2008年夏のグアルディオラのバルサ監督就任は、フットボールだけでなく、CLの歴史においても重要なターニングポイントとなった。監督1年目の08ー09シーズンにいきなり決勝でマンチェスター・ユナイテッドを2−0で退け初制覇。再びマンUと顔を合わせた10−11シーズンの決勝では、3−1というスコア以上に相手を圧倒し、2度目の大会制覇を果たした。決勝以外にも、バイエルンを4−0で一蹴した08−09シーズンの準々決勝ファーストレグ、マドリーを2−0で下した10−11シーズンの準決勝ファーストレグなど多くの試合でスペクタクルを提供した。
そのマドリー戦でのドブレーテをはじめ、ゴールゲッターとして君臨し続けたのがリオネル・メッシだ。ただその活躍が異次元すぎて、ペップ・バルサを語る際に、グアルディオラの功績を軽視する風潮を生んでいるのもまた事実だ。
【動画】シティが前回王者マドリーを粉砕した準決勝第2レグ バルサを退団して以降、ビッグイヤーから遠ざかっていることもその見方を後押ししている。バイエルン時代(2013〜2016)にも、ポルト戦(6−1)、シャフタール・ドネツク戦(7−0)、ローマ戦(7−1)などゴールラッシュを繰り返したが、その一方で、毎年、準決勝でスペイン勢(マドリー、バルサ、アトレティコの順番)の軍門に下り、タイトルを獲得することができなかった。
とりわけ2013−14シーズン、0−4の大敗を喫したマドリーとのセカンドレグは、グアルディオラの威光を低下させる結果となった。シティを率いるようになった後も、その傾向は変わらず、20−21シーズン、決勝でチェルシーに苦杯を喫し(0−1)、昨シーズンは準決勝でまたしてもマドリーを前に涙をのんだ(トータルスコア5−6)。
そのショッキングな出来事はしかし同時にチームを結束させ、マドリーへの復讐心を燃えたぎらせた。誰もが準決勝で再び対戦することを切望し、そしてリベンジを果たした。
とりわけ殿堂入りに値するパフォーマンスを披露したのがセカンドレグだ。「勝者こそが強者」を地で行くマドリーを相手に、勝敗だけでなく内容にもこだわる指揮官は、その自らの正当性を立証した。4−0というスコアには、戦術、フィジカル、メンタルの3要素を技術の面でも熱意の面でも高いレベルで調和させるシティのフットボールの魅力がぎっしり詰まっていた。
着目すべきは、ここにきて監督としての成熟度がますます高まっている点だろう。これまでは大一番で奇策に打って出ることが少なくなかったが、今回は周囲を驚かす采配はなかった。しかしその一方で、常に新たな革新に取り組むフットボールへの情熱は衰え知らずで、試合中にも激しく、表情豊かに選手たちを鼓舞した。
サイドバック兼インサイドハーフの役割をオフ・ザ・ボールとオン・ザ・ボールで使い分けるジョン・ストーンズの動き、アーリング・ハーランドの融合などを観察するだけでも、“ペップ・シティ”の進化の程が伺える。ヨハン・クライフから叩き込まれたポゼッション、ポジショニング、プレッシングに忠実であり続けながら、サイドからの攻撃に厚みを加え、ロドリが君臨するアンカーの役割を昇華させた。
ハーランドはマドリーとの準決勝においてファーストレグに続き、セカンドレグでも不発に終わった。メッシはチームにいない。シティが勝利したのは、金満クラブだからでも、世界最高の選手を擁しているからでもない。グアルディオラが構築した革新的な戦術を選手たちが文字通り体現したからである。
もちろん最高の形で締めくくるには、決勝でインテルを倒さなければならない。グアルディオラが自身3度目のCL制覇を果たした暁には、アンチはもう押し黙るほかないだろう。
文●ラモン・ベサ(エル・パイス紙)
翻訳●下村正幸
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