このことは、ラットが実験動物化された19世紀後半、あるいはそれ以前に、まだら模様のラットがまず利用され、その繁殖の過程でシロネズミが出現したと考えられるという。
そのシロネズミ(アダムあるいはイブ)の子孫たちは、性質が温順で人にもよく慣れたことから、実験動物として広く用いられるようになったという推測だ。
成果は、京大 医学研究科の庫本高志准教授、同・芹川忠夫教授、同・中西聡技術専門職員らの研究グループによるもの。
研究の詳細な内容は、米国東部時間8月16日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE(Public Library of Science One)」に掲載された。
実験用ラットとは、正式な学名は「Rattus norvegicus」、和名は「ドブネズミ」で、世界中で広く用いられている代表的な実験動物だ。
野生のドブネズミを長い間かけて家畜化し、動物実験に用いるために実験動物化したものである。
成熟体重は雌で200〜400g、雄で300〜700g。
鼻先から尾の根元までの体長は20〜25cm、尾長は15〜25cmという体格だ。
ラットは1850年ごろから学術研究に用いられた。
ラットを利用したもっとも古い学術論文は、栄養学に関するもので、1863年にLancetに公表されている。
1885年にはドイツ人Crampeが、ラットを用いた交配実験を行ってメンデルの「遺伝の法則」が哺乳動物でも成り立つことを示している。
現在でも、ラットは、医学、生物学、生理学、薬理学、神経科学、栄養学、遺伝学などのさまざまな分野で利用されている重要な実験動物だ。
その利用数は年間数百万頭規模だ。
日本では、平成22年度で約190万頭のラットの販売実績があった(日本実験動物協会調べ)。
19世紀半ばから現在まで、主に利用されているラットはシロネズミと「まだらネズミ」だ。
特にシロネズミは広く用いられている。
そのため、シロネズミはラットの代名詞ともなったほどだ。
現在でこそ、ラットという言葉が用いられているが、古くは、シロネズミ、ダイコクネズミ、ラッテなどと呼ばれていた。
なお、日本では、ラットをライフサイエンスの進展に不可欠な資源(リソース)としてとらえ、その収集・保存・提供体制を整備するために、2002年よりナショナルバイオリソースプロジェクト「ラット」が実施されている。
そして実験用シロネズミ(画像1)だが、これはラットのアルビノ変異体だ。
メラニン合成に必須の酵素「チロシナーゼ」活性を先天的に欠損しているため、メラニン色素を作り出すことができず、白い毛色となる。
また、眼球のメラニン色素も作り出すことができないので、眼底の血流が外から見え、赤い眼をしている(フィクションなどではアルビノの眼は白目の部分がきれいに描かれることが多いが、それは間違い)。
もう一方の実験用まだらネズミとは、ラットの「Hooded(頭巾斑)変異体」。
Hooded変異をホモに持つことで、体毛の色素分布が変わり、胸部から臀部が白くなる。
頭部から上腕部にのみ色素が分布し、あたかも「頭巾」をかぶったかのような模様になるのが特徴だ。
そのため、このような模様を「頭巾斑」と呼ぶ。
頭巾斑変異体では、背骨にそって色素がドット上に分布するのも特徴である。
現在、シロネズミ系統は100系統以上存在し、少なくとも年間数百万頭が利用されている。
これらのラットが、すべて同一のアルビノ変異を持つのか、あるいは特定のシロネズミ系統ごとに別々のアルビノ変異を持つのか定かではなかった。