【シンザン】やる夫が名馬になるようです【物語】　第６話　２分２８秒８

　　　　配役紹介

　　やる夫…シンザン。この物語の主人公。皐月賞馬。タフ。よく食べる。

　　やらない夫…武田文吾。シンザンの調教師。西では最高の腕前を誇る。

　　できる夫…栗田勝。武田厩舎の主戦騎手。西では随一の腕前を持つ。

　　ダディ…中尾謙太郎。シンザンの厩務員。実直な性格。

　　オプーナ…橋元幸吉。シンザンの馬主。



　　ラオウ…ウメノチカラ。関東馬。クラシック候補と言われている素質馬。

　　竜崎…アスカ。関西馬。持ち込み馬で、かつてシンザンのライバルだった。

　　キル夫…伊藤竹男。関東の騎手。ウメノチカラの主戦。

　　ダービー。近代競馬発祥の地、イギリスに範を取るこのレースは、３歳馬の最強決定戦である。

　　全てのサラブレッドが、このレースを目指して生まれてくると言っていい。

　　　 　　　＿＿＿_
　　　　　／　　 　 　＼
　　　 ／　　─　 　 ─＼　　　　　今日も飯が美味かったお。
　　／ 　　 （●） 　（●） ＼
　　|　 　　 　 （__人__）　 　 |
　　＼　　 ⊂ ヽ∩　　　　 <
　　　 |　 |　 '､＿ ＼　／　 )
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　　　　＼ ＿＿＿＼_／

　　だが今年、この一頭にとってのみ、もう一つの意味がある。

　　そう、三冠馬を目指す権利を持つ、ただ一頭の馬にとっては、ここもまた通過点。

　　　　　　　　　＿＿＿
　　 　　　／）／ノ '　ヽ､＼　　　　　　いや、そんな偉そうなこと言って、負けたら大恥だお。
　　 　 ／ .ｲ '（●） 　.（●）＼
　 . 　/,'才.ﾐ).　 （__人__）　　　＼
　 . 　|　≧ｼ'　　 ´ ⌒｀　　　　　|
　　.　＼　ヽ 　　　　　　　　　 ／


　　　　　　　　　　　 ／￣￣＼
　　　　　　　　　　／　　 _ノ　　＼　　　　　　いや…三冠馬、狙ってみないか？
　　　　　　　　　　|　　　 （ ●）（●）
　　　　　　　　　　|　　　　 （__人__）
　 　 　 　 　　　　 |　　　　　｀ ⌒´ﾉ
　 　 　 　 　 　　　 |　　　　　　 　 }
　 　 　 　 　　　 　 ヽ　　　　　 　 }
　　　　　　　　　　　 ヽ､.,＿＿ __ノ
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　　　 　 　 　 ＿＿__
　　 　　 　 ／_ノ 　ヽ＼
　　 　 　／ （ ●）　（●）、　　　　　　またそんな冗談を。
　　　 ／::::::::⌒（__人__）⌒＼
　　　 |　　 　　　|r┬-|　　　 |　　　　　三冠馬なんて今まで一頭しか出てないんだお。
　　　 ＼ 　 　 　 `ー'´　　／
⊂⌒ヽ　〉　　　 　　　 ＜´/⌒つ　　　この数年間でも何頭か挑戦したけど、
　 ＼　ヽ　 /　　 　 　 　 ヽ　/
　　　＼_,,ノ　　　　　　|､＿ノ　　　　　たいがい失敗してるんだお。


　　　　　　 　.　＿＿
　　　　　　　.／::::::.　＼
　　　　　　 /::::::ヽ;;:　　 ＼
　　　　　. （:::::（::::冫 　　　|　　　　…なるほど。
　　　　　. （:人;;;） .　　　　|
　　　　　r‐-;::::::. .　 　　　|　　　　よく勉強しているな。
　　　　 （三））:::::..　.　　　|
　　　　　>::::ﾉ:::::::::.　　　 /
　　　　/::: / ヽ;::::::::: 　 /
　　 　/::::/ ⌒ヾ:::::::::::.〈
　 　 （;;;;__ゝ:;;:::::＼／:::::）
　　　　　　.　|＼::::::::::::;;:1
　　　　　　.　|:::::＼;;／:::|

　　　　　　　　　　 　 　 ＿＿＿_
　　　　　　　　　　 　 ／　　 　 　＼　　　　　マジで言ってるのかお？
　　　　　　　　　　 ／　─　 　 ─　＼
　　　　　　　 　 ／ 　 （●） 　（●） 　＼
　 　 　 　 　 　 |　 　 　 （__人__）　　 　 |
　　　　　　　 　 ＼　 　　 ｀⌒´ 　　　,／
　　　　　　　 　 ／　　　 　ー‐　　　　＼


　　　 ／￣￣＼
　　／　　 _ノ　　＼　　　　俺もな、今までに何頭も、名馬と呼ばれる馬を見てきた。
　　|　　　 （ 一）（●）
　　|　　　　 （__人__）　　　中には三冠を取れると思った馬もいた。
　　 |　　　　　｀⌒´ﾉ
　　 |　　　,.<))／´二⊃　　コダマがそうだった。
　 　ヽ　/ ／　 '‐､ﾆ⊃
　　　ヽ､ｌ　　　　´ヽ〉　　　でも負けた。
''"::l:::::::/　　　 __人〉
:::::::::|_/ヽ. 　 /|||||ﾞ!:ﾞ､-､_
:::::::/´∨/`ｰ'〉ﾞ||i l＼>::::ﾞ'ｰ､
:::ｙ′.: ',ゝ､_/ヽ.||||i|::::ヽ::::::|:::!
／: :／/: : : :|:::ヽ|||||:::::/::::::::i::|

　　　　　　　　　　 　 　 ＿＿＿_
　　　　　　　　　　 　 ／　　 　 　＼
　　　　　　　　　　 ／　─　 　 ─　＼　　　　　　つまりそれだけ難しいってことだお。
　　　　　　　 　 ／ 　 （●） 　（●） 　＼
　 　 　 　 　 　 |　 　 　 （__人__）　　 　 |　　　　　どうしてやる夫にそれが出来るって言うんだお？
　　　　　　　 　 ＼　 　　 ｀⌒´ 　　　,／
　　　　　　　 　 ／　　　 　ー‐　　　　＼


　　　　　　　　　　　　　　　 　 　 　 　　 ／￣￣＼
　　　　　　　　　 　 　 　 　 　 　 　 　／_ノ　 ｀⌒　＼　　　　お前がどんな名馬にも似てないから、かな。
　　　　　 　 　 　 　 _　　　 　 　 　 　| （● ) （⌒ ）　.|
　　　　　　 　 　 　 |　!　　　　　　　　|　（__人___）　 　|
　　　　 　 　 　 　 ｜ !　　　　　　　　|　 ｀ ⌒ ´　　　.|
　　　　　　 　 　 　 |　!　　 ,.-,　　　　|　　　　　　　　 |
　　　　　　 　 　 _,ﾉ ┴、/ ,/ 　 　 　 ヽ　　　　　　　r
　　　　　　　　　 r　`二ヽ ） i　　　　　　ヽ _ ､___, 　 ﾄ
　　　　　　 　 　 |　 ー、〉 /　　　　 _,,,,ﾉr　 `　　 ／i＼,,,,_
　　　 　 　 　 　 |　　r_,j　j__,,.. r''''"/::;|　＼`'／ 　 ,'::;;;r;;;;;;;;;;;;:: r ‐-、
　　　 　 　 　 　 | 　 ）　ﾉ ::::::::;;;;;;;/::;;;;|　 ／＼　　/::;;; l;;;;;;;;;;:: ::;;;;;;;:: ヽ
　　　　　　　 　 ﾉﾆ-､　,/::;;|:::;;;;;;;;;＞::;;|／(::::ﾉ ＼/::;;;く;;;;;;;;;;;;:: i::;;;;;;;;;;;:: }
　　　　　　　√..:::;;; ヽ､〉;:;;|::::;;;;;;;;{ ::;;;;;|　 "::く 　/:::;;;;/;;;;;;;;;;;;:: |::;;;;;;;;;:. ノ }
　 　 　 　 /..:::::;;;;;;;;;;;;;;;〉;;;;|::::;;;;;;;;;:{ ::;;;;|　|:::::::| /:::;;;:/;;;;;;;;;;;;;:: |::;;;;;;;;;;;;;;;;:: }

　　コダマは鋭い剃刀だった。あまりにも鋭かった。

　　それゆえに、わずかに切れ味が鈍っただけで、その力を失った。

　　　　　　　　　　　　　　________
　　　　　　　　　　　／)　/ .)　　＼
　　　　　　　　　　 / ./::/ ./:::／ ） ＼　　　　　だが、お前は違う。
　　　　　　　　　　 l　.l/　/／ ∠___　|
　　　　　 　　　　　l　/ ／ ／ _､,,.ノ　|.　　　　最初は気づかなかったが、お前には本当の強さがある。
　　　　　　　　　　r　　　　 　/___)　　|
　　　　　　　　　 /　　　　　/　　　　 |　　　　　たとえ刃こぼれしても、切れ味が鈍っても、
　　　　　　　　　/　　　　 ノ　　　　 /
　　　　　　 _∠⌒ヽ　　j 'i, _、___ ｨ／|＼____　　　　　そのままに物を断ち割る鉈のような。
　　　　　／ ...::::;;;:::ヽV;;;;l　フiiiiく　　/.:;;:l;;;;;:::´´''' ､､､ _
　　　／ ...:::::;;;;;;;;;;;;:: 〉;;;;;:l／ iiiii ＼/.:;;;::l;;;;;;;;;;;;;::::::::..... i::..＼
　／ ...:::::;;;;;;;;;;;;;;;;:: /;;;;;;;;:::ヽ llllll　/..::;;;;::l;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;::::: l;;;;;;:: l


　　決して華麗ではない。だが、強い。ひたすらに強い。

　　それがシンザンという馬だと、武田は理解していた。

　　　　　　　　　＿＿＿
　　 　　　／）／ノ '　ヽ､＼
　　 　 ／ .ｲ '（●） 　.（●）＼　　　　…まあ、とにかく今日のレースだお。
　 . 　/,'才.ﾐ).　 （__人__）　　　＼
　 . 　|　≧ｼ'　　 ´ ⌒｀　　　　　|　　これに負けたらなんにもなんねーお。
　　.　＼　ヽ 　　　　　　　　　 ／
　

　　１９６４年５月２８日。午前五時半から東京競馬場の本場馬は開放され、

　　ダービーに挑む馬たちがその姿を見せていた。

　　　　　　　　 ＿＿＿_
　　 　 　 　 ／　　　　　＼　　　　　　ウメノチカラはいい感じだ。
.　　　　　／　（ー） 　（ー）＼
　　　 ｌ^l^lｎ　（ﾄｪｪｪｪｪｪｪｪｲ）＼　　　前走で勝ってから、馬体が一回り大きく感じる。
　　 　ヽ 　 L　＼ェｪｪｪェ／　　|
　　　　 ゝ 　ﾉ　　　　　　 　 ／　　　　シンザンと競り合うようなことになれば、関東の意地を見せてやるさ。
　　　／ 　 /　　　　　　　　　＼
　 ／　　 /　　　　　　　　　　 　＼
. /　　 　/　　　　　　　　　-一'''''''ー-､.
人＿＿ﾉ　　　　　　　　(⌒＿(⌒)⌒)⌒))


　　シンザンはオンワードセカンドと共にその姿を見せ、まずはダート馬場へと向かった。

　　オンワードセカンドが馬なりで走るのに対し、シンザンは栗田の手綱が激しく動く。

　　結局この日も、シンザンは半馬身ほど遅れて調教を終えたのである。

　　 　 　 　　　＿＿＿_
　　 　 　　　／　　　　　＼　　　　　しかし本当に調教では走らない馬ですね、君も。
　　 　　　／　⌒　　　⌒　＼
　　 　 ／ u （＝） 　（＝）　　＼
　　 　|　　　 　　__´___　 　　　　|
　　　　＼ 　　 　`ー'´ 　　 　／

　　　 　 　 　 ＿＿__
　　 　　 　 ／_ノ 　ヽ＼
　　 　 　／ （ ●）　（●）、　　　　レースでもないのに今から本気出してどうするんだお？
　　　 ／::::::::⌒（__人__）⌒＼
　　　 |　　 　　　|r┬-|　　　 |
　　　 ＼ 　 　 　 `ー'´　　／
⊂⌒ヽ　〉　　　 　　　 ＜´/⌒つ
　 ＼　ヽ　 /　　 　 　 　 ヽ　/
　　　＼_,,ノ　　　　　　|､＿ノ

　　　　　　　　　　　　　　　 　 　 　 　　 ／￣￣＼ 　　　　　やっぱり一度レースを使っておいて
　　　　　　　　　 　 　 　 　 　 　 　 　／_ノ　 ｀⌒　＼
　　　　　 　 　 　 　 _　　　 　 　 　 　| （● ) （⌒ ）　.|　　　　よかっただろ。
　　　　　　 　 　 　 |　!　　　　　　　　|　（__人___）　 　|
　　　　 　 　 　 　 ｜ !　　　　　　　　|　 ｀ ⌒ ´　　　.|
　　　　　　 　 　 　 |　!　　 ,.-,　　　　|　　　　　　　　 |
　　　　　　 　 　 _,ﾉ ┴、/ ,/ 　 　 　 ヽ　　　　　　　r
　　　　　　　　　 r　`二ヽ ） i　　　　　　ヽ _ ､___, 　 ﾄ
　　　　　　 　 　 |　 ー、〉 /　　　　 _,,,,ﾉr　 `　　 ／i＼,,,,_
　　　 　 　 　 　 |　　r_,j　j__,,.. r''''"/::;|　＼`'／ 　 ,'::;;;r;;;;;;;;;;;;:: r ‐-、
　　　 　 　 　 　 | 　 ）　ﾉ ::::::::;;;;;;;/::;;;;|　 ／＼　　/::;;; l;;;;;;;;;;:: ::;;;;;;;:: ヽ
　　　　　　　 　 ﾉﾆ-､　,/::;;|:::;;;;;;;;;＞::;;|／(::::ﾉ ＼/::;;;く;;;;;;;;;;;;:: i::;;;;;;;;;;;:: }
　　　　　　　√..:::;;; ヽ､〉;:;;|::::;;;;;;;;{ ::;;;;;|　 "::く 　/:::;;;;/;;;;;;;;;;;;:: |::;;;;;;;;;:. ノ }
　 　 　 　 /..:::::;;;;;;;;;;;;;;;〉;;;;|::::;;;;;;;;;:{ ::;;;;|　|:::::::| /:::;;;:/;;;;;;;;;;;;;:: |::;;;;;;;;;;;;;;;;:: }

　　　 /＼＿＿_／＼
　　／　⌒　　　⌒　::＼　　　御見それしました。
　　|　（●）,　､ （●）､ ::|
　　|　　,,ノ(､_, )ヽ､, 　 :::|
　　|　　　ト‐＝‐ｧ' 　 .:::|
　　＼　　｀ニニ´　 .::／
　　／｀ー‐--‐‐一''´＼

　　第３１回日本ダービーは晴天に恵まれた。だが武田は前日朝の雨を気にしていた。

　　朝のうち、芝コースを見ながら、一句ひねろうかと思っていたが。


　　　　　　　　　　 　 　 　 　 ／￣￣ ＼ -、_
　　　　　　　　　　　　　 　 _,ノ　ヽ､__ 　 /　/ ,〉、　　　　　シンザンで勝てるはずだ…。
　　　　　　　　　　　　　　 （＝）（＝ ）／　´／ /)
　　　　 　 　 　 　 　 　 　 （__人＿） {　 　 , ' ´,/　　　　　勝負はやってみないと分からないが…
　　　　　　　　　　 　 　　　'､`⌒ ´　 V　__, ＜´
　　　　　　　　　　　　 　 　 |　　　　　〈´／::::Λ　　　　　それでもシンザンなら勝てるはずだ…。
　　　　　　　　　　　　 　 　 | 　 　 　 ﾔ::::::::::::::Λ
　　　　　　　　　　　　　　　 `ｭ`ｰ─ｰ V::::::::::::::Λ
　　　　　　　　　　　　　　　 /ﾑ _ , -.／V::::::::::::::Λ、
　　　　　　　 　 　 　 _,. -／:/:::ﾊ ,/´..::/i:::::::::::::::::::Vﾍ
　　　　　　　　　　／/.／.:::/:::l　y .::::::/::::ｉ::::::::::::::::::.∨}
　　　　　　　　　 j ::::::::>.:::/:::::l ./ .::::::::::::::::ｉ::::::::::::::::::::ﾚ;
　　　　　　　　　i :::r :〈 ::::i::::::::ﾚ .::::::::::::::::::::〉､:::::::::::::::::ﾉ
　　　 　 　　 　 ｉ :::| :::::'., :i::::::/.:::::::::::::::::::::::::::`::-==::イ
　 　 　 　 　 　 | :::| ::::::::', :i::/.::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/

　　頭を占めるのは、やはりダービーのことだけだったのだ。

　　ダービー出走馬はスタート１時半前に装按所に集まる。ここで最後の馬体検査が行われる。

　　　 /＼＿＿_／＼
　　／　　　　　　　　::＼　　　ふむ、シンザンは１０キロマイナス…理想的だな。
　　|　　─　　　─　　　|
　　|　（●）,　､ （●）､　|
　　|　　,,ノ(､_, )ヽ､,,　.::::|
　　＼　　 ｒ‐=‐､ 　.:::／
　　／｀ー ｀ﾆﾆ´一''´ ＼


　　　　　　　　＿＿＿
　　　　　　 ／　　　　 ＼　　　　　　完璧ですね。
　　　　　／　⌒　　 ⌒　＼
　　 　／　 （⌒） 　（⌒） 　＼
　　 　|　　 　　___´___　　 　　|
　　　　ヽ、　　 `ー '´　　　／
　　 　　ノ　　　　　　 　　　＼

　　　　　　　　 ／￣￣＼
　　　　　　　／　　 ヽ_　　＼　　　　　　ここまでは俺の仕事、
　　　　　　　|　　　 （⌒ ）（⌒）
　　　　　　.　|　　　　 （__人__）　　　　　ここからはお前の仕事だ。
　　　　　　　 |　　　　　｀ ⌒´ﾉ
　　　　　　.　 |　　　　　　 　 }
　　　　　　.　 ヽ　　　　　 　 }
　　　　　　　　 ヽ 　　　　　ノ
　　　　　　_,,,,ノ|､￣／/／/ ＼、
　　_,,..r''''"/　|　＼`'／　 /　 | ￣`''ｰ-､
　 / 　 　 /　 |　 ／＼　 / ／　　 　/　ヽ
　ﾉ　|　　＞　|／）::::/＼/　＼ 　　ノ　／}
　{ 　 |　{　　 | ,r":::ヽ　/ 　 /　　/　// ハ

　　武田はさらに、３コーナーから４コーナーにかけて馬場が悪いことも説明し、

　　栗田はそれをさりげなく聞いていた。コースに出れば、騎手の判断に任される。

　　日本ダービー。この栄光のレースにおいて、２分３０秒が切られることは、長らくなかった。

　　初めてそれを突破したのが、この前年のメイズイである。

　　２分２８秒７　これが現在のダービーレコードであった。

　　　　　　　　　　 　 　 ＿＿＿_
　　　　　　　　　　 　 ／　　 　 　＼　　　　　ま、やる夫には関係ないお。
　　　　　　　　　　 ／　─　 　 ─　＼
　　　　　　　 　 ／ 　 （●） 　（●） 　＼　　なんたって今まで一度もレコードなんて出してないし。
　 　 　 　 　 　 |　 　 　 （__人__）　　 　 |
　　　　　　　 　 ＼　 　　 ｀⌒´ 　　　,／
　　　　　　　 　 ／　　　 　ー‐　　　　＼

　　シンザンはスピードも備えた馬だったが、確かにレコードタイムで走ったことはなかった。

　　シンザンは、これがダービーだということも知らぬように、いつも通りに落ち着いていた。

　　のっそりのっそりと歩き、本馬場に出る。ゲートインもスムーズだ。

　　　　　　　　　　 ＿＿＿_
　　　　　　　　　／　　 　 　 ＼
　　　　　　　 ／　　 ─　　 ― ヽ　　　…
　　　　　　／ 　 　（ ●） 　（ ●）'
　　　　　　|　 　 　 　 （__人__） 　　|
　　　　　　＼　 　　 　 ｀ ⌒´ 　,／
　　　　　　／　　　　　　ー‐　　 ヽ

　　　 /＼＿＿_／＼
　　／　／　　 　ヽ ::: ＼
　　|　（●）,　、（●）、　| 　　　　シンザン、頼んだぞ。
　　|　　,,ノ(、_, )ヽ、,, 　 | 　
　　|　　　,;‐＝‐ヽ 　 .:::::| 　
　　＼　　｀ニニ´　 .:::／
　　／｀ー‐--‐‐―´´＼

　　中尾がシンザンの首筋を叩き、ゲートを出る。

　　そして、レースが始まった。


　　　　 ／.:￣￣￣￣￣ ＼
　 　 ／: : :　　 　 　 　 　 　 ＼　　　　　　　　　 　 　 　 /~） /~）
　 ／: : : :　　　　　　　　　　　　＼　　　　　　 　　　　　/／ /／
／: : : : : :　　　　　　　　　　 　 　 ＼　　　　　　　　　 o 　 o
: : : : : : : :.._　　　　　　　　_　　　　　 ＼
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: : : : ::;;（（　○ ）::::ﾉヽ::::::（ ○　））;;::: 　 |
: : : : : : ´"''",　　　 　 　"''"´　 　 　 　 |
: : : : : : . . （　　＼j　／　 ）/　　　　 ／
＼: : : : : : :.｀∨トエエイ∨　　 　 ／
／ヽ: : : : : : : :∧エエ∧: : : : : イ＼
: : : : : : : : : :.｀`ｰ- -‐'"´ 　 　 　 　 ＼
: : : : . : : . : : .　 　 　 　 　 　 　 　 　 　＼

　　瞬間、シンザンはいつもと全く別の顔を見せていた。

　　スタンド前、ダイトウリョウがハナを切って行く。

　　シンザンは二番手につけた。


　　　 ＿＿＿
　　／ー　 ー ＼ 　 　　／'⌒ヽ
　（● ）　（● ）　＼ .／　　 ﾍ 　ヽ
／ （__人__） 　 　 　 ＼ 　 /　 ヽ 　ヽ_
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ヽ　　　／⌒i　　　　 ／.　 │
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　／ 　 ／/ｰ＼|　　　　＼ 　.| 　　＿_
i　　　＾ ／.　　　(, 　 　　　　　,|　　| ,r'゛
ゝ､__,〆 　. 　　　ヽ　　　 ｉ.._､,r' ヽ,/ |
　　　　　　　　　 　＼.　　 |＼　　ﾞｉ　|
　　　　　　　　　　　　＼　 ヽ ＼._､,/
　　　　　　　　 　　　　　＼ ﾞヽ
　　　　　　　　 　　　　　　 ヽ ＾ゝ
　　　　　　　　　 　　 　　　　＼_|

　　その後にウメノチカラ。

　　２コーナーを過ぎ正面にかかると、シンザンはやや下げる。

　　そのぴったり後ろに、ウメノチカラとヤマニンスーパー。

　　人気馬は、それぞれ好位置をキープした。

;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;爪;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ﾉ,
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;`刈.:.::`ｰ､入､气丈､;;;;;;;;;;;;;;,彡_ﾉ巛､;;;;ﾉ
;;;;;;;;;;;;;;;_从".:.:.:　　 ;;　.:;''':::::`弋ノﾉ'´.:.:.:.:.:.:.:ﾐ;;;;ν
;;;;;;;;;;_,勿.:.:.:.　　　　 ;;　 　:::　　::;;;;;　　　//　ﾝ;;ｲ
;;;;;;;;;=彳.:.:.:.　,　　　　　　　::　　 ;;; 　 　.| |ヽ }彡　　　…
;;;;;;;;;;;彡 　 ミﾞﾐ､`ゞミ'",,`ﾐ;;,,, )υ ,;;彡ﾐ孑',;）} ノ
ﾊ;;;;;;ﾉﾉ　　　＼_＿rｯ`～､'ﾞﾉ人'弋_tｯ''乂 .ﾉ丿
　{;;;;,"　　　　　´　　￣￣':;:,'　　,'　　　￣` υ
　.|;;i';;;　　　　　　　　　;:;:;:;ｒ 　 { 　 　 　 　 ﾉ
　 |,' ;;;,ヽ　　　　　　　　;:;:;| 　 λ　　　　　/
　υ '';;;ヽ　　　　　　 ,（　`ｒ　　ﾉ）　　　　/
`ｰ､　　;;;'|　　　　　 ,　　.:.:.:`.:´.:　　　　 /　　
ー'i　　 ;;;|　　　　　 '　　　.:.:.:.:.:　丶　　/　　
::::/|　　 ;;|　　　　　　　　　　　　　　　 /　　
::/ .}　　.;;|　　　　⊂ﾆ＝＝ーっ　　　/　　　
/ .λ 　 ;;|　　 　 　 　 　 　 　 　 　 /

　　３コーナーの坂を上がり始めると、外から馬群が人気馬たちを包み込むように

　　やってくる。早くも４コーナー。シンザンは外に出す。ウメノチカラはインで待つ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　＿＿___
　　　　　　　　　　　r⌒ヽ､　　 .　 ／ ー 　ー＼
　　　　　　　　　　/　＼　　＼. ／　（ ●）　（ ●）
　　　　　　　　　_/　/　ヽ 　 ／　　　　　（__人__） ＼
　　　　　　　　〈__／ 　.　|　 |　　　　　　　｀ ⌒´ 　　|
　　　　　　　　　　　　　/　　.＼ 　　　　i⌒＼　　　/
　　　　　　　　　 　 　 /　　 ／ ⌒ヽ, ＿.ヽ　 .＼／
　　　　　　　 ._＿　　 r　 ／　 　　　|／ｰ､＼ 　 ＼
　 　 　 　 　 "ヽ |　　i,　　　　　 　 ﾉ　　　.＼＾　　　i
　 　 　 　 　 　 | ヽ./ ヽ､_../　　　/　 　　 .　 ヽ､__ノ
　 　 　 　 　 　 i　/　　／/　　.／
　 　 　 　 　 　 ヽ､_.／ ./　 ／
　　　　　 　 　 　 　 　 / ／
　　　　　 　 　 　 　 ノ.＾/　　 ﾀﾞｯ
　　　　　　　　　　　|_／

　　直線、インが空く。ウメノチカラが出る。

　 　 　　　＿＿＿_
　 　　　／　　　　　＼
　　　／　 　　　　　　 ＼　　　　これで勝てなければ、もう勝てない！
　 ／ (●）　（●）　　　　＼
　 |　（ﾄｪｪｪｪｪｪｪｪｲ）　 　　|
　 ＼　＼ェｪｪｪェ／　 　／

　　外からはシンザン。

　 　 　 　 ＿＿＿_
　 　 　 ／　　　　　＼
　 　 ／　　 ―　　― ＼
　 ／ 　 　 （●）　（●） ＼
　|　　　 　　　___´__　 　 　|
　＼ 　 　 　　`ー'´ 　 　／
　/　　　　 ∩ノ ⊃ 　 ／
　(　 ＼　／ ＿ノ　|　 |
.　＼　“　　／＿＿|　 |
　　　＼ ／＿＿＿ ／

　　栗田のムチが一閃。

　　あっという間にウメノチカラを抜く。

　　ゴールを切る手前で、栗田は手綱を抑えた。

　　　　 　　　＿＿＿_
　　　　　　／_ノ '　ヽ ＼
　　　 　／（ ≡） 　（≡）＼
　　　／:::::::⌒ __´___ ⌒:::::::＼
.　 　|　　　　　|r┬-|　　　　　|
　 　 ＼ 　　 　 `ー'´ 　 　.,／

　　その瞬間、栗田は天を仰いで叫んだ。ダービー馬、二冠馬シンザンの誕生であった。

　　優勝タイムは２分２８秒８　前年のレコードにコンマ１秒足りない、史上２番目の速さだった。

　　　　　　　　　　　 ／￣＼
　　　　　　　　　　　|　　　 　|
　　　　　 　　　　 　 ＼＿／　　　　　　やあやあ武田先生、やってくれましたな。
　　　　　　　　　 　　 　 |
　l^ヽ 　 /^l 　　　／ ￣ ￣　＼
　ヽ ｀_/　/ 　 .／ 　＼　 ／ 　 ＼
　r'ヽ 　　ヽ ／　　⌒　　　⌒ 　　＼
　 ゝ、　r'ヽi|　　　　（__人__）　　 　　|
　　`ヽｰ､ノ ＼　　　 ｀ ⌒´　　　　／


　　　　　　　　 ／￣￣＼
　　　　　　　／　　 ヽ_　　＼
　　　　　　　|　　　 （⌒ ）（⌒）
　　　　　　.　|　　　　 （__人__）　　　　ええ、オーナー。
　　　　　　　 |　　　　　｀ ⌒´ﾉ
　　　　　　.　 |　　　　　　 　 }　　　　シンザンはやってくれましたよ。
　　　　　　.　 ヽ　　　　　 　 }
　　　　　　　　 ヽ 　　　　　ノ
　　　　　　_,,,,ノ|､￣／/／/ ＼、
　　_,,..r''''"/　|　＼`'／　 /　 | ￣`''ｰ-､
　 / 　 　 /　 |　 ／＼　 / ／　　 　/　ヽ
　ﾉ　|　　＞　|／）::::/＼/　＼ 　　ノ　／}
　{ 　 |　{　　 | ,r":::ヽ　/ 　 /　　/　// ハ

　　　　　 /＼＿＿_／＼
　　　　／　⌒　　　⌒　::＼
　　　　|　（●）,　､ （●）､ ::|　　　　…よくやってくれたな、シンザン。
　　　　|　　,,ノ(､_, )ヽ､, 　 :::|
　　　　|　　　ト‐＝‐ｧ' 　 .:::|
　　　　＼　　｀ニニ´　 .::／
　　　　／｀ー‐--‐‐一''´＼


　　　　　 ＿＿＿
　　　　／ ノ'　ヽ_＼　　　　　　疲れたお。
　　 ／ （ ＞）　（＜ ＼
　 /　u 　::::::（__人__）　 |　　　　さっさと休みたいお。
.　|　　　　　　｀i 　i´　　|
　 ＼ ＿　　　 `⌒　.／
　 ／ 　　 　　 ⌒

　　シンザンは厩舎に戻ってくると、洗い場で岩のように四肢を動かさずに立っていた。

　　やがて中尾が手入れを終えて首筋を叩くと、初めて甘えるように鼻息を吹きかけた。

　　　　　　　　　 　 ／￣￣＼
　　　　　　　　　 ／　　　⌒　⌒
.　　　 　　　 　 ｜　 　 ( ⌒) (⌒)　　　　どうですオーナー、
　 　 　 　 　 　 ｜ 　　　（___人__）
　　　　　　　　　 |　　　　 ｀ ⌒´ﾉ　　　　今日は芸者でもあげて祝いますか？
　　 　 　 　 　 　 |　　　　　 　　|
　　　 　 　　 　　人､ 　　　　　 |
　　　　　　　_,イ　ﾄ､ヽ 、 __ ,_ ノ
　,.　-─‐-´ 　 l　　ヽ,＼__､_ﾉ7
/´　　　　　　　 :i 　　ハﾍ､;;ヽト、
. : .　　　　　　　　:i　　　ﾊ 〉:.;〈ヽ ＼､_
, : : . ＼　　　　　　:L_＿　 v;;;;ﾍ ' ,＜. ヽ
. : : : .　ヽ: .　　　　　 く　　　'';;;;;ﾍ l　｀l　｀-、
!: :　　　　、: : : : 　　　 ヽ 　　'';;;;ﾍi 　 i　　r i
　.´: : : .　 ' : : :　　　　　 ＼ 　 '';;;::|　 ,|　__| |
: : : : .　　.γイ: .　　　　　　 ' .,　 ':;;:|　 l、__j.|

　　　　　　　　　　　 ／￣＼
　　　　　　　　　　　|　　　 　|
　　　　　 　　　　 　 ＼＿／　　　　　　　いやいや、ダービーさえ終われば用はない。
　　　　　　　　　 　　 　 |
　l^ヽ 　 /^l 　　　／ ￣ ￣　＼　　　　　シンザンをよくいたわってやってくれ。
　ヽ ｀_/　/ 　 .／ 　＼　 ／ 　 ＼
　r'ヽ 　　ヽ ／　　⌒　　　⌒ 　　＼
　 ゝ、　r'ヽi|　　　　（__人__）　　 　　|
　　`ヽｰ､ノ ＼　　　 ｀ ⌒´　　　　／

　　かくてダービーは終わり、二冠馬シンザンは誕生した。

　 　　　　　＿＿＿_
　　　　　／⌒　　⌒＼
　　　 ／（ ●） 　（●）＼
　　／::::::⌒（__人__）⌒:::::＼
　　|　　　　　|r┬-|　　　　 |
　　＼ 　　 　 `ー'´ 　 　 ／

　　残るは一冠、秋の菊花賞。

　　　　/＼＿＿_／＼
　 　／''''''　　　　　''''''::＼
　 　|（へ）, 　 　、（へ）、.|
　 　|　　 ,,ノ(、_, )ヽ、,,　.:|
　 　|　　 ｀-=ニ=- '　 .:::::|
　　 ＼　　｀ニニ´　.＿／
　　　（｀ー‐--‐‐―/ 　）.|´
　　　 |　　　　　　　|　　ヽ|
　　　 ゝ　ノ　　　　 ヽ　 ノ
￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣

　　だが、その前にシンザンは、最大の試練に立ち向かうことになるのである。

　　　　
　　　　　　＿__,＞ Ｙ´'ー-､
　　　　　＿>ｚ二_　＿__`ー≧＿_
　　　　　＞┴'´￣｀ ‐-､￣ ７ ＜
　　　 ／　　　　　　　 ヽ ｀Ｙ′之＞　　
.　　 /　 ,　　l、　、 ,　､ |　 ヽ　}<
　　 ｌ ,ｨ {７Tハ　T寸寸 |　　}ノ　|　　　
　　 |ハ |　（●）　（●）/ / ,/ﾚ′
　　　　 `| 　　　ヽ 　　「)'/|/
　　　　　ヽ､_ 　― 　_,.ィT/
　　　　　　　l 7Eニ::ィ1│
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　　　_（,,) 　 　次回へ続く 　(,,）_
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　　第６話　２分２８秒８　了　　　　第７話　最大の苦難　へ続く

　　　　　　　 　 ／　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　 　 　 ＼
.　　　　　 　 ／　／　　　 ／　　　/　　　　　　　　 ＼　　　　　　　　　丶　　　　今回も解説する。
.　　　　　　/　／　　/　 /　　 ,　/　　.i　　　　　　　　丶　　　　ヽ　　　　ヽ
　　　　　 /／.:　　 /　::/　 .:::/ .:|　　.::ｌ　　､　　　.::.　　:ヽ　　　::..:',　　　　.ﾊ
.　　　　 〃/.::/　.:/　.::,'　.::::/　.::!　　:::{ 　 ::＼　.::ヽ::.　　::l　　 :::::::l:　:.　.　 ﾊ　　ではスタート。
　　　　　　l.::,'　: .:l　:::::l　::::::l　::::{　　::::ヽ　::::::::＼:::::ヽ::.. ..::l　　:::::::::l::: :: :::. :l.:l
　 　 　 　 |:/!　:.:::|　::::ﾊ : ::∧::::八.　.:::::ｉ＼..::::::l　＼::::＼::::l　　:::::::::l:::::::::::　! |
　 　 　 　 |{│.:.::::|　::::::ﾊ ::l　ヽｌ　 ',　:::::|　 ヽ::::l　　_＼{-ヽ|　　:::::::::|:::::::::::: i::l
　　　　 　 !　! :. ;小、.:::::{ 代ーﾄ､　ヽ ..::l 　 ＞七´__,ｨ=-､.｣　　:::::::::j::::::::;::: l:,'
　　　　　　　 ', :::: l:: ＼::ﾑx≠于=ミ、＼ヽ x=≠旡丁 ｀ドﾚ!　 ::::::::;ｲヽ ::i:::::ﾘ
　　　 　 　 　 ヽ:::::lヽ::::＼<ヾﾊ{.::::ヽヽ ＿ {　　　 V､::::::.}├|　 :::::∧　l:::,' .::/
　　　　　　　　　＼ｌ　∨::{!ﾊ 　Vzｲ}　{!⌒ﾍ}　　　 r'zィﾘ / ｌ　.:::/　} ,ﾉ/l:::/
　　　　　　　　　　 ｀　 ',:::ゝﾑ 　 ー'　/　　　ヽ、　　￣ノ'　|　::/ フ´::/ ﾙ′
　　　　　　　　　　　 　 ヽ::::`ﾍー ‐ '´　'　　　　 ￣　 　 　 |.::/´;::〃/
　　　　　　　　　　　　　　ヽ::::{＼　 　 　 ｬ‐､　　　　 　 　 jl:/::/:/ ″
　　　　　　　　　　　　　　　＼:ﾍ ヽ ､　 　 ¨　 　 　 　 ／/ｲ::/V
　　　　　　　　　　　　　　　　 ＼!　 ヽ＞,､　　　　 , イ　〃:|::ト､
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ヽj父rｰ＜: : : : : : : {::l)　ヽ､
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　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ／　.::::::/ﾉ　　　　　　: : /　 　 　 　 ＼
　　　　　　　　　　　　　　　 　 ／　.:::::::::::{′　　　 : : : : :/　　 　 　 　 　 ＼

　　１　　コダマ

　　　　　　　／　　　　　　　　　　 　 　 　　　ヽ
　　　　　 ／　　　　 , 　　　 , '　　　　　　 　　　ヽ　　　　　武田の管理した馬。
　　　　 / /　/ /　 /　 ,　 /　　 　　 　 ヽ　　　 　!
　　　 〃/　/　!　 l 　 /　 !　　!　ヽ 　 　 |　　　　 !　　　　父はブッフラー。
　　　　│　!　 !　│　{　　! 　 | 　 ヽ 　 ! ! 　 !　　|
　　　　 ! /{ 　{. 　 ﾄ｀ ト､ |ヽ　 !＼ ,ム‐ﾊ| 　 }　　l　　　　以前にヒンドスタンがこれのおまけで
　　　　 ﾚ　!　 iヽ　!,,====ﾐ､＼l　,,====ﾐ ! 　 l　 l !
　　　　　 　ヽ |.-ヽ!'<fえヶ.ll, - ､ll ｲkか>l　　,!､ ﾊl　　　　購入されたと書いたが＞１の誤り。
　　　　　 　 /, ﾆヽﾄ　ゞ-' ノ　　 ヽ ゞ-'　,'　/ ﾉﾘ
　　　　　　,'/ﾆヾ 人　　　　 ｀_ 　　 　　/ /ﾘ´　　　　　　　ブッフラーがおまけだったらしい。
　　　　　　{ /ﾆヽ ヽへ　　　 　　　 　 ィ　ﾊl
　　　　　　 ヽ、ヽ 　 } | ＞ 　 _　, ィ´/ノ-､　　　　　　　　母はシラオキ。牝馬でありながら
　　　　　　　_,'　　　 ﾚ′_,-‐l 　 　　／ 　ヽ
　　　　　 __/ | 　　 /､‐'/ ／　　 ,　' 　 　 　＼　　　　　　ダービー２着の名牝。
　　　　 / 　　 ─ '　 } /へ、　／ 　　　 　　 　＼
　　 　 {　　　　　 　/ / ヽ､ , '　　　　　 ィ ﾆ二二＼　　　子孫にも活躍馬が多い。
　　 , ｲ　　　 ,'　 　〉/　　／　　　　 ／／ , -―─-}
　／　 　　　　　 / /　／　　　　 ／／ ／　 　　 　 !

　　コダマ自身は１９６０年に皐月賞とダービーを無敗で制覇。

　　菊花賞は５着となる。どうやらステイヤーとしての才能が足りていなかったらしい。

　　だが後に宝塚記念を勝つなどして、顕彰馬に選ばれている。通算１７戦１２勝。

　　２　　ダービーのレコード

:,::::::::::::　 /::::／::::::／::: /:::::::　 !:::::　|:::.　|::.　　|　　 i　　　おそらくシンザンは更新することは出来た。
|::::::::::　 /:::/::::::／i:::::／ }::::::　ハ:::: ﾊ:::　l::::　　!:.　　|　　
::::::::＿!ム_∠__/;／　　!:::: /　 l:::/　!: /i:::::　/!::::　 |　　　ただ、少しでも馬への負担を減らすため
:::::::::　|／＿ /／｀ヽ　/:／　_,,ﾑ'-‐lメ‐|:::: /: |:::::　 !
:::::::::　!,r=〒〒ﾐ==ヽ/'　　 ,,r'==＝ヾ-､!::/l::: ﾊ::::　!　　　栗田はこう乗ったと思われる。
::::::::. |《 i､ﾋ''ｨﾉ　　　ゝ-‐-《 !;;.q,ﾉ ´／ﾚ:: |:: i .l:::::/
ﾍ::::::. | ＼ ￣　　　ノ　　　ﾍ_.￣　 /:ノ::: /!:::l　!::/　　　　ちなみに後の三冠馬ミスターシービー
ヽﾄ､::: l　　￣￣￣ 　 ｀;　　　￣ ７::::::　/ .i:/　/
:ハヽ:::l＼　　　　　　r_ｧ　　　 ／!:::::　/　/　　　　　　　　シンボリルドルフは、馬場の違いもあるが、
::::::,-一　｀ ､　　　　 　　_, ＜ |ｲ::::: / 　'
:::/;;;;;;;;;;;ﾉ.　　｀　‐ｒ-‐＜　　 　'l::: /　　　　　　　　　　　　このレコードを破っていない。
`|;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;`､;-､_;-´;;;;;;`i´ 　.',/
　!;;;;;;;;;;;;;;;;;;;へ;;};;;;;;`i;;;;;;;;;;;;;}＼

　　３　　ダービーの賞金　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　 _＿　_＿
　　　　　　 　 　 　 　 　 　 ..ィ.:´:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.｀:.:...､　　　　　　　　　　この当時は９００万円
　　 　 　 　 　 　 　 　 ,..イ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.｀:ヽ:.:.:.:ヽ、
　　　　　　　　　　　／:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:＼.:.:.:ヽ　　　　　　なんと馬主の橋元は
.　　　　　　 　 　 ,. ｲ:.:.:.:.:.:.:.:.l.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ.:.:.:.:.:.:.:.:.:',
　　　　 　 　 　 /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:i.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.ヽ:.:.:.:.:.:.:.:.:',　　　　これを無造作に
.　　　 　 　 　 /:.:.:.:.:.:.:.:. i:.:.ﾍ.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:';:.:.:.:.:i.:.:.:.',
　　　　　　　 /:.:.:.:.:.:.:.:i:.:.!:.:.: ﾊ.:.:.:.:!:.:.:.:.:.:.:.l.:.:.:.:.:.:.:.:.:l.:.:.:.:.l:.:.:ハ　　風呂敷に包んでいたという。
.　　　　　　 /:.:.:.: i:.:.:.:.l:.:|!:.:.l　ヽ:.:ヽ:.＼:.:.:ヽ;.:.ﾄ､:_:.:ｌ:.:.:.:.:l.:.:.:ハ
.　　　 　 ／/: /:. |:.:.:.:.l｀lト:.i._　 ヽ.:.:＼:ヾ､:.;.イ´:.:.: l.:.:.:.:.l:.:.:.:.:.ﾄ、
　　　　　　/ｲ/:.:.:.!:.:.:. l:.i ∨' ｀ヽ、＼! >イ＼!＼｀ヾ!.:.:.:.:l:.:.:.:.:ｊ｀ヽ　古き良き時代というべきか。
　　　　　　　|:.:.:.:.ﾍ:.:.:.:.|ィﾆﾆミ､　　 　 　 ,.ィﾆニミ､!.:.:.:.:i､:.:.:/
　　　　　　　|:.|:.:.:/ﾍ＼!ヾ{:ﾟ::;;::ヾ ..　　　〃 {::ﾟ:;;::::}ｲ.:.:.:./ ｝:/
　　　　　 　 ヾ!ﾍ:ﾍ,,:ｲへ ヽc::::ﾘ　,i. ～ !,　 ゝc:::ｿ }.:.:./イ/
　　　　　　　　ヽ ヽﾍ!:.:.ﾍ　｀￣　丿　i　ヽ､　｀￣ ｲ:.:/.;ｲ′
　　　　　　　　　　　 |:.:.ハ.｀ ー ´　　　　　　￣　/.:/:/
　　　　　　　　　　　 |:.:|:.:|:.ヽ、　　 ´ 　 ｀　　　,ｲ:./|/
　　　　　　　　　　　 |:.从!∨W＞ 、　 　　.イｿ'//　!
　　　　　　　　　　　 |/　 　 　 　 ,ｊ　｀　´　　lメ.′
　　　　　　　　　　　 ′　　　 ／::ﾉ　　　　／∨:＼

　　.　　　　　　　 /　　　　　　　　　　 　＼　　　　　ヽ
　　　　　　　　　/　 /　　　　八　　　　 　 ｀ ､　 　 　 `､
　　　　　 　 　 /　 / //ｌ /ｌ l　 l　 ﾄ､　　　 　丶　　　　 i　　　今回はここまで。
　　　　　　　　l　　l　lT抃什ﾄl　l小l　`＜二ﾐｰl　 l　l 　 !
　　　　　　　　ﾚ1l !　NⅥﾉV　　V　　　　｀＜Yl　 l　|　l ｝　　凱旋門賞は残念だった。
　　　　　 　　　 川　 Vr圻Tﾄ ､､　　,ｨ伝抃ﾐxlﾘ　ﾊl l ,ﾙ′
　　　　　　　　 {ﾙﾍ　！ {しｿ 　}}⌒{{　{しｿ　 |　 ﾚ'l ﾚ′　　＞１は菊花賞は直接見る
　　　　　　　　 从lﾊ　 ﾄ==''===''　　ゞ==''==ｲl{　{/V
　　　　　　　　　　从　ヽ、　　　　′　　 　,.ｲ小八　　　　　つもりなので、オルフェには
　　　　　　　　　　　 VﾚN＞ .　　 . 　　 ／ﾙﾚl/
　　　 　 　 　 　 　 　 　 ,ｨ介!`　.__,.　 ´ﾄ圷､　　　　　　　　頑張って欲しい。
　　　　　　　　 　 　 ｢`￢＝==ｙｚ=＝''´￣|　＼
　　　　　　　　 　 ／|　　　　　 | |　　　　　| 　 /＼
　　.　　　　　 　 /　 |　　　　　 | |　　　　　|　/　　 ヽ