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歳を重ねてからきょうだいと衝突する2大要因は、「親の介護」と「相続」です。「相続」トラブルを回避するために、知っておきたいポイントを専門家(円満相続税理士法人代表・橘慶太さん)に聞きました(構成=島田ゆかり イラスト=あべさん)

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<親の介護編はこちら

子どもができることは限られている

きょうだいトラブルの最大の原因は、「相続」といっても過言ではありません。お金の問題は根深く、裁判で10年以上争い続けている人もいます。けれど、相続で揉めるのは得策ではないとアドバイスをしたいのです。

訴訟になれば弁護士費用がかかりますし、ストレスも甚大。修復不可能な溝を残すことも少なくありません。そうお伝えしても、揉める人たちが後を絶たないのはなぜでしょうか。

それは親が意思をきちんと示していないことが原因の場合が多いのです。相続に関しては、子どもができることは限られています。「子どもたちは仲がいいし大丈夫」「うちは遺産なんてほとんどないから」という発想は危険だと覚えておきましょう。

親ができることの一番は、遺言書を作成すること。2020年から法務局による遺言書の保管制度(有料)がスタートしたことで、自筆の遺言書でも紛失する心配がなくなりました。途中で内容を変更することも可能ですので、利用するとよいでしょう。ただし、書き方には最低限のルールがあるため、詳細は法務局に問い合わせを。

遺言書には財産の配分だけでなく、「付言事項」として親の気持ちを書いておくのもおすすめです。「きょうだいで仲よく分けてほしい」「A子には介護をしてもらったので6割を残す」など、財産分与の理由、家族への感謝や想いを記しましょう。付言事項があると、多少不平等になったとしても「お父さんの気持ちを尊重しよう」など、子どもが受け入れるケースが多くみられます。

また、元気なうちに、現金、保険、有価証券、不動産など全財産がわかるようにしておくこと。家族会議を開いて、親の意思を直接伝えておくことも重要です。子どもたちの相続する財産が3000万円+(600万円×子の人数)を超える場合は、死後10ヵ月以内に遺産分割を済ませなければなりません。遅延すると、相続税の特例が受けられなくなり、税率が上がってしまうので注意しましょう。

相続は、「平等」が基本

ここからは、私が見てきた相続トラブルで多い原因とともに、子どもたちができるトラブル回避法についてもお話ししておきます。

最も多いトラブルは、「介護をした子」と「介護をしなかった子」の相続。たとえば、介護をしてきた姉は、何も手伝わなかった妹よりも多くもらいたい。けれど、妹から「平等にもらう権利がある」と主張されたとします。この場合、残念ながら平等に分けざるをえない。法律で「寄与分」という制度があるものの、認められることは少ないからです。

介護にまつわる相続トラブルを避けるために、私がおすすめしているのは、親の介護がスタートした時点で、親子でよく話し合って、生命保険の受取人を介護してくれる子どもにしておく方法。生命保険金は受取人固有の財産となり、遺産に含まれないため、指定した人が受け取れます。

あるいは親に遺言書で、「姉は6割、妹は4割」などと明記しておいてもらう。ただし、認知症を発症すると、法律上「意思能力のない人」と認定され、生前贈与や遺言書が認められなくなるので、遺言書を作る時点で医師の診断書を用意しておくようにしましょう。

次に多いのが、「援助してもらった子」と「援助がなかった子」の場合の相続。「兄さんは家を建てるときに頭金1000万円を出してもらったのだから、その分相続から差し引いて!」と妹が主張したとします。

これは遺産の前渡し(特別受益)に相当し、仮に相続財産が3000万円だった場合でも、兄が事前にもらった1000万円が加算されて、4000万円を2人で分けることに。親亡きあとの相続としては、妹が受け取るのが2000万円、兄は1000万円になりますが、兄は文句を言えません。揉めないためにも、親が生きているうちに「家の頭金は相続に含まない」と書面に残しておいてもらうこと。そうすれば、兄妹は1500万円ずつ相続できます。

また、「親の残した不動産と現金のバランスが悪い」場合も揉める原因になりがちです。たとえば、家の評価額は4500万円、現金は500万円しかないという場合です。兄は実家を相続したいから、弟に現金を渡すと言い出して、トラブルに発展。本来の兄弟それぞれの相続分は2500万円ずつになりますので、弟が怒るのも無理はありません。

法律的に見ても、どうしても兄が家を相続したいのであれば、弟に残りの2000万円を支払わなければならないのです。「現金は持ち合わせていない」という人もいるかもしれませんが、弟が不服とした場合は、分割払いであっても支払いの義務が生じます。

やはりここでも、遺言書が有効です。兄に不動産を、弟に現金をなど、きちんと明記しておくこと。子どもたちが納得できる理由を伝えておくことでトラブルは回避できるでしょう。相続は必ずしも平等に分ける必要はなく、相続人全員が納得すればそれでよいのです。

ちなみに、不動産の評価額を正確に出すには、不動産鑑定士に依頼するしかありません。とはいえ、不動産鑑定は非常に難しく、たとえプロであっても、担当者により評価額が変わるうえ費用もかかるため、できれば避けたいところ。

自分たちで不動産価格の落としどころを見つけるなら、国税庁が公表している「路線価」を1.25倍にすると、市場価格に近くなるので参考にするとよいでしょう。

もうひとつ、「きょうだいの使い込み」もトラブルの原因になることが増えています。これは親との同居や介護を理由に、親の通帳を預かった子どもが、介護とは関係のないことにお金を使ってしまうケース。ともに暮らしている以上、食費や光熱費など生活にかかるお金には使っても問題ありませんが、子どもが自分の交友費に使ったりするのはNGです。

きょうだいに咎められないためには、簡単な帳簿をつけるようにしましょう。「親のために使った」という証拠が残っていれば、「あのお金はどうした! 相続分を使い込んだんじゃないのか」と言われずに済みます。預金通帳の明細をさかのぼれるのは10年ですから、きょうだいの使い込みが気になる場合は、早めに確認しておくとよいでしょう。

相続の話は亡くなってからでは遅いのです。親が元気なうちからタブー視せず話をしておくことが、禍根を残さず納得できる相続への近道になる、と心に留めておいてください。