過去10シーズン、久光はVリーグ6度の優勝を誇り、日本女子バレーボールを牽引してきた。
埼玉上尾戦では、日本代表でも活躍してきたオポジット、長岡望悠の"エースの輝き"は圧巻だった。サウスポーから繰り出すスパイクは強烈。相手にペースを奪われそうになると、バックアタック、フェイントを剛柔で駆使し、流れを引き戻した。セッター栄絵里香からのバックトスを信じて跳び、渾身を左腕に伝えて振り下ろす一撃は、敵に絶望を与えていた。
【総力戦がひとりひとりの力を高めた】
長岡は膝前十字靭帯断裂と格闘しながら、チームをリードしている。そのケガは完治後も日常的につきまとう難儀なものだといい、それに立ち向かう精神的タフさは尋常ではない。チームが信奉する「粘り強く不屈な戦い」というスタイルにも結びつく。
「ホーム最後の試合、ファンの皆さんの力をいただいて、思う存分できました。これを次につなげ、いい流れになるように持っていきたいです」
長岡はそう言って熱戦を振り返ったが、周りの選手たちも意気に感じていたはずで、その熱を力に換えられるからこそ、彼女たちは強いのだろう。
たとえば中川美柚はコート脇で出番を待ちながら、味方の得点が決まるたび、体を弾ませていた。喜びのダンスでハイタッチをし、小さく跳ねて投げキッスを送り、とことんチームを盛り上げる。コートに立っているのと同じ熱量だった。そしていざコートに立ったときは、ひとつに束ねた長い髪を揺らし、貴重なスパイクで得点した。
また、ルーキーの北窓絢音はコートの隅で重りを持ち上げて肩をならし、縄跳びで体を動かし、実直な鍛錬を重ねていた。なかなか出場機会は巡ってこなかったが、リリーフサーバーとしてコートに立つと、守乱を起こすサーブを決めた。
「今シーズンは中川、深澤(めぐみ)、そして後半になって北窓も出せたのは大きな収穫です」(久光・酒井新悟監督)
総力戦がひとりひとりの力を高めた。
「1シーズン、試合を重ねていくことでチームを作ってきた感じです」
長岡もそう明かしている。
「(シーズン)後半になるにつれ、(主力で)出ているメンバーだけではなくて、(控えで)これからの選手の活躍でも、勝利が増えてきています。そこはプラスで。チームとして成長できているって思います」
ひとりひとりの戦いの結晶が、その先につながる。
「個人的に今シーズンは、ディグ(強打をさばくレシーブ)に力を入れてやってきて、シーズン最初の頃よりも、"ボールの勢いを殺す"のを意識できるようになりました。試合を重ねて変わってきたなって思います」
そう語ったのは、日本代表リベロの西村弥菜美だ。
今シーズン、西村は全22試合フル出場で、Vリーグのサーブレシーブ賞を2年連続で受賞している。リベロとして五輪を目指す代表に選ばれ、外国人選手の高さやパワーを体感し、成長スピードが上がった。守りありきのリベロは「ミスを取り返せないポジション」とも言えるが、マインドセットが安定し、精度がアップ。埼玉上尾戦の第4セットでは苦しい場面でスパイクを連続で拾い、逆転への橋頭堡(きょうとうほ)を築いた。
――オリンピックシーズンは注目を浴びますが、自分の力を引き上げるきっかけになっていますか?
筆者の質問に、西村はこう答えている。
「オリンピックシーズンでリーグ自体が短期間になっていて、だからこそ、というわけではないですが、1戦1戦が本当に大事で。上位6チームに入る1戦の重みは短い分、大切だった感じです」
濃厚な時間を過ごし、成長を遂げたということか。それぞれがチームの中で役割があって、逆境に打ち克ち、何かをつかみ取るポジティブな作用を生み出している。
「チームから代表メンバーが出るのは嬉しいです」
そう語ったのはベテランの栄だ。
「濱松(明日香)、荒木(彩花)という若手が代表に入るのは嬉しいし、幸せです。若い選手がもっと代表に行ける手助けを少しでもできれば。彼女たちの成長につなげられるように頑張っていきたいです」
その献身があるからこそ、強さは受け継がれる。オリンピックシーズンは、ひとつの継承の節目になるのだろう。V1リーグはこれから佳境に入る。