大阪にある難関国立大学を卒業し、東京に本社があるアパレル関連の企業に就職した山下さん(仮名・23歳)。彼は生まれも育ちも大阪で、上京後初の一人暮らしだそうです。
「僕、こう見えて薬学部卒なんです。親はてっきり薬剤師になると思っていたそうですが、インキャな自分を変えたくてこの会社を志願したんです。周りの同期はみんな親切ですぐに友達になれそうな人ばかりなのですが、僕みたいな理系はいませんでしたね。あと、関西出身の人も意外と少なくて、僕が話す関西弁に『あ、芸人さんみたい』と、興味を示していました」
薬学部卒の関西出身という異色な素性が同期の間で広まって、いつしか人気者になった山下さん。早速、配属された東京都下の店舗で社会人一年生をスタートさせました。
◆関西弁が直らない悩み
今まで経験したことがなかった小売業での接客。山下さんは、日々新鮮な気持ちで職場に臨んだといいます。客とのコミュニケーションが思っていたより楽しく、この会社へ就職したことに満足していたそうです。ただ一つの悩みを除けばーー。
「笑顔を忘れず、ハキハキした声で接客していますが、時々『関西の人?』とか『私も関西出身よ』などと言われるんです。自分では極力関西弁が出ないように努めているんですが、セールストークに熱が入ると『ホンマですねー。よーにおてはりますよ(そうですね。よくお似合いですよ)』など、ついバリバリの関西弁になるんですよ」
山下さんの勤務先では彼の関西弁が周知されていて、店長も「別にニュースキャスターじゃないんだから、いいんじゃない」と、個性として容認してくれているそうです。
◆なまりを克服するための秘策
それでも劣等感にさいなまれた山下さんは、アナウンサー養成講座の教材を使って“なまり”の矯正に取り組みます。しかし、20年以上体に染みついた言葉と抑揚は、そう簡単には直らず、ある秘策を考えたそうです。
「以前、ネットニュースで『英語をマスターしたければ、英語圏の恋人を作るといい』という記事を読んだんです。そこでひらめいたんです。『そっか! 標準語を話す女性と付き合えばいいんだ!』と。ただ、僕は恥ずかしながら“彼女いない歴=年齢”なんですよ。でもなんとかしたい!」
山下さんは、その日から標準語を話す女性と付き合うことばかり考えながら、日々を過ごすようになりました。何事もロジカルに考えるタイプの山下さんは、アプローチの仕方や、女性心理などについて勉強をし始めます。
◆目の前に女神現る
そんなある日、山下さんは店長から「午後一番に、細田さんと一緒にサンプル商品を運んでもらえるかな?」と頼まれます。場所は車で30分程度のオフィス街で、先輩の細田さん(仮名・29歳)という女性社員が企画して受注した企業向けのオリジナルアパレル案件でした。
「細田先輩は、僕の店舗で一番美人な女性で通っているんです。その先輩と2人で、しかも車という密室で……。正直僕は直感しました『この人と付き合う』と。でも、その直感がすぐに現実のものになったんです。
帰りの車の中で『仕事中に申し訳ございません。でも言わせてください。細田先輩のことが前から好きでした。お付き合いしたいです!』と、帰りに立ち寄ったスタバの駐車場で告白したんです。そしたら、なんと『え、私でいいの? 6つも年上よ。それに、山下さん結構女子の間で人気よ』と返されたので、『細田さんが理想の女性なんです』ともう一度伝えました。すると、細田さんは笑顔で『よろしくお願いします』と言ってくれました」