そんな文脈を踏まえて見てみたいのは、
ディズニーシーの中央にそびえている「プロメテウス火山」である。高さ51mにもなるこの擬似的な火山の姿を見て、私はどうしても
富士山のことを思い出してしまう。
「TDLが拒否した
富士山が、TDSに回帰してきているのではないか?」そんな妄想が私の頭をよぎるのだ。実際、プロメテウス火山について調べてみると、その山のモチーフはイタリアにあるヴェスヴィオ火山で、その火山の種類は成層火山というタイプ。
実はこれ、
富士山と同じタイプの火山である。
ディズニーランドとの比較で考えたときに「城」という人工のシンボルに対して、「山」という自然のシンボルを配置したのかもしれないが、
ディズニーシー自体が日本人主体で作られたことを考えると、そもそも日本人が潜在的に持っていた「
富士山」といったものへの思いが、このプロメテウス火山を作らせたのだとも思えてくる。
◆TDSについては意外と語られていないからこそ…
また、TDSと「外部の環境」という観点でいえば、TDSの内部からは外部の自然が見えるようになっているというのも有名な話である。TDSのテーマは「シー」と名前がついている通り、「海」であるが、園内の「ポートディスカバリー」というエリアからは、その外側に広がる東京湾を眺めることができる。
園内の海がその外側にまで広がっていることをゲストに感じさせる、いわば「借景」のような形で外部の自然を取り入れているのである。「借景」とは、造園において外の風景を景観として利用することだが、TDSはこうした借景をさらりと行い、「外部の環境」を取り入れたパークの設計を行っているのだ。
TDLについては、その設計思想や特徴についてさまざまな場所で語られてきた。それに対して、日本人が主導して作ったTDSについては、触れられることが少ないと思う。でも、TDSについて考え始めてみると、実は興味深い話題がごろごろ転がっていることに気が付かされる。そして、その中には、
テーマパークの触れられなかった面、つまり「
テーマパークのB面」を語ることができる材料もたくさんあるのだ。
<TEXT/谷頭和希>
【谷頭和希】
ライター・作家。チェーンストアや
テーマパークをテーマにした原稿を数多く執筆。一見平板に見える現代の都市空間について、独自の切り口で語る。「東洋経済オンライン」などで執筆中、文芸誌などにも多く寄稿をおこなう。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社)『ブックオフから考える』(青弓社)