【名医に聞く 統合失調症】患者の数は100人に1人。副作用の少ない薬も登場、家族はできたことをほめて

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人に打ち明けられない不調や悩み。日々医療は進歩し、治療法が開発されていることも。大切な自身や家族の健康は、ぜひ医師に相談してみてください。女性に多い病気を中心に、症状、原因、治療、予防の4つの観点でご紹介します。第13回は、「統合失調症」です。(取材・文/渡辺勝敏〈読売新聞〉 撮影=本社写真部)

【表】1996年〜2020年に登場した治療薬

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〈症状〉妄想や意欲低下など陽性、陰性の症状が

現実にはありえないことを事実だと思い込んでしまう「妄想」、実際にはない声が聞こえる「幻聴」。さらには、考えがまとまらない、感情や意欲が乏しくなり閉じこもりがちになるなど、人によってさまざまな症状が表れます。

具体的には「町を歩いていると、みんなが私の悪口を言っている気がする」「誰かに見られているんじゃないかと不安」「私は神だという声が聞こえる」と、表現はいろいろです。幻覚や妄想などを陽性症状、感情や意欲の低下や考えがまとまらない状態などを陰性症状と言います。

この病気は「統合失調症」と診断され、おもに20歳前後で発症します。患者の数は100人に1人と言われ、ポピュラーな精神疾患のひとつです。


統合失調症のおもな症状

〈原因〉神経が過敏になり発症。体質的な側面も

原因ははっきりとはわかっていませんが、脳の中で情報伝達の役割を担っているドーパミンという物質が大量に出るのが原因の1つと考えられています。脳の神経細胞からの1つの信号が、2つにも3つにも過剰に伝わってしまう。すると神経が過敏になってきて、幻覚や妄想などの陽性症状が出てくるという考え方です。

ただ統合失調症には意欲が低下する陰性症状もあり、ドーパミンが過剰に出るという考え方だけでは、陰性症状をうまく説明できません。最近の研究では、神経の伝達を正常化するD-セリンという物質が関係しているということもわかってきました。その点に着目した新しい薬の開発も進んでいます。

一般の発症頻度は、正確には0.85%ですが、両親のどちらかが統合失調症の場合、その子どもの約10%が同じ病気になる可能性があります。これは一般より高い比率です。こうしたことから、遺伝病とまでは言えませんが、統合失調症には体質的な要素も関係していることがわかります。

病気の発症には、職場や学校での社会生活や恋愛など、大きなストレスの具体的なきっかけがある場合も、はっきりしない場合もあります。また、発症の頻度に男女差はないと言われています。

〈治療〉副作用の少ない治療薬も登場

統合失調症と診断すれば、病気の説明をし、薬を処方します。症状を抑える抗精神病薬には、第1世代の薬と、1990年代から使われ始めた第2世代の非定型抗精神病薬があります。

第1世代はハロペリドールという成分の薬が代表的なもので、ドーパミンを抑える作用があり、妄想や幻覚は治まるのですが、だるくて意欲がわかない、唇や舌が勝手に動いてよだれが出るといった副作用を起こすことがありました。

第2世代の薬は、より副作用が抑えられ、無気力感が出ることは少なく、回復像がよくなりました。抗精神病薬は、第2世代の薬を1種類だけ処方するのが基本です。しかし、幻聴が消えなくてつらい場合などは、もう1種類を追加することもあります。

近年は、月に1回の注射で効果がある持続性注射剤のパリベリドンやアリピプラゾールが使われることが多くなりました。注射によって病状も安定し、副作用も少なくなり、再発予防に役立っています。また、ブロナンセリンテープという1日1枚の貼付薬による治療も可能になりました。

「薬はずっと飲まなければいけないのですか」と聞かれれば「やめると再発の可能性が高くなるので、10年は飲むつもりで」と答えています。しかし、将来医療が進歩して薬を長く飲まなくてもよい日がくると確信しています。

〈支援〉できたことをほめて無理をさせないこと

私のクリニックの統合失調症の患者さんの30%は仕事を持ち、25%は併設のデイケアか共同作業所に通い、25%は自宅に引きこもりがちです。この病気の方には、人と一緒に何かをして楽しかったという経験が少ない方が多いので、「人と一緒にいると楽しい」という経験をしてもらうことが大切です。

デイケアへ行くと仲間がいる。「今日も会えたね、××さん」と仲間にあいさつされて、自分の存在を他人に認めてもらうことは、病気になって自尊心が傷ついている患者さんにとっては、大事なことです。デイケアやナイトケアには、パソコン教室や手工芸、調理などのプログラムを設けています。こんなに元気で仲間といられるならいいじゃないか、と病気を受け入れられれば、回復に向かって努力することができます。

家族の方は、できたことをほめてあげてください。傷ついた自尊心を回復するためです。ちょっと片付けができただけでもほめることが大切です。一日も早く立ち直って社会復帰を、と思うでしょうが、第一歩は自尊心を高めることです。回復期には、同じことをやっても、健康な人よりも疲れやすいので、職場では残業などを強いないようにしてください。さらに、夜に寝て朝には起きる、という生活リズムが大切です。生活リズムが崩れると、薬を飲むリズムも崩れて、病気が元に戻ってしまいます。継続的な服用が大切です。

2006年に、障害者雇用促進法が改正されて、精神障害者も対象に加わりました。従業員55人以上の企業は、職員の2.3%は障害者を雇用するよう督励されています。今では、私のクリニックでも、障害者雇用で働く患者さんが増え、病気があっても生きやすい環境は少しずつ整ってきています。