『あの患者だろう』と想定ができる場合でも、返信機能を用いて反論することは事実上難しいのが現実といえます。
法律事務所にも同じような問題があり、私の法律事務所のGoogleマップにも『そんなことはあり得ないなぁ』という口コミがいくつかされています」
清水弁護士によると、Googleマップに載った施設の管理者が口コミを非表示にすることはできないという。
●削除のためには、名誉毀損を立証する必要がある
口コミの削除には、ウェブフォームから申請する方法と、裁判手続を使う方法がある。
ウェブフォームを使っても「現時点ではGoogleとして特に対応はとらないという決定に至りました」と回答されることも少なくない。
「明らかに虚偽の内容だと指摘しても、こう回答されるため、事実上、裁判手続が必須といえる状態です」(清水弁護士)
裁判では名誉毀損を立証しなければいけないが、Googleマップの口コミのほとんどが条件にあてはまらないという。
「Googleマップの口コミは、事実関係が書かれているというより、意見や論評が主となっているため、削除が認められにくいのが実際です。
意見論評型の名誉毀損において削除が認められるには条件を満たす必要があります。 (1)社会的評価の低下があること (2)公益性、公益目的がないこと (3)意見論評の前提となる事実の重要部分が真実ではないこと
さらに、上記(1)〜(3)を立証できたとしても、人身攻撃に至るなど意見論評としての域を逸脱しているといった事情を立証できなければいけません。
口コミでは、前提とする事実関係が明確に書かれているわけではないことも多く、そもそも事実の重要部分自体が不明で、立証もできないというケースが少なくないのです」(清水弁護士)
木村さんのクリニックへの「検査は無駄だと院長から説教された」という口コミも同様だ。
「『説教などしていない』」としても、患者側がどのように感じたのかについて虚偽だと立証することは不可能です。一般的な感想の範囲にあるものとして、裁判をしたとしても認めてもらえないと予想されます。
投稿者が思い当たるのであれば、直接求めることで、削除してもらえることはあります。ただ、接触してさらに悪意ある口コミを重ねられてしまう例もあり、何が正解かということは言いにくいところです」(清水弁護士)
●Googleマップの口コミに対して、医師は無抵抗な「サンドバッグ」状態と言える
匿名・実名問わず、返信にはリスクがあるというのであれば、それはプラットフォーム側に問題があり、対策をとる必要があるのではないかと木村さんは指摘する。
木村さんは、ここ1〜2年の口コミで区切ったり、平均点を示さない、あるいは施設側が口コミを載せない選択制にしてほしいと要望する。
「Googleマップというプラットフォームは、納得できない口コミには返信できるからよしとされているのかもしれない。返信が苦手な人もいるし、経営がうまくいっていないときの変な書き込みは精神的に病んでしまう。医師だって強い人ばかりではない。
評価が世の中の役に立つような方向にすすんでほしい」
【取材協力弁護士】
清水 陽平(しみず・ようへい)弁護士
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(2020年)、「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」(2022年〜) の構成員となっている。主要著書として、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第4版(弘文堂)」などがあり、マンガ「しょせん他人事ですから 〜とある弁護士の本音の仕事〜」の法律監修を行っている。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp