目次
9391 : 語り人 ◆MlbFIuQyJ6 : 2019/11/16(土) 21:58:33 ID:wog6DOxw0
やばい! しっくりくる!
先日、祖父が亡くなった。
柳川生まれの、昔ながらの九州男児であった。
祖父が死んだ後、家族で祖父の家を整理することにした。
祖父が死んだことで、祖母は生まれ育った弘前に帰りたいといい、先日弘前の老人ホームに移ったのだ。
祖父の家は浅草にある。祖父は研究者として大学に長年勤め、浅草の地を愛しこの街から大学へと通勤していた。
すると、一冊のノートがあった。
古ぼけたノートだと思い見てみると、一ページ目にこう書いてあった。
先日、文学狂いの同僚より妻とのなれそめを三人称で書いてみろ、といわれた。
同僚との飲み勝負に負けてしまった自分が情けない。
そのようなことがあった。
父に問いただしてみると、父もまた祖父母のなれそめなど知らないという。
なるほど、面白そうだ。
真だ祖父には悪いが、このノートの内容をさらしてみようと思う。
表紙に書かれていたのは、2007年。今から60年ほど前だ。なるほど、祖父母が大学時代を送っている年代である。
では、故人には本当に申し訳ないが中身を見させてもらおう。
とぼとぼと男が歩く。
周囲は桜が満開、場所は弘前。
弘前城が眼前に聳え立ち、桜は街を白化粧した御淑やかな令嬢から華やかな姫に変える。
男は弘前に住む学生だ。
己の求める学問を行える専門の先生が弘前大学にいたので、九州より一路弘前まで飛んだ男である。
男は後悔していた。
弘前という場所に来たことを、だ。
男が生まれ育った地は、柳川だ。
温暖で、緑あふれる九州の地方都市である。
その柳川に比べ、弘前は寒すぎた。雪に閉ざされ過ぎた。
深々と降り積もる雪は、牢獄のように男の心を鬱屈とさせる。南国生まれの男にとっては、雪というものは未知であり、そして理解ができなかった。
ふっと、弘前城を見る。
堅牢、という言葉で表現すればよいのだろうか? あるいは、優美という言葉で表現すればよいのであろうか?
日本最北の現存十二天守は、鬱屈とした男の心を見透かしているようで、気が悪い。
桜が咲き誇り、人々が楽しげに笑う。雪に閉ざされた津軽の人々にとって、この桜は冬の無聊を慰めてくれるものなのだろうか。
そんなことを思いながら男はまた、トボトボと歩く。
ふっと前を見ると、ベンチに見覚えのある女が座っていた。
同じ大学の女である。
普段からあまりしゃべらず、たまたま実験で同じ班になったときに話したことがあるが、何をしゃべっているかよくわからなかった。
聞いたところによると、深浦というところの出身で、この深浦という地は津軽の訛りが強いところらしい。
なんとなく気まずく、話かけずに避ける様に男は行こうとした。
女は本を読んでおり、こちらに気が付く様子はない。
本を読む姿は、きれいだな。
男はふっとそう思った。
実験で一緒の班になったとき、女は生真面目であったが不愛想であった。
本人は実験の後で、少し申し訳なさそうにしていたが、本質的に南国の気質である男からすると、合わないなと思った瞬間であった。
だが、本を読んでいるときの女の顔は何というか生真面目な美しさがあった。
どんな本を読んでいるのだろうか、とじっとのぞき込んでみる。
表紙にあったのは、でんぢゃらすじーさん。
男は湧き上がる滑稽な心を抑えながら、桜の木の陰に隠れる。横隔膜の痙攣を必死に抑えながら、女に気が付かれないように深呼吸をした。
なんというか、女に対する印象が変わった。
もっと知ってみたい、という知的好奇心がわく。
そういえば、まずは外面をあまり見ていなかった、男はそう思い隠れていた期からそっと出てみる。
女の見た目は、丸顔短髪、メガネはぐるりと円になっている、分厚いレンズががちりとはまっているものだ。
北国の女らしく、練り絹のように白くなめらかであろう肌が、目についた。
この人込みならばれないだろう、と思い静かに女が座るベンチの近くまで移動してみる。
ふっと、風が女の方から男の方に吹いた。桃の香りがする。女の使っている化粧品だろうか?
そう思いながら、男は女に気が付かれないように静かに立ち去る。
次あったらもっと話してみよう、男は雪に閉ざされた弘前でも楽しめるかもしれない、という微かな希望を抱いて、
けらけらと笑っているように見える弘前城の方に向かった。
これがなれそめ……なんというか、祖父はなかなかに変な男のようだ。
おしまい
9392 : 語り人 ◆MlbFIuQyJ6 : 2019/11/16(土) 21:58:46 ID:wog6DOxw0
78746 :日常の名無しさん:2019/11/16(土) 15:17:47 ID:-[ ]
最初の五行でいろいろと思うことがあったけれど、
冒頭に「祖父の大学時代のノートを見つけたので晒してみる」って書きたくなるな。
____
/― ― \
/(●) (●) \ これに従って改定してみた
/ (__人__) \
| ` ⌒´ |
\ /
/ \
| ・ ・ )
. | | / /
| | / / |
| | / / |
(YYYヾ Y (YYYヽ |
(___ノ-'-('___)_ノ
おしまい
9394 : 尋常な名無しさん@┗( ^o^)┛( ・m・)【 令 和 】J('ー`)し('∀`) : 2019/11/16(土) 21:59:54 ID:c2rwYKQ.0
流石に草
9399 : 尋常な名無しさん@┗( ^o^)┛( ・m・)【 令 和 】J('ー`)し('∀`) : 2019/11/16(土) 22:04:36 ID:eLlkL5so0
文豪ストレイドッグスかよ!
9407 : 尋常な名無しさん@┗( ^o^)┛( ・m・)【 令 和 】J('ー`)し('∀`) : 2019/11/16(土) 22:12:45 ID:4pL60DUA0
>>9391なんか一気に時代が現代に近寄ってるんですけどwww
9711 : 語り人 ◆MlbFIuQyJ6 : 2019/11/17(日) 17:30:59 ID:9UfIQMhk0
とりあえず時代を合わせたぞ
先日、祖父が亡くなった。
柳川生まれの、昔ながらの九州男児であった。
祖父が死んだ後、家族で祖父の家を整理することにした。
祖父が死んだことで、祖母は生まれ育った弘前に帰りたいといい、先日弘前の老人ホームに移ったのだ。
祖父の家は浅草にある。祖父は研究者として大学に長年勤め、浅草の地を愛しこの街から大学へと通勤していた。
すると、一冊のノーとがあった。
古ぼけたノートだと思い見てみると、一ページ目にこう書いてあった。
先日、文学狂いの同僚より妻とのなれそめを三人称で書いてみろ、といわれた。
同僚との飲み勝負に負けてしまった自分が情けない。
そのようなことがあった。
父に問いただしてみると、父もまた祖父母のなれそめなど知らないという。
なるほど、面白そうだ。
真だ祖父には悪いが、このノートの内容をさらしてみようと思う。
表紙に書かれていたのは、1947年。今から60年ほど前だ。なるほど、祖父母が大学時代を送っている年代である。
では、故人には本当に申し訳ないが中身を見させてもらおう。
とぼとぼと男が歩く。
周囲は桜が満開、場所は弘前。
弘前城が眼前に聳え立ち、桜は街を白化粧した御淑やかな令嬢から華やかな姫に変える。
男は弘前に住む学生だ。
己の求める学問を行える専門の先生が弘前大学にいたので、九州より一路弘前まで飛んだ男である。
男は後悔していた。
弘前という場所に来たことを、だ。
男が生まれ育った地は、柳川だ。
温暖で、緑あふれる九州の地方都市である。
その柳川に比べ、弘前は寒すぎた。雪に閉ざされ過ぎた。
深々と降り積もる雪は、牢獄のように男の心を鬱屈とさせる。南国生まれの男にとっては、雪というものは未知であり、そして理解ができなかった。
ふっと、弘前城を見る。
堅牢、という言葉で表現すればよいのだろうか? あるいは、優美という言葉で表現すればよいのであろうか?
日本最北の現存十二天守は、鬱屈とした男の心を見透かしているようで、気が悪い。
桜が咲き誇り、人々が楽しげに笑う。雪に閉ざされた津軽の人々にとって、この桜は冬の無聊を慰めてくれるものなのだろうか。
そんなことを思いながら男はまた、トボトボと歩く。
ふっと前を見ると、ベンチに見覚えのある女が座っていた。
同じ大学の女である。
普段からあまりしゃべらず、たまたま実験で同じ班になったときに話したことがあるが、何をしゃべっているかよくわからなかった。
聞いたところによると、深浦というところの出身で、この深浦という地は津軽の訛りが強いところらしい。
なんとなく気まずく、話かけずに避ける様に男は行こうとした。
女は本を読んでおり、こちらに気が付く様子はない。
本を読む姿は、きれいだな。
男はふっとそう思った。
実験で一緒の班になったとき、女は生真面目であったが不愛想であった。
本人は実験の後で、少し申し訳なさそうにしていたが、本質的に南国の気質である男からすると、合わないなと思った瞬間であった。
だが、本を読んでいるときの女の顔は何というか生真面目な美しさがあった。
どんな本を読んでいるのだろうか、とじっとのぞき込んでみる。
表紙にあったのは、のらくろ。
男は湧き上がる滑稽な心を抑えながら、桜の木の陰に隠れる。横隔膜の痙攣を必死に抑えながら、女に気が付かれないように深呼吸をした。
なんというか、女に対する印象が変わった。
もっと知ってみたい、という知的好奇心がわく。
そういえば、まずは外面をあまり見ていなかった、男はそう思い隠れていた期からそっと出てみる。
女の見た目は、丸顔短髪、メガネはぐるりと円になっている、分厚いレンズががちりとはまっているものだ。
北国の女らしく、練り絹のように白くなめらかであろう肌が、目についた。
この人込みならばれないだろう、と思い静かに女が座るベンチの近くまで移動してみる。
ふっと、風が女の方から男の方に吹いた。桃の香りがする。女の使っている化粧品だろうか?
そう思いながら、男は女に気が付かれないように静かに立ち去る。
次あったらもっと話してみよう、男は雪に閉ざされた弘前でも楽しめるかもしれない、という微かな希望を抱いて、
けらけらと笑っているように見える弘前城の方に向かった。
これがなれそめ……なんというか、祖父はなかなかに変な男のようだ。
おしまい
9713 : 尋常な名無しさん@┗( ^o^)┛( ・m・)【 令 和 】J('ー`)し('∀`) : 2019/11/17(日) 17:34:47 ID:dhm.ohYM0
うん、時代小説ならありっすな
・・・大体冒頭で毎回終わるから漢から女に話しかけたりとか全くないのが物足りない気もする
9715 : 語り人 ◆MlbFIuQyJ6 : 2019/11/17(日) 17:36:50 ID:9UfIQMhk0
>>9713
忘れられがちだけど、これ一応お題がキャラクターにしゃべらせるな、何だよなー
9716 : 尋常な名無しさん@┗( ^o^)┛( ・m・)【 令 和 】J('ー`)し('∀`) : 2019/11/17(日) 17:39:41 ID:dhm.ohYM0
>>9715
ああ、そういえば・・・
あれー?NSSさん、結局変わってるかと言うと自分達目線だと全然なんですが本当に変わってますか・・・?
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