QBや街の人間と別れるのを選ぶ所は
素で「え、そっち選んじゃうの?」と声が出たほど。
かなりのGMの手間をかけたと思しき、コミュで書く手紙の内容も
それまで積み上げた人間関係を疎かにはしない、という姿勢が見えて本当に良かった。
…それにしても、本当に手紙は頑張りすぎ。
大体の作者が手紙の内容などは誤魔化し、適当にぼかすというのに、新鮮でありました。

気になった部分はやっぱり、ダイスを振る必要が無くなってからの展開か。
もちろんグランドフィナーレで、それまで登場したほぼ全ての人たちと
最後に会話するエンドは素晴らしかった。
が、成長ダイスを振る必要性が無くなってから、
具体的には戦争を回避・暗闘に勝利・魔族の解放からそこに至るまでが
少々冗長だったかなーと思わなくもない。
いやうーん、魔族の方々ともコミュする余地を残すために
…うーむ、要るといえば要るか…。
本を書いたりうどん作ったり、全てを終わらせてからでないと落ち着いてできないという
設定時間への追い詰められ方も、安価参加者の思考からすれば理解できるし。
こういう主人公の運命とか、世界の危機の合間にある、
わりとどうでもいい時間というエピソードが、私としても大好物なのであるし。
やっぱこの指摘、なし!
あれはあれでいいのだ!

総評。
自由度の高さを感じ取れる、力作。
高い自由度の作品は、そのままGMへの負担に跳ね返る。
だというのに長期連載を続け、エンディングまで描ききったのは見事。
次回作も同一世界観だと楽しめるんだが、どうかなぁ。
ともあれ長期連載お疲れ様でした。

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