「おとなの週末」2022年12月号で掲載した伊勢うどん特集ですが、本誌で紹介した以外にも気になる伊勢うどん店がズラリ。前後編に分けてお届けします。前編は具だくさんの伊勢うどん!

「おいしい伊勢うどんの店を調査してほしい」と、本誌編集担当から連絡があったのは2022年10月初旬のこと。「了解ッス!じゃ、ちょっくら伊勢まで行ってきやす!」と、伊勢に向かって車を走らせたものの、一抹の不安を覚えていた。

実は伊勢うどんが苦手だった筆者。『山口屋』の前にある顔はめパネルにて(撮影/加藤直人)

なぜなら、筆者は伊勢うどんが苦手なのだ。あの、コシがまったくないやわやわの麺や、甘いんだか、辛いんだかよくわからないタレがどうしても馴染めなかったのである。たぶん、最後に食べてから10年以上は経っていると思う。

伊勢うどん通の地元写真家オススメ店へGO!

そこで今回は強力な助っ人を呼ぶことにした。伊勢市在住で伊勢神宮を撮り続けている写真家の加藤直人さんだ。聞いてみると、伊勢うどんは幼い頃から日常的に食べているそうで、おいしい店もご存知のようだった。

伊勢市在住の写真家、加藤直人さん

「老舗の『ちとせ』と『まめや』、『山口屋』あたりは外せないですよ」と、加藤さん。実際、これらの店は取材に行き、本誌2022年12月号で紹介させていただいた。ぜひ本誌をご覧いただきたい。

今回紹介するのは、本誌で紹介しきれなかった加藤さんのオススメ店。加藤さんとともに食べ歩き、筆者は苦手な伊勢うどんを克服することができたのか? 乞うご期待!

ビギナーは具材がのった伊勢うどんを食べるべし

『つたや』外観

「伊勢うどんを食べ慣れていないビギナーさんにはネギだけの伊勢うどんよりも、何かしらの具材がのったものの方が食べやすいと思います。じゃ、行きましょうか」(加藤さん)

案内されたのは、JR伊勢市駅から車で5分ほど走らせた住宅街の中にある『つたや』。ここの名物は、丼一面に焼豚をのせた「焼豚伊勢うどん」(800円)。私はそれを、加藤さんは「伊勢かやくうどん」(700円)を注文した。

ビギナーでも食べやすい「焼豚伊勢うどん」

焼豚はとても柔らかく、甘辛いタレにもよく合う。何よりも、食べ進むうちに焼豚の旨みがタレに染み出して、どんどんおいしくなるではないか!

意外だったのが麺。やわやわであるのは間違いないが、筆者が10年以上前に食べたときと印象が違う。わずかにもっちり感があるのだ。おかげでとてもおいしく食べることができた。

彩り豊かな具材がのる「伊勢かやくうどん」

一方、加藤さんが注文した「伊勢かやくうどん」(700円)は、カマボコと揚げ、花麩、麩、ゆで卵、ナルトと盛り沢山。いろんな味が楽しめそうな一杯だ。が、加藤さんの表情は浮かない。で、食べ終わって一言。

「うーん……。やっぱり、私はネギだけのシンプルな伊勢うどんが好きだなぁ。そもそも、地元の人は具材をのせたのはあまり食べませんからね」

筆者が暮らす名古屋といえばきしめんだが、地元の人はかけきしめんしか食べないということはない。天ぷらや玉子とじも喜んで食べる。伊勢の人は食に対して保守的なのだろうか。

ふわふわの食感の中に残る髪の毛1本分のコシ

旅の2日目に向かったのは、伊勢神宮外宮の近くにある『中むら』。この店は地元TV局の情報番組で何度か見たことがある。たしか、麺に溶き卵を絡めた伊勢うどんを紹介していたと思う。それなら食べられるかもしれないと思ったからしっかり覚えていたのだ。

『中むら』外観

「たぶんそれは『伊勢玉子うどん』ですね。釜玉うどんと似ていますが、こちらは白身も入るし、あらかじめ麺と玉子が混ざり合った状態で出てきますよ。玉子で味がマイルドになりますから、食べやすいと思います」と、加藤さん。

筆者は「伊勢玉子うどん」(620円)を、加藤さんは「伊勢うどん」(560円)をそれぞれ注文することに。

甘辛いタレが玉子とよく合う「伊勢玉子うどん」

予想通り、「伊勢玉子うどん」は旨かった。甘辛いタレは玉子との相性が抜群なのだ。

それと、茹でたてのうどんの熱で玉子がところどころ半熟になっている部分もおいしい。あれ? ここの麺も『つたや』と同様にもっちりとしている。伊勢うどんビギナーである私は逆にそれがありがたいのだが、加藤さんが求める食感ではなかったようだ。

シンプルな「伊勢うどん」

「私がおいしいと思う麺は、ふわふわの食感の中に髪の毛1本分のコシを残しているんですよ。店主が代替わりしている店もあるし、本来対極にあるはずの讃岐うどんに少なからず影響を受けているかもしれませんね」(加藤さん)

本誌にも書いた通り、江戸時代よりも前から農家がうどんに味噌を仕込む際にできたたまりをかけて食していたのが伊勢うどんのルーツ。江戸時代初期にカツオ節などを加えて食べやすくしたうどんを出す店が開店する。

というのが、伊勢うどんの歴史である。おそらく、まだこの時点ではローカルフードの域を出ていなかったと思う。

伊勢神宮内宮

潮目が変わったのは、“おかげ参り”という言葉が生まれた1771年以降。60年を周期として“おかげ年”と呼ばれる年ができ、お伊勢参りが一大ブームとなったのだ。1705年には約350万人、1771年には約200万人、1830年には約428万人もの人が参拝に訪れたという。

「うどん屋ではひっきりなしに注文が入るので、少しでも早く提供するために常に麺を茹で続けたわけです。結果的にそれが長旅で疲れた胃腸にやさしく、参拝客から大好評を博したということですね」(加藤さん)

いやー、伊勢うどんは実に奥が深い! 後編ではさらなるディープな伊勢うどんの世界を紹介いたします。お楽しみに!

取材・撮影/永谷正樹