当然、視聴者の反応も良く、第3週までの平均視聴率は前5作(『ブギウギ』、『らんまん』、『舞いあがれ!』『ちむどんどん』『カムカムエヴリバディ』)の同時期を上回っている。質と人気を兼ね備えた名作になるに違いない。
まず、脚本は情報量が多い割にテンポは速いが、分かりやすい。しかし薄味ではなく、濃厚。だから、時報代わりに観ても十分楽しめるし、じっくり視聴すると、奥底に込められた深い意味が見えてくる。
たとえば、第14回。ヒロイン・猪爪寅子(伊藤沙莉)の明律大女子部法科の同級生で華族の桜川涼子(桜井ユキ)が、自分が手掛けた法廷劇の脚本と判例に相違があったことを明かす。
「学長が法廷劇用に内容を改めていたことが分かりました」
◆大テーマは全ての不平等への反意と多様化の尊重
法廷劇で演じたのは「毒まんじゅう殺人事件」。その被告女性は事件を起こす前に被害者側男性を相手とする婚約不履行の民事訴訟を起こし、勝訴していた。被害者側にも落ち度があったわけだが、それを学長は伏せた。
なにより、学長は被告女性の職業を医師からカフェの女給に変えてしまった。学長が寅子たちを「かわいそうな女性を弁護する優しき女子部学生」に仕立て上げ、女子部に新入生を集めるための道具にした。寅子たちは怒った。
医師を女給にしたほうがかわいそう――。この学長の考えには今も性別を問わず存在する職業への偏見がある。作品はそれを冷ややかに描いた。
第1回のファーストシーンが、日本国憲法の第14条を寅子が新聞で読む場面だったことで分かる通り、この朝ドラの大テーマは性別の違いを含めた全ての不平等への反意と多様化の尊重。
「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」
男女差別史のみを描く物語ではない。男女の対立だけを描くような幼稚な作品とも違う。作品側も放送前から男性を悪者として単純化しないと断っていた。
◆第14回に現れた“平等と多様化の尊重”
不平等への反意と多様化の尊重を描いた場面の一例は第14回。寅子が同級生・山田よね(土居志央梨)に向かって、自分の生理の重さを打ち明け始めた。
すると、その場にいた、よねの勤務先「カフェー燈台」のオーナー・増野(平山祐介)が、2度にわたって「オレ、外そうか?」と声を上げた。しかし、やはり同級生の大場梅子(平岩紙)が「お気になさらず」と引き留めた。2度目の口調はかなり強かった。
増野は気を使って外そうとしたのかも知れないが、それは社会で共生する者の傷みを知ることから逃げることにもなる。生理に限らず、共に生きる者の傷みから目を背けたら、平等や多様化なんて実現しない。
逆に、同級生たちは自らの傷みをお互いに明かした。よねは貧農の生まれで、売られそうになったため、今は働きながら学んでいる。涼子は華族であるために努力を認めてもらえないのが悔しい。梅子は姑の小言にうんざりしている。朝鮮からの留学生・崔香淑(ハ・ヨンス)は慣れぬ日本語を笑われるのが辛い。相手を理解することは平等と多様化に向けた第一歩。同級生たちの結束も固くなった。
◆36歳の脚本家・吉田恵里香とは?
脚本を執筆している吉田恵里香氏(36)は2年前、岸井ゆきの(32)と高橋一生(43)がダブル主演したNHK『恋せぬふたり』(2022年)で、脚本界の直木賞である向田邦子賞を得た。34歳での受賞は史上最年少だった。